かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

ミシュランの☆佐賀探索② 佐賀伝統の料亭、☆☆楊柳亭

2014-10-17 01:18:12 | ワイン/酒/グルメ
 先月のことだ。9月22日の夜、「ミュシュランガイド福岡・佐賀2014」を小脇に抱え、私は佐賀駅を降りた。
 ミシュランの星を獲得したのは佐賀県内で12店で、3つ星はなく、2つ星は3店である。
 佐賀市内での2つ星は、日本料理の楊柳亭のみである。これは、ぜひ行かねばならないと思い、先日予約しておいたのだ。

 佐賀市は平坦で分かりやすい街である。
J R佐賀駅を挟んで南北に中央の大通りが走っている。北へ行くと里山に出て山あいにたどり着くが、南はどこまでも平坦で、最後は有明海に行きつくことになる。ということは、かつて佐賀市の南は浅海で、干拓で平地を広げたのである。
 そういう意味ではオランダのアムステルダムのようで、佐賀市ももっと自転車文化を発達させた方がいいと思うのだが、自転車で市内観光している姿はほとんど見かけない。
 駅近辺でレンタル自転車を普及させたらいかがだろう。大牟田駅でも、駅内で市が積極的にレンタル自転車をやっていたので、自転車で炭鉱遺跡の跡を走ったことがある。大町町でも、利用者を見たことがないがレンタル自転車をやっている。しかしここは、狭量にも走る範囲は町内限定というから利用も難しい。

 佐賀駅を降りて、南にまっすぐ延びた中央通りを進むと、この通りの左右が、特に左(東)側が佐賀市の繁華街である。町名も唐人町、呉服元町など風情のある町が集まっている。
 その中央通りを歩いて20分、ゆっくり歩いても30分もかからずに国道207号線にぶつかり、その国道に並行した濠に架かる橋を渡ると、ゆったりとした景色に変わる。すると、やがて佐賀城が見えてくる。この辺りは美術館や図書館も散在していて、市内の文化的憩いの地域でもある。
 この中央通りの国道の手前の東側に佐嘉神社と松原神社がある。松原神社の東側の鳥居からさらに東の脇道を入ると、そこに前庭を有した古い屋敷がある。そこが、料亭、楊柳亭である。
 今までも佐賀をぶらぶらと散策している時、何度かその前を通ったことがある。風格のある屋敷なので、たちどもることになる。道から屋敷を見るだけである種の雰囲気が伝わってくるから、どうしても一人では入りづらい。ある時は、玄関口で、店の案内書をもらって帰ってきたこともある。
 こういうところは、女性と来るものである。
 (前ブログ「ミシュランの☆佐賀探索①」に楊柳亭玄関前写真有)

 *

 庭先から玄関まで歩いている間に、そこかしこに潜んでいた歴史がそっと忍び込んでくるようだ。
 玄関を入ると、書が掲げてある。明治の政治家で参議、外務卿を務めた佐賀藩出身の副島種臣の書である。副島は書家としても名を成している。さらに奥には、明治の三筆の1人である中林梧竹の書がある。
 この料亭は明治15年創業とあるので、ゆうに百年を超えた年月を刻んでいることになる。
 この辺りに枝垂れ柳が多かったことに由来して、楊柳亭と名付けたのが初代の佐賀県知事鎌田景弼というから、昔から格式のある料亭で、政治家や経済人が利用していたのであろう。副島種臣が来ていたということは、大隈重信あたりも来ていたのかもしれない。
 戦後の昭和24年の昭和天皇の全国行幸の際は、この楊柳亭で宿泊されたというから、県内随一の格式と認められていたのである。
 ミシュランの星は、おそらくこの佐賀県随一ともいえる格式を有する料亭を蔑ろにすることができなかったのであろう。

 玄関を入って、奥の階段を上がった2階の座敷の部屋に中居さんが案内してくれた。
 畳の古いたたずまい。二人には、ゆったりと広すぎるぐらいの部屋だ。一人だと、空間と雰囲気をもてあましそうだ。
 まず、烏賊の麹漬けイクラ添え、先付(前菜)として南京豆腐、鰹・鯛・かますの造りが、出てくる。(写真)
 これを摘みにビールを飲む。
 頃合いを見計らって、中居さんが椀や鉢を運んでくる。
 蓮根饅頭の芋田楽・おくら添え、豚白菜巻き茸ソース掛け、鰯湯葉揚げ、津蟹汁、そして焼き締め鯖。
 それほどゆっくり食べているわけではないが、時間はゆっくりと流れていく。
 これらを食べ終わったころ、そろそろ締めとなる主食とでもいおうか、飯物として釜揚げうどん(もしくはそば)が出る段取りである。
 デザート(水物)として、りんごムースジュレ(ゼリー)掛け。

 佐賀の夜は、ゆったりと更けていった。ここでは、つかのま現実を忘れてしまう。こうした浮世離れした一夜も、経験としていいものであろう。
 
コメント
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