「バラ、お好きなんですか?」
女は、男の後姿に声をかけた。
男は、公園の入場券を二枚求めたにも関はらず、ひとくれの枝も見ずに
園内を通り過ぎやうとしてゐた。
女には、その急ぐ姿が不思議に思へた。
女の声に呼応したやうに立ち止まった男は、煙草に火をつけると
「どうも、好きではないやうです」と云って笑った。
言葉の意味がわからず、再び訊ねやうとした時、男はベンチ横の灰皿で火を消すと
先を急ぐやうに歩き出した。
散策路の先に、三層の天守閣が見へた。
東北の小さな領地に建ってゐたものだった。
建造当時のままに再現されたそれは、真新しい木材の香りに包まれ、
漆喰の壁に初夏の光りが吸ひ込まれてゐた。
無言のままの男に、「さっきのバラの話ー」と云ひかけた時、
「昔、バラが命の次に好きだった人と死に掛けたことがあった。
それ以来、やはり、バラは不得手でー」と男は云った。
女は、男の話を投げ捨てるやうに眼下に見へるバラ園を覗きみた。
女は、男の後姿に声をかけた。
男は、公園の入場券を二枚求めたにも関はらず、ひとくれの枝も見ずに
園内を通り過ぎやうとしてゐた。
女には、その急ぐ姿が不思議に思へた。
女の声に呼応したやうに立ち止まった男は、煙草に火をつけると
「どうも、好きではないやうです」と云って笑った。
言葉の意味がわからず、再び訊ねやうとした時、男はベンチ横の灰皿で火を消すと
先を急ぐやうに歩き出した。
散策路の先に、三層の天守閣が見へた。
東北の小さな領地に建ってゐたものだった。
建造当時のままに再現されたそれは、真新しい木材の香りに包まれ、
漆喰の壁に初夏の光りが吸ひ込まれてゐた。
無言のままの男に、「さっきのバラの話ー」と云ひかけた時、
「昔、バラが命の次に好きだった人と死に掛けたことがあった。
それ以来、やはり、バラは不得手でー」と男は云った。
女は、男の話を投げ捨てるやうに眼下に見へるバラ園を覗きみた。
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