世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

おまえじゃなきゃだめなんだ

2015年10月12日 21時40分52秒 | Weblog
今日の昼食は、昨日母が持たせてくれたカップラーメンを食した。
仕出し弁当代500円が浮いたので、夕御飯は豪勢にステーキ弁当にした。


うまい!うますぎる!!
肉汁とたれが絶妙に絡み合い、そして咀嚼していると肉と白米からにじみ出てくる甘みも加わり、それらが口内で混じりあう様子は筆舌しがたい。多幸感半端ない。昨日のステーキ宮のハンバーグも美味しかったが、今日のステーキも上等であった。

会社の先輩が、難関の国家資格の1科目に合格したようだ。
とても嬉しい!!
彼女と私は同じ誕生日なので他人事とは思えない。
一人暮らしで働きながら勉強をするって本当に大変だ。
その上、あのような難関の資格合格を目指して地道にこつこつと取り組むだなんて尊敬に値する。
私も頑張らないと!と思う。
テキストを開く。が、横に置いてある角田光代の小説「おまえじゃなきゃだめなんだ」に手が伸びる。


父クマパパが時々言う。
「角田はいいよな」と。その言い方は父に角田という友達がいてその人を指しているのかと一瞬錯覚するぐらいに、ナチュラルに彼の口から漏れ出る。ああ、確かに。父のその言葉に頷きたくなるほど、角田光代の小説はいい。


「おまえじゃなきゃだめなんだ」は23編で構成された短編集。
その中で一番好きなのは、というか印象的なのは「おまえじゃなきゃだめなんだ」だ。

バブル期と青春期が重なっている主人公女子。
コーヒー豆を輸入販売する会社に勤めている芦川さんは、あまり個性のないグレイの車で、待ち合わせの駅へやって来た。
車中での芦川さんとの会話は特別盛り上がったわけでもなかったけれど、不思議と楽しいものだった。

芦川さんが昼食場所に決めたのは、「山田うどん」だった。店内はお洒落でなく、色気も情緒もない。
主人公の女子は、男の人にこんな店に連れてこられたことが一度もなかった。食事と言えばフランス料理かイタリア料理、懐石料理だった。

「芦川さんは、私に、ここでランチを食べろって言っている?」
うどんと天丼。うどんとかつ丼。うどんとカレー。セットはすべて炭水化物と炭水化物、値段は一杯200円から300円台。

子供の頃よく通ったという芦川さんが注文したのは、かつ丼とうどんのセット。
こんな店で食事をしようと言った芦川さんは、私を恋愛相手と見なしてなどいない。見くびられている、安く見積もられていると感じる主人公。

うどんが運ばれてきて、やがて天を仰ぐように顔を上げた芦川さんは「やっぱり山田うどんじゃなきゃだめなんだよなぁ」と呟き、照れたように笑って、ものすごい勢いでうどんをすすりはじめるのだった。うどんは、まずいわけでもなく、ふつうだったのである。


やがてバブルは崩壊し、当時の華やかさの欠片もなくなった(モテなくなった)38歳の主人公はまたふらりと山田うどんに入ってみる。
当時の高慢な自分、不誠実な自分を思い出し、うどんをすすりながら泣くという顛末。


色々と考えさせられた。
山田うどんでさえ「やっぱり山田うどんじゃなきゃだめなんだよなぁ」と言われるのに、私、私ときたら・・・という下りでは身につまされるものがあった。そして「いつか、おまえじゃなきゃだめなんだ」と言われる人間になるとうどんをすするところでは、熱いものが胸に迫ってくる勢いだった。悲しくもあり、そして清々しい。淡々とした文章なのに、読者に情景や心情を想像させる筆力は半端ない。

あと何編かで読み終える。いつもシリアスなものばかりを書く角田さんだが、今回は笑ってしまうものもあり、お徳感がある。



山田うどんには、私も幼少期に連れて行ってもらったことがある。おそらく柳田街道店だ。


平出に住んでいた母方の祖父母、私たち兄弟3人は、母が運転する車で連れて行ってもらった。
メニューは覚えていないけど、コの字型のカウンター、その奥のガラスに行き交う車が湯気越しに見えたような気がする。
当時、母は親孝行な娘で、足腰が悪くなった両親(私の祖父母)を自ら運転する車に乗せ、あちこちに連れて行っていた。

今日、母に電話をした際、山田うどんについて尋ねてみた。
母も当時のことを覚えていて、嬉しかった。


今度、山田うどんに行きたい。
そして、うどんをすすりながら、むせび泣きたい・・・。
私は誰かに「おまえじゃなきゃだめなんだ」と言われる存在なのかと自問しつつ。

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