ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/06/27 歌舞伎座千穐楽夜の部③幸四郎の「髪結新三」

2009-07-21 21:18:14 | 観劇

幸四郎の「髪結新三」は2回目。
2006年10月の幸四郎初役の「髪結新三」の記事はこちら
2005年の勘三郎襲名公演「髪結新三」の感想はこちら
【梅雨小袖昔八丈 「髪結い新三」】作・河竹黙阿弥
以下、今回の主な配役を公式サイトより。
髪結新三=幸四郎 弥太五郎源七=歌六
手代忠七=福助 下剃勝奴=染五郎
後家お常=家橘 娘お熊=高麗蔵
下女お菊=宗之助 車力善八=錦吾
家主長兵衛=彌十郎 家主女房おかく=萬次郎
加賀屋藤兵衛=彦三郎

白子屋の場面で、家橘のお常と高麗蔵のお熊の母娘のバランスがよく、福助の忠七もよかった。前回感じた高麗蔵のお熊の違和感もなく、こういうのは配役のバランス次第だと思えた。幸四郎の新三が忠七の髪をなでつける場面、前回の手つきがかなり下手くそだったのが今回はぐっとよくなっていて進歩を感じた。幸四郎の新三と手代忠七のバランスもいい。相合傘で永代橋に差しかかって本性をあらわすまでのやりとりもよかったのだが、一人で傘づくしの長台詞の場面はちょっと歌舞伎っぽくない台詞回しのような感じがした。
新三内での舎弟のような勝奴の染五郎とのやりとりもよく、歌六の弥太五郎源七がお熊を取り戻しにやって来てのやりとりもいい。どうやら幸四郎の世話物はペースメーカーがちゃんといてやりとりをしていく場面では安心して観ていられるのかもしれないと思い当たる。一人で黙阿弥の台詞を長々しゃべるところはちょっと幸四郎の我流の台詞回しになってしまうのではないかと推測。

源七で役にたたないからと頼りにされた家主夫婦が今回は絶品コンビだった。彌十郎の長兵衛と萬次郎の女房おかくは、実にアクの強い因業な家主夫婦。こわもての幸四郎の新三に夫婦ともに対抗して凌駕する因業ぶり。「鰹は半分もらったよ」ということで三十両のうち半分をとりあげられたと思ったら、家主が空き巣に入られて箪笥をごっそり(何十両分も)盗まれて、新三が溜飲を下げるという喜劇がしっかり立ち上がっているのがいい。

染五郎の下剃勝奴は回を重ねているだけに、新三の留守にお熊をつまみ食いしながら知らんふりをする、新三より頭はよさそうでと、いつか兄貴分を軽々と超えていく器量をもった男の魅力が感じられた。
そして歌六の弥太五郎源七である。前進座の「髪結新三」では新三を殺した後の源七が捕り方に囲まれるまでに彼の人生の哀愁が浮かび上がる場面までがあった。この役は勢いの盛りを過ぎた顔役のたそがれた感じに、そういった哀愁が漂うとより魅力的なのだが、今回の歌六の源七にもそれがあった。

深川閻魔堂橋の場。前回は新三と源七がいつまでも斬りあっている幕切れだったが、今回はしっかり最後に口上で締め括られる。二人が並んで座って手をついて、幸四郎が千穐楽らしく「当月はこれぎり~」と言って客席に頭を下げる。昼夜の打ち出しとして座頭としてきちんと礼を尽くす、こういう形がやっぱり落ち着く。

この演目だけ何故さよなら公演なのか、わからない感じで観た。観終わってみると全てのお役のバランスのよさで十分に楽しめる芝居になっていた。まぁ、演目や座組は歌舞伎界のいろいろな状況を踏まえて決めざるを得ないのだろうからこういう舞台もあるだろうと、なんとなく得心して終ることができた。

写真は千穐楽の垂れ幕のかかる歌舞伎座正面。
6/27千穐楽に六月大歌舞伎を概観する
6/21昼の部①兄弟対決の「角力場」
6/21昼の部②「双蝶々」つながりの舞踊二題
6/21昼の部③仁左衛門の一世一代の「女殺油地獄」
6/27千穐楽夜の部①高麗屋三代の「門出祝寿連獅子」
6/27千穐楽夜の部②吉右衛門の「極付幡随長兵衛」も堪能