アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

戦時性奴隷(「慰安婦」)被害者が存命のうちに

2021年02月20日 | 朝鮮半島・在日コリアン差別と日本

    
 帝国日本による戦時性奴隷(「慰安婦」)の被害者、李容洙(イ・ヨンス)さん(92)が16日、ソウルで記者会見し、この問題を国際司法裁判所(ICJ)に付託し国際法に基づいて裁くことを、日韓両政府に要求しました(写真左・中、17日付ハンギョレ新聞電子版より)。私たちはこの問題を対岸視することは許されません。

 会見には100人を超える記者が集まり、韓国では大きく報じられました。しかし、日本の放送メディアはこれを無視し、新聞は小さなベタ記事でした。この落差自体が、問題の本質を示しています。

 元「慰安婦」の被害者が日本政府に損害賠償を求めて提訴した裁判では、先月8日にソウル中央地裁が日本政府に被害者1人当たり1億㌆(約950万円)の賠償を命じる判決を下しました(写真右)。しかし日本政府は、裁判に出廷すらせず、ほうかむりしています。被害者たちの事実認定・謝罪、その証としての賠償要求に対し、日本政府は一貫して、日韓請求権協定(1965年)や日韓「慰安婦」合意(2015年)を盾に拒否し続けています。

 こうした状況に対し、李さんはICJの判断を求めたもので、被害者がICJへの付託を主張したのは初めて(19日付ハンギョレ新聞)です。ICJに付託されるには日韓両政府の同意が必要ですが、いまのところ両政府とも同意の姿勢は示しておらず、今後の展開は予断を許しません。

 ここで目を向けたいのは、李さんの思いです。
 記者会見のもようはこう報じられています。

「李さんは「日本が過ちを悟って反省するよう、国際司法裁の判断を受けてほしい」と訴えた。「お金がほしいのではない。完全な(事実の)認定と謝罪を受けなければならない」とも強調。問題が解決しなければ、他界した元慰安婦らに申し開きできないと話した」(17日付共同電)

「私は今まで、可能なあらゆることをしてきました。…でも日本はまだ無法にふるまっています。韓国司法の判断を無視して、控訴すらせずに意地を張っています」「もう時間がない」「(すでに亡くなった)被害者たちのもとに行って話せるように文在寅大統領と韓国政府が国際法による判決を受けてほしい、というのが私の最後の願い」(17日付ハンギョレ新聞電子版)

 韓国政府に登録されている戦時性奴隷(「慰安婦」)被害者は240人(まさに氷山の一角)ですが、12日に最高齢(99歳)だったチョン・ボクさんが亡くなられ、生存者は15人だけになっています。

 李さんの記者会見はこうした中で行われたもので、その言葉には亡くなられた被害者らに対する哀惜の念と、自らの存命中にどうしても決着をつけたい、その良い報告を亡くなった被害者らのもとに行ったときに伝えたい、という切迫した文字通り人生最後の願いが溢れています。私たちは、この李さんの思いに正面から向き合う必要があります。

 日本人(警察など)に強制的に連行され、あるいは騙されて、日本軍の性奴隷にされ、心身共にズタズタにされ、解放(日本の敗戦)後も貧困や差別で塗炭の苦しみを強いられ続けた被害者たちが、勇気を振り絞って声を上げた。日本政府に事実の認定と謝罪、再発防止という最低限の要求をした。にもかかわらず日本政府は被害者に向き合おうともせず、政治・外交手段を弄してきた。そんな中で、被害者たちは次々に亡くなられた。この事実を私たちは直視しなければなりません。

 被害者への謝罪・名誉回復は、被害者が存命中でなければできません。亡くなられた被害者に謝罪は届きません。日本政府の長年にわたる理不尽な態度は、被害者が全員亡くなるのを待っているとしか思えません。それは被害者に対する二重の加害行為ではないでしょうか。

 残されている時間はほんとうに長くありません。被害者が存命のうちに、被害者の要求に正面から向き合うこと。それは日本政府のみならず、加害国の「国民」である、私たち日本人全員の責任ではないでしょうか。


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