HARRY’S ROCK AND ROLL VILLAGE

お気に入り音楽の紹介と戯言

追憶のブートレグ61・ACT18 / KEITH RICHARDS

2008-06-12 22:36:17 | ROCK
ストーンズではなくキース・リチャーズのブートレグ、それもスタジオで
ピアノを弾き語った内容のブートレグがあるということを知って、しばらく
探したのだが、なかなか見つからず難儀したのは私が学生時代の話。
「なんとか聴きたいな」と思っていたら後輩が所持していることがわかり
カセット・テープに録音してもらい、それを何度も繰り返し聴いた。
スクラッチ・ノイズも多少あったが、郷愁を誘う物悲しさとタイトルを見ても
誰の曲かさっぱりわからないが良い曲ばかりなので、一時は本当に
よく聴いたものだ。ジャケットも格好いいので「いつか入手するぞ」との
決意を新たにしたのは言うまでもない。

就職して2年目の話。最初の1年は奈良県で同僚と同居していたのだが、
和歌山に新店がオープンするというので同僚は転勤していった。
ある日、アルバイトの数名が「店が終わったら和歌山までぶっ飛ばしませんか」
というので午後11時半に奈良を出発。
「ドライブ用のカセットを何本か持ってきてください」と言われたので
適当に選んだ中にこのブートレグもあった。雨の中ドライブを敢行し
同僚と再会、明け方再び奈良に向かって車を走らせた。
そのときに何故かこのブートレグを収めたカセットに手が伸びカーステに
セット。雨も上がりちょうど陽が昇ってくるころあいに流れた「SING ME BACK HOME」はそのシチュエーションを今でも明確に蘇らせる。

陽が昇り朝がきたら、死刑が執行される。いくら覚悟していたとしても
特別なそして最後の日の出という事実に、何を思う。
時計の針を戻して欲しいというのは、死刑回避という意味もあるし
犯罪に手を染める前に思いとどまるという選択肢があったなら、
それを考える時点に戻して欲しいという意味合いもあるだろう。
犯罪者として、死刑によって人生を終えなくとも人は誰でも死を向かえる。
死ぬ前に、故郷に思いを馳せるとしても不思議ではない。
昇る朝日を見ながら「俺はこんなところで何をしているのだ。この先
どうなるのだ。数年おきに転勤し最後はどこで死ぬのか。」なんてことを
徹夜明けの冴えない頭でぼんやりと考えたのが昨日のことのようだ。
1年後に私はその会社を退職することになる。
今ではその元同僚との音信は途絶え、会社は社名と営業方針を変えて今も
存続している。

昨年、浜松のロック・バー「ルクレチア」に行った時の話。
店長の「今日はアナログしかかけない。」という男気爆発の宣言とともに
何枚もの渋いレコードがターンテーブルにのったのだが、そんな中に
このブートレグもあった。アナログで聴くのは実に20数年ぶり。
「SING ME BACK HOME」を聴いてグっとこないヤツを私は信用しない。

当時のキースの置かれた状況と余りにマッチする選曲である。
実のところブートレグを買ったはいいものの曲名はともかく、作者が誰か
わからないまましばらく時が流れた。だがこのブートレグと「SING ME BACK
HOME」が私がフライング・ブリトー・ブラザーズを聴くきっかけと
なったのである。グラム・パースンズがキースと交流があったことは
知識としてあったが、「カントリー・ロック」という括りに抵抗があって
まだブリトーズを聴くまでにいたってなかった。
ブリトーズのオリジナル・アルバムすら聴いたことがなかったのだが
ある日中古屋でひょいと摘み上げたCDの曲目を見たらそこに「SING ME BACK
HOME」が収録されていた。『DIM LIGHTS,THICK SMOKE AND LOUD LOUD MUSIC』と
題されたそのCDを見て「絶対キースが歌っていたのと同じ曲に違いない」と
確信して購入。予想は当たり、作者がマール・ハガードであることを知る。

マール・ハガードの歌も聴きたくてCDを買ったが、オリジナルも
味わい深いものであった。今年になって国内仕様の歌詞字幕付きで発売された
「ベスト・オブ・ジョニー・キャッシュ・ショー」に、ジョニーとマールの
歌う「SING ME BACK HOME」が収録されていて、初めて動くマールを見た。
改めて歌詞字幕を見ながら二人のデュエットを見るとわかっていても
やはりグっときたのである。

キース・リチャーズが初めてソロ・アルバムを出すという報を聞いたとき
多くの人はこのブートレグのような内容を想起し、期待したと思う。
しかしながら予想は裏切られ、裏切られたものの結果として私にとって
「TALK IS CHEAP」は未だに生涯のNO.1アルバムの座に君臨している。
いつの日か、このブートレグの音源がオフィシャルで出たとしてもそれは
変わらない。しかし。余りに個人的な思い出と思い入れが強いこのアルバムを
忘れることはできないのだ。
コメント (2)
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