ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

09/02/15 歌舞伎座昼の部①「京鹿子娘二人道成寺」玉三郎は封印かも・・・

2009-02-16 23:34:50 | 観劇

二月歌舞伎座昼の部の2つ目の演目だが、まずはこちらから書くことにする。
玉三郎と菊之助の「京鹿子娘二人道成寺」は4演目ということだが、私が観るのは2回目。
前回2006年2月の「京鹿子娘二人道成寺」の記事はこちら
シネマ歌舞伎版の記事はこちら
玉三郎の1月の「鷺娘」も惚れ惚れと観た。その後、公式サイトの「今月のコメント」(2月)で本公演ではもう踊らないと言及した玉三郎。
>娘物の舞踊として私の年齢と肉体を考えましても今回の公演で線を引かせて頂くことに致しました。
「京鹿子娘二人道成寺」も今回で封印するだろうと推測。最後の玉三郎・菊之助コンビを目に焼き付けておこうと心して鑑賞した。毎回持参している詞章のコピーにもしっかり目を通して臨んだ。

【京鹿子娘二人道成寺(きょうかのこむすめににんどうじょうじ)】道行より鐘入りまで
白拍子花子=玉三郎、菊之助
前回の菊之助花子について唯一の不満は顔の拵えが下手だったこと。「菊之助ってなんで舞台写真写りがよくないの?」という記事を一本書いてしまったくらいだ。玉三郎の極めつきのメイクと比べて、極端に言うと間が抜けている感があったのだ。
観る前の幕間に1階のロビーに舞台写真を観に行って嬉しくなった。菊之助の顔のメイクが遥かによくなっている!やはり目尻の赤の入れ方がよくなっていて、実に美しい。その段階で2枚も買ってきてしまった。
だから花道から登場しての最初の注目はそこだった。今回は3階の10列目なので花道での踊りはあまりよく見えないが、顔はちゃんと見える。
う、美しい~。前回からの3年間でつけたであろう自信にも裏打ちされた実に堂々と美しい白拍子花子であった。

スッポンから玉三郎花子が登場したり引っ込んだりしながら「二人道成寺」の道行が進行していく。
團蔵を筆頭にした所化たち。菊之助花子ひとりで所化との問答。よく響き渡る菊之助の美しい声で畳み込まれると問答も花子の圧勝モード(笑)
烏帽子を渡されて引っ込んで紅白の幕が取り払われると二人の花子が赤い衣裳で縦に並んでいて踊り始める。「道成の卿うけたまはり~道成寺とは名付けたり」の謡いはなし。
今回の二人は前回と違っていて玉三郎が自由に踊って菊之助が合わせにいっているような印象をもった。これもありだなぁと思いながら観ていたら・・・・・・。ところが異変が起こる。

烏帽子をとって紅白の鐘の引き綱にかけるため玉三郎が菊之助より下手側に大きく移動するところで、玉三郎の動きがおかしい。なんとなくだんどりめいていて余裕がない動き方でようやく引き綱のところに間に合う。オヤ、と思っていると烏帽子の結び紐をはねあげるところでも余裕がなく、大丈夫かと思ったらやはり十分にひっかからずに烏帽子が落ちてしまった。もちろん後見がちゃんと拾ったからいいのだが、異変はそれだけに終らず。
衣裳を引き抜いてから鞠つきをしながらかがんで回るところ、菊之助は大きく移動していって玉三郎は小さな移動という対照を見せるのだが、なんと、玉三郎が右手を後方についてしまった!不安定なのだ。
昨年のNHKのプロフェッショナルで、いつまで踊れるのかという不安を抱えていることをさらけ出していた玉三郎。こういう日がやっぱりやってきてしまったのかと思いながら観てしまった後半。

「光と影」「陰と陽」「時には姉妹のように、時には恋人どうしのように踊る」ということが語られた玉三郎・菊之助コンビの二人道成寺だが、私には今回の舞台がだんだん以下のようなイメージを描きながらの鑑賞となった。
スッポンから現れた玉花子が本物で、最初から登場して実像のように見える菊花子は玉花子の描き出した幻というイメージ。それも幻の方がハッキリ見え、本物の方が抑え気味に見えるという二重性。
その幻は同じように動いたり、ワンテンポずれて動いたり、対照に動いたり、多様なゆらぎを見せる。そしてある時は愛する男の姿に菊花子が見えてしまう。「手拭のクドキ」のところで玉花子が菊花子の袖を自分の袖でからめとって引っ張ってくるという所作もそう考えると自然に思えた。
そう、最初から白拍子花子は異界の者なのだ。だからスッポンから出てくる玉花子を中心に捉えると菊花子の動きとか二人の動きの関係とかがスッキリと捉えられる気がした。

この花子は、伝説によると本当に男に騙されたのではなく、親にあの男が許婚だと思い込まされて「恋に恋しての妄執」に蛇になってしまった娘だという。だからこそ不安定さをともないつつ、若い娘のエネルギーをほとばしらせる。その不安定な部分を玉花子が、若いエネルギーの部分を菊花子が表現しているというイメージだった。
最後に鐘に登って蛇体の本性をあらわす二人の花子。今回は菊花子もしっかり凄味をきかせて立派に極まった。

前回は玉三郎が菊之助を気遣う感じがあったが、今回はあまりなかった。この3年間で菊之助は成長し、玉三郎の体力的な衰えは否定できない。菊之助が自信を持ってつとめていることで玉三郎を十分に支えているように思えた。
前回の舞台とはまた違って、玉三郎の「異界の者」の魅力を描く舞台の中に連なる二人道成寺の舞台になっていたように思う。
玉三郎は今回で「二人道成寺」を封印するかもという思いを持ちながら観たので、上記のようなイメージが湧いてしまったのかもしれない。こういうターニングポイントに居合わせてしまったかもという寂寥感と、観ることができてよかったという気持ちが合い半ばの状態。「せつない」ような「有難い」ような気持ちでたゆたっている私である。
写真は公式サイトより今公演のチラシ画像。
(追記)
1/3の歌舞伎座初日昼の部で観た「鷺娘」の感想も遅ればせながらアップしたことをご報告m(_ _)m


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6 コメント

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本日の一幕見 (六条亭)
2009-02-17 22:19:29
ぴかちゅう さま

貴記事、拝読しました。この烏帽子の件は他の日もあったと聞いていましたが、鞠唄のところは異変に驚きといささかの衝撃があります。

しかし、本日一幕見で昼の部を通して観劇してきましたが、歌舞伎チャンネルの映像収録あったことも事実でしょうが、大変安定した充実度の高い二人花子でした。菊之助さんに余裕と自信も見られましたし、玉三郎さんも丁寧に踊っていましたから、二人のバランスがとてもよかったと思います。
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年齢差! (さちぎく)
2009-02-18 13:50:17
ぴかちゅうさんの記事を読んで改めて認識した次第です。道成寺はやはり体力的にかなりシンドイ踊りですから、内容は良くても身体がついて行かない~初回から3回目と全て見ましたが、鞠唄のところとか、只頼めの段を菊ちゃんが踊って、玉さんの負担を軽くしていましたが、別段限界は感じませんでしたね。25日の間には体調がいまいち?の時もあると思います。それがあってはいけないとプロとして十分に気をつけている玉さんですから、余程だったのでしょうね。
今回は回を重ねて、菊ちゃんが成長し、玉花子は安心したのかもしれませんね。
もちろん新装歌舞伎座での二人道成寺はないと思います。そして他の役者さんでの再演もないでしょう。従来の花子桜子の二人道成寺になるでしょう。
今月の楽が見納めですね。
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Unknown (midori)
2009-02-18 23:55:32
ぴかちゅうさん、どうもです!
拙宅へのコメント&トラバ、ありがとうございます。
ぴかちゅうさんの記事を拝見して、そのような事態が起きて
いたのかと驚きでした。
いみじくも、さちぎくさんが書いておられるようにプロゆえ
己の技に向き合い自戒することもあるのでしょうけれど…。
私が観た回は、圧倒的なオーラで場内を覆い尽くすかのよう
でした。
これで最後となるのか?
又の機会があるのか?
いずれにしても、貴重な機会を逃さず目撃できて幸運でした!

拙宅のアップをトラバさせていただきました。
返信する
皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2009-02-22 23:41:08
★六条亭さま
一幕見に続いて一階花道横の戻り席でのご観劇もされて、てぬぐいもGETされたとのことで、実に充実の観劇のご様子、おめでとうございますm(_ _)m
何人かの観劇仲間さんとの情報交換ではやはり今月は足元が不安定な日もあったようで体調がよくない期間があったのではないかと推測しました。
その後、録画のカメラが入った日も含めて素晴らしい仕上がりの舞台も多かったようで、きちんと映像で残るのはあとあと貴重な記録になるだろうと喜んでいます。「歌舞伎ちゃんねる」の視聴料も値上がりするということで私にはますます利用が遠のいた感がありますが、定年後くらいには利用できるような状態にもっていきたいと思います。
★さちぎく様
菊ちゃんがひとりで踊っていた花笠の踊りも今回じっくり観ましたが、笠の重量もけっこうあるだろうしかなり体力を使いそうなくだりだと思いました。
>従来の花子桜子の二人道成寺......私はこのお二人のコンビの二人道成寺しか観たことがないのです。勘太郎と七之助あたりでやってくれるといいなぁと思っているのですがどうでしょう。
歌舞伎座建替えの間に歌舞伎役者の世代交代が一気にすすみそうです。昨日の中村又五郎丈の訃報も本当に残念に思いました。今のうちにこれぞという舞台は見逃さずにおこうという思いを強くしています。
★「好きなことは止められない♪」のmidoriさま
>貴重な機会を逃さず目撃できて幸運......私も同感です。
知り合いのモダンバレエをされている方で勘三郎丈の「鏡獅子」を観てもらってよかったとおっしゃってくれた方にこの「二人道成寺」も強くおすすめしておきました。和洋違っても踊りを観る目は確かな方には絶対観ておいて損はないと宣伝した次第です。
私もしっかり舞踊を楽しめる目を養いたいと思っています。
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Unknown (hitomi)
2009-02-23 08:36:53
ぴかちゅうさん、コメント&トラバありがとうございます!
異変をその目でご覧になったのですね!もう長いお休みがなく、1ヵ月公演が続いてますから。歌舞伎役者は会社に休みなく使われ過酷です。3月の中国公演終わったら、早く休養を取っていただきたいです。
今日、ぴかちゅうさんもお勧めの仁左衛門丈のドキュメント観たいと思います。朝10時10分から2本ずつです。DVDにもしないということでは映画館へ行かなければなりませんね。
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★hitomiさま (ぴかちゅう)
2009-02-25 00:05:30
hitomiさんの「鷺娘」の記事にこちらをTBさせていただいてました。リンクに「鷺娘」があるということでおゆるしください。13代目仁左衛門丈のドキュメントの記事のTB&コメントも有難うございましたm(_ _)m
明日は歌舞伎座千穐楽の夜の部に行ってきます。このところの不安定な天気で風邪をひいたかもしれないのですが、なんとか行って「三人吉三」で玉三郎のお嬢吉三を観てきたいと思っています。
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