ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

13/01/26 国立劇場初春歌舞伎「夢市男達競」菊之助は立派な「兼ねる役者」になる!

2013-03-03 20:11:26 | 観劇

当代菊之助の婚約・結婚は歌舞伎界久々の明るい話題だった。せっかくなので、菊之助の出演した舞台の感想を少し続けてアップしようかと思っている。
まずは、今年の国立劇場初春歌舞伎「夢市男達競」を書く。婚約の記者会見で吉右衛門が「彼は先月お相撲さんの役だったので押しが強かった」と言及した舞台だ。

【西行が猫 頼豪が鼠 夢市男達競(ゆめのいちおとこだてくらべ)】
河竹黙阿弥没後百二十年 河竹黙阿弥=作『櫓太鼓鳴音吉原』より
尾上菊五郎=監修 国立劇場文芸課=補綴 国立劇場美術係=美術
六幕十場の詳細は以下、公式サイトの公演情報で参照のこと。
原作の「櫓太鼓鳴音吉原」をネット検索したところ、コトバンクでは世界大百科事典内の言及にとどまりっていたが、いわゆる「相撲物」というジャンルに相当するのはわかった。さらに「蘭鋳郎の日常」さんの記事が詳しいのでご紹介させていただきたい。

今回の主な配役は以下の通り。
菊五郎=夢の市郎兵衛 菊之助=明石志賀之助、三浦屋新造胡蝶
時蔵=市郎兵衛女房おすま、弁財天、三浦屋傾城薄雲
松緑=木曽義仲、仁王仁太夫、毘沙門天、虚無僧深見十三郎、大江広元
亀三郎=朝霧島蔵、寿老人 亀寿=般若の吉蔵、福禄寿
梅枝=飯島半七郎、恵比寿 萬太郎=源頼家、大黒天
尾上右近=三浦屋新造八重垣 藤間大河=市郎兵衛倅市松
亀蔵=杉伴六、布袋 権十郎=一富士の仁太郎
萬次郎=三浦屋女房お牧 團蔵=神崎伝内
彦三郎=三浦屋四郎左衛門 田之助=吉田善左衛門追風(行司)
左團次=頼豪阿闍梨の亡霊、源頼朝 ほか

せっかく間に合う時間に到着していたのに、チケットをとった際にうっかり当日発券にしてしまったのが失敗だった。あぜくら会カードだけでは発券機で発券できず。発券番号を控えなかったので窓口でも調べていただくのに時間がかかり、序幕第一場「鶴ヶ岡八幡宮の場」に間に合わなかった。そのため国立劇場賞をとった萬太郎の源頼家が観られなかったのは残念だった。
第二場の「御輿ケ嶽の場」の頼豪阿闍梨の亡霊が語る延暦寺への怨みで鼠となったという伝説は知らなかったので、へぇ~と思い、さらにその拵えが左團次なればこそすごい顔にしてもあざとくならないんだなぁと感心してしまった。
そして源頼朝を怨む木曽義仲に頼豪が鼠の妖力を授けて合体すると設定に歌舞伎らしいなぁと面白がってしまった。合体霊といえば「法界坊」という感じだが、よくあるパターンなんだなぁと(笑)

源家の重臣の北条時政と大江広元の権力をめぐる確執がその家来筋の相撲取りの明石志賀之助、仁王仁太夫の勧進相撲での勝負にかかるが、菊之助と松緑が二人の力士として対決する。菊之助の着肉を仕込んだ相撲取り姿が予想以上によく、低音も美しく響かせていて嬉しい驚きだった。全盛時代の千代の富士の姿が彷彿とした。

対する松緑は小顔がさらに痩せているのが気になったが、敵役らしさ、深見十三郎では色悪っぽさもあってなかなかよい。田之助が座らないでよい配役ということで行司役で出ているのも劇団としての配慮が感じられて嬉しい。
明石の義兄の夢の市郎兵衛は幡随長兵衛のような侠客で、座頭の菊五郎が圧倒的な存在感をみせる。女房おすまの時蔵との息もぴったりで、倅市松ともどもの「市郎兵衛内の場」での夫婦愛、親子の情愛の場面はまさに菊五郎劇団の世話場の味わい。市松の大河の芝居も実によくて、国立劇場賞受賞は納得だ。

四幕目は所作事として「旭鞆絵夢浮宝船」が入るが、原作のだんまりの場の代わりらしい。正月狂言だし楽しそうだが、ここで眠気に襲われてしまった。戦物語を語った毘沙門天は義仲で、愛妾巴御前の面影が弁財天に重なり・・・・・・つまり七福神は義仲の夢でというあたりから目が覚めてきた。梅枝はここでも恵比寿で今回はずっと立役というのが近年では珍しい。
その分、父の時蔵が三浦屋傾城薄雲まで、女方の綺麗な役どころは引き受けているのがいい。傾城役が綺麗で存在感もあり、音羽屋の「助六曲輪菊(すけろくくるわのももよぐさ)」で菊五郎の助六と時蔵の揚巻で是非一度観てみたいと思えてきた。

三浦屋傾城薄雲は巴御前に似ているということで、義仲が深見十三郎として通ってきて間夫となっている。傾城薄雲は愛猫家として有名ということで、そこに源頼朝が西行に猫の置物を贈った「西行が猫」の逸話をからませるわけだ。
愛猫たまが死んで、その霊が新造胡蝶となって薄雲を守り、深見十三郎の本性を見破って台所での立ち回りとなる。相撲取りの明石との二役の新造胡蝶で若い女の高い音遣いの声もしっかり出ていて、声が綺麗なだけでなく喉もしっかり強くて本当にいい役者だとまたまた感心。さらに猫の本性を顕して猫耳までつけての立ち回りの所作が実に可愛らしく、さっきは千代の富士ばりの相撲取りだったのにと、菊之助のこなせる役の幅広さに可能性の大きさを感じてしまった。

松緑も鼠の耳風に見える結い方の鬘で鼠の本性を顕し、黒衣ならぬ鼠色の衣裳に身を包み、鼠色の布で結び目を耳に見えるようにした頭巾を被って鼠のつけ口をした手下鼠四天(?)を従えている。途中で装置が台所の小物を大きくしたものに変わり、菊之助は箸をもって戦っている(笑)
そこでついついドラムにみたてた装置も出てきて劇団音楽部による黒御簾演奏の「ミッキーマウス」に乗って菊之助が演奏してしまうというのが菊五郎劇団の正月公演の「ザッツ・エンターテイメント」の極みだった。真面目に演奏する菊之助にナイス!

頼朝が自らを守護するものと知らずに西行にやってしまった白銀の猫だったが、西行が惜しげもなくある寺にやってしまい、その寺に葬られた猫のたまが胡蝶としてもっていて、瀕死の胡蝶から市郎兵衛に手渡され、鎌倉御所に出る大鼠を対峙する大詰の場につながっていく。
御所の大屋根の上に大鼠と鼠の本性を顕した義仲が並び、天地に極まるというのも「忍夜恋曲者」の「将門」や昨年の猿之助の「天竺徳兵衛」の大蝦蟇の場面と同じ歌舞伎の常套手段なんだろうと推測。こういうのを確認できるというのも楽しみのひとつだ。
しかしながら、猫の目のところからレーザービームが出て、大鼠にあたって退治されるというのが21世紀の復活狂言といったところかと笑えてしまう。

最後には病の癒えた頼朝として左團次が、捌役の大江広元として松緑が登場。菊之助も明石志賀之助で「日の下開山」の刺繍の入った羽織をつけて登場し、座頭を中心に役々が絵面に極まって大団円!!
菊五郎劇団に客演の亀蔵が北条時政方の家来の杉伴六として登場し、團蔵と並んでの敵役もよかったし、チャリ場では「スギちゃん」姿にされて「ワイルドだろう?」とやってくれたのもお年玉だった。ホント、今の歌舞伎界でこの役が最高に似合うのは亀蔵だねぇ。

さて、この舞台で一番印象に残ったのは菊之助の幅の広さだった。国立劇場賞も「明石志賀之助の演技に対して」というのが納得できる。さらにそこから私が思ったことをここで書いておこう。
女方のイメージが強い菊之助には「梅幸」襲名がふさわしいという話もよく聞いている。この間「地雷也」などでも頑張っていたが、「兼ねる役者」というにはちょっと線が弱い感じが否めなかった。ところが今回の相撲取りの役が実によかったし、女方と二役をここまでしっかりつとめたことに菊之助の気組みのレベルが格段に上がっていることをみせつけられた思いがした。「梅幸」ではなく「菊五郎」を襲名できるような「兼ねる役者」になっていく決意をしているんじゃないかと思えたのだ。
さらに2/6のサントリー美術館の「歌舞伎座新開場記念展 歌舞伎−江戸の芝居小屋−」展のオープニングイベントで菊之助が勘三郎や團十郎の逝去に言及し「私たち若手はやる気でございます」と発言したという報道を知って、その印象はますます強まっていた。

そうしたら2月半ばの婚約発表だった。いやぁ、しっかりとした男になってきたじゃないの、菊之助!あっぱれ、あっぱれ~!!
播磨屋が岳父になるわけで、「菊吉時代」の再来ということをおっしゃるむきもあるが、まぁそこまではなかなかいかないと思える。しかしながら、次代の歌舞伎界を担う役者として一歩も二歩も前に出たことは確かだろう。
まさに若手が一丸となって次の歌舞伎座で頑張ってくれることが予感され、ますますしっかりと歌舞伎を観ていこうという気になった。私もやれるだけのことはしていこうと励まされた。



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4 コメント

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あー面白かった! (さちぎく)
2013-03-03 21:44:24
お陰様で場面を思い出し役者さん達の活躍ぶりが蘇ってきました。菊五郎も初めは女形中心で襲名を堺に立役を演じるようになりましたが、辰之助が亡くなってから本格的に立役になっていきましたから、菊ちゃんもだんだんに移行かな?でもいつまでも可愛い胡蝶のようなお役も見たいな!
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Unknown (玲小姐)
2013-03-04 06:08:13
復活狂言の中でも、出色の出来!話や演出もよくこなれているし、役者さんが、それぞれよかったですね。菊五郎劇団は、役者さんのレベルが高いほうにそろっているので安心してみられます。菊ちゃんは、もう、おめでとう!としか言いようがないですが(笑)松禄が、姿がよくなってびっくり。あとは口跡だけなんだけどね。
菊ちゃんの結婚式でも感じたけど、菊パパ、出てくるだけで、江戸っ子なんだよねえ。
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Unknown (Unknown)
2013-03-05 19:29:40
いいですね。華やかで。
友人が御園座で猿之助襲名公演をもらったチケットで観劇、関心なかった夫さんまで狐忠信が面白かったと、帰りに飲み屋さんによったら70代の女性が一人で来ていて歌舞伎を観たことがないと話していたそうです、ちょうどそこに御園座の営業マンがいて、その女性2万円のチケを即お買い上げ!でも歌舞伎座こけら落としには出ないのですね、ほかに出るのでしょうか、金毘羅でしたか。
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皆様、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2013-03-07 22:40:20
★さちぎく様
上方歌舞伎の役者さんは若いうちは女方をみっちりとやらされるようです。やっぱり女方を仕込まれた役者さんは身体の動きが細やかで表現力の幅が広いと思います。
>いつまでも可愛い胡蝶のようなお役も見たいな......まぁ、ああいうお役は年齢とともにできなくなるのは仕方がないですよ。
★玲小姐さま
>話や演出もよくこなれているし、役者さんが、それぞれよかった......全く同感です。
>菊パパ、出てくるだけで、江戸っ子......それこそが音羽屋の生世話ものの座頭には必須ですよ。松禄は義太夫をきちんと習ったらいいと思うんですがねぇ。
★Unknownさま
御園座の猿之助襲名公演チケットの売れ行きがすごくいいみたいですね。猿之助は歌舞伎座こけら落としには出ないという話でしたが、勘三郎、團十郎の御二人が亡くなってしまい、集客力的にも大打撃でしょうから、少しでも早く新しい歌舞伎座での出演を調整中ではないかと推測しています。
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