梅雨の晴れ間、自転車で10分のさいたま芸術劇場へ。さちぎくさんのピンチヒッターで源氏物語千年紀特別企画「源氏物語の誘惑」に行ってきた。この劇場では「源氏語り五十四帖」シリーズを連続開催していて、通われているさちぎくさんにその魅力をかねがねお聞きしていたので喜んで引き受けた次第。今回はその一環の特別企画のようだ。
蜷川幸雄演出の舞台で通っているさいたま芸術劇場だが、音楽ホールは初めて(公式サイトよりの写真参照)。
案内役はシリーズの解説者の三田村雅子さん(フェリス女学院大学教授)。
第一部「六条御息所のまなざし」
お話・原岡文子(聖心女子大学教授)
テキストには源氏物語から六条御息所に関わる抜粋。その各場面の解説の中で六条御息所が何を見つめているかを解説。年上の知性的な女性ということで藤壺の身代わりに通っていたが、若い源氏はどんどん冷めていく。六条御息所はどんどん思いを募らせていくという対照。魂が抜け出して生霊となって葵の上を取り殺し、死んだ後は死霊となって紫の上に取り憑き、往生できずに苦しむという業の深い女性だ。しかし私はこのような六条御息所に魅力を感じる。ここまで深く愛する男とめぐりあえた人生というのは素晴らしいんじゃなかと思える。六条御息所が能の「葵上」などいろいろドラマ化されているのもむべなるかなだ。「葵上」は一度観てみたいと思っている。
第二部「源氏物語の筝の琴」
お話と演奏・スティーヴン・G・ネルソン(法政大学教授)
ネルソンさんは雅楽の研究者だが、机上の研究だけでなく自分の説に基づく演奏を自らしてみているという。今回も復元された楽器による演奏をしながらのお話。
「筝」という楽器は和琴よりも一回り小さい。先月の文楽の「狐と笛吹き」でも三味線と掛け合いで弾かれたのはこの筝の琴だったと思う。今回は台に置いて椅子にかけての演奏。スーパー歌舞伎「新三国志Ⅱ」で諸葛孔明が空城の計で奏でたのもこれかもと思い当たった。
当時の演奏から雅楽に残る「筝」の演奏で違うのは3点。①左手の技法の伝承が絶えた、②調弦の違い、③独奏曲が多かった。
平安時代の譜面の巻物「仁智要録」からの復元演奏。そこに記された譜の読み方の解説や演奏する曲の譜面も全部テキストに載せ、丁寧な解説。「取由」などの左手の技法もちゃんと書いてあった。
調弦方法を2種類紹介。唐風の壱越性調と和風の平調。3弦と6弦を半音低く調弦するのは弦を押して半音調節することで表現を深めるためだったとか。確かに琴柱の向こうで弦を押したり引いたり、またその応用で左手を使わなかった時よりも表現ははるかに多様化する。なぁるほど!!
源氏物語の中の筝の演奏場面の抜粋を外国人の自分がと恐縮しながらも朗読された。男声による朗読もいいものだと思った。そこに演奏をする者としての解釈も加わった。小さい時の紫や明石の姫君の演奏場面でどこが可愛らしいのかも奏でる時の身体の動きつきで説明。2人の女性研究者もそれには思い至らなかったと感激していた。
休憩をはさんで第二部の冒頭から源氏物語にも登場する薫衣香「承和百歩香」がホールに広がった。再現した㈱日本香堂の担当の方の資料も詳細なもの。11種類が調合されてる。三田村雅子さんも日本香堂さんのご苦労を説明していたが、柑橘類の枝葉を3日間焦がさないように煮詰めているものや今回のために海外に飛んで調達されたものもあるとか。本当に贅沢な経験をした。宇治十帖の薫の君は生まれた時からこの香りがしたとのことだが、母の女三宮の念持仏供養の際にも薫かれたという高雅で仏教っぽさも感じる生真面目な香り。彼の性格もしのばれると三田村雅子さんがおっしゃったが、ガッテンであった。
こういう機会にめぐまれたことに感謝!そしてこういう企画に取り組む埼玉県芸術文化振興財団も応援したい。
私も入っているメンバーズ入会のサイトはこちら
追記:紫式部関係の記事をリンクしておこう。
「石山寺と紫式部展」 大地真央主演の「紫式部ものがたり」
詳しく説明して下さり、参加したような気になります。筝の研究にご自身の演奏と素晴らしいですね。
お香も本格的で、得した気分になりますでしょう。いやー行かれなくて残念だったけど、私以上にいろいろ感じて下さり良かったです。どうも有り難うございました。
源氏物語は、高校時代に与謝野晶子訳を手にとりましたが挫折。漫画の「あさきゆめみし」で全部のストーリーを把握しました。
その後、ジュリー主演のTVドラマで見たり、天海祐希主演の映画を見たり、海老蔵主演の明石以降の話を歌舞伎座で見たりしてきました。関連本も何冊か読みましたが、どんどん面白さを感じています。
父の書棚に円地文子本があったので読んでみようかとも思っています。
海老蔵の瀬戸内源氏も続きをやると良いと思います。華やかさには欠けるから無理かも?
香もですか。優雅で良いですね。そういえば昔、当時の言葉で源氏を読んでくれる企画がありました。そのとき、身分の低いものから言葉は変わると聞いて印象に残りました。
名古屋港のガーデンで源氏の染色展やっていたのを後で知りました。篤姫のオープニングの布も染色した作家でしたのに。
私もなかなか原文には手が出ないでおります(^^ゞ
>海老蔵の瀬戸内源氏......玉三郎の藤壺との共演の公演を観ていないので、そちらの再演をやって欲しいと願っています。まぁ、海老・玉共演といえば7月歌舞伎座の「高野聖」でもう満足かなって感じですが。
★hitomiさま
>お洒落な企画ですね......確かにそうでした。客席も年齢層がぐっと高めの女性だらけでした(笑)
>身分の低いものから言葉は変わる......伝統とかにこだわりの少ない層からということですね。
表現は変わっていきますが、内容がよければ残っていくと思っています。「源氏物語」も20世紀に漫画化してくれたのでこれでまたしばらく若い世代にも伝わっていくと思います。