アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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「安倍元首相が元号案を事前伝達」は何が問題か

2024年03月26日 | 天皇制と政治・社会
   

 共同通信は24日付で、安倍晋三元首相が元号(「令和」)を閣議決定する前に徳仁皇太子(現天皇)に6つの案を提示し、「令和に力点を置いて説明していたことが分かった」と報じました。京都新聞はこれを1面と5面(解説)で掲載しました。

 記事の内容はほとんど当時(2019年3月)報じられていたことで、このブログでも問題点を考察しました(2019年4月1日、3日のブログ参照)。今回の記事は共同通信の情報公開請求などによってそれが裏付けられたものです。見過ごすことができない重大な問題がいくつもあります。

 第1に、天皇・皇太子への政治報告は明確な憲法違反です。

 記事は安倍氏が19年3月29日に皇太子に会って「元号6案」を示したことを取り上げていますが、実は安倍氏は皇太子に先立って明仁天皇(当時)にも会って元号案を事前説明しています(写真左)。

 共同記事によれば、この日首相官邸では「(元号)検討状況の報告ならば、天皇の政治的関与を禁じた憲法に抵触しない」との認識を共有したといいますが、それは政府の勝手な解釈です。

 首相が天皇に政治報告することを「内奏」といいます。「内奏は戦前以来、天皇の政治行為の重要な要素を構成しており、戦後象徴天皇制においても内奏が残ったことは、長期にわたる保守政権下、昭和天皇の政治力を残存させることにな(った)」(後藤致人愛知学院大教授著『内奏―天皇と政治の近現代』中公新書、2010年)のです。
 それは裕仁から明仁、そして現在の徳仁天皇まで継続されています。

 「内奏」の内容は完全非公開です。この場で天皇と首相の間でどうような会話・協議がなされたのか、なされるのか、メディアも主権者「国民」も全く知らされません。天皇の政治関与を禁じた憲法第4条1項に明確に違反する日本の政治・国家体制の闇です。

 今回の場合、皇太子は間もなく天皇に即位することが確定しており、皇太子への説明も「内奏」と同じ問題を有します(写真中)。

 第2に、安倍氏の元号事前説明は、ウルトラ右翼・日本会議の圧力によるものだったということです。

 当時も、「『一世一元』制を重視する保守層は、5月1日に皇太子さまが新天皇に即位される前の新元号公表を懸念しており、首相はこうした声に配慮した」(2019年3月28日付産経新聞、写真右)と報じられていました。

 今回、記事は「日本会議は「遺憾の意」を示す見解を公表。…新元号公布に当たり皇太子さまへの報告を強く要望した」として圧力をかけたのが日本会議だったと断じています。

 安倍氏の悪政はあらゆる分野に及びましたが、その背後に日本会議の存在があったことが、今回のことで改めて明らかになったといえます。

 第3に、安倍氏が首相は「天皇の臣」だと明言・誇示していることです。

 記事によれば、死去後に刊行された『安倍晋三回顧録』で安倍氏は、「(日本会議らの)反発を収めるため保守議員や神社本庁を回り「大切なのは天皇の臣である首相が天皇陛下や皇太子さまの元に行き、元号についてお伺いを立てることだ」と説得したと述懐」しています。

 首相が「天皇の臣」であり「お伺いを立てる」とはまさに大日本帝国憲法の思想・規定に他なりません。「内奏」とともに、ここに現代日本の政治・国家体制・「象徴」天皇制の実態が表れています(ちなみに吉田茂が「臣・茂」、中曽根康弘も「臣・康弘」と自ら称していました)。

 日本は大日本帝国憲法の天皇制から本質的に変わっていないのです。それが目につかないのは、密室・水面下に隠されていることと、メディアが天皇制タブーや自らの天皇制賛美によってそれを暴露・追及する意思も力もないからに他なりません。

 そもそも「元号」自体が天皇制の下で「国民」を統治するためのツールであることも含め、今回その一端が露呈した天皇と政治権力の関係を徹底追及しなければなりません。

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