紫陽花の咲く庭に入ってゆく。
みずみずしい緑の溢れた庭。
久々に、草花舎のYさんやTちゃんにお会いする。
常連のお客の方たちにも。
コーヒーとケーキをいただく。
ケーキ皿には、桑の実が添えてあった。
草花舎の中庭に、桑の木がある。その完熟の実と赤い実と。
桑の実に関する二つの思い出がよぎる。
☆ 戦争中、桑畑で、桑の皮剥ぎをしたこと。その作業の合間に、桑の実を採って食べ、甘酸っぱくておいしかったこと。採った実をポケットに入れ、白い服の一部を赤紫色に染めてしまったこと。
☆ 家から500メールのところに、今も桑の大樹がある。それを知ったのは、70歳を過ぎてからであった。(その木の実も、もう熟しきっているのだろうか?)
当時、朝の散歩を日課としていた。ほぼ同じ時刻に散歩する同年の友達がいて、「桑の実が熟したよ」と教えてくれ、その木の存在を知ったのだった。(私は子どものころに見た桑畑の桑の木しか知らなかったので、庭木として、また自然木として存在することなど想像したこともなかった。)
熟すとたくさんの実が落ちて、アスファルトの道を桑の実色に染めたものである。
その同級生は、5年以上前に故人となり、比較的近所にいて、気楽に声をかけてくれる身近な友だちは存在しなくなった。
カウンターに、ササユリの花。
家から遠からぬところに、今もササユリの原があるはずである。しかし、一人で出かけるには寂しすぎる場所である。
その山里を案内してくださった知己も、今は亡き人である。私より10歳も若い方だったのだが……。
今日は、ケーキ皿に、アクセントとして添えられた桑の実と花瓶のササユリを目にし、ひと時、思い出に浸ることになった。
食欲の増進につながる「ニラだれ」の作り方を、料理センス抜群のTちゃんに教えてもらった。
スプーン 一匙分を試食させてもらったところ、いろいろなお菜の引き立て役にもなりそうな味であった。栄養もたっぷりで。
材料やその分量を記したメモをもらった。次回、買い物に出かけたとき、材料を求めてきて、作ってみようと思う。Tちゃんのように、上手には作れないだろうけれど。
草花舎の庭歩きもせず、カウンター席でコーヒーをいただいたり、話したりしているうちに、ササユリが開花しので驚いた。
そこには、静かな<時>の経過があって。
気づくと、葉の形が、笹そっくりである。
名前の由来は、葉の形から来ているのだろうか?
<ささ>には<小さな>という意味があるから、<小さな>百合という意味もあるのかもしれない。
Yさんによって、センスよく活けられた花が、所を得て美しい。
これは、常連客のHさんが育てられたカエデの盆栽。
以前見たときより、背丈が少し伸びたようだ。
帰途につこうと、草花舎の外に出ると、今年二度目のホトトギスの声が耳に届いた。
ずいぶん、もの哀しい鳴き声であった。
夕べのせいか、私が心身疲労気味であるせいなのか?