アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

韓国日記<上>「玄界灘」か「玄海灘」か

2023年05月28日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.
   

 5月26日19時45分下関港発の大型高速フェリー「はまゆう」でプサン(釜山)へ。3年10カ月ぶり、4回目の韓国訪問だ。

 プサン港へ着いたのは翌日の6時半。正味約11時間の船旅だった。船で行くのは初めて。船酔いを心配したが、大型船で揺れはほとんどなかった。真夜中の漆黒の海、夜明け前の白んだ空気の向こうに見えるプサンの高層ビル群。船旅ならではの贅沢な風景を堪能した。

 特に目的があったわけではない。コロナのヤマがまた来る前に、そして元気なうちに、少しでも行っておこうという思いの、4泊5日(船中泊2日を含む)の短い旅だ。

 フェリーから玄界灘を眺めながら、たまたま数日前に読んだ四方田犬彦の本の一節を思い出した。

「日本では「玄界灘」と書き、韓国では「玄海灘」と書く。日本語での発音は同じゲンカイナダだが、韓国語ではヒョンケタン・ヒョンヘタンと違いがでる。「玄海」とは単なる黒い海だが、「玄界」とは黒い境界だ。日本語で話しているかぎり、人はこの差異に気付かない。韓国語に切り替えた瞬間から、発音の違いが明確になる。語っている者の立場が露わになってしまう」(『われらが<無意識>なる韓国』作品社2020年)

 韓国の「玄海灘」が「単なる黒い海」なのに対し、日本の「玄界灘」は「黒い境界」。いかにも象徴的な話だ。

 「韓国語に切り替えた瞬間」すなわち韓国の側からものを見た瞬間、ものの見え方が変わってくる。日本人の特異な「立場が露わになる」。それはもちろん、日本と朝鮮半島の間の「黒い海」だけではない。

 今回の旅に「特に目的はない」と言ったが、韓国と日本のものの見え方の違いをできるだけ体感したい。朝鮮半島から日本を考えたい。それがいつの訪韓でも変わらない主要な目的の1つだ。

(写真左は乗船した高速フェリーの100分の1の模型。写真中・右は午前6時ごろフェリーから見たプサンの街並み)

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「ウクライナ戦争」と済州島「4・3事件」と日本

2022年04月02日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

  

 74年前の1948年4月3日、朝鮮半島の南西にある火山島・チェジュド(済州島)で、朝鮮の分断に抗い、祖国統一を求めて蜂起した民衆に対し、「米軍を背景に(朝鮮半島)本土から送り込まれた軍隊、警察、民間の極右派テロ団」(梶村秀樹著『朝鮮史』講談社現代新書)によるジェノサイドが行われ、3万人ともいわれる犠牲者が出ました。いわゆる「4・3事件」です(写真左・中はチェジュドの「4・3平和公園」内墓碑=ハンギョレ新聞電子版より。右は事件の写真)。

 「ウクライナ戦争」の中で迎える74年目の「4・3」は特別な意味を持っていると思われます。そこには共通の教訓があるからです。

 「4・3事件」は、そもそも帝国日本による朝鮮植民地支配が根源であるうえ、民衆を弾圧した李承晩を中心とする「南」の部隊は帝国日本に育成された勢力であったことなど、日本ときわめて関係が深い事件です。しかし、当時も今も、事件を知っている日本人は多くありません。事件の事実が長く隠ぺいされてきたからです。

 「4・3事件」はなぜ隠されてきたのか。鄭暎恵・大妻女子大教授(社会学)はこう指摘します。

何故、当の日本人が四・三に関して、ここまで無知、無関心できたのか。それは日本社会に四・三を日本人に徹底的に隠蔽したい理由があったからでしょう

 昨日までの敵のアメリカが、「救世主」「恩人」として、日本人に再認識されることが初期占領政策の要でした。よって、そのマッカーサー司令部が、日本には男女平等や戦争放棄の憲法をもたらしたほぼ同時期、日本の植民地であった南朝鮮では直接軍政を敷いて、自由と民主主義を切望する民衆を無残に虐殺していた事実を日本国民が知ればどうなっていただろうか。アメリカの自由と民主主義の欺瞞性が露呈し、結果としてGHQによる極東支配は成功しなかったのではないか。

 だから、GHQのみならず、後に自民党に結集する日本の親米派政治家や、朝鮮戦争下で米軍とともに日本軍復活を目指す旧軍部らは、日米軍事同盟を組み、日本国民を含め東アジアを支配するため、四・三を徹底的に隠蔽したのではないか

 在日米軍も日本を守るより、日本と東アジア支配の完遂を目指す拠点であることが、四・三の事実から見えてきます」(在日総合誌「抗路」2018年7月号)

 「4・3事件」の2年後に勃発する朝鮮戦争、その後の日米軍事同盟の経過を見れば、鄭氏の指摘は的を射ているといえるでしょう。
 そしてここに、「4・3事件」と今日のウクライナ情勢とのいくつかの共通点があります。

 第1に、いずれも同じ民族同士の殺戮という悲惨な事件であり、その背景にアメリカ帝国の介入・覇権主義がある(あった)ことです(ウクライナ戦争の背景にあるNATOの東方拡大、米国による2014年「マイダンクーデター」画策など)。

 第2に、アメリカの覇権主義は、「自由と民主主義」の看板を掲げながら強行される(された)ことです。

 第3に、アメリカはその「自由と民主主義の欺瞞性」が暴露されることを恐れ、事実の隠ぺいを図る(図った)ことです。

 そして第4に、日本は「4・3事件」で朝鮮半島におけるアメリカの戦略に追随したのと同じように、いまウクライナ情勢においても、日米軍事同盟(安保条約)を結んでいるアメリカに完全に追従していることです。

 「4・3事件」から今日本人が学ぶべき教訓は、対米従属の日米軍事同盟(安保条約)を断ち切って、憲法9条の平和主義に基づいた言動で、ウクライナ戦争はじめ紛争停止・平和創造に尽力することではないでしょうか。


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「最悪の日韓関係」の責任はどちらにあるのか

2022年03月14日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

     
 9日投票の韓国大統領選で、保守系最大野党「国民の力」のユンソクヨル(尹錫悦)氏が当選したことに対し、岸田文雄首相は10日、記者団にこう語りました。

「いま国際社会が時代を画するような大きな変化に見舞われている。健全な日韓関係は地域、世界の平和、安定、繁栄において不可欠。日米韓の連携も重要だ」

 「ウクライナ戦争」に乗じて日米軍事同盟(安保条約)と韓米軍事同盟を連結させ、アメリカ中心の日米韓軍事一体化を進めようとするものです。

 さらに、「元徴用工や元慰安婦の問題」について聞かれ、こう答えました。

「このまま放置することはできない。国と国の間の約束を守るという日本の一貫した立場に基づいて健全な関係を取り戻す」

 岸田氏が言う「国と国の約束」とは、安倍晋三政権以来、「元徴用工」問題では1965年の「日韓請求権協定」、「元慰安婦」問題は2015年の「日韓合意」を指します。
 「国交正常化以降で最悪」(毎日新聞)といわれる日韓関係。その責任は「約束」を守らない韓国側にある、というわけです。

 こうした主張は首相だけでなく、日本のメディアにほぼ共通しています。大統領選に対する各紙の社説はこうです(「産経」「読売」「日経」は検証対象外)。

「慰安婦問題に関する合意は骨抜きにされた。…元徴用工への賠償を命じた韓国最高裁の判決を巡っても、文在寅(ムンジェイン)政権は日本側の懸念に応えるような措置を取らなかった」(11日付毎日新聞)

「日本政府が最も警戒するのは、賠償を命じられた日本企業の資産の現金化措置である。尹氏はまず、現金化が好ましくないとの新政権の考えを明示すべきだ」(12日付朝日新聞)

「文大統領は…国家間の合意を骨抜きにした。…15年の日韓合意を軸に…決着を模索してほしい」(12日付沖縄タイムス)

 岸田首相とこれらメディアの主張は、加害者と被害者を逆転させ、日本の加害責任を棚上げするものです。

「元徴用工=強制動員」問題も、「元慰安婦=戦時性奴隷」問題も、元凶は日本の植民地支配です。日本はいまだにその責任を明確にした謝罪も賠償も行っていません。

 そして「請求権協定」(1965)も「慰安婦合意」(2015)も、いずれも韓国の保守政権(パクチョンヒ、パククネ父娘)と自民党政権によって結ばれた国家間の「政治決着」です。肝心な被害者本人への謝罪・賠償は度外視されています。ここにも市民(当事者)をないがしろにする「国家」の横暴があります。韓国の被害者、市民から批判が噴出しているのは当然です。

 政府に追従する社説が溢れている中で、琉球新報の社説(13日付)は注目されます。

「事の発端は日本による植民地支配にある。歴史問題の解決には被害者である当事者が納得する救済が必要だ。日本政府は被害者の立場に立った対応で政府間の溝を埋めるべきだ」

 「最悪の日韓関係」の責任は日本の側にあります。関係の「正常化」は、日本側が植民地支配の歴史的責任を明確に認識し、被害者に対する謝罪・賠償を行うことを抜きにはありえません。朝鮮民主主義人民共和国との関係正常化においても同様です。

 それは日本政府の責任であり、政府にそれをやらせるのは、主権者である日本市民の責任です。韓国が保守政権に戻ることにより、日本側の責任はますます重くなったと言えるでしょう。


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「ウクライナ戦争」下の「3・1」と「中立化宣言」

2022年03月01日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

     

 1919年3月1日、帝国日本の植民地支配下にあった朝鮮半島で、支配からの脱却を求める民衆のたたかいが広がりました。「3・1独立運動」です(写真左・中)。非暴力のこの民衆運動に対し、日本(朝鮮総督府)は、軍隊・警察を出動させ、虐殺で弾圧しました。

 民衆によって読み上げられた「3・1独立宣言文」は、日本の支配から脱すべき理由の第1に、「今後迫りくる脅威をなくすとともに、抑圧された民族の良心と消え去った国家正義を打ち立てること」を挙げています(23日付ハンギョレ新聞)

 ロシアによる軍事侵攻、米ロの軍事的覇権争いで民族の主権が踏みにじられた「ウクライナ戦争」の中で迎えた今年の「3・1」は、とりわけ重要な意味を持っています。

 注目されるのは、昨年の「3・1」に、当時「3・1独立宣言文」が読み上げられたソウルのタプコル公園で、「朝鮮半島永世中立化宣言文」が読み上げられたことです(写真右はタプコル公園内にある「3・1独立宣言」の碑)。

 これについては昨年3月1日のブログで書きましたが、ユン・コンチャ(尹健次)神奈川大名誉教授もこれに注目し、こう述べています。
現在朝鮮半島、とくに韓国では自主的平和統一、中立朝鮮の実現の気運が高まっているように思う。南北統一というよりは南北共存、その重要な案が「中立化」である」(在日総合誌「抗路」9号=1月号)

 「朝鮮半島永世中立化宣言文」は、パク・チョンヒ(朴正煕)独裁政権時代に民主化をたたかった「民青学連事件」(1974年)に連座し死刑を宣告されたイ・ヒョンベク(李賢培)氏が、2020年6月25日(朝鮮戦争勃発の日=1950年)に立ち上げた「朝鮮半島の中立化を推進する人々」(中推人)が起草しました。それはこう謳っています。

「朝鮮半島の中立化だけが、統一を妨げる相互不信と軍事的対峙という障害を解消し、周辺大国の利害関係から始まった抑圧の手綱を断ち切る唯一の道だ。(中略)中立化の道は、単にわが民族の生存だけのためではなく、米国や中国、ロシア、日本などを含む近隣諸国の共同利益にも合致する

 「中立化」とはどういうことでしょうか。イ氏はこう説明しています。

「簡単に言えば他国の戦争や紛争に介入しないことだ。国際法上、中立国は自衛目的でないいかなる戦争にも参加せず、自国を戦争に引き込むかもしれないいかなる協定も締結してはならない。欧州のスイスやオーストリア、南米のコスタリカなどが代表的な中立国だ。大韓帝国の高宗も日露戦争を控え、中立化を宣言したが、朝鮮半島を狙っていた大国たちはこれを認めなかった」(2021年2月24日付ハンギョレ新聞)

 中立化の具体的経路は?との質問に、イ氏はこう答えています。

「第1段階は南北の同時中立化宣言です。その次に、南北国家連合を構成して中立化と統一に備える協議を行います。最後に南北と米中など、朝鮮戦争における主交戦国が平和会談を開き、中立化などを含む平和条約を一括妥結します」「南北の人々が大同団結し、大衆運動で中立化を成し遂げてこそ、核問題も解決できます」(同)

 「韓米同盟」が国是とされる韓国で、軍事同盟を否定する中立化に現実性があるのか、との質問に、イ氏はこう答えています。

「中立化に進む最大の困難は、韓国で人々の意識を(中立化の方に)団結させることです。次に、北朝鮮の人たちに協力を求めることです。その次が外国勢力です。内部勢力に力があれば、外国勢力の問題は解決できます」

「朝鮮戦争(1950~53年)の停戦協定後、韓国人たちは日々(停戦協定体制に)縛られて生活しています。にもかかわらず、人々は幸せに暮していると錯覚している。私が今やっているのは、この停戦麻痺状態を壊すことです」(同)

 上記の「韓米同盟」を「日米同盟」に、「停戦麻痺」を「日米安保麻痺」に置き換えれば、そっくり日本にあてはまるのではないでしょうか。

 「ウクライナ戦争」は、大国による小国の侵略・支配の残虐さ、不正義とともに、軍事力・軍事同盟の害悪を露呈しています。軍備・軍隊のない世界を目指すうえでも、「3・1独立運動記念日」に合わせて表明された「朝鮮半島永世中立化宣言文」から私たち日本人が学ぶべきものはきわめて大きいのではないでしょうか。

 


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「建国記念日」・創氏改名・夫婦別姓

2022年02月10日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

    

 あす2月11日は「建国記念日」とされています。「建国をしのび、国を愛する心を養う」とされた戦前の「紀元節」が1966年に復活したものです。「初代・神武天皇」が即位した日とされていますが、神武は神話上の人物です。

 「2月11日」はまた、帝国日本の朝鮮植民地支配においても忘れてはならない日です。それは1940年のこの日、「韓国併合」(1910年)で植民地支配を本格化した明治政府が、皇民化政策の柱である「創氏改名」を強行するために「朝鮮民事令改正」と関連法令を施行した日だからです。

 1940年は「神武天皇即位」から数えて2600年の「皇紀2600年」とされました。
「「皇紀二六〇〇年」の「紀元節」にあたるこの日に創氏が実施されたのは、いうまでもなく意図的なもの」(水野直樹著『創氏改名』岩波新書2008年)でした。

 当時の新聞は、「きょう紀元の佳節は二千三百万半島同胞にとっては皇国二千六百年の興隆を壽ぎ奉る佳き日である」と政府を代弁してその「意義」を強調しました(同著)。

 ここで改めて確認する必要があるのは、「創氏改名」とな何だったのかです。

「創氏改名政策は「創氏」と「改名」に分けて考える必要がある。
 「創氏」とは文字通り「氏を創る」ことである。朝鮮の家族・親族においては、家の名称である氏ではなく「姓」がある。姓は父親の名字を子どもが引き継いで、結婚しても変わらないとうもの。夫婦が異なる姓を持っているのは、そのためだ。これは父系の親族集団が社会的結合の中心になっていることを表している。

 これに対して、日本の家族は全員がただ一つの名字を名乗っている。これが「氏」である。このような氏のあり方は、明治時代に「イエ(家)」制度を確立して、天皇への忠誠心を持たせるために定められたものだ

 植民地支配の下に置いた朝鮮でも朝鮮人に天皇や日本国家への忠誠心を持たせる、そのためには朝鮮の家族のあり方を日本と同じようにする必要があると支配当局は考えた。その手段の一つが「創氏」だった。

 一方、改名、つまり下の名前を改めるのは、義務ではなく「任意」とされた」(水野直樹氏「植民地支配政策としての創氏改名」、月刊「イオ」2022年2月号所収。写真左は「創氏」の届け出風景、写真中は「創氏届」を急ぐよう促すポスター=同誌より)

 「氏」とは、「明治時代に「イエ(家)」制度を確立して、天皇への忠誠心を持たせるために定められた」ものであり、それによって「日本の家族は全員がただ一つの名字」を名乗るようになった。「氏」制度と「夫婦同姓」制度は一体不可分なのです。

「暴走する軍国主義日本は、韓国人の言葉や名前までも奪おうという同化政策「皇民化政策」(「創氏改名」―引用者)を実施する。「夫婦別姓」というテーマに寄せるなら、この皇民化政策下の5年のみが、朝鮮半島で「夫婦同姓」が実施されたことになる。ここからも日本の夫婦同姓と天皇制のつながりが推し量られる」(伊東順子氏「韓国 戸主制度を破棄した、絶対的夫婦別姓の国」、『夫婦別姓―家族と多様性の各国事情』ちくま新書2021年所収)

 岸田文雄首相はじめ政府・自民党幹部は、「ふうふべっせい(夫婦別姓)」とは言わず、「ふうふべつうじ(夫婦別氏)」といます。彼らにとっては、夫婦別姓はたんに夫婦の「姓」が別になることではなく、天皇制を支える「皇民化政策」としての「氏」の不同一化、「氏」制度の崩壊を意味するのです。
 ここに、自民党(とりわけ右派グループ)が「夫婦別姓」に反対する本質的理由があります。

 法律で「夫婦同姓」を定めているのは世界中で日本だけです。その根源的理由は、天皇制を支える「氏」制度を固守するためです。

 基本的人権擁護の視点からも、国際的常識からも、「選択的夫婦別姓」の実現は急務です。
 それは人権尊重に逆行する時代錯誤の天皇制を支える「皇民化政策」の陋習を打破することにもなるのです。


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朝鮮戦争「終戦宣言」に反対する日本政府の犯罪的役割

2021年11月09日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

    
 7日付の「ワシントン共同電」(地方紙各紙)は見過ごすことができません。

「日米韓3ヵ国が先月ワシントンで開いた岸田政権発足後の初の高級協議で、北朝鮮との信頼関係醸成措置として休戦状態の朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を望む韓国に対し、日本が「時期尚早」として難色を示したことが5日分かった」

 韓国の代表が「終戦宣言の有用性」を説明したのに対し、外務省の船越健裕アジア大洋州局長が、「北朝鮮がミサイル実験を繰り返している現状を踏まえ」「時期尚早だ」と述べたといいます。

 日本政府のこの公式態度表明は、朝鮮半島の平和への動きを妨害する点でも、日本の歴史的責任に逆行する点でも、絶対に容認することはできません。

 朝鮮戦争の終結は、これまでの韓国、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、アメリカとの外交交渉で常に大きな焦点になってきました。

 2007年のノ・ムヒョン(廬武鉉)大統領とキム・ジョンイル(金正日)国防委員長の会談による歴史的な10・4首脳宣言」で、「停戦体制を終息させ、恒久的な平和体系を構築していかねばならないということで認識を共有…終戦を宣言する問題を推進するために協力していく」と合意しました。

 2018年4月のキム・ションウン(金正恩)国務委員長とムン・ジェイン(文在寅)大統領の会談(写真左)による「4・27板門店宣言」でも、「休戦協定締結(写真右)65年となる今年、終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換」するため「南北米3者、または南北米中4者会談の開催を積極的に推進」すると明記しています。

 さらに2018年6年12日の朝米会談の「シンガポール共同声明」でも、「板門店宣言を再確認」しました。しかしその後、アメリカの韓米合同軍事演習強行などで朝米関係が悪化し、2019年2月のハノイ会談決裂以降、終戦宣言への動きは止まっていました。

 そんな中、ムン大統領は先の国連演説(9月21日)で、「終戦宣言こそ、朝鮮半島における『和解と協力』の新しい秩序を作る重要な出発点になる」とし、「終戦宣言のために、国際社会が力を集めてくれるようもう一度お願いした」と改めて意欲を示しました(写真中)。

 ムン大統領の国連演説と前後して、「韓米が協議を重ね、終戦宣言に対する隔たりを埋めてきた…韓米が終戦宣言の一定の文案をめぐって協議中」(10月21日付ハンギョレ新聞)という動きも報じられています。

 これに対し朝鮮側も、「朝鮮半島の不安定な停戦状態を終わらせ、相手に対する敵視政策を撤回するという意味での終戦宣言は、興味深い提案であり良い発想」(9月24日のキム・ヨジョン労働党副部長談話。9月25日付ハンギョレ新聞より)と歓迎しました。

 こうして、韓国、朝鮮、アメリカがいずれも終戦宣言に前向きに動き出そうとしているその時、ひとり日本だけがそれに反対してブレーキをかけたのです。日本政府の異常な朝鮮敵視政策が際立っています。

 日本は朝鮮戦争の「停戦協定」の署名国ではありませんが、この戦争に重大な責任があります。

 そもそも、帝国日本の朝鮮半島侵略・植民地化がなければ朝鮮戦争は起こりえませんでした。また朝鮮戦争中、日本はアメリカの冷戦戦略・日米安保条約によって米軍の出撃・兵站基地になりました。横田基地には今も国連軍(実質アメリカ軍)の司令部が置かれています。

 日本人(旧日本軍関係者など)が直接戦闘に加わっていたことも明らかになっています。敗戦後の日本経済の「復興」は朝鮮戦争特需すなわち“死の商人”がもたらしたものです。

 しかし、多くの日本人はこうした事実を知りません。教えられていません。朝鮮戦争がいまだに終結していないことも、あるいは朝鮮戦争自体を知らない人も少なくありません。歴代自民党政権が不都合な歴史の真実を隠ぺいしてきたからです。

 その一方で、自民党政権はメディアと一体となって、「北朝鮮敵視」キャンペーンを繰り返しています。朝鮮半島の非核化・「ミサイル実験」問題なども、朝鮮戦争がいまだに終結していない事実と切り離すことはできません。

 日本政府の朝鮮敵視とは真逆に、朝鮮戦争を1日も早く終結させることは、日本人の責任でもあります。


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伊藤博文直筆の「礎石」と渋沢栄一

2021年06月01日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

    

 「韓国文化財庁、伊藤博文の直筆刻まれた韓国銀行の礎石撤去しない方針」。5月27日の韓国・ハンギョレ新聞日本語電子版に、こんな見出しの興味深い記事がありました。

「大韓帝国末期、日帝が朝鮮半島を侵奪して強制占領した当時、その先頭に立った初代朝鮮総督の伊藤博文(1841~1909)の直筆の文字が刻まれた旧韓国銀行本館(現在の韓国銀行貨幣博物館)の礎石が撤去を免れることになった」

 韓国植民地化(「併合」1910年)の前年(1909年)に建てられた旧韓国銀行(朝鮮銀行)本館の「礎石」(写真中)が、伊藤博文の直筆によるものであることは昨年10月に韓国文化財庁の調査で確認されていました。以来、その撤去をめぐる議論が続けられてきましたが、結局、「礎石をそのまま維持し、歴史的経緯を説明する案内板を設置することになった」というものです。

 興味深いのは、撤去をめぐる議論の過程で、韓国文化財庁が昨年12月に18歳以上の韓国国民千人を対象に行ったアンケートの結果です。
 それによると、「礎石を歴史的記録として保存し、案内板を設置すべき」が52・7%、「伊藤博文の痕跡を消すべき」が47・3で、ほぼ拮抗していました。「伊藤博文の痕跡」は残すべきではないという意見が半数近く、「歴史的記録」として残すべきだという人も、歴史的経緯を記した「案内板」の設置が必要としています。どのような説明文になるか注目されます。

 この経過が示していることは、110年以上前に日本帝国の侵略・植民地化の先頭に立った伊藤博文の歴史的犯罪性を、韓国の人々は今もけっして忘れてはいない、許してはいないということです。

 翻って、日本(日本人)はどうでしょうか。

 伊藤博文は歴史的責任が問われるどころか、初代総理大臣として偉人化され、千円札紙幣の肖像にさえなりました(1963~86年)。
 伊藤直筆の「礎石」がある旧韓国銀行本館は、現在は韓国銀行貨幣博物館になっていますが、このなかに朝鮮半島で最初に発行された紙幣が展示されています。その肖像に描かれているのが、渋沢栄一です(写真右)。

 渋沢は伊藤博文の親友でした。伊藤が政治面で朝鮮半島植民地化の先頭に立ったのに対し、渋沢は経済面からそれに歩調を合わせました。銀行を設立して3種類の紙幣を発行し、自らその肖像に収まりました。

 渋沢が福沢諭吉に代わって1万円紙幣の肖像になると決まったとき、韓国の聯合ニュースは、「日本が軍事的圧力を背景に紙幣の流通を図った」時の中心人物が渋沢であり、渋沢こそ「韓半島で経済侵奪した象徴的人物」と伝えました(2019年4月10日付日経新聞)。

 渋沢は銀行・紙幣だけでなく、鉄道敷設、日本企業の半島進出でも大きな役割を果たしました。渋沢はまさに伊藤と並ぶ朝鮮半島侵略・植民地化の立役者だったのです(2019年4月11日、同10月3日、2021年2月16日のブログ参照)。

 その渋沢が、2024年から福沢諭吉(福沢もまた朝鮮侵略論者)に代わって日本の最高額紙幣(1万円札)の肖像になります(決定したのは安倍晋三政権)。それに先立ち、NHKはいま渋沢を大河ドラマの主人公にし、渋沢ブームを煽っています。書店には渋沢コーナーが設けられています。

 伊藤や渋沢、福沢が朝鮮侵略・植民地化の先頭に立った人物であるという歴史を、どのくらいの日本人が知っているでしょうか。歴代自民党政権が「学校教育」で歴史の真実を教えてこなかったことが元凶ですが、そのせいだけにすることはできません。

 あらためて、日本の朝鮮侵略・植民地化の加害の歴史を学び直さねばなりません。その1つとして、国家とメディアが作り出した渋沢栄一の虚像を打ち砕く必要があります。伊藤、福沢に続いて渋沢が最高額紙幣の肖像になろうとしている日本の現実を黙過することはできません。

 


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朝米会談・金委員長は共同会見すべきだった

2018年06月14日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

     

 トランプ米大統領との史上初の首脳会談と共同声明によって、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩委員長の「政治外交手腕」に対する評価が高まっているようです。それは否定しませんが、しかし、今回の会談に関して1つ残念なことがありました。それは、会談後の記者会見がトランプ氏1人によって行われ、金氏は会見せずに帰国してしまったことです。

  金氏はトランプ氏とともに会見に臨むべきでした。その理由は2つあります。

  1つは、「共同声明」に盛り込まれていない朝米会談の内容が、トランプ氏だけによって語られたことにより、その真偽が(隠されていることも含め)定かでないことです。

  その典型が、日本で大きく取り上げられている「拉致問題」です。トランプ氏は自らこの問題を発言することはなく、質問されたので一言、「もちろん取り上げた。これから協議されるだろう」と述べました。

 私はトランプ氏がほんとうに会談で「拉致問題」を提起したのか疑わしいと思っています。仮に本当だとすれば、トランプ氏はどう言ったのか、それに対して金氏はどう応答したのかが明らかにされる必要があります。しかし、トランプ氏はそれを一切口にしませんでした。

  朝米会談で「拉致問題」は本当に話題になったのか。なったとすれば、金氏はどう発言したのか。それは金氏が共同会見で自ら明らかにすべきでした。

  もう1つの理由は、「拉致問題」に限らず、金氏(朝鮮)の考え・主張をメディアのバイアスなしで直接世界に発信するいい機会だったことです。

  金氏はトランプ氏との会談前に(「頭撮り」)、「ここまで来るのは容易な道ではなかった。われわれの足を引っ張る過去があり、誤った偏見と慣行が時にわれわれの目と耳をふさいだ。われわれはそれを乗り越えてここまできた」と述べました(写真左)。偽らざる実感でしょう。

 「誤った偏見」とは、アメリカや日本の政府、メディアによって朝鮮の真意や実態がゆがめられてきた、ということではないでしょうか。「北朝鮮の挑発・脅威」を決まり文句のように繰り返す日本政府、メディアをみれば、さもあらんと思われます。

  そうであるなら、金氏はこの歴史的な会談の場で、共同声明やそれに盛られなかった会談内容、その意味、解釈、今後のことについて、朝鮮の見解・立場を自らの肉声で世界に発信すべきではなかったでしょうか。

  これまでメディアの会見に臨んだことがない金氏にとって、いきなりの大舞台がきわめて高いハードルであることは想像に難くありません。しかも相手は度のきつい色眼鏡をかけた記者(メディア)たちです。しかしここは勇気を発揮してほしかった。語るべき相手は、生中継のテレビカメラの向こう側にいる世界の人々なのですから(トランプ氏が「会見はオレひとりでやる」と言い張ったのでなければ)。

  今後、朝鮮はアメリカとの間で、また日本との間でも、朝鮮戦争の終結や「拉致問題」、さらに国交正常化へ向けた協議をさまざまなレベルで行うことになるでしょう。行うべきです。その際、ぜひ記者会見で協議の内容や朝鮮の考えを直接明らかにすることを期待します。
 それが朝鮮に対する国際的な「偏見」を打ち破ることに通じるのではないでしょうか。


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「朝鮮戦争休戦協定」蹂躙を続けているのはアメリカ

2017年12月04日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

     

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)のICBM「火星15」発射(11月29日)に対し、日本の主要メディア(全国紙)は相変わらず朝鮮を一方的に非難する論調に終始しています。たとえば、「核・ミサイル凍結のかすかな期待を裏切る蛮行である。日米韓が、国連安保理の緊急会合を求めたのは当然だ」(11月30日付朝日新聞社説)

 こうした報道・論調は、朝鮮半島をめぐる緊迫した事態を生み出している原因と結果を逆転させた、きわめて非科学的で偏向したものと言わねばなりません。なぜなら、問題は朝鮮戦争の休戦協定(1953年7月27日)が守られていないことにあり、協定を一方的に蹂躙し続けているのはアメリカだからです。

① 休戦協定署名の68日後に米韓軍事同盟(安保条約)締結(1953年)

 アメリカは朝鮮戦争の休戦協定に署名したわずか68日後の1953年10月1日、早々に韓国と軍事同盟(安保条約)を締結しました。その狙いについて、ダレス国務長官(当時)は、アメリカ在郷軍人会年次総会(53年9月2日)でこう述べています。

 「韓国と相互安全保障条約を結んだのは、太平洋安全保障体制の第二段階であって、一九五一年にフィリピン、オーストラリア、ニュージーランドおよび日本と結んだ相互安全保障条約を完結するものである」(神谷不二著『朝鮮戦争』中公文庫より)

 ② 協定第13節に違反して韓国に核兵器配備(1958年)

 
「休戦協定の第13節(d)は…朝鮮に新しい武器を持ち込むべきではないと規定した。…アメリカは国際連合の憂慮をそっちのけで休戦協定を破壊する、第13節(d)の廃棄を一方的に行った。1957年6月21日の在朝鮮国連司令部軍事休戦委員会の会合でアメリカは北朝鮮代表団に国連軍(UNC)はもはや休戦協定第13節(d)に対する義務を負わないと表明した。1958年1月、核武装したMGR-1とM65 280mmカノン砲が、韓国に配備され(た)」(ウィキペディアより)

 ③ 協定第12節に違反して米韓軍事演習を開始し(1969年)、今日まで毎年繰り返す

  協定第12節は「敵対行為の完全停止」を規定しています。ところがアメリカは韓国との合同軍事演習を毎年数十日間繰り返しています。

 米韓合同軍事演習は、「69年3月の『フォーカス・レディナ』を皮切りに」(12月1日付朝鮮新報)し、「大規模な定例の米韓合同軍事演習は、1976年6月のコードネーム『チームスピリット』から始まった」(「知恵蔵」)とされています。

 アメリカは今日4日からも、最新鋭のステレス戦闘機F35、F22を含め過去最大の230機の戦闘機を動員した米韓合同演習を行い、朝鮮を新たに挑発しています。(写真左)

 安倍政権は「安保法制」強行以来、日本海での米軍演習への自衛隊参加を強めており(直近では11月10日~12日)、いまや「米日韓合同軍事演習」の様相を呈しています。(写真中)

  こうした事実に目を向けず、朝鮮を一方的敵視する報道・論調・世論は、朝鮮を口実にした米トランプ政権と安倍政権の核軍拡戦略の思うつぼです。

 日本人にいま必要な視点は何か。遠藤誉東京福祉大学国際交流センター長(写真右)の指摘を再録します。

 「北朝鮮問題の根源は、1953年7月に結ばれた休戦協定を、米韓が破ってきたことにある。休戦協定では3カ月後に朝鮮半島から他国の軍隊は全て引き揚げると約束して署名したのに、アメリカと韓国は同時に(2カ月後に)米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を締結して、「米軍は韓国に(無期限に)駐留する」という、完全に相反する条約にも署名した。…日本人には見たくない事実だろうが、これは客観的事実なので、直視するしかない。着地点の模索は、この「客観的事実を正視する勇気を持つこと」からしか始まらないだろう」(7月10日付「ニューズウィーク日本版」)

 


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「北朝鮮問題」に対するガルトゥング氏の「緊急提言」

2017年07月31日 | 朝鮮半島の歴史・政治と日本.

     

 北朝鮮の弾道ミサイル反射(28日)に対し、米空軍と航空自衛隊が30日、朝鮮半島沖で共同訓練を行いました。米軍はそのあと韓国軍とも共同訓練を行っており、アメリカを中心に米日韓が北朝鮮と軍事的に対峙する構図が鮮明になっています。

 この事態をどう見るべきか、日本は北朝鮮に対しどう臨むべきか、これまで以上に冷静な判断が私たちに求められているのではないでしょうか。

 その点で重要なヒントを与えてくれる本が「緊急出版」されました。「積極的平和主義」を提唱し(安倍首相のそれは名前だけ横領したまったくのまがいもの)、「平和学の父」といわれるヨハン・ガルトゥング氏(ノルウェイ)の『日本人のための平和論』(ダイヤモンド社、2017年6月)です。

 「集団的自衛権」「構造的暴力」「平和運動への提言」など14の章からなる同著で、第6章が「北朝鮮ー理解不可能な国なのか?」です。

 ガルトゥング氏は「ピョンヤンで北朝鮮外務省の官僚たちと会談(2000年)」し、「日本との関係をどうすれば改善できるか、そもそも両国の関係はなぜこんなにこじれてしまったのか」と尋ねたところ、彼らは「問題と考える日本の行為」として6項目のリストを示しました。6項目とはーー。

 ●韓国・朝鮮人100万人の殺害または拷問(被爆者を含む)
 ●韓国・朝鮮人600万人の戦時徴用(20万人の「慰安婦」を含む)
 ●経済的略奪
 ●文化的宝物の押収または破壊
 ●在日韓国・朝鮮人が日本で置かれている状況
 ●米ソによる朝鮮半島分割に日本の植民地政策が及ぼした影響

 「リストされた問題は日韓併合の1910年までさかのぼり、彼らの抗議は日本が同化政策を行った全期間に及んだ」(ガルトゥング氏)

 さらにガルトゥング氏は、北朝鮮の核兵器保有について、「私は北朝鮮の核保有には5つの理由があると思う」として、こう述べています。

 「第1に、抑止力のため。第2に、攻撃されたときの反撃のため。(中略)
 第3、第4、第5の理由はもっと興味深い。第3に、彼らは核のない朝鮮半島を望んでいる。そのための交渉材料として核兵器を保有している。彼らは韓国に送り込んだ多数のスパイを通じて、米軍が韓国に核兵器を配備していることを知っており、場所も特定している。米国はそのような事実はないと否定し、韓国も米国の言いつけ通りに否定している。しかし私は、世界でーたとえばオーストリアでー米国が行っている核政策から推して、米国の発表を信じない。北朝鮮が交渉材料としての核を必要とする理由がそこにある。(中略)
 第4に、…北朝鮮は、自分たちには十分な国力があること、孤立無援ではないことを示すために核を保有しているとも考えられる。
 第5に、北朝鮮に対する外からの制裁や脅威が限度を超えたときに使用するために保有している」

 最後にガルトゥング氏は、「北朝鮮とどうつきあうか」として、次のように述べてこの章を結んでいます。

 「日本は北朝鮮に対する経済制裁に加わっているが、この制裁はまったく逆効果である。私は日本のどこかの非政府機関(NGO)に、北朝鮮と直接コンタクトを取って対話し、将来の関係のあり方を探り、制裁に代わる方法を模索してほしいと願っている。制裁を完全に無意味化するような物資やサービスを送ってほしいということではなく、可能なところから平和構築に向けた取り組みを始めてほしいということである」

 こうした氏の「分析・提言」をどう受け止めるか。私はほかの問題では氏に賛同できないところがあります(たとえば「安保(条約)は廃棄せず寝かせておく」という主張)が、「6項目のリスト」はなるほどと思います。それらはいずれも、日本が朝鮮に対して行った植民地政策の結果であり、日本(人)はその植民地政策について歴史的事実を明確にしたうえで謝罪し補償し教訓化するという義務・責任を果たしていないことは事実だからです。

 さらに、北朝鮮の核兵器保有(関連するミサイル発射)が、アメリカの朝鮮半島(東アジア)における核戦略に対する対抗(防衛)措置であるとの指摘にも同意します。

 そして、「(経済)制裁」は逆効果であり、(氏は直接触れていませんが)米日韓合同の軍事行動(「訓練」という名の圧力)が事態を悪化させることは確かです。
 ガルトゥング氏はNGOに期待していますが、私たち1人ひとりが「平和構築に向けた取り組み(世論形成を含め)」を始める必要があるのではないでしょうか。


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