世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

ミルクホール

2008年06月22日 19時43分54秒 | Weblog
江ノ電に揺られ、鎌倉に戻る。

この旅のメイン、ミルクホールに行く(紫陽花がメインではないらしい)。

鎌倉駅前の朱色の鳥居をくぐり、小町通りへ。

左に折れ、小路を歩く。
頭の中に叩き込んだ地図を思い出しながら歩いていると、いきなり猫にゃん出てきた。
私の行きたい場所を知っているみたい。
「こっちだにゃ」と言うかのように歩いて案内してくれた。
民家の立ち並ぶ中にいきなり
「ミルクホール」
と書かれた看板と建物が目に飛び込んできた。

ここは、嶽本野ばら先生の「カフェー小品集」の中の「素人仕事の贅沢」に出てきた喫茶店である。

もう何度も読んだ文章を頭の中で思いだし、それと目の前にある空間が上手く合致しているかを一つ一つ確かめる。
小説の通りだと思った。



「僕はこのお店でしばし物思いに耽る為だけに、何時も鎌倉を訪れるのです。曇り硝子の嵌め込まれた木製の扉を開けば、カランコロンと来客の存在を伝える軽快な鈴の音が響きます。店内に入ってすぐ目に付くのは、戦前のビールのグラスやオキュパイドジャパンのコーヒーカップ、カルピスの絵葉書やおはじきなど大正から昭和初期にかけて作られた日本製のアンティークの陳列です。これらは気に入れば販売もして貰えます。それらの品々が並ぶ間を抜けて奥に進んで行くと、漆喰の壁に囲まれたカフェスペースがあります。ジャズが小さな音で流れるその空間は、椅子、テーブル、壁に掛かった柱時計、額に入った絵などによって見事な心地よさを作り上げています。」(嶽本野ばら「カフェー小品集 素人仕事の贅沢」より)


奥の部屋のテーブル席に腰を掛け、野ばら先生の本を取り出し、やや興奮気味な面持ちで頁を捲る。
野ばら先生が筆によって再現したまさにこの場所に、今私がいるという興奮。

ふと目を本から離して、嵌め込まれた曇り硝子から差し込む弱い光を確かめたり、煙草の煙が薄暗い空間に溶け込んでいくのを見たりしていた。

苦くてまろやかなコーヒーを啜りながら、小説内にあった「素人だからこそ出来る嘘のない仕事」について、♪ダバダ~と考えていた。


店を出たとき。
入る前とは少しだけ大人になれたような気がした。
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