角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

角館の「がっこ」。

2016年05月30日 | 実演日記
実演席に座っておりますと、草履とは無関係の質問も数多くあります。遠く県外から訪れる旅人にしてみますと、見るもの聞くものが非日常であり新鮮なのでしょう。東京からお越しのご夫婦に今日訊かれたのは、『“がっこ”ってなんのことです?』。
西宮家にある五つの蔵のうち一つは「がっこ蔵」と表示されていますから、一年に10回は訊かれますね。まず「よくある質問」に入るでしょう。

秋田県を何度か訪れていれば、「いぶりがっこ」を一度は食べた、あるいはお土産に買ったという方が多いんじゃないでしょうか。素材は主に大根で、桜のチップなどで燻した大根の燻製と考えていただければよろしいかと思います。
味付けは生産者の秘伝で、それはさまざまに漬けられます。近年は味が濃い、少ししょっぱいくらいが人気という話もありました。

さて「がっこ」ですが、これは「いぶりがっこ」に限ったものではなく、漬物を総じて「がっこ」と呼びます。浅漬けであろうが味噌漬けであろうが奈良漬けであろうが、秋田ではすべてが「がっこ」というわけですね。
ではこの「がっこ」、名前の由来はどこから来ているのか。実はとても雅な名前が語源となっているんです。

藩政時代秋田藩には、京都のお公家さんと浅からぬご縁がありました。角館を統治した佐竹北家においても同じ事情があり、京都の文化が色濃く伝わっています。その京都公家社会では漬物を「香のもの」と呼び、さらに美しい言葉として「雅香(がこう)」がありました。秋田へこれが伝わり、やや訛ったのが「がっこ」という説が有力なんですね。田舎くさい響きながら、語源を辿ればとても優雅で面白いと思います。

角館には古くから土地に根差した料理が少ないと云われます。確かに大館市のきりたんぽや、湯沢市の稲庭うどんのようなメニューは見当たりません。あえて言うなら、私は「がっこ」ではないかと思っています。それぞれの家が秘伝の漬物を持っていて、味噌から自家製の「タイムイズマネー」を言うのなら、そのコストはとてつもない金額になるでしょう。角館の「がっこ」には高いプライドがありますよ。

今日ご質問のご夫婦にも、ここまですべてご説明しました。これから角館の漬物を見る目が変わってくれたら嬉しいですね。
コメント (2)
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