ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/02/25 歌舞伎座千穐楽夜の部②いぶし銀のどっしりとした「勧進帳」

2009-02-28 23:59:05 | 観劇

吉右衛門の弁慶を観たのは2005年の歌舞伎座公演だったが、実はあまり見応えがなくてがっかり。声が口の中にこもって何を言っているのか聞き取りにくく、兄の幸四郎と同じDNAがやはりあるのかなぁと思ってしまったくらいだ。その時期の吉右衛門は体調がよくなかったという話も聞いた。
さて今回はリベンジになって欲しいと観たら・・・・・・。
昨年4月の仁左衛門・勘三郎・玉三郎の「勧進帳」
初めて勧進帳の面白さがわかった2007年の團菊の舞台の記事はこちら

【歌舞伎十八番の内 勧進帳】
今回の主な配役は以下の通り。
武蔵坊弁慶=吉右衛門 源義経=梅玉
亀井六郎=染五郎 片岡八郎=松緑
駿河次郎=菊之助 常陸坊海尊=段四郎
富樫左衛門=菊五郎 太刀持ち=梅丸
番卒=吉三郎、吉五郎、辰緑
          
今回は3階10列目からで花道はほとんど見えない。義経一行が関にさしかかる前の意思統一のやりとりは聞きとるだけになるのだがここから実に堪能できた。染五郎・松緑・菊之助に血気にはやる若者たちの勢いがあり、段四郎の常陸坊が弁慶と両端をはさんで抑えているバランスのよさを感じた。
またこの間参照させていただいている詞章のサイトの四天王には伊勢三郎がいて駿河次郎がいないので配役による違い等もあるのだろうと思いつつ観た。
富樫たちと対峙して舞台に義経一行が並ぶと若手3人の花とベテランたちの存在感のいずれもが楽しめる。ノットのあたりからこんなに楽しめたのは初めてだ。

勧進帳が本物かと覗き込む富樫と弁慶の気迫のぶつかりあいが凄かった。天地人の見得も両者極まった!菊五郎が火花を散らす舞台は仁左衛門・吉右衛門との組合せかもしれないとあらためて思う。

吉右衛門の弁慶の台詞回しが素晴らしい。4年前とは別人のようだ。勧進帳の読み上げも緩急をつけてしっかり聞かせてくれる。続く菊五郎富樫との問答もテンポよくたたみ込む。
 
合力姿の義経を呼び止められての打擲も迷いがない。通る通さぬの詰め寄りになるあたりで吉右衛門の中啓が懐から落ちるハプニング。踏まないように吉右衛門自身が富樫からはずすように蹴り、次に番卒のひとりが長唄の台の方に蹴り込む。菊五郎側の後見が上手から拾って下手の吉右衛門の後見へとリレー。ハラハラしたが緊張の場面の中でも素晴らしい連携だった。
金剛杖で四天王を止める吉右衛門弁慶は口を大きく開けての渾身の踏ん張りの表情は阿形の金剛力士像を思い起こした。吉右衛門はタッパも体格もあるのでこの姿の迫力たっぷり!

疑われるような役立たずならこの場で打ち殺そうという弁慶の迫力に、ふっと自らの覚悟を固める菊五郎がうまい。番卒を引き連れてて泣き上げての引っ込みの形も綺麗だった。
義経が弁慶の機転を褒めて弁慶恐縮の涙の場面、これまでの流転を嘆きあう場面はやはり正面席の方がしっかり見えていい。

富樫が面目を詫びるために酒をすすめにやってくるのは、弁慶に敬意を表すためもあるだろうし、自分も命を捨てる覚悟をさせた人物とこの世での別れの酒を酌み交わしたいという思いもあったのだろうとか思いながら観る。
かずら桶の蓋で大杯を飲み干す吉右衛門弁慶。細目を開けながら黒目をきかせるあの独特の愛嬌の表情がまたいい。
染五郎・松緑・菊之助の3人も同じ板の上でしっかりベテランの舞台を目に焼き付けているような真剣な目が印象的。次の時代をしっかり背負っていってくれるだろう。

延年の舞でどこで早く行けのしぐさをするのかというのもチェック。長唄の「とくとく立てや」というくだりがあるのかと納得。
舞台に残って一行を見送る菊五郎富樫もいいし、花道で富樫に感謝する吉右衛門弁慶もいい。男と男の一期一会のドラマだなぁとあらためて思う。
これからの道の多難さに気を引き締めての弁慶の引っ込み。かろうじて顔だけ見える。姿が見えなくてもツケの響く劇場でイメージができるというのが歌舞伎のいいところだ。

昨年4月の仁左衛門・勘三郎・玉三郎の「勧進帳」は黄金三角のイメージと書いたが、今回の吉右衛門・菊五郎・梅玉のそれはいぶし銀の重量感のあるどっしりとしたイメージが湧いた。いずれも甲乙つけがたい。

写真は千穐楽夜の部の定式幕。歌舞伎座が建替えになったら、このいい具合で古びて時代を感じさせる色合いの定式幕も引退になってしまうのかと思うと寂しい気がする。
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