ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

13/02/16 染五郎の復帰を寿ぐ(2)日生劇場二月大歌舞伎「通し狂言 新皿屋舗月雨暈」

2013-03-12 00:31:25 | 観劇
(1)日生劇場二月大歌舞伎「吉野山」の記事はこちら

【通し狂言 新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)】河竹黙阿弥作
河竹黙阿弥歿後百二十年ということで、上演頻度の低い「弁天堂~お蔦殺し」から通す上演。今回の主な配役は以下の通り。
〈弁天堂・お蔦部屋・お蔦殺し〉
磯部主計之助=染五郎 愛妾お蔦=福助
召使おなぎ=高麗蔵 小姓梅次=児太郎
岩上典蔵=桂三 浦戸紋三郎=友右衛門
浦戸十左衛門=左團次
〈魚屋宗五郎〉
魚屋宗五郎=幸四郎 宗五郎女房おはま=福助
父親太兵衛=錦吾 召使おなぎ=高麗蔵
小奴三吉=亀鶴 鳶芳松=廣太郎
岩上典蔵=桂三 磯部主計之助=染五郎
浦戸十左衛門=左團次

「魚屋宗五郎」は直近では菊五郎で観ているが、記事アップは2010年5月花形歌舞伎で松緑が主演した舞台の時が一番近い。
宗五郎の妹お蔦が妾奉公に出ている磯部家で殿様に斬られて死んだ後、家族が嘆くところから「魚屋宗五郎」として見取り上演されるのがほとんどなので、「弁天堂」「お蔦部屋」「お蔦殺し」の場面がつくのは珍しいので楽しみにしていた。

お蔦は、岩上典蔵に横恋慕され手籠めにされようとしたところを助けた浦戸紋三郎との不義の濡れ衣を着せられた。それだけでなく典蔵ら奸臣の悪だくみを聞いてしまっていたこともあって、口を封じる策略にはめられてしまうという展開をしっかりと観ることができたのは収穫。
ぼて振りの魚屋の娘のお蔦を側室にしたことについて磯部のご本家筋から辱められた主計之助は機嫌が悪い。酒乱癖のあるのを奸臣たちに悪用され、お蔦の不義の讒言を入れられたわけだから、可愛さあまって憎さ百倍となってしまった。
お蔦は身分違いの自分を気に入って取り立ててくれた殿様に対する恩義から、不義の疑いを受けたことに対して強く言い募ることをしない。まぁそういう性格の女だったのだろうが、最初からお手討ちになることを覚悟して殿の御前にまかりでる。そして外題に「新皿屋舗」とつくように斬られて井戸に落ちて絶命する。
福助のお蔦が実に神妙でよい。おなぎはお蔦の召使だったということが今回初めてわかった。「加賀見山旧錦絵」のお初のような町人出身の下働きのお役目だ。家来筋から奉公に上がっている小姓梅次は振袖を着ているので、身分の違いというものがよくわかった。
染五郎の主計之助が実によく、劇団☆新感線で主演した「朧の森に棲む鬼」のライを思い出した。心に闇を巣食わせた男の役は絶品。「新皿屋舗月雨暈」を通し上演とすることで、この「お蔦殺し」の場面の主計之助の酒を飲んで狂ったようになる男の悲劇的な姿を染五郎の見せ場として用意できるのだと得心した。
さらに染五郎は療養中に喉を休めることができたようで声もよくなっていたのも嬉しかった。

通し上演とすることで女方役者がお蔦とおはまの二役を替われるというのも見せ場となる。福助のおはまはお蔦とガラッと変わる世話女房を生き生きと演じていたが、ちょっと伝法にしすぎて侠客の女房っぽくなってしまったのは惜しい。もう少し庶民の女房っぽい感じが出せるといいなぁと思った。亀鶴の小奴三吉は嬉しい好演。
幸四郎の宗五郎は、元がぼて振りの魚屋だった男に見えないが店を構えた魚屋の大将には見えるので大きな支障なし(^^ゞお蔦が殺されたことを父親太兵衛も小奴三吉も嘆き騒ぐが、それを制して幸四郎の宗五郎は辛抱立役のようにじっと耐える。
おなぎの弔問でお蔦の死の理不尽さが明らかになり、禁酒を破って一杯また一杯とやるうちに酒乱となり磯部家に暴れこむ。その芝居は生世話というよりはリアルな演劇風で、これはこれで面白く観ることができる。その宗五郎とのバランスでいうとおはまはこのくらいの芝居でもいいかもしれないとも思え、幸四郎と福助のコンビの芝居の相性のよさをあらためて思わされる(2006年6月の「暗闇の丑松」)。

染五郎の主計之助は酒乱でない時の旗本の品位があり、その殿様に手をついて謝られては宗五郎も畏れ多しと赦さざるを得なくなる。この二人とも酒乱の場面とのギャップの大きさを見せつける。

このような通し上演ではじめて主計之助と宗五郎の二人とも酒乱の男の姿が描かれた芝居なのだということがはっきりわかるのだと納得できた。
捌き役のように家老の浦戸十左衛門が情理を尽くした始末をつけるわけだが、左團次の存在感が暗く荒れた話にふんわりとした温かい幕引きを強く感じさせた。

2月は染五郎の復帰、菊之助の婚約・結婚で歌舞伎界も明るい話題が続いて、4月の新しい歌舞伎座開場に向けて若手の奮起への期待が高まった。
そういえば、3月の新橋演舞場花形歌舞伎では染五郎、菊之助とも大役に初役で挑むわけだ。昼夜両方観る予定なので楽しみだ。


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2 コメント

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明るい年に (スキップ)
2013-03-17 13:23:19
ぴかちゅうさま
「吉野山」も「新皿屋舗月雨暈」もぴかちゅうさんが丁寧に書いてくださったお陰で読んでもう一度楽しむことができました。
やはり染五郎さんの見事な復帰が何よりもうれしいことですが、四月の歌舞伎座再開場に向けて、明るい話題が続くのはうれしいことですね。

「新皿屋舗月雨暈」は私も通しで観るのは初めてだったのですが、物語としてより納得性のあるものになっていて、時々はこうして通しで上演していただきたいものだと思いました。
ぴかちゅうさんのおっしゃる通り、酒乱の染五郎主計之助、とてもよかったですし。

>元がぼて振りの魚屋だった男に見えないが店を構えた魚屋の大将には見えるので大きな支障なし
ちょっと笑ってしまいました。ほんとにその通り。
幸四郎さんはいささかカッコよすぎる宗五郎でしたが、さすがに振り幅も広く、泣かせてくれますね。

三月演舞場も始まって、四月もいよいよカウントダウンですね。
チケット代の高騰は悩ましい限りですが、やっぱり歌舞伎座、楽しみですよね。
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★スキップさま (ぴかちゅう)
2013-03-22 01:15:39
「吉野山」は染五郎と福助の二人のバランスもよく、いいコンビで再演していくのではないかと思えました。
「新皿屋舗月雨暈」の通し上演はなかなかないことのようですが、主計之助が奸臣の讒言でお蔦を殺してしまう酒乱ぶりがあってこそ、宗五郎ともども酒乱の二人の男の物語というのがはっきりわかったのが収穫でした。
染五郎丈は療養中に喉を休めることができたようで声もよくなっていたと思えたのですが、発声方法も喉に負担のかからないものになっていたというご指摘もあり、それならさらによかったと思っています。
幸四郎丈の宗五郎の印象に同感していただき嬉しいです。この間の世話物への挑戦の中の一番の舞台に思えました。
新しい歌舞伎座の開場まであと13日という日に3月花形歌舞伎昼の部も観てきて、地下の「木挽町広場」を探検してきて記事アップしています。かなりいい感じでしたよ(^_^)
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