アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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五ノ井さん「勇気賞」と戦場の女性兵士

2024年03月05日 | 国家と戦争
     

 陸上自衛隊の性暴力を告発した五ノ井里奈さんが米国務省から「勇気賞」(世界の勇気ある女性賞)を受賞しました(1日、写真左は4日の授与式)。メディアは称賛していますが、果たして喜べることでしょうか。

 授賞理由は、「セクシュアルハラスメントと説明責任を国民的議論に押し上げ、伝統的な日本社会でタブー視されてきた問題に光を当てた」(2日付朝日新聞デジタル)こととされています。確かにその意義はあります。しかし、授賞理由はそれだけではありません。

「(米国務省は)また、五ノ井さんの行動をきっかけに、「自衛隊はジェンダーを問わず日本人が尊厳を持って国を守れるよう、より安全な職場の構築を進めている」と指摘した」(同朝日新聞デジタル)

 五ノ井さんの性暴力告発は自衛隊を「ジェンダーを問わず」軍隊として機能する場に改善することに寄与したという評価です。
 五ノ井さんが告発した当時、「自衛隊性暴力告発を逆利用させないために」と書きましたが(2023年2月2日のブログ)、今回の授賞はまさに米国務省によるその逆利用にほかなりません。

 見過ごせないのは、“軍隊におけるジェンダー平等”の喧伝が、女性を兵士として戦場に駆り立てる動きと一体となっていることです。それが最も先鋭化した形で進行しているのがウクライナです。

 ウクライナ国防省は昨年10月、「軍と契約を交わし、兵士として勤務する女性の数が、ロシア軍が全面侵攻を開始する前の2021年と比べて1万2千人増え、4万3千人になった」と発表しました(23年10月18日付朝日新聞デジタル)。さらに、「現地メディアによると、現在6万人以上の女性がウクライナ軍に所属しており、うち5千人が兵士として前線で戦っている」(23年12月28日付朝日新聞デジタル)といいます。

 22年2月までキーウ(キエフ)で中学校の教師をしていたユリア・ボンダレンコさん(31)はロシア軍の侵攻後、市民の志願兵でつくる「領土防衛隊」に入りました(写真中)。
 両親は入隊に反対しましたが、ボンダレンコさんは「国のために貢献できるのであれば、死ぬことなんて怖くない」と言います。

 ボンダレンコさんの軍服姿を見た女子の教え子たちは「先生、かっこいい」「私も先生のようになりたい」とSNSでメッセージを送ってきました。

 ウクライナの15歳~25歳1 千人超を対象に行われた世論調査(22年11月)では、回答した女性の58%が「女性も男性と同様に徴兵制を設けるべきだ」と答えました。

 前線の女性兵士のために女性用軍服の製作を進める団体も創設。創設者の女性キーウ市議は、「将来的には、妊婦用の軍服も作りたい。妊婦でも軍に参加したいという決断を尊重したいし、それが男女平等だ」と話します。(以上、23年3月8日付朝日新聞デジタルより)(写真右はウクライナ国防省が認可した女性兵士用の防弾チョッキ=23年12月28日付朝日新聞デジタルより)

 女性を戦場に送り出そうとしているのは、もちろんウクライナだけではありません。

 プーチン大統領は昨年3月8日、国際女性デーにあたってビデオメッセージで、「祖国を守るという最高の使命を選んだ女性兵士を祝いたい。あなたの勇気や決断は、筋金入りの兵士さえ驚かせる」(23年3月9日付朝日新聞デジタル)と述べ、直接女性兵士をたたえました

 国際女性デー(3月8日)は女性の人権向上、男女同権をめざすものであり、女性兵士をたたえるなど本末転倒も甚だしいと言わねばなりません。

 「男女平等」「ジェンダー平等」の名で女性を戦場に駆り立てる。五ノ井さんの「勇気賞」をそんな戦争国家化の強化に利用することは許せません。

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