ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/12/24 国立劇場「忠臣蔵」銘々伝・外伝②「清水一角」

2007-12-29 23:57:59 | 観劇

国立劇場「忠臣蔵」銘々伝・外伝3作品上演。2本目は染五郎主演の「清水一角」。討たれる吉良邸側の人間のドラマというわけだ。
【清水一角】一幕二場
作:河竹黙阿弥
 吉良家牧山丈左衛門宅の場
 同   清水一角宅の場
主な配役は以下の通り。
清水一角:染五郎 弟与一郎:種太郎
姉お巻:芝雀 牧山丈左衛門:歌六
あらすじは以下の通り。
赤穂浪士が主君の仇を討ちに来るというおそれから、吉良家には縁家の上杉家から警護の侍が数多く遣わされていた。十二月十四日は朝から雪。吉良上野介は明後日は上杉の邸に移ることになっていて、仇討ちはもうないという雰囲気になっている吉良方。武芸指南役でもある牧山丈左衛門の家では年忘れの酒宴の真っ最中。そこに仲間はずれにされた清水一角が文句を言いに酔態であらわれる。二人はかねてより反りがあわない。やってくるとまた悪口雑言が始まる。丈左衛門が山科まで大石内蔵助の様子を探りに行き、本心からの放埓で仇討ちはないと判断したことを「目が節穴」と嘲った。仇討ちの有無で首をかけあう一角と丈左衛門。一角は狼藉が過ぎると同席の諸士に門外に放り出される。そこに通りかかった弟の与一郎が兄を家に連れ帰る。
一角の家では夫と死別した姉のお巻が婚家から戻って同居しており、一角の胴着を縫っている。一角は今日も酒に酔っては大言壮語を吐着続けるので、弟が兄に意見をする。さらに吉良家家老の小林平八郎から届いた樽酒を飲む飲ませないでもみあいになる。それでこぼれてしまった酒を畳の上からすすり、弟を責めてもう一度貰ってこいとまで言う一角。お巻は先ほど読んでいた伯父の文で伯父に代わって打ち据える。それでもそのまま酔いつぶれて寝てしまう。弟が宿直に出かけてしまい、姉弟のふたりになったその深夜、陣太鼓の音が聞こえてくる。「姉上、夜討ちでござる」と意識もはっきりとガバッと跳ね起きた一角にお巻は喜び、心を尽くした胴着を着せる。身支度を整えるところへ丈左衛門が一角に内通の疑いありと成敗にやってくるが、一角の予測ははずれ、賭けに負けたと首を差し出す。今は私情で争う時にあらずと命を預かり、丈左衛門に応戦に駆けつけるように促す一角。そして自らも姉から差し出された女物の小袖を敵の目を紛らわすべく纏って、花道を応戦に駆け出していき、姉のお巻が見送るところで幕。

一幕二場という短い芝居。歌六の丈左衛門が一角に対抗する貫禄たっぷりの憎憎しいキャラとして立派。拮抗すべき染五郎の一角は頑張ってはいたが、歌六に拮抗できていない。公演途中ではまたまた声がかすれているという情報もあったが、私の観た24日はそれほどかすれてはいなかった。そして何よりも一角の酔態の出来次第で面白くもつまらなくもなる作品のようだ。しかしいくら頑張って酔態をしてみせても、「頑張って酔態を演じています」という感じがしてしまっている。これでは引き込まれない。勘三郎の筆幸や梅之助の魚屋宗五郎の酔態がいかに巧いかということがあらためてよくわかってしまう。

また、歌六と染五郎、芝雀と染五郎のやりとりのところはそれでもなんとか緊張感が保てたが、やはり種太郎との兄弟のやりとりのところは意識が飛んでしまった。やはり芝居の体感の違いが歴然と出た。「堀部彌兵衛」の芝居がよかっただけに落差が大きい。

また最後の歌六との立ち回りで覚醒。染五郎も歌舞伎で主役を十分張れる作品とそうでない作品があるということなんだと納得。頑張っていただこう。

写真は今回公演のチラシより「清水一角」の部分をアップで携帯で撮影。一角が着ている胴着、いわゆる剣道の胴着と同じ縫い取り模様なのかと思った。芝雀のお巻は夫に死別して切り髪になっている姿。反対側に写っている歌六までは入らず。総髪姿の歌六もカッコよかった。
12/24国立劇場「忠臣蔵」銘々伝・外伝①「堀部彌兵衛」

07/12/24 国立劇場「忠臣蔵」銘々伝・外伝①「堀部彌兵衛」

2007-12-29 20:49:41 | 観劇

24日に国立劇場、26日に歌舞伎座千穐楽夜の部と歌舞伎漬けになっている。それぞれに堪能できてしまった私。歌舞伎役者さんの好き嫌いはけっこう少ないのが幸いしている。おかげで歌舞伎座も今年は毎月しっかり観て、来年の歌舞伎会ゴールド会員の権利を早めにGETできた。

今年の12月国立劇場の歌舞伎は「忠臣蔵」銘々伝・外伝の3作品上演。3つに分けて書いていくが、まず着席してすぐに感じたのは男性の観客の多さ。休日ということもあるだろうが多い。それも中高年のご夫婦連れがけっこういらっしゃる。「鬼平」の吉右衛門なら妻の観劇の誘いに乗ってくれたんじゃないかと推測。当たっていればいいことだと思う。
【堀部彌兵衛】四幕
作:宇野信夫、監修:松 貫四(吉右衛門の筆名)
 第一幕 高田馬場
 第二幕 芝愛宕下青松寺の客間
 第三幕 同(十日経過)
 第四幕 米沢町弥兵衛宅(十五年経過)
主な配役は以下の通り。
堀部彌兵衛:吉右衛門 妻たね:吉之丞
娘さち:隼人 青松寺住持丈念:由次郎 
中山安兵衛:歌昇 寺坂吉右衛門:松江  
第1幕はちょうど、PARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」の続きあたりからだなぁという感じ。中山安兵衛のおじ(PARCO歌舞伎で錦吾がやっていたお役)が舞台上手で決闘をしているところへさしかかっていた堀部彌兵衛夫婦。染五郎がやっていた安兵衛役を、歌昇が御馴染みの決闘に駆けつける安兵衛のいでたちでやってくる。有名だという「高田馬場の決闘」の顛末も知らなかったので、おじは先に殺されてしまっていたのだと見物衆の会話で気がついた。安兵衛は助太刀に駆けつけたが間に合わず、仇をひとりで討ったということだったのかと今回あらためて納得。決闘の場に行く直前の襷がけの紐に彌兵衛の妻のしごきを貸したという縁ができた。その妻たねは癪を起こして苦しみ出し、その介抱と安兵衛の活躍を交互に気にする彌兵衛。

第2幕は彌兵衛夫婦が芝愛宕下青松寺に先ごろ亡くした嫡男の墓参りにやってきて、住職に高田馬場の決闘で出会った若者のことを話し、惚れこんだのに名前を聞かなかったことを悔しがっている。客間でいつもの碁を打つことになり、そこに茶を持ってきた安兵衛と再会。住職の縁者だとわかり養子縁組の取り持ちを頼み、申し入れるが、安兵衛は首を縦にふらない。夫婦で代わる代わる日参して返答を迫るが、十日経過の同寺の客間が第3幕。庭の桜が10日経って満開になっているのが憎い。今日は妻のたねがやってきて、承知してもらえないなら離縁されるというので住職も安兵衛も驚く。まさか本当ではないだろうと言っていると襖を開けて彌兵衛も入ってくる。「下世話で言うところの‘ケチのつき始め’はこやつが癪を起こしてお名前を聞くこともできなかったことだ」と妻の責任をとらせ、自分も跡継ぎがいないので浪人になると宣言。浅野の殿に安兵衛の人物を語り中山姓のままで跡取りにしてよいとの許しまで得てきたと聞いて安兵衛は感激。承知すると嬉し泣きする夫婦。さらに娘との縁談もまとめてしまう。

ここまでが一気に進む。時代劇のような気軽に見れる感じでテンポもよし。頑固一徹の彌兵衛61歳、たね48歳。安兵衛21歳。ここまでの場面の吉之丞と歌昇はちょっと年齢的に無理がある。まぁ2階席だから双眼鏡をのぞかなければいいのだ(笑)それに娘さちも数えで2歳というが、子役ではなく人形だったのにはちょっと驚いた。そこまでやるのだったらたねと安兵衛がお役の年齢から離れた役者がやっても、もうお芝居ということで割り切れるというもの。吉之丞は当代吉右衛門の妻役は初めてということだし、これはなかなか見ものだったというべきか。

ここで休憩。15年経過後の第4幕。彌兵衛76歳、たね63歳、安兵衛36歳ということで吉之丞・歌昇もピタっとくる。隼人のさちが行儀がいい美しさに感心。吉右衛門の老け役は秀山祭の加藤清正といい、今回の彌兵衛といい、本当にすごいつくりこみ。清正はあまり好みの役ではないが、この彌兵衛の人物造詣には惚れこんでしまった。
同志の寺坂吉右衛門が吉良邸への討入りが明朝と決まったと知らせにくる。そこで隣家の貧しい浪人父子とのからみが入っているのがいい。炭を盗んだことを謝りにきた半田判右衛門を許し、その息子の父手作りの凧に「忠」の一字を舞台で実際に書いてやるのだが、吉右衛門、字うまいなぁ。安兵衛を待って15年前に約束したさちとの祝言を挙げさせる。ついに安兵衛も堀部姓を名乗ると言い、盛り上がったところで彌兵衛が「肴いたそう」と謡いも謡う。「明日は座敷での斬りあい」と安兵衛に長い槍の柄を刀でスパッと切らせるところも双方の息もあってきまる~。どうしてどうして見どころたくさん~。

討入りの装束に身を固め、花道を集合場所に急ぐ彌兵衛と安兵衛。ここで「雪はれて思いは叶うあしたかな」と一句。舞台で見送る妻と娘。吉之丞の目から思いがあふれていたのにもジーンときた。いい幕切れだ。
吉之丞の妻たねという配役の真骨頂はこの場面ではないかと思えた。「吃又」の将監北の方の眼差しも思い出す。「牡丹燈籠」のお米といい、今年は吉之丞の魅力に立て続けにやられた年となった。

「堀部彌兵衛」、予想以上に楽しめた。宇野信夫の脚本がいいのと吉右衛門が頑固で愛嬌たっぷりの老人の役を楽しんで演じているのがいい。3幕までの笑いをとる芝居と4幕のシリアスな芝居の対比もきいてなかなかどうして見ごたえのあるドラマになっている。

自分のブログを「宇野信夫」で検索したら2本ヒット。①昨年2月文楽公演「曽根崎心中」。心中物上演禁止で埋もれていたこの作品を武智歌舞伎で復活させた時の脚本が宇野信夫だった。②昨年5月演舞場の「ひと夜」も宇野信夫作。「昭和の黙阿弥」と言われるということがだんだん理解できてきた感じだ。

この間、吉右衛門の芝居をより深く理解するために彼が目指している初代の芸の継承について知りたいと岩波現代文庫で小宮豊隆著『中村吉右衛門』を読んだ。その初代の人と芸についてある程度イメージが持てた。そして筋書で初代がこの「堀部彌兵衛」が秀山十種に入れたかったほど気に入っていた役で、初代が力を入れた書と謡いと俳句が全部盛り込まれているという。要は宇野信夫がちゃんと宛書きしているということだろう。当代が初役に臨んで自ら筆名で監修という入れ込みようも理解できた。

この文武両道を極めつつ愛嬌たっぷりのジジイという魅力あふれる当代吉右衛門の芝居を楽しむことができたのは今月の儲け物。
写真は今回公演のチラシより「堀部彌兵衛」の部分をアップで携帯で撮影。