吉右衛門を中心とした五月大歌舞伎が新橋演舞場で行われたが、毎年恒例の公演にする予定と歌舞伎会の会報「ほうおう」6月号にも書かれ、筋書巻末の演舞場支配人のご挨拶にも書いてあった。これでもう5月は毎年歌舞伎座・演舞場の両方で團菊吉の揃い踏みとなり、歌舞伎ファンは嬉しい悲鳴を上げることになるのだ。
なんだかんだと言ってぐずぐずしていた私だが、五月大歌舞伎の立ち上げとなる今回もちゃんと観ようという気になり、昼の部も夜の部もなんとか観ることができた。吉右衛門が後進の育成に本腰を入れだしたことがよくわかる公演だったと思う。
「平成若衆歌舞伎」を観てから演舞場にまわり、ようやく舞台写真入りの筋書を買うことができた。23年ぶりの吉右衛門の公演に演舞場の気合が入ったのか、いつもはB5版の筋書が今月はA4版で上等な紙質の表紙に金文字が躍っている。それを見ながら少しずつ感想を書いていく。(写真は表紙のアップ)
1)「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」
能楽に「翁」という国土安穏、五穀豊穣を祈る儀式性の強い演目があり、歌舞伎にもアレンジして取り込まれてきた。中でも狂言師が舞う三番叟をもとに歌舞伎ではさまざまな三番叟の踊りが創られた。「三響会」で両者のコラボレーションの舞台があり、野村萬歳と染五郎の共演が話題になり、私もNHKの録画まではしてある。
今回の「寿式三番叟」が私には初めての三番叟だ。特に今回の作品は三番叟を染五郎と亀治郎二人で踊る二人三番叟の趣向。藤間勘十郎による振付ということで若い三人が協力して作り上げたのだという。種太郎の千歳、歌六の翁による舞に続いて二人三番叟となる。
曲も今回は竹本連中。伝左衛門らの囃子連中の小鼓・大鼓も凄い迫力。それに乗って黒のシンプルな衣装で踊る染五郎・亀治郎の二人。若いだけに切れもよく、互いに火花を散らしながら踊り比べをするような気迫。舞踊の苦手な私だがここまでの迫力だと瞬きも惜しいくらいに食い入るように観てしまった。
染五郎の「端正さ」と亀治郎の「濃厚さ」。その個性の違いと組み合わせによって醸し出される味わい。これからもいいコンビになるぞという確信が湧いてきてわくわくした。PARCO歌舞伎でも感じた魅力がこれからは古典的な味わいの舞台でも味わえるのだと期待が膨らむ舞台だった。
2)「ひと夜」
「昭和の黙阿弥」とたたえられた宇野信夫の処女作で新劇で初演。新派や歌舞伎でも上演された作品だということで、どうりで雰囲気がずいぶんといつもと違った。上演順はこちらの方が「寿式三番叟」の前。あらすじは以下の通り。
時代は大正半ば。浅草に住む日蓮宗の行者田口(歌昇)の家に健吉(橘太郎)がおとよ(芝雀)を連れてくる。おとよは活動写真館の下座松太郎(信二郎)の女房。夫は常軌を逸したやきもち妬き。今日も喧嘩の末に家を飛び出したのだった。健吉の家に泊めてもらおうとしたが妻の嫉妬でいられなくなり、行者なら安心と連れてこられたのだった。
雀右衛門が襲名興行でおとよを演じて以来の上演とのこと。そのおとよを子息の芝雀が演じたのだが、従来幸薄い女が似合うと思っていたイメージを吹き飛ばしてくれた。憎めない可愛い女なのだ。生い立ちの境遇が似ていることで親近感を抱いた田口に連れて逃げてくれとすがり、田口が悩んだあげくに決意したところを夫に見つけられると喧嘩のほとぼりも冷めていたためか急に元の鞘に収まってしまい、田口にすがったことなどおくびにも出さない。翻弄される田口のほろ苦い哀れさを歌昇がいい味で好演していた。
特筆すべきは松太郎の信二郎。奔放な妻が許せないとキーキーとわめきたて、許せない妻の行動を見たら殺してともに死のうといつも剃刀を持ち歩いているという偏執的な人物。可愛い妻に異常に惚れ込んでのことなのだ。噂にはなっていた信二郎の怪演。ここまではじけていてくれるとは嬉しい驚きだった。
おとよもそこまで惚れられたらそれも嬉しいという感覚で一時の勘気さえ冷めればすぐにアツアツムードになる。結局は我儘者どうしのお似合いの二人というわけで、振り回される周囲がお気の毒。今回の犠牲者が田口だっただけなのかもと思わせる。こういうことってあるかもしれないと思わせるおかしくてホンワカしてほろりとさせる舞台だった。演舞場での大歌舞伎の幕開けにはふさわしかったと思った。
五月大歌舞伎・昼の部②「夏祭浪花鑑」の感想はこちら
なんだかんだと言ってぐずぐずしていた私だが、五月大歌舞伎の立ち上げとなる今回もちゃんと観ようという気になり、昼の部も夜の部もなんとか観ることができた。吉右衛門が後進の育成に本腰を入れだしたことがよくわかる公演だったと思う。
「平成若衆歌舞伎」を観てから演舞場にまわり、ようやく舞台写真入りの筋書を買うことができた。23年ぶりの吉右衛門の公演に演舞場の気合が入ったのか、いつもはB5版の筋書が今月はA4版で上等な紙質の表紙に金文字が躍っている。それを見ながら少しずつ感想を書いていく。(写真は表紙のアップ)
1)「寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」
能楽に「翁」という国土安穏、五穀豊穣を祈る儀式性の強い演目があり、歌舞伎にもアレンジして取り込まれてきた。中でも狂言師が舞う三番叟をもとに歌舞伎ではさまざまな三番叟の踊りが創られた。「三響会」で両者のコラボレーションの舞台があり、野村萬歳と染五郎の共演が話題になり、私もNHKの録画まではしてある。
今回の「寿式三番叟」が私には初めての三番叟だ。特に今回の作品は三番叟を染五郎と亀治郎二人で踊る二人三番叟の趣向。藤間勘十郎による振付ということで若い三人が協力して作り上げたのだという。種太郎の千歳、歌六の翁による舞に続いて二人三番叟となる。
曲も今回は竹本連中。伝左衛門らの囃子連中の小鼓・大鼓も凄い迫力。それに乗って黒のシンプルな衣装で踊る染五郎・亀治郎の二人。若いだけに切れもよく、互いに火花を散らしながら踊り比べをするような気迫。舞踊の苦手な私だがここまでの迫力だと瞬きも惜しいくらいに食い入るように観てしまった。
染五郎の「端正さ」と亀治郎の「濃厚さ」。その個性の違いと組み合わせによって醸し出される味わい。これからもいいコンビになるぞという確信が湧いてきてわくわくした。PARCO歌舞伎でも感じた魅力がこれからは古典的な味わいの舞台でも味わえるのだと期待が膨らむ舞台だった。
2)「ひと夜」
「昭和の黙阿弥」とたたえられた宇野信夫の処女作で新劇で初演。新派や歌舞伎でも上演された作品だということで、どうりで雰囲気がずいぶんといつもと違った。上演順はこちらの方が「寿式三番叟」の前。あらすじは以下の通り。
時代は大正半ば。浅草に住む日蓮宗の行者田口(歌昇)の家に健吉(橘太郎)がおとよ(芝雀)を連れてくる。おとよは活動写真館の下座松太郎(信二郎)の女房。夫は常軌を逸したやきもち妬き。今日も喧嘩の末に家を飛び出したのだった。健吉の家に泊めてもらおうとしたが妻の嫉妬でいられなくなり、行者なら安心と連れてこられたのだった。
雀右衛門が襲名興行でおとよを演じて以来の上演とのこと。そのおとよを子息の芝雀が演じたのだが、従来幸薄い女が似合うと思っていたイメージを吹き飛ばしてくれた。憎めない可愛い女なのだ。生い立ちの境遇が似ていることで親近感を抱いた田口に連れて逃げてくれとすがり、田口が悩んだあげくに決意したところを夫に見つけられると喧嘩のほとぼりも冷めていたためか急に元の鞘に収まってしまい、田口にすがったことなどおくびにも出さない。翻弄される田口のほろ苦い哀れさを歌昇がいい味で好演していた。
特筆すべきは松太郎の信二郎。奔放な妻が許せないとキーキーとわめきたて、許せない妻の行動を見たら殺してともに死のうといつも剃刀を持ち歩いているという偏執的な人物。可愛い妻に異常に惚れ込んでのことなのだ。噂にはなっていた信二郎の怪演。ここまではじけていてくれるとは嬉しい驚きだった。
おとよもそこまで惚れられたらそれも嬉しいという感覚で一時の勘気さえ冷めればすぐにアツアツムードになる。結局は我儘者どうしのお似合いの二人というわけで、振り回される周囲がお気の毒。今回の犠牲者が田口だっただけなのかもと思わせる。こういうことってあるかもしれないと思わせるおかしくてホンワカしてほろりとさせる舞台だった。演舞場での大歌舞伎の幕開けにはふさわしかったと思った。
五月大歌舞伎・昼の部②「夏祭浪花鑑」の感想はこちら
そうやって表現するのですね!!
個性の違いはわかったのですが、それを言葉にできなくて自分にもどかしい思いをしました。
もっとも私は亀治郎さん中心に観ていたので比べきれてないのですけど…
でもとても楽しい踊りでした。
TBさせていただきました。今回は間違えていないと思います(笑)
染五郎さんファンのワタシは堪能しました。
『高田馬場』からの繋がりだからか、亀治郎さんとの息もピッタリで、圧倒されました。
若々しい舞踊でしたねぇ。
これが世話物ですよね。江戸ではなくて、大正の。
今回芝雀・信二郎・歌昇がいきいきとそれぞれの人物を好演していた。面白かった。
題名と主人公の名前、イン踏んでるのね。
>染五郎の「端正さ」と亀治郎の「濃厚さ」.....この表現、二人の踊りを観ている時にフッと頭に浮かんできたんですよ。キーワードは観ている時に浮かぶ時と反芻している時に浮かぶ時の両方あります。けっこう感覚を言葉に置換する方なんで(^^ゞ
ウフフ、亀治郎丈贔屓さんなんですね。私は両方同じくらい好きなので平等に目が行きました。これって幸いなのかも。
★aroma姉さま
そうですか、染五郎丈贔屓さんなんですね。PARCO歌舞伎以来いい感じですよ。これからも新作・古典いろいろ組んでやって欲しいです。
★さちぎく様
>ひとよ...おとよと韻を踏んでいるのには気がつきませんでした。なるほど~。宇野信夫の作品がこのところけっこうかかってますよね。なんでなんだろう。
でもまあ昼の部の幕開きって時代物でこられるのはあまり好きじゃないので世話物のこういう作品での幕開き、けっこういいと思いました。
芝雀・信二郎・歌昇っていつもは脇役ばかり観てましたが、シンになった芝居を今回楽しませてもらって嬉しかったです。
TBは本日ようやく成功しました(^_^;)。新橋演舞場の五月歌舞伎は、昼夜とも豪華な顔ぶれと狂言で楽しめました。夜の部もご覧になったとのこと、感想を楽しみにしています。
歌昇さんの演技に切なくなりました。
どこにでもあるお話ですが、感情移入できた舞台だったと思います。
寿式三番叟は5月歌舞伎で一番気に入りました。
やはり踊りが上手いと飽きませんね。
昼の部で演舞場、夜の部で歌舞伎座とハシゴしましたので、幕間の短時間だけでしたがお話できてよかったです。TBが不調なことも多くそういう時は私もがっかりしてしまって気が重くなってしまいます。何回もトライしていただきまして有難うございましたm(_ _)m
演舞場の夜の部も2回に分けて書く予定です。ボチボチいきますので、よろしく(^^ゞ
★真聖さま
「寿式三番叟」は、染五郎・亀治郎の二人の個性の違いと組み合わせによって醸し出される味わいが実に絶妙でした。「決闘!高田馬場」以来いいコンビの誕生だと思います。これからの共演も楽しみになりました。
「ひと夜」はいつもは脇の3人の新しい魅力を見せてもらえて嬉しかったです。こうやってシンをつとめることって役者さんが大きくなるチャンスですよね。