角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

それぞれの里帰り。

2009年08月19日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ25cm土踏まず付き〔四阡五百円〕
黒基調の桜&鹿プリントをベースに、合わせは白基調の洋柄プリントです。
黒と白の組み合わせは、クールさを感じさせながらお洒落ですね。桜と鹿がどういう繋がりなのか分かりませんが、お洒落なベース生地はこちらになります。




角館を故郷とし、日常の暮らしは遠く県外という人が実に多いです。それは夢を持って上京した人もあれば、田舎に雇用の場が少ないため半ば仕方なくという人もいるでしょう。あるいは子ども時代、親の仕事の都合で引越しを重ねる場合もあります。
人生いろいろ、引越しの理由もいろいろなんですね。

大阪からお越しのご夫婦。ご主人の故郷が角館で、過ごしたのは小学校の低学年までだったそうです。お父上の仕事の都合で一旦東京へ出て、その後いくつかの土地を転々としながら、現在の大阪が終の棲家のようでした。

『ときどきはお里帰りをするんですか?』とお訊ねすると、『いやいや、故郷を訪ねるのは45年ぶりですよっ』と苦笑いのご主人。家も親類縁者も守るべき墓所もないとなれば、確かに里帰りの機会はないのかも知れません。

お好みの配色をそれぞれお選びくださったご夫婦は、笑顔で西宮家をあとにしました。私が言った『足元に角館を感じてくださいねっ』の言葉は、お愛想ではない本心からのものです。

東京からお越しのご家族。うちの最も年長と思しき女性が、私にいきなり一通の戸籍謄本を見せました。その中の一行を指差し、『この住所ってこの近くでイイですか?』。それは確かに西宮家の近くでした。
ほっと笑顔に戻ったおばさまが言うのは、『父がこの土地に生まれてて、私も元気なうちにルーツを見ておきたくてっ』。

私はおばさまの言葉に少々感動しました。50歳代後半と思しきおばさまのお父上は、おそらくご他界されているのでしょう。ご自身が元気で訪ねられるうちに、お父上の故郷と生家を目に焼き付けておきたいということなんですね。
世代を超えて故郷を想う心、これもお盆ならではという気がします。

少年期からよく知る顔が、ずいぶんしばらくぶりに訪ねて来ました。彼は高校を卒業後に上京し、ひとつの会社に勤務し続けている男性です。もう30年に近い勤続年数でしょう。その彼が、『話し、聞いでけるがぁ?』と少々頼りなさげに言いました。
『オヤジがよぉ、東京の会社を辞めて帰って来いって言うものなぁ。オレもどうしようもなくて、会社辞めだものぉ』。

今は都内で資格取得に向けた勉強をしている最中で、来年には引き揚げて角館へ戻るとのこと。彼の話を聞いていると、少なくとも希望に満ちた未来へ向かう姿とはかけ離れていました。

それぞれの里帰り、その「心」もまたそれぞれなんですね。

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