かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

「東京建築祭2024」に誘われて、「築地本願寺」の中へ

2024-06-08 03:15:29 | * 東京とその周辺の散策
 *思い出の日比谷「三信ビルディング」

 東京では、街の再開発と称して今まで建っていた建物やビルが壊され、新しく超高層ビルがあちこちに出現している。
 私が好きな日比谷界隈でも、2018年に竣工した地上35階の東京ミッドタウン日比谷が日比谷公園を見下ろすように聳えている。この東京ミッドタウン日比谷があるところには、もともと何が建っていたかというと、日比谷三井ビルディングとその向かい側にあった三信ビルディングである。
 私は、この三信ビルディングが好きだった。この近辺に来たときには、何の用がなくともついフラリと入ったものだった。
 「三信ビルディング」は、1929(昭和4)年の竣工で、当時のモダンさを感じさせる建物だった。1階は、2階までの吹き抜けのアーチ型天井を持つアーケードの商店街が貫いていた。そして、1階から見上げてみると、2階柱部分には鳥の彫刻が施されていた。さらに立ち止まらざるを得なかったのは、通路の中ほどにある扇場に並んだクラシカルなエレベーターの壮麗さであった。
 そのアーケードの商店街には、フレンチ・レストランやスナック風カフェもあった。であるから、ビルの中に入った途端、パリの街中に紛れこんだような気分になれるのだった。
 あの辺りを歩いていると今でも、よくあんなビルがあったものだ、幻のようなビルだったなあと懐かしく思い出す。
 有名な名所旧跡でなくとも、いいなあと思っていたり、何となく気にいっているといった建物を誰もが持っていることだろう。しかし人と同じく、どんな建物でもそこにいつまでも在るわけではない。いつの間にかなくなっていることも多い。

 *今年から始まった「東京建築祭」

 個性的な建物がなくなりつつあるなか、それを惜しむように、東京の個性的な建物を見て廻ろうという「東京建築祭2024」が5月25、26日を中心に行われた。
 今年が初めての催しである「東京建築祭」は、主に日本橋・京橋、丸の内・大手町・有楽町、 銀座・ 築地のエリアにある建築を見て回るイベントである。 普段見られない建物を自由に見学できる特別公開や、専門家による案内人の説明を聞きながら見学できるガイドツアー(申込制)などのプログラムも用意されていた。

 今回、参加する30件以上の建物のなかで、特別公開は以下の18件。
 <日本橋・京橋>エリア
 「日証館」、「三井本館」、「三越劇場」(日本橋三越本店)、「江戸屋」、「丸石ビルディング」
 <銀座・ 築地>エリア
 「築地本願寺」、「カトリック築地教会」、「旧宮脇ビル」(川崎ブランドデザインビルヂング)、「井筒屋」、「SHUTL」(中銀カプセルタワービル カプセル再活用)
 <丸の内・大手町・有楽町>エリア
 「東京ステーションホテル」(東京駅・丸の内駅舎)、「新東京ビルヂング」、「国際ビルヂング」、「堀ビル」(goodoffice新橋)、「明治生命館」(丸の内 MY PLAZA)
 <神田>エリア
 「安井建築設計事務所 東京事務所」、「神田ポートビル」、「岡田ビル」

 *築地本願寺の中へ入ってみた

 5月25日午後、築地地域の特別公開建築を見て廻った。地下鉄・東銀座駅から西の築地方面に出発する。

 ・「築地本願寺」(中央区築地3-15-1)
 築地本願寺は、浄土真宗本願寺派の関東における拠点の寺院である。
 今まで、築地本願寺の前を通り過ぎることはあっても、中に入ったことはなかった。しかし、外から何度見ても威容、偉容というより、寺としては異様と思える建物である。
正面の学校の入口を思わせる門を入り、初めて寺の中に入った。
 普段は寺の中には人はあまり見受けられないのに、この日は多くの人がいるし、テントを並べた出店のようなものまである。外国人も多く目につくし、建築に興味がない人でも、祭りとあればこうやって集まってくるのだ。
 正面の奥にある本堂である建物の前には階段があり、その上に構える本堂は西洋建築を思わせる列柱が並び、そこにインド様の飾りを施した半円状の屋根が乗っかっている。
 その本堂は、左右に延びていて、両翼にストゥーパ(仏塔)のごとき塔を擁している。正面階段の両側には、狛犬ならぬ羽を持った獅子が睨みをきかしている。
 威風堂々。外観は、西洋様式かインド洋式かわからない日本の寺である。(写真)

 正面右手に行列ができていたので係員に訊いたら、特別公開の貴賓室を見る列だというので、この日しか見られないのであるから仕方なく並んだ。ここに似合わないコスプレのような服を着た少女たちもいたが、それも祭りならではのほほえましい光景だ。
 40分以上並んでやっと室内に入り、貴賓室のある2階にたどり着いた。
 まず貴賓室の前にある控え室を見て、そして貴賓室に入った。貴賓室はテーブルと椅子が並んでいて、思ったより大きな部屋ではない。天井からは派手ではないシャンデリアが下がった瀟洒な感じの部屋であった。
 寺の外や、寺の中の室内のいたるところに、獅子のほかに馬や牛などの動物の彫像があるのも異端といえば異端なのかもしれないが、それを見つめるのも楽しい。

 貴賓室を見たあと、正面の本堂に入った。
 思ったより広々とした堂内は、畳敷きではなく椅子が並ぶ。正面には阿弥陀如来像が鎮座していて、天井にシャンデリアが下がり、出入口の上部には教会のようにパイプオルガンが置かれている。
 仏の説教も讃美歌も共存している異空間である。ここにシルクロードの痕跡が見えてくる。

 築地本願寺をあとに、聖路加国際病院を横切ってカトリック築地教会へ向かった。

 *カトリック築地教会、井筒屋、旧宮脇ビルを廻る

 ・「カトリック築地教会」(中央区明石町5—26)
 外からパッと見るとパリのマドレーヌ寺院のようで、ギリシャ建築の神殿を思わせる。
 もともと外国人居留地だったこの場所に、1874(明治7)年、東京で最初のカトリック教会である築地教会が建てられた。現在の聖堂は1927(昭和2)年に建てられたもので、東京都選定歴史的建造物に指定されている。
 通りにギリシャ式門柱の門があり、その門を入った敷地のなかに、フランスから送られたという鐘が置かれている。
 清楚かつ威厳を持った白い壁の聖堂の中に入ると、穏やかな空気が漂っていた。正面に十字架が掲げてあり、脇にキリストを抱いたマリア像がある。
 ここも中は人がいっぱいだ。

 カトリック築地教会を出て、銀座方面に進むとその前に新富町に行き着く。

 ・「井筒屋」(中央区新富2-4-8)
 新富町駅の近くのビルの間に、置き忘れられたようにひっそりと佇んでいるのが井筒屋である。
 約100年前の大正時代の後期に建てられた木造3階建てで、見るからに朽ち果てようとしている。空き家かと思いしや、最近2024(令和6)年1月に、「the design gallery」として再生されたとのことである。

 井筒屋を出て、銀座1丁目に入った昭和通りの角に、そのビルはあった。

 ・「旧宮脇ビル」(川崎ブランドデザインビルヂング)(中央区銀座1-20-17)
 高いビルが並ぶこの通りでは目につく低層の3階建ての建物が、旧宮脇ビルである。
 茶色のレンガ調の外観は、珍しい加飾タイル張りというもので、建物に温かい雰囲気を醸し出している。
 1932(昭和7)年に建てられたこのビルは、当初は「五十鈴商店」という油を売る店だったが、その後は、小料理屋の「小鼓」(こつづみ)という店だった。
 2013(平成24)年に、老朽化が進み解体するところを、内部を改修して「銀座レトロギャラリーMUSEE」として再スタートし、現在も活動している。
 この日は窓を開けて外から内部が見られるように配慮してあったので、3階の天井の木造の梁がよく見えた。

 *
 「東京建築祭」というイベントを機に、築地本願寺をはじめ築地界隈の建築を散策したが、エントリーされた以外の建物に足を止めることもしばしばあった。
 東京は再開発という名のもと、古い建物が壊され続けている。新宿の小田急ビルも、まだ工事中ではあるが、いつの間にかあの大きなビルがなくなっていた。
 日本の建物は、木造に限らず鉄筋コンクリート建物でも欧米の建物に比べると寿命が短いようにみえる。
 先ほど、全国の「消滅可能性都市」というレポートが発表されたが、街も建物もいつ消えるかわからないので、できる限り見ておいて、記憶、記録に留めておかなくてはいけない。

 日も暮れたこの後、新富町のフレンチのビストロに行った。

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