角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

罪深き原発。

2011年05月15日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き〔四阡五百円〕
紺基調の白抜き和柄プリントをベースに、合わせは紺基調の絣風プリントです。
色合いが涼しげで、夏にぴったりといった印象でしょうか。爽やかなかっこよさがあると思います。と、いかにも男性限定のような話をしていますが、お買い上げくださったおばさまは娘さんへのプレゼントでありました。もちろん女性にもOKですね。

一見して旅行者と少し違う、かと言って地元民とも思えないご夫婦が、ふらりと草履コーナーに立ち止まりました。お歳の頃は60歳代後半と思います。いつものように角館草履の素材やら健康効果をお話しすると、『まだしばらく滞在しますから、近々寄らせてもらいますよ』とご主人。
この「まだしばらく」の言葉で、最初に感じたイメージと繋がりました。ご夫婦は角館を仮住まいとしている、福島原発からの避難者なんですね。

住まいのあるふるさとが立ち入り禁止区域となり、どこを仮住まいとするかずいぶん悩んだそうです。最近まで仙台市の病院に入院していた奥様は、避難所での団体生活ができません。息子さん家族はいらっしゃるようですが、頼れる身内にも心当たりはありません。そんなときふと思い出したのが、何度か訪れていた檜木内川の鮎釣りだったそうです。
ご主人が奥様へ、『角館へ行くぞっ』。それを聞いた奥様は『なんで角館???』。無理もない話しですよ。

奥様へ『実際に角館へ来てみてどうですか?』とお訊ねすると、『もうほんとにイイとこで、来て良かったと思ってるんですぅ』。角館人を目の前にしての社交辞令とは思えない、明るい笑顔が印象的でした。
角館滞在はひとまずの予定が半年間だそうです。でも延長申請すれば、最大二年間の滞在が認められるそうですね。もしかしたら、触れられたくない話題かもしれないと思いながら訊いてみたのは、『やっぱりふるさとに帰りたいでしょう?』。

少し間を置いてからご主人が言うのは、『震災前の状態に戻れるなら帰りたいですね。でも無理ですよ。たとえば五年、十年後に帰ったところで、もうこの歳になってはねぇ』。
ご主人の言葉の印象から、すでに帰るべきふるさとはないを感じました。

このブログでもときに触れるのが、「ふるさとへの思い」です。今暮らす街がふるさとではなくとも、やがては戻りたいと思うのが自然でしょう。
終の棲家にふるさとの選択肢を奪った原発事故。この罪は決して軽くないと思いますね。
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ひとつのチャンス。

2011年05月12日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡円〕
淡い紫基調のアゲハ蝶プリントをベースに、合わせはピンク基調の月見うさぎプリントです。
プリント柄は少々賑やかですが、色合いのまま優しい雰囲気に仕上がりました。ちょっと口うるさいけど優しいお母さんといった印象でしょうか。おそらくわが家の三女は、カミさんをこう思っているでしょう。
ピンク基調の月見うさぎは、この草履をもちまして終了となりました。

今日は朝から青い空が広がり、気温もぐんぐん上昇。おそらく角館で24℃ほどまで上がったと思います。はっきり暑いと感じたのは、今季初じゃないですかね。散策のお客様も上着を脱いで、中には半袖姿のおばさまもおりました。これだけ天気がイイと、それだけで少し得した気分になりますね。
しかしそれも束の間、今晩からまとまった雨が降るようです。

例年ゴールデンウィーク後半から連休明けは、秋田県内からお越しの比率が高くなります。これは桜が見頃の大混雑を避け、少し人が空いてから出掛けようという地元ならではの考えに基づくわけです。たとえば今年の大型連休では、5月6日から明らかに秋田弁が多くなるのが分かりました。桜がまだ充分残っていたのも、そんな方々の背中を押したのでしょう。

震災後東北の観光地が閑古鳥状態というのを知って、逆に秋田県内からの桜見物が増えたのであれば、それはそれでひとつの朗報と思いたいものです。『角館の桜って、まだ見たことがないのよぉ。だってスゴい混むんでしょ』とおっしゃる秋田県人とは、実演席でも通年お会いします。もしかしたら県内在住で、今年が「角館の初桜」という人だっていたでしょうね。

そうした現象に伴って、角館草履のお買い上げも県内比率が高くなっています。今日一日でも、由利本荘市、秋田市、三種町のお客様の元へ行きました。
震災の影響は、このあともしばらく続くと予想されています。実際観光バスの姿はまったくありませんし、宿泊や昼食の予約もずいぶん少ないそうです。秋田県人に桜をはじめもっと角館を知っていただくには、県外からの予約が極端に少ない今年が、ある意味チャンスかも知れませんね。
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観桜会が終わりました。

2011年05月08日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き〔四阡五百円〕
金茶基調の家紋プリントをベースに、合わせはグレーです。
サイズ別で25cm草履が、最初の在庫切れとなりました。そこで温めていた配色を早速編んでみたのですが、やはり落ち着いたかっこ良さがありますね。平生地はこちらです。




「がんばろう!東北 角館の桜」と銘打った角館観桜会は、本日をもって終了となりました。明日と明後日草履コーナーはお休みのため、今日は少し早い時間に撤収し、武家屋敷通りに行ってみました。枝垂れ桜もソメイヨシノも、淡いピンクと緑の葉が半分半分くらいでしょうか。今日もずいぶん散策の姿が多く、みなさん桜吹雪の風情を愉しんでいました。
それにしても、よくぞこれだけうまく大型連休に当たったものです。しかも新幹線の全線復旧に合わせたかのような開花でありました。今年の桜たちには、足を向けて寝られない心境ですよ。

仙台市からお越しのご夫婦。共に角館草履を気に入ってくださり、それぞれお気に入りの配色をお選びです。
『地震の被害はなかったですか?』とお訊ねすると、『まぁうちは大丈夫でしたよ。それより角館にお客さんが来ないってテレビでやってたもんだから、急に出掛けて来たんですよ』とご主人。確かに震災後の予約キャンセルは目に余るものがありましたが、被災地の方にご心配いただいていたとは恐縮でした。

こちらのご夫婦のように、東北の観光地が閑古鳥と聞いてお訪ねくださった方は、おそらくかなりの人数に及ぶんじゃないでしょうか。これまでの当ブログにもある通り、私の実演席だけでも相当の人数がそうしたお話を聞かせてくれています。
間もなく観桜会期間の正式な人出が発表されると思いますが、おおむね平年の三分の一というのが専らの推測です。これを少ないと思うのではなく、その三分の一のお客様に感謝するのが筋でしょうね。

今年の観桜会でもうひとつ顕著なのは、被災県からのお訪ねでした。もちろん避難所生活のような深刻な被害ではないにしても、家の一部が損壊している方もいれば、お知り合いが津波被害に遭われた方、GW前半で震災ボランティアに参加してきた方もいました。すると「気分転換」という言葉が、多くのお客様から聞かれるんですね。長くは家を留守にできない状況もあって、東北内が格好の訪問先になったのでしょう。

郡山市からお越しのご夫婦には、『福島から避難してきたことでいじめられるなんて、ほんとにあるんですか?』と訊いてみると、『やっぱりありますねぇ。私の知り合いは首都圏の駐車場で車にキズをつけられましたよ』。
報道ではそんなことを言ってましたが、地元の方から聞くとさほど珍しくなく「福島イジメ」があるようです。同じ日本人として、これには嘆かわしくさえ思えますよ。

今年の観桜会は、とにもかくにも震災の影響が色濃かったです。そしてこれはしばらく続くでしょう。この先何年か、実演席の話題に震災が途切れることはないと思います。
少しずつでも復興が進み、また被災地の方が「気分転換」を望むとき、角館がお役に立てれば嬉しいですね。
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ふるさとが世界一。

2011年05月07日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡円〕
緑基調の女の子プリントをベースに、合わせは赤基調のしし唐プリントです。
同じような色調で三足ほど編んだのですが、思いのほか早くに売れてしまいました。そのお使い道が「母の日プレゼント」なんですね。地味すぎてもいけないし、派手すぎてもいけない「母の日」は、こうした配色が無難に映るのでしょう。

今年も母の日プレゼントに何人もお出でくださっています。40歳代の女性が実母へ、50歳代の女性が姑さんへ、50歳代の男性が奥様へ。それぞれにいろんな想いがあるんでしょうね。あっそうそう、今年もしっかりいましたよ、『母の日に自分へプレゼントっ』とおっしゃるおばさまです。

齢八十五とおっしゃるおばあちゃんが、ひとり旅を楽しんでお見えでした。実演を眺めながら、『山口の田舎で編んだんだけど、こうして見てるとすっかり忘れてるわねぇ』。私が、『ワラ草履が世の中からなくなってずいぶんですから、忘れてしまうのはしょうがないでしょ』と言うと、『草履だけじゃなくて、大根の煮方も忘れちゃったものねぇ』。いきなり大根の話に飛んだので、お歳がお歳だけにちょっと心配になりました。

おばあちゃんは山口県のご出身で、現在は埼玉県にお住まいだそうです。ひとり旅は珍しくないようですから、ちゃんとしっかりしたおばあちゃんであることが分かりました。そしてお話の内容が実に面白いんです。
『昔若い頃は、山口県の秋吉台っていったら世界一だと思ってたの。でもこれが井の中の蛙なのよねぇ。いろんなところに旅行したら、もっといいとこがいっぱいあるのよぉ』。

私が、『角館を世界一だと私は思ってるんですけど、もっといいところがありましたか?』と訊ねると、『それが井の中の蛙ってことよっ』。二人で大笑いしました。おばあちゃんは続けて、『角館もいいところだし他にもいいところはいっぱいあるんだけど、何度も行ってるとよくないところも見えちゃってダメね。角館も三度目だから、そろそろよくないところが見えてきそうよ』。またまた大笑いです。

ふるさとを離れると、その良いところも悪いところも見えてくると云います。人生の大先輩であるおばあちゃんは、いろんな角度から物事を見る大事さを説いているのかも知れません。結論としては、「自分の暮らす町が世界一」ということで、双方納得でありました。

先月ふるさとを離れた長女と次女が、一ヶ月ぶりにこのGW帰省しました。たった三日間ほどの滞在でしたが、一晩夜桜見物に誘ってみると、素直に『行くっ』と言います。親と一緒に夜桜見物という年齢ではないですし、実際高校生時代は一度も行ってません。
たった一ヶ月とはいえ、ふるさとの心地よさ、親元の安心さが分かってきたのかもしれませんね。
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角館の桜たち-2011

2011年05月06日 | 実演日記
今朝町を巡って写真に収めてきました。今年の桜たちです。

























明日から少しずつ散っていくでしょう。天候やウソ(鳥)に遊ばれ、思ったように咲けなかったかもしれません。でも今年の桜たちには、ほんとにご苦労さんを言いたいですね。
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よくお出でくださいましたっ!

2011年05月05日 | 実演日記


今日の草履は、大分県中津市にお住まいのおじさまからの、お電話によるオーダー草履です。
おじさまは二年前に角館を訪れ、その際に角館草履をお買い上げとのこと。『ずいぶん使い込んじゃったから、新しい草履を送って欲しいと思ってねぇ』。お好みの色合いをお訊ねすると、『どんなでも構わないけどもねぇ』とおっしゃるので、私のほうから「赤」をお勧めしました。
奥様用のご希望配色を伺うと、お電話の奥で奥様が応えています。『綺麗な草履がいいわねぇ』。お洒落で粋なペア草履、そろそろ到着の頃と思います。

2011年ゴールデンウィークのヤマと目していた三連休が終わりました。気温こそ低めで推移しましたが、大きな天気の崩れもなく、角館の桜たちは見事に見頃を合わせてくれました。
このままですと大型連休最終日の8日まで、ある程度の桜が見られそうです。途中雨になるようですから、そうなれば雨に打たれる桜吹雪になるでしょうか。

さて心配していた人出ですが、観桜会が始まったばかりのゴーストタウンが、まるでウソのような活況を見せています。駐車場は早々と満車になったそうですし、道行く人の波を見ていると、まさに角館観桜会の光景が見られました。
厳密には観光バスがいない分だけ、ピークの人出も平年を下回るでしょう。でも周囲の角館人でそれを残念がる人はいません。皆一様に、帰って来てくれたお客様に大歓迎ですよ。本当によくお出でくださいました。

さすがにこの三連休は、実演席のおしゃべりも忙しなかったです。そんな中で私を訪ねてくださったのは、二年ほど前に草履をお買い上げの群馬県のご夫婦。ちょうどその頃、長女と次女が所属していた角館高校飾山囃子同好会が、群馬県を会場に全国大会へ出場しました。当時こちらのご夫婦にそのことをお話しすると、角館高校チームを激励に訪ねてくださったんですね。
このたびは草履のお買換え、今年の観桜会はリピーターさんのご来店も少ないと思ってましたから、本当によくお出でくださいました。

千葉県からお越しのご家族は、奥様がネットで「室内草履」を探していて角館草履を見つけたんだそうです。ご主人から角館旅行の了解はとりつけたものの、それからずいぶんの月日が経ったようでした。
ご家族三人がそれぞれにお気に入りの配色を選ばれると、『角館の桜も見れたし、草履も買えたし、さぁ満足だなっ』とご主人。本当によくお出でくださいました。

まだまだたくさんの出会いがあった2011年の観桜会は、また追々ご紹介して参ります。とにもかくにも、今年の観桜会はいつにも増して『よくお出でくださいましたっ』です。大型連休残り三日間も、感謝の心でしっかり務め上げることとしましょう。
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ミニ草履100円募金。

2011年05月01日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡円〕
赤基調の黒猫&麻の葉プリントをベースに、合わせはエンジです。
赤系でまとめた草履は、可愛らしさが際立ちますね。猫の黒色がうまくポイントになっています。黒猫なのかネコのシルエットなのか、平生地はこちらです。



桜の開花に合わせ、予測していた通りマイカー組が多くなってきました。武家屋敷通りの駐車場から徒歩で西宮家を訪れた男性は、『満車になってて少し待ちましたよ』。つい何日か前までがら空きだったことを思えば、ほんとに嬉しく思います。角館観桜会の本来の混雑には及ばないながら、ここまで回復してくれたことを素直に喜ぶべきでしょう。

マイカー組の多くは、秋田県内もしくは東北地方からお越しです。するとどうしても被災三県の名前が聞かれ、津波被災地の現状なども教えられるわけです。異口同音に聞くのは復興までの長い道のりですね。お知り合いが被災されたという方は、大きなため息混じりに話してくれました。

4月13日のブログに書いたように、私も仙台港の被災地を目の当たりにして来ました。現地の惨状を見てしまうと、「これを知らん振りしたら人間じゃなくなる」とまで思いますよ。では角館の草履職人にいったいなにが出来るかと考えたときに、消去法で残ったのがやはり募金でした。もちろん大金なんかとても無理ですから、コツコツ長くできることを私なりに考えてみました。

本日より、ミニ草履のお買い上げ金額900円のうち、100円を募金箱(貯金箱)に積み立てることにします。そして3月11日に、被災地へ義援金として届けることに決めました。昨年実績で2万円にも満たない額ですが、一回きりの募金で終わらせないことに私なりの意味があると思っています。
仙台で暮らし始めた次女がふるさとに戻るまでは、「ミニ草履100円募金」を続けるつもりです。
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