アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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育鵬社教科書の「島田叡沖縄県知事」美化が示すもの

2024年03月25日 | 沖縄・米軍・自衛隊
   

 22日公表された教科書検定結果によって、育鵬社の社会科教科書が沖縄戦時の島田叡県知事(写真中)を美化していることが分かりました(写真左は2021年の育鵬社教科書)。

「育鵬社の歴史分野は「沖縄戦直前に赴任した沖縄県知事・島田叡」と題した記述で、島田氏が県民疎開などを速やかに進め、出会う人に「生きろ」と励まして県民から深い信頼を得たなどと記載した」(23日付沖縄タイムス)

 これに対し沖縄戦研究者の川満彰氏(沖縄国際大非常勤講師)は、「史実とも異なる一面的な評価だけが独り歩きし、戦争責任をうやむやにしている」(同沖縄タイムス)と批判しています。
「出会う人々に『何があっても生きろ』と励ましたという史実はない」「(北部疎開をはじめとする食料問題は)政策的に失敗で、棄民政策とも言える」(島田氏を)武勇伝化し、英雄的に記述することは、沖縄戦の実相をゆがめ、戦争責任をうやむやにするよう仕向けている記述だ」(同)

 島田叡美化の誤りと危険性については、当ブログでも再三書いてきました(たとえば2022年9月3日、同7月22日)。それがついに教科書にまで拡散したことは軽視できません。改めて2点強調したいと思います。

 第1に、メディアの責任です。

 島田美化において、ドキュメント映画「生きろ」(佐古忠彦監督=TBS社員、2021年)、劇映画「島守の塔」(五十嵐匠監督、2022年)が果たした役割はきわめて重大です。いずれも監督が日本人(ヤマトンチュ)であることも見過ごせません。

 さらに問題なのは、琉球新報、沖縄タイムスを含む多くのメディアが「島守の塔」を「後援」したことです。これについては新報、タイムスの編集幹部が個人的見解として誤りを認めていますが、社としてはいずれも、どのメディアも、いまだに公式に誤りを認めていません(22年9月3日のブログ参照)。

 第2に、今日の日本と沖縄をめぐる情勢との関係です。

 「戦争法(安保法制)」「軍拡(安保)3文書」によって戦争国家化が急速に進み、沖縄がその最前線とされようとしていることは周知の事実です。いわば“第2の沖縄戦前夜”と言って過言ではありません。

 その沖縄では、辺野古新基地はじめ、石垣、宮古、与那国などの離島のみならず本島のミサイル基地化、米軍・自衛隊の基地拡大が強行されています。それを阻止する上で沖縄県知事の役割はきわめて重要です。

 育鵬社の源流は「新しい教科書をつくる会」で、フジ・サンケイグループの扶桑社の100%子会社です。安倍晋三元首相らの歴史修正主義に手を貸し、「さながら“安倍晋三ファンブック”」(山口智美米国モンタナ州立大教員、週刊金曜日2015年8月9日号)と言われたほどです。
 その育鵬社の教科書がこの情勢下で、日本軍に協力して多くの住民を死に追いやった島田を美化する意図は明らかでしょう。

 現在の玉城デニー知事(「オール沖縄」)は、もともと日米安保条約・自衛隊の支持者です。21日の在沖米軍トップの四軍調整官・ロジャー・ターナー中将との会談でも、「日米安保体制や在日米軍の必要性には理解を示した」(22日付沖縄タイムス)ばかりです。

 現情勢の下で、玉城知事は揺れています。いま大きな問題になっているうるま市の陸上自衛隊訓練場でも、玉城氏は当初態度を明確にしていませんでしたが、県内で反対運動が広まる中で、ようやく「白紙撤回」を求めるに至りました。

 育鵬社教科書の島田美化を反面教師に、沖縄の地方自治を守り、米軍・自衛隊の基地強化、ミサイル基地化を阻止する声をさらに大きくする必要があります。それは言うまでもなく「本土」の日本人の責任です。
 


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