やまがた好日抄

低く暮らし、高く想ふ(byワーズワース)! 
山形の魅力や、日々の関心事を勝手気まま?に…。

『剣岳』

2010-02-15 | 映画雑感


映画『剣岳』を、久しぶりに、”見たくて”見ましたが、一寸期待はずれ、でした。

現地主義、本物主義の監督の成果は充分満喫できたのですが、勿論、圧倒的なスケールの山の映像は見事なものでしたが、如何せん、その中で、その山々を前にしての人間たちのうごめきの姿がとても淡白で、俳優陣もTVやCMでよくみる人達ばかりで(とても不思議だったのは、激しい山を登ってゐるのに、その顔に疲労の色が微塵もない…)、初監督の力不足を見てしまって残念、です。


公式サイトは、こちら

『山桜』

2009-11-10 | 映画雑感

                                              (蔵王の冬桜)


『山桜』をDVDで見る。

確か、ずっと以前に原作も読んでゐたはずで、映画の作りも原作に添って静謐な気持ちのよい仕上がりです。

主人公たちが、すこし美男美女すぎるかしらん、とは思ひますが、まさに藤沢周平好みのテーマであり、その世界を淡々と再現してゐる。
藤沢周平の、そぎ落とされた文章を具現化すると、あるひは、本来はこの映画のやうになるのかも知れません。

薄倖の女を田中麗奈が不器用にまったく不器用に演じてゐて、でもそれゆゑに主人公自身の不器用な生き方がにじみ出てくる。
ラスト近くの、自分のこれからの生き方にひと筋のひかりを見つけたときに演じたうれし泣きのシーンは名演、でした。

東山紀之演ずる武士は、まあ、あれでもよいのでせうが、ラストも結末を霧のなかに投げ入れてゐてそのシーンもよかったのですが、あんなに無口な男であっては今時では逆の三行半にされてしまふかもしれません(奥方は、怖いですからー)。

とまれ、軽妙さも激しい話の展開もありませんが、まさに山の桜のやうに、楚々とした映画になってゐたのは嬉しい限りです。


公式サイトがありました。こちらです。

女優の死…

2009-08-11 | 映画雑感


芸能人○○ピーの逃亡事件の大騒ぎな一週間の蔭で、名女優がひっそりと亡くなってゐた。
大原麗子さんの死である。

ファンも多いでせうが、小生も、とても好きな女優さんでした。

彼女の声が聞きたくなって、レンタル店でいくつか探したのですが、タイムリーに貸し出され中で、「男はつらいよ」の22作目「噂の寅次郎」が棚に残ってゐたのでさっそくに見る。

他愛もない話しながら、大原麗子の存在が、一本ぴんとした心情を映画のなかに組み込ませてゐた。一瞬みせる、勁くて哀しい彼女の存在感は圧倒的である。

日本の、ジュリエッタ・マッシーナだった! と、小生は膝をたたいた。

けれど、これだけのひとに、決定的な主演の映画がなかった、といふのは、ひとつの大きな悲しみであり、損失である。

よすがに、彼女の映画をまとめて見やうと思ってゐます。

合掌。

名佳作、です

2009-05-07 | 映画雑感


『おくりびと』見ました。

なるほど、素晴しい佳作です。

全編、山形でのロケから生まれでるリアリティがとてもよい。

上山のスナックだったといふ実家の風景など、とても現実味があり、死といふまぎれも無い事実と向かひあふ主人公たちのバックを支へてゐる。

本木雅弘氏は見事な演技でしたが、意外に広末涼子氏の演技もとてもよかった(初めて、彼女の演技を上手いと思った)。

厳とした納棺のシーンが続くので、やはり、ラストはあんな感じになるのかな、とは思ってゐましたが、良くも悪くも、あのラストでないと外国の方は滅入ってしまったかもしれません。


ロケ地をうまく紹介してゐるサイトがありました。
こちら
です。


『ショーシャンクの空に』

2009-02-28 | 映画雑感
DVDで、『ショーシャンクの空に』、を見る。

詳細を知らずに、初めて見ましたが、とてもよい映画、でした。
『フォレスト・ガンプ』がアカデミーを取ったころの作品だったさうですが、
もしかしたら、昨今では、この『ショーシャンクの空に』の方が、評価が高いのではー、と思ひます。

地味な内容と、地味な画面ですが、先輩囚人役のモーガン・フリーマンが飄々とした演技で素晴しい。確か、彼が大統領役だった映画もありましたが、こちらの方が余程自然体の気がします。

ラスト・シーンが、まるで、「幸せの黄色いハンカチ」のやうに、大げさな演技と大げさなセリフが無いのが、余計に余韻の残る映画になってゐました。

『ブラックブック』

2009-01-12 | 映画雑感


何の知識もなく、『ブラックブック』といふDVDを見ました。
面白かったです。

ドイツ映画なのかしらん、と思ってゐましたが、オランダの映画だといふことで、
また、『トータル・リコール』の監督さんだといふことで、結構驚きながら見ました。二時間を超える映画でしたが、前半は見事へがありました(後半は、一寸、バラケタ感じになってしまってゐて、残念)。

主人公のオランダの女優さんの、まさに身体を張った演技が素敵で、そして、脇を固める渋めの男達がよかった。ドイツやオランダの俳優の方で(幾人かの人は、他の映画でも、渋いなァ、と思ってゐた人でした)、大人の存在感、です。

『善き人のためのソナタ』

2008-10-20 | 映画雑感


TVで、『M:I-2』を見始めたら、余りにツマラナイので、借りてきたDVDを時間つぶしに見始めたら、見事な佳作、でした。
2時間余をあっといふまに見てしまひました。

『善き人のためのソナタ』

久しぶりに、映画らしい映画を見ました。
主人公の、東独の諜報部員を演じる役者が素晴しい!

冒頭では、冷酷な盗聴者を凍るやうに演じ、しかし次第に盗聴の対象者たちの息吹や西側の姿に揺らぎ、やがては党を裏切る行為に走る姿を、まったく、天才的に演じてゐます。

エキセントリックではない、ドイツ語の響きも素敵で、すこし、彼の出演作を探してみやうかしらん。

公式サイトがありました。
こちら、です。

『二人日和』

2008-05-12 | 映画雑感

DVDで、『二人日和』といふ映画をみました。

若い頃の激しい恋は去り、今は、筋肉が萎縮してゆく妻を、なすすべなく見守るだけの古都の装束職人の、無骨なまでの姿が胸を打つ。

その老いた職人の姿を、久しぶりに見た栗塚旭が好演してゐる。
すっかり薄くなった頭は、けれど見事な存在感に色を添へてゐる。
日本にも、まだ、こんな素晴しい役者さんがゐたことがひどく嬉しい。

淡々と、深深と病が進むさまが、逆にリアリティを感じる。
そして、櫻の下の、車椅子の藤村志保の何と美しいことか!


公式サイトはこちらにありました。

『家族』

2008-01-05 | 映画雑感

続けて、佐藤忠男氏の『日本映画史』(岩波書店/全4巻)を読んでゐて、幾度か、山田洋次監督の『家族』への高い評価に遭ひました。

ずゐぶんと昔、劇場で見た覚へはありましたが、再度DVDで見てみると、結構昔の映画でした。
家族(1970) - goo 映画

やはり、とても、よい映画です。
ドギュメントタッチの画面から、家族の面々の切羽詰った心情が染み出てきます。

長崎から北海道へと向ふ旅路の中で、一家は、わが子を失ひ、父を失ふといふ、
余りにも非情な設定ですが、何よりも妻役の倍賞知恵子の見事な演技に驚嘆する。

いち市井の人間としての、喜びや、グチや、希望や、絶望が、細いその体から見事に出てゐる。
もちろん、「寅さん」でのサクラ役も常に見事でしたが、この『家族』での、まったき自然の演技には感動します。

山田監督は、最新作で、吉○小百合を主演にしてゐますが、とても(常にワンパターンな)彼女には演ずることの出来ない倍賞知恵子の妙演、です。

彼女の主役って、余りなかったやうな気がしますが、山田洋次監督にとっては、
キャナボウ!
オニニ、キャナボウ!
の存在だったのでせう。


マーラーの映画…

2007-12-10 | 映画雑感


先日、DVDで、ケン・ラッセル監督の『マーラー』をみたのですが、とてもつまらない映画になってゐました。(ラッセルのマーラーについては こちら )

俳優さんもよく似てゐて、マーラーの神経質な感じをだしてゐたのですが、それでも、如何にもエキセントリックなマーラー像になってしまってゐて、
確かに、さうではあったのでせうが、グスタフ・マーラーは、破天荒で、土俗的で、感傷的な音楽も書いたのでせうが、一方では、かのヴィーン国立歌劇場のトップであり、それなりの図太い運営感覚もあったはずです。
(歌劇場のマネイジャーとは、つねに喧嘩してゐたらしいですがー)

それゆゑに、疲れ傷つく姿が見えてこない。
マーラーを扱ってゐながら、マーラーが描かれてゐない。

そして、後日、口直しのやうにヴィスコンティの『ヴェニスに死す』をみました。

映画としても、とびきりの名作、でせう。
まう、幾十回みたことでせう。
ずゐぶんと以前、映画館で見たとき、クレジットが終り、夜明け前の闇の中から、5番のアダージェットとともに浮かび上がる一隻の船の姿に、腰がぬけるほど感銘した名シーンから物語りは始まります。

マーラーがモデルだとされるトマス・マンの小説を、ヴィスコンティは、全篇に3番と5番の音楽を使ひながら、主人公アッシェンバッハの姿に、見事にマーラーの姿を映し出してゐる。
もちろん、映画のやうに、マーラーは美少年をストーカーする、老いて化粧までした老作曲家ではなかったでせうが、
自分では無調音楽を書けないけれど、弟子達のその音楽理論で激しく攻撃されながらも時代の流れの大きな防波堤になり、娘の小さな棺に泣き崩れ、歳の違ふ妻を大切にしてゐた(それらの説明は、ほんの数分のカットなのですがー)。

きっと、ヴィスコンティはマーラーを描いたのではなく、豪華な背景の中に、うつろひ、消へ行く退廃的で絶対的な美しさ、みたいなものを描きたかったのでせうが、その本質的なところがマーラーの一部をえぐりだしてゐるのでせう。