全席12000円という強気のお値段にもかかわらずすぐに完売となったPARCO歌舞伎!『決闘!高田馬場』。平日夜が先に完売となり初日直後の日曜日の夜の部の最後列しかとれなかったが、とれただけでよかったという状況。
三谷幸喜の作・演出による舞台で、1997年にやはりPARCO劇場の三谷作品に出演した市川染五郎に歌舞伎を書こうと約束したことから実現したことらしい。大河ドラマ『新撰組!』の他には三谷幸喜の作品はあまり馴染みがなく、今ヒット中の映画『有頂天ホテル』の販促のための2夜連続での映画のTV放映『みんなの家』『ラヂオの時間』で練習しておいた。
開演直前に走りこみ、まず囃子方が舞台奥の壇上の黒い布の奥にいるのを確認。それがいきなり♪「パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、けんざん(見参)!」♪でエエ~ッと驚く。♪「歌舞伎座、国立なんのその、コクーン歌舞伎を斜に見て....パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、見参!」♪とか長唄さんたちが鳴り物入りで歌うんですよ、ヤラレマシタ。
PARCO劇場って市村正親のひとり芝居とかで来たことがあるけれど、とにかく舞台が小さい小さい。盆回しはできるようになっていてその上でパネル状の長屋の壁が黒衣さんたちが表裏を入れ替えたりする場面転換はうまい。
なんで人気が出そうな舞台をわざわざPARCO劇場でやるのかなって疑問に思っていたけれど、三谷幸喜が演出だけじゃなくて脚本もつくるわけだから慣れている大きさの舞台じゃないとうまくイメージできないんじゃないかなって勝手に思いあたった。後で買ったパンフレットによると1ヶ月の稽古期間の半ばで台本が半分しかできてなかったらしい。確かに役者を想定してあて書きをするタイプらしいから初めて一緒に仕事する役者の方の役は書きにくかったんだろう。稽古でキャラをつかみながら書きすすめたらしい。以下、お話のあらすじを。
登場した主人公の中山安兵衛(染五郎)は情けない男になっていた。2年くらい前から酒に溺れている。その男は長屋の人たち(勘太郎、高麗蔵、宗之助、萬次郎、橘太郎)に愛され支えられていた。そこにたずねてきた同じ道場で昔ライバルだった小野寺右京(亀治郎)はこの状況を理解しかねた。次にたずねてきたのは伯父(松本錦吾)。そこで長屋の人たちがなぜ安兵衛にそこまで恩義を感じているのかということがひとりひとりのドラマとして語られる。こういうところに三谷作品らしさが滲む。その伯父は実は自分が決闘を申し込まれており、死後を頼むという手紙を残して帰ってしまう。その手紙を読んだがグズグズしている安兵衛を右京が酒に溺れた原因が自分にあることを言い当てて立ち直りを迫る。さらに長屋連中の応援で立派に“高田馬場の決闘”に駆けつけるまでを描いた人間ドラマ。
『封印切』の忠兵衛でもそう思ったが染五郎は情けない男がよくハマル。今回も実に八の字眉がよく似合う。敵方との二役を冒頭から披露しなよなよした変なキャラで笑わせる。亀治郎は雰囲気を読めないマイペースの濃いキャラがこちらも実によくハマル。ひとりで目をむいたとっても誇張したクサイ芝居をしてくれてそれが実に可笑しな雰囲気をかもし出す。安兵衛が先々婿入りする堀部家の娘役も歌舞伎の常にはない押しの強いキャラだし、伯父の決闘相手は気弱でビクビクしているしと三役の早変わり。スーパー歌舞伎のパロディみたいだ。
大工役の勘太郎も安兵衛に婿入りをせまる堀部弥兵衛の爺役との二役。最後の死ぬ場面では横顔が勘三郎そっくりで感心した。高麗蔵の博打好きの男とその女房の宗之助も普段の役では見たことのないはじけっぷりが気に入った。
一番歌舞伎らしさを体現していたのが萬次郎のお梅婆さん。声も表情もしぐさも世話物の下町の婆さんそのもの。錦吾も他がみなおかしなキャラ設定の中でひとりまともな人物として存在してバランスをとっていた。
勘太郎の弟・七之助は出演していないのに彼がオカマっぽく演じたらと思うとそっくりなメイクと身体つきと動きで敵方キャラをつとめたのは澤村伊助かな?(→訂正:とおりすがりさんから坂東翔太さんだと教えていただきました。感謝m(_ _)m)
最後の高田馬場に向かう場面の転換では薄手のカーテンが右に左に行きかって、これって最近の野田秀樹の『贋作・罪と罰』のパロディかも。とにかく、すごいスピード感。
みんなの応援・犠牲によりもうすぐ高田馬場に到着!のところで終わり。
(ちょっと追記:安兵衛を裏切った又八って『ジーザス・クライスト・スーパースター』のユダのようだと思ってしまった。愛すればこそ憎しみが生まれ、最後はやはり愛情を確認しながら死んでいくのだ。)
ああ面白かった。でも後をひかない。こういう軽さが三谷幸喜ワールドだね。これもまあ歌舞伎といっていいでしょう。歌舞伎は本来、融通無碍のエンタメのはずだから。
写真は公演のHPより、チラシの画像。
追記:今回のプログラム、縦に開く綴じ方でとても読みにくいのが難点。いろいろあったせいもあるが、最後のブレヒト幕の説明までたどり着くのに何日もかかってしまった。アップしてからすぐご指摘をいただいたことに感謝m(_ _)m不織布の巾着袋が付いてくるのも面白いけれど結局場所ふさぎなんだよな~。
三谷幸喜の作・演出による舞台で、1997年にやはりPARCO劇場の三谷作品に出演した市川染五郎に歌舞伎を書こうと約束したことから実現したことらしい。大河ドラマ『新撰組!』の他には三谷幸喜の作品はあまり馴染みがなく、今ヒット中の映画『有頂天ホテル』の販促のための2夜連続での映画のTV放映『みんなの家』『ラヂオの時間』で練習しておいた。
開演直前に走りこみ、まず囃子方が舞台奥の壇上の黒い布の奥にいるのを確認。それがいきなり♪「パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、けんざん(見参)!」♪でエエ~ッと驚く。♪「歌舞伎座、国立なんのその、コクーン歌舞伎を斜に見て....パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、見参!」♪とか長唄さんたちが鳴り物入りで歌うんですよ、ヤラレマシタ。
PARCO劇場って市村正親のひとり芝居とかで来たことがあるけれど、とにかく舞台が小さい小さい。盆回しはできるようになっていてその上でパネル状の長屋の壁が黒衣さんたちが表裏を入れ替えたりする場面転換はうまい。
なんで人気が出そうな舞台をわざわざPARCO劇場でやるのかなって疑問に思っていたけれど、三谷幸喜が演出だけじゃなくて脚本もつくるわけだから慣れている大きさの舞台じゃないとうまくイメージできないんじゃないかなって勝手に思いあたった。後で買ったパンフレットによると1ヶ月の稽古期間の半ばで台本が半分しかできてなかったらしい。確かに役者を想定してあて書きをするタイプらしいから初めて一緒に仕事する役者の方の役は書きにくかったんだろう。稽古でキャラをつかみながら書きすすめたらしい。以下、お話のあらすじを。
登場した主人公の中山安兵衛(染五郎)は情けない男になっていた。2年くらい前から酒に溺れている。その男は長屋の人たち(勘太郎、高麗蔵、宗之助、萬次郎、橘太郎)に愛され支えられていた。そこにたずねてきた同じ道場で昔ライバルだった小野寺右京(亀治郎)はこの状況を理解しかねた。次にたずねてきたのは伯父(松本錦吾)。そこで長屋の人たちがなぜ安兵衛にそこまで恩義を感じているのかということがひとりひとりのドラマとして語られる。こういうところに三谷作品らしさが滲む。その伯父は実は自分が決闘を申し込まれており、死後を頼むという手紙を残して帰ってしまう。その手紙を読んだがグズグズしている安兵衛を右京が酒に溺れた原因が自分にあることを言い当てて立ち直りを迫る。さらに長屋連中の応援で立派に“高田馬場の決闘”に駆けつけるまでを描いた人間ドラマ。
『封印切』の忠兵衛でもそう思ったが染五郎は情けない男がよくハマル。今回も実に八の字眉がよく似合う。敵方との二役を冒頭から披露しなよなよした変なキャラで笑わせる。亀治郎は雰囲気を読めないマイペースの濃いキャラがこちらも実によくハマル。ひとりで目をむいたとっても誇張したクサイ芝居をしてくれてそれが実に可笑しな雰囲気をかもし出す。安兵衛が先々婿入りする堀部家の娘役も歌舞伎の常にはない押しの強いキャラだし、伯父の決闘相手は気弱でビクビクしているしと三役の早変わり。スーパー歌舞伎のパロディみたいだ。
大工役の勘太郎も安兵衛に婿入りをせまる堀部弥兵衛の爺役との二役。最後の死ぬ場面では横顔が勘三郎そっくりで感心した。高麗蔵の博打好きの男とその女房の宗之助も普段の役では見たことのないはじけっぷりが気に入った。
一番歌舞伎らしさを体現していたのが萬次郎のお梅婆さん。声も表情もしぐさも世話物の下町の婆さんそのもの。錦吾も他がみなおかしなキャラ設定の中でひとりまともな人物として存在してバランスをとっていた。
勘太郎の弟・七之助は出演していないのに彼がオカマっぽく演じたらと思うとそっくりなメイクと身体つきと動きで敵方キャラをつとめたのは澤村伊助かな?(→訂正:とおりすがりさんから坂東翔太さんだと教えていただきました。感謝m(_ _)m)
最後の高田馬場に向かう場面の転換では薄手のカーテンが右に左に行きかって、これって最近の野田秀樹の『贋作・罪と罰』のパロディかも。とにかく、すごいスピード感。
みんなの応援・犠牲によりもうすぐ高田馬場に到着!のところで終わり。
(ちょっと追記:安兵衛を裏切った又八って『ジーザス・クライスト・スーパースター』のユダのようだと思ってしまった。愛すればこそ憎しみが生まれ、最後はやはり愛情を確認しながら死んでいくのだ。)
ああ面白かった。でも後をひかない。こういう軽さが三谷幸喜ワールドだね。これもまあ歌舞伎といっていいでしょう。歌舞伎は本来、融通無碍のエンタメのはずだから。
写真は公演のHPより、チラシの画像。
追記:今回のプログラム、縦に開く綴じ方でとても読みにくいのが難点。いろいろあったせいもあるが、最後のブレヒト幕の説明までたどり着くのに何日もかかってしまった。アップしてからすぐご指摘をいただいたことに感謝m(_ _)m不織布の巾着袋が付いてくるのも面白いけれど結局場所ふさぎなんだよな~。
こちらには時々こっそりお邪魔させていただいておりました。
おいら、同じ日の昼の部を見て参りました。
普段のPARCO劇場では観られない雰囲気&数少ない歌舞伎鑑賞とはまた違った面白い芝居でした。
出来ればもう一度見たいものですが…
またお邪魔させて頂きますね。
宜しくお願い致します。
いや~おもしろくて、大満足な作品でした。荒い部分、気になる部分も全て「吹っ飛ばす」、パワーのある作品だったと思います。
3/4(土)夜の舞台を観て来ました。
いや~、染五郎さんのかっこよさにガツンと打ちのめされました。ダメ男を愛嬌たっぷりにかっこよく演じ、あれだけの疾走。。脱帽です。
そうそう、ご存知かもしれませんがWOWOWハイビジョンで3/25に生中継するそうです。
生で観るのが1番だと思いますが、ビデオも欲しいですよね。
パルコ歌舞伎♪
面白かったというより、もう可笑しい、
可笑しすぎる!!
(面白いと可笑しいはどう違う概念なのか
問われると困りますが^^;、なんか個人的には
とにかく『可笑しい』という語彙がピッタリくる)
私はこのカーテン(ブレヒト幕?というのですか)
を使った芝居ははじめて観たのですが
よく他のお芝居で使われる演出なのでしょうか?
バトンに吊れないので、工夫したのかと思ったのですが
もともとある手法だったのですね。
あ~もう一度観たい!!(けど、時間も財政も(~_~;)・・・
また、カーテンは、ブレヒト幕といって、ブレヒト劇でよく使われる、演劇術的には有名な幕です。罪と罰のほうが、効果的に使われていたように思いました。この劇ではちょっと多用しすぎかと、個人的には感じました。
劇評?(えんぺ)でも高評価で期待を裏切らない出来のようですね。
楽しみ楽しみ~
こちらこそ初めまして。いろいろな方のブログではお名前を拝見しておりました。一番にコメントとTBいただきましてありがとうございます。さっそくTB返しをしたのですが、エエ~ン、タイトルも何もかも化け化けでございます。お見苦しいようであれば削除してくださいませ。これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
★「酒と芝居の日々」の花梨さま
染高麗も新しい取り組みを始めたのが嬉しいです。猿之助、勘三郎、菊五郎劇団...どんどんと新しいものへの挑戦が広がっていき、古典ものともどもいい舞台の創造につながっていくことを期待しています。
★「Corlorfulな日々」のSUE7様
こちらこそ初めまして。これからもどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
>ダメ男を愛嬌たっぷりにかっこよく演じ、あれだけの疾走...同感です。私は舞台の『阿修羅城の瞳』の流し目が繰り返しすぎで食傷だったのですが、今回は情けない部分が魅力的でその上の疾走だったのがよかったのかな。今回の方が気に入りました。
★「ヤマトタケルの夢」のyayaさま
ホント、スーパー歌舞伎の要素をうまく入れてましたよね。スーパー喜劇の方?!三谷さんの作品ってこういう人間のおかしさへの愛情にあふれてますね。ホントに軽い。だから私には麻薬度はちょっと低いかな。
★とおりすがり様
ブレヒト幕について教えていただき、有難かったです。ドイツのブレヒトがよく使ったんですか。でも『三文オペラ』2回観たけど出てきませんでした。って両方とも蜷川さんだから使いそうにないですね。
坂東翔太さんとのご指摘もありがとうございましたm(_ _)mさっそく本文に訂正を入れておきました。
★真聖さま
楽しみにしててください。いつ観るご予定ですか?感想アップしたらTBしてくださいね。お待ちしています。
はじめまして。スキップと申します。
遅れてお邪魔してごめんなさい。
ほんとに、冒頭の鳴物、長唄からヤラレて、最後までヤラレっ放しで突っ走った感じでした。
私も、又八が死ぬ場面で勘太郎くんの横顔も声も、勘三郎さんにそっくりで驚きました。
染五郎さん筆頭に若手にもどんどん挑戦してもらって、「コクーン歌舞伎」同様「パルコ歌舞伎」も恒例にしていただきたいものですね。
三谷幸喜さんは『勘弁してくれ~』っておっしゃるかしら?
きたむーといいます。
高田馬場つながりでTB貼らせて頂きました。
6日の昼の部を観たのですが、興奮しすぎて体が浮きそうでした。
初めてPARCO劇場に足を踏み入れたのですが、かなり狭くて驚きました。
チケット争奪戦になる筈ですよね。
TBありがとうございますm(_ _)m
>役者さんたちは、本当に大熱演...
本当に楽しそうに演じてくれているので観ている方も嬉しくなりますよね。猿之助、勘三郎、菊五郎劇団と新しい取り組みが広がってきている歌舞伎界!そこに染高麗も加わってきて、楽しみで仕方がありません。こういう新しいものと古典モノの両方が大事にされていくことを望んでいます。
★「地獄ごくらくdiary」のスキップ様
こちらこそはじめましてm(_ _)m
>冒頭の鳴物、長唄からヤラレて、最後までヤラレっ放しで突っ走った感じ...同感です。♪「パパパ、パパパ、パパパ、パパパ、パルコ歌舞伎、見参!」♪が耳からしばらく離れませんでした。
三谷幸喜さんは勘三郎さんにも書く約束をされているということなので、そこまでは絶対やってくれるとおもっています。
★「ぴよこ日和」のきたむー様
こちらこそはじめましてm(_ _)m
1列目の観劇とはまたすごいですね。私はなんとか最後列で観ることができたんですよ。でも小さい劇場だからそんなに遠く感じませんでした。
>「ブレヒト幕」を使った演出...これは本当に凄かったです。役者とともにスタッフさんが走っているんだろうけどテンションあわせて大変だなって思ってみてました。ホント疾走疾走でした。若さあふれる三人のパワー炸裂を見せるための舞台でしたね。
これからもよろしくお願いします。