半透明記録

もやもや日記

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『幸福な王子』

2004年12月30日 | 読書日記ー英米
ワイルド 西村孝次訳(新潮文庫)


《あらすじ》

死の悲しみよりも強い愛の優しさを
高らかに謳いあげた名作『幸福な王
子』のほか、『ナイチンゲールとば
らの花』『わがままな大男』『忠実な
友達』『すばらしいロケット』『若い
王』『王女の誕生日』『漁師とその魂』
『星の子』など9編を収める。諷刺
と逆説に生きた一代の才子ワイルド
の献身的な人間愛が全編にあふれ、
簡素だが陰影に富む格調高い文章で
綴られた珠玉童話集。


《この一文》

” かわいそうに小さなつばめは次第に寒くなってきましたが、しかし王子を置き去りにして行ことはしませんでした、つまり心から王子を愛していたのです。
    「幸福な王子」より   ”



寒くて、悲しくて、惨めで、報われることもなく、そうであっても結局のところ世の中はなんと美しいのでしょうか。
そんな感想です。

『ソラリスの陽のもとに』

2004年12月28日 | 読書日記ーSF
スタニスワフ・レム 飯田規和訳(早川書房)


《あらすじ》

菫色の霞におおわれ、たゆたう惑
星ソラリスの海。一見なんの変哲
もない海だったが、内部では数学
的会話が交わされ、みずからの複
雑な軌道を修正する能力さえもつ
高等生命だった! 人類とはあま
りにも異質な知性。しかもこの海
は、人類を嘲弄するように、つぎ
つぎと姿を変えては、新たな謎を
提出してくる・・・思考する<海>
と人類との奇妙な交渉を描き、宇
宙における知性と認識の問題に肉
迫する、東欧の巨匠の世界的傑作


《この一文》

”「ワンピースを着たままでは、これは着られないよ。そいつは脱がないといけない」
 「コンビネーション? また何のために?」ハリーは興味を示して、すぐにワンピースを脱ぎにかかった。しかし、そのとき驚くべき事実が明らかになった。ワンピースは脱ぐことができなかった。ボタンもなければ、チャックもなく、ホックもなければ、何もなかったのである。胸の中央に一列についている赤いボタンはまったくの飾りにすぎなかった。ハリーははずかしそうにほほえんだ。   ”


面白いテーマです。
タルコフスキー監督の映画『惑星ソラリス』も観てしまいました。
しかし、この間のソダーバーグ版『ソラリス』はまだ観てません。
それなのに、早川文庫の表紙が映画公開にあわせてジョージ・クルーニーさんの顔入りになっているのを買ってしまったのは、なんとなく複雑です。
いえ、いいんですけど、表紙なんて別に・・・。
国書刊行会から原典邦訳版が出たらしいので、そちらも読んでみなくてはなりません。
少し内容が変わっているそうです。
というより、これまでのものが本来と少し違った内容だったというべきでしょうか。
興味津々です。

『チリの地震』

2004年12月27日 | 読書日記ードイツ
ハインリヒ・フォン・クライスト 種村季弘訳(河出文庫)


《あらすじ》

古典主義とドイツ・ロマン派の
はざまで三十四年の壮絶な生涯
を終えた孤高の詩人=劇作家ク
ライスト・・。カタクリスム(天
変地異)やカタストロフ(ペスト、
火災、植民地暴動)を背景とし
た人間たちの悲劇的な物語を、
完璧な文体と完璧な短篇技法で
叙事詩にまで高めた、待望の集
成。


《この一文》

”----あなたさまの四人のご子息さまがたは、一瞬にぶい鐘の音に耳を澄ましてからやおら一斉に席を立ち、そんな奇妙にもいぶかしい始まりだけにこれから何事が起こるのだろうと私どもがテーブル・ナプキンを下におき不安な期待にみちて見上げるうちに、思わずこちらが愕然とするようなものすごい声で栄光の賛歌を斉唱しはじめるではございませんか。
     「聖ツェツィーリエあるいは音楽の魔力」より  ”



とにかく迫力があります。
そして恐ろしくなるような悲劇ばかりです。
激流のような展開のはやさに、息苦しさを感じながらも最後まで読み通してしまうような、とてつもなく勢いのある文章です。
全体的に暗い雰囲気なので、あまり読み返したくないのですが、たまに気になってついまた読んでしまう、そんな1冊です。

『黒い時計の旅』

2004年12月26日 | 読書日記ー英米
スティーヴ・エリクソン 柴田元幸訳(福武文庫)


《あらすじ》

バニング・ジェーンライト。アドルフ・ヒトラー
のために、ポルノグラフィーを書く男。「ふたつの」
世界を旅する男。彼の口から、果てしない迷路
のような物語、呪われた愛をめぐる”もうひとつ
の二十世紀”の物語が、いま語りだされる・・・。
数多の絶賛を浴びながら、現代アメリカ文学界
に彗星のごとく登場したスティーヴ・エリクソン
の傑作長篇。


《この一文》

” 復讐の世紀における復讐の神。この世紀が結局のところは救済の世紀だった、なんてとうていあり得るとは思えない。まさか。冗談じゃない。これだけ悪業を積み重ねてきた私が、どこかで、何か小さな、目につかない優しい行為、すべての罪を贖い帳消しにするささやかな善行を行なったのだ、なんてとても考えられない。そんな馬鹿な話があるものか。だがそれでも、時間と空間があらゆる基準点からみずからを解放した世紀にあって、もしかしたら、たったひとつのささいな善良な行ないが宇宙それ自体を所有しているのかもしれない。怪物のごとく醜悪な、千もの悪の世界たちが、その行ないの愛の前に、服従を余儀なくされているのかもしれない。私にはもう分からない。   ”



ガルシア=マルケス、ホセ・ドノソ等のラテン・アメリカ文学の魔術的レアリズムの衣鉢を継ぐ作風で知られる作家と言われて、読まないわけにはいきません。
実際読んでみると、面白かったです。
最初の方は正直退屈で辛かったのですが、途中から異常な盛り上がりでした。
いくつかの話が平行して進んでいくのがこの人の特徴かもしれません。
『彷徨う日々』という小説も最近読みましたが、これまた面白かったです。
私としては珍しく気に入っているアメリカの作家です。

『ルバイヤート』

2004年12月25日 | 読書日記ーその他の文学
オマル・ハイヤーム作 小川亮作訳(岩波文庫)


《内容》

生への懐疑を出発点として、人生の蹉跌や苦悶、
望みや憧れを、短い四行詩(ルバイヤート)で
歌ったハイヤームは、十一世紀ペルシアの詩人
である。詩形式の簡潔な美しさとそこに盛られ
た内容の豊かさは、十九世紀以後、フィッツジェ
ラルドの英訳本によって多くの人びとに知られ、
広く愛読された。


《この一節》


” 造物主が万物の形をつくり出したそのとき、
  なぜとじこめたのであろう、滅亡と不足の中に?
  せっかく美しい形をこわすのがわからない、
  もしまた美しくなかったらそれは誰の罪?    ”



生れてはじめて買った詩集がこれでした。
私が思っているようなことは悉く既に書かれてしまっているということを思い知らされました。
しかも、美しい形で。
こんな短い文章によって心を動かされるというのは一体どういうわけなのでしょう。
不思議です。

『SUDDEN FICTION 2 超短編小説・世界篇』

2004年12月24日 | 読書日記ーその他の文学
ロバート・シャパード/ジェームズ・トーマス編 柴田元幸訳(文春文庫)


《内容》

まさに<世界文学全集超小型お買
い得版>。とびきりのショートショ
ート・アンソロジーの世界篇は
20世紀世界文学のビッグ・ネーム
から意外な掘り出し物までずらり60。
ボルヘス、ガルシア=マルケス、コ
レット、カルヴィーノ、それに川
端康成。超豪華メンバーがそれぞ
れほんの数ページで小説の醍醐味
をたっぷりと味わわせてくれる。


《この一文》

” オリオンの死体のかたわらに横たわったアルテミスは、たった一つの行為によって、自分の過去までが変わってしまったことを悟る。未来はまだ手付かずのまま、いまだ救われぬままだ。だが過去はもはや救えない。自分はいままで思っていたような存在ではない。あらゆる行為、あらゆる決断が、こうしてこの場に彼女を導くに至った。階段の一番上の段が夢遊病者を待ち受けるように、この瞬間も、ずっと前から彼女を待っていたのだ。
   「オリオン」ジャネット・ウィンターソン(イングランド)より  ”

”----彼女の瞼は光をぼんやり通すブラインドだった。
 瞼を開けると、病院の一室の艶やかな壁が見えた。彼女の手を誰かの手が握っていた。
 彼の手が。
    「末期症状」ナディーン・ゴーディマー(南アフリカ)より  ”



「SUDDEN FICTION 超短編小説70」に続く第二段です。
世界各国の小説が読めます。
これでしか読めないかも、というような品揃えです。
私は短篇をとても好むのですが、読んでもすぐさま忘れてしまうので、何度でも楽しめるのでした。
60の物語の中でも例外的に良く覚えていたのは「末期症状」というお話です。
約8ページの短い物語ですが、とても印象的なのです。
ナディーン・ゴーディマーという名前は読むまでは知らなかったのですが、結構有名なようです。
他にもその時は気が付かなかったけれど、あとになってから、「この人この本にも載ってたのか!」と気が付く作家も沢山いました。
バリ-・ユアグローとか。
リチャード・ブローティガンとか。
フリオ・コルタサルとか。
私が成長するごとに、また面白くなるという貴重な一冊なのでした。

『未來のイヴ』

2004年12月23日 | 読書日記ーフランス
ヴィリエ・ド・リラダン 齋藤磯男訳(創元ライブラリ)


《あらすじ》

恋人アリシヤのヴィナスのような肉体、輝くばかりの美
貌、しかしその魂のあまりの卑俗さに英国青年貴族エワ
ルドは苦悩する。自殺まで考える彼のために、科学の英
雄エディソンはアリシヤの肉体から魂を取除くことを引
受け、人造人間ハダリーを創造する。


《この一文》

” 甲冑體の中に封じ込められた生きた女ではあるまいかといふ幻想を、これほどまでに彼に與へてゐたこの「存在」が、「科學」と、忍耐と、天才とから生れた、全く虚構の存在であると認容することは、エディソンの理路整然たる説明にも拘らず、彼には不可能であつたのだ。”


この長い物語を読み終えるころには、すっかり正漢字・歴史的仮名遣いにも慣れることができます。
登場するエワルド(面食い貴族)やエディソン(マッドサイエンティスト)といった人は、性格に問題があるような気がして仕方ありません。
それはともかく物語はとても面白いのでした。
ハダリー(Hadaly)というのは古代ペルシヤ語で「理想」を意味する、という註が付いていました。
ロマンです。

『ロボット(R.U.R.)』

2004年12月22日 | 読書日記ー東欧
カレル・チャペック作 千野栄一訳(岩波文庫)


《あらすじ》

ロボットという言葉はこの戯
曲で生まれて世界中に広まっ
た。舞台は人造人間の製造販
売を一手にまかなっている工
場。人間の労働を肩代わりし
ていたロボットたちが団結し
て反乱を起こし、人類抹殺を
開始する。機械文明の発達が
はたして人間に幸福をもたら
すか否かを問うたチャペック
(1890-1938)の予言的作品。


《この一文》

”アルクビスト: --(中略)--町や工場、われわれの芸術、われわれの思想は生命には何の役にも立たない。それなのに生命は亡びないのだ。ただわれわれだけが亡んだのだ。家々や機械はくずれ落ち、世界の体制は壊れ、偉大な人々の名は木の葉のように落ちていく。ただお前、愛よ、お前だけが廃墟で花を咲かせ、生命の小さな種を風に任せるのだ。主よ、今は汝の下僕に安らぎをお与え下さい。私の目は見たのです--見たのです--愛による主の救いを。生命は死に絶えることはありません!(立ち上がる)不滅です!(両手を前にさしのべる)不滅です!    ”


チェコを代表する作家、カレル・チャペックの作品です。
最近はお兄さんで絵描きのヨゼフ・チャペックも人気があるようです。
戯曲はどういうわけか敬遠してしまう私ですが、この作品は楽しめました。
それほど長くはない物語の中に様々な問題を提起しながら面白くかつ感動的に話を展開させていくチャペックという人の才能には目が眩みます。
同じ人の『山椒魚戦争』『絶対子工場』もまた深く考えさせられる作品です。

『フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇』

2004年12月20日 | 読書日記ーラテンアメリカ
カルロス・フエンテス作 木村榮一訳(岩波文庫)


《あらすじ》

「・・月四千ペソ」。新聞広告に
ひかれてドンセーレス街を訪ねた
青年フェリーペが、永遠に現在を
生きるコンスエロ夫人のなかに迷
い込む、幽冥界神話「アウラ」。
ヨーロッパ文明との遍歴からメキ
シコへの逃れようのない回帰を兄
妹の愛に重ねて描く「純な魂」。
メキシコの代表的作家フエンテス
(1928-)が、不気味で幻想的な世
界を作りあげる。



《この一文》

”----時計の針は、真の時間を欺くために発明された長い時間をうんざりするほど単調に刻んでいるが、真の時間はどのような時計でも計ることはできない。まるで人間を嘲笑するかのように、致命的な速度で過ぎ去ってゆくのだ。ひとりの人間の一生、一世紀、五十年といったまやかしの時間を君はもう思い浮かべることはできない。君はもはや実体を欠いたほこりのような時間をすくい上げることはできないだろう。
          「アウラ」より ”



この作品もまたラテンアメリカ文学に共通する独特の時間認識をもって描かれています。
読むうちに、過去と現在の、現実と非現実の境界線が失われていくようです。
短篇集の中でもとくにこの「アウラ」の結末はとても印象的でした。
不可思議かつ不気味な描写はとても幻想的であると同時に異常なリアリティをあわせ持ち、全ての物語はどこか物悲しさを感じさせます。
同じ人の『遠い家族』という作品も、強烈に面白かったと記憶しています。