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もやもや日記

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『FLIP-FLAP(フリップフラップ)』

2015年04月28日 | 読書日記ー漫画


とよ田みのる(アフタヌーンKC 講談社)



《あらすじ》
自身を「普通」、カギカッコが付くくらい本当の「普通」であると認めている深町は、高校最後の日に心の中の反逆児を総動員させ「変化」を試み、山田さんに「付き合ってください」と申し込む。すると山田さんからは意外な返答があり…。深町は山田さんの出した交際の条件を満たすため、【ピンボール】というゲームと出会い、そしてのめり込んでいくのであった。

《この一文》
“「ゲッ……なんてスコア出してんだ!! こりゃギャラリーもわくわ……」
 「違いますよ。本気でやってる人間は それだけで人を魅きつけるんです!!」 ”




いくつになっても青春の爽やかな風のただなかで成熟し続ける人間というのが存在するのかもしれません。とよ田みのるさんの作品を読むと、いつもそう感じてしまいます。この人はおそらく私と同世代の方なのでしょうが、デビュー作『ラブロマ』以来ずっと変わることのないこの爽やかさと朗らかさは一体なんなんだっ! 登場人物たちとともに過ごしていると、世界をまるで明るく美しく、ただただ楽しくまっすぐに、どこまでも歩いていけそうな気持ちになってしまうではないか! この私でさえ! 溢れかえる熱くて透明なエネルギーに、どこまでも駆け出してしまいそうになるんだ。


というわけで、とよ田みのるさんの『FLIP-FLAP』です。上にも書きましたがピンボールをめぐる青春の物語です。爽やかだー。キラキラ輝いて眩しいほどに明るいんだー。詰まらないことで腐っているのがバカらしくなるほどに健全なんだー。世界はいつだって美しいんだー!!! と、普段は暗黒塊そのものの私ですらポジティブエネルギーで満ちあふれるくらい、とよ田さんの作品は素敵なのでありました。どこれもこれも素敵。きっととよ田さんは人間の善性や可能性、ありきたりに見える普通の人間の価値というものに対して常に肯定的でいらっしゃるのではないかと。この世界には辛いことや苦しいこと、嫌なことや詰まらないことだってたくさんあるけれど、他人にはくだらなくても自分は心から楽しめる、心から愛せる何かを見つけてそれに全力でぶつかることができたなら、「それ」と「自分」が向き合う世界はもはやそれまでに考えていた世界とは全く別の世界となり得る。それは孤独であったとしてもきっと素晴らしい世界でもあるんだ。と、まあ、こういうお話でした。はあ、素敵だなあ。

私自身はピンボールをやったことがないですが、たとえばピンボールじゃなくても、何かに夢中になってそれに情熱を注いでいる人々の姿には心を打たれます。人生にはままならないことも多いけれど、自分の力で、ささやかなところからでも人生を喜びと楽しさで彩ることはできるのです。好きなことをもっと好きになっていく人生は美しいですね。なんの役にも立たなくても、誰にもその楽しさが分からないとしても。私自身はこのところそういう情熱を失って久しいのが寂しい限りですが、けれどきっと遠くない日に取り戻せるさ。『FLIP-FLAP』を読んで燃え上がるものが私の中にまだたしかにあるんだからさ。


明るくて爽やか。きっと人は誰でも青春のあのまっすぐさと熱さのなかで、いつまでも成熟し続けることができるはず。そう信じたくなる。そう信じるよもう私は。







『楽園まであともうちょっと』(全3巻)

2015年04月27日 | 読書日記ー漫画


今市子(花音コミックス 芳文社)



《あらすじ》
借金取りの浅田貴史と斜陽の旅行会社「楽園企画」社長、川江務の恋は遭難必至!? 浅田はローン会社社長、菊池と不倫中だし、奥さんは勘付いてるし、さらに…。もうこうなったら三~五角関係に突入か!?



気持ちが沈んだ時はコメディを読むに限る!!! ということで、今市子さんの『楽園までもうちょっと』などを読んでみました。今市子さんと言えばたぶん一番有名なのは『百鬼夜行抄』だと思いますが、あのシリーズのあれほどの恐ろしさから、この『楽園』その他のBL作品でのお笑いぶりまでの幅広さは凄いと言わざるを得ません。SFファンタジーみたいなのもお描きになりますしね。私はホラーが苦手なので断言できるわけではありませんが、恐怖物を得意とする漫画家さんはギャグやコメディを描かせても凄い人が多いような気がしますね。笑いと恐怖とは意外と似たところにあるのでしょうか。


それはさておき、『楽園までもうちょっと』のあらすじを書くと上のようになってなんだかドロドロと生々しいような感じもしますが、実際には徹頭徹尾明るくてさっぱりとした借金苦コメディでした。元嫁・小百合ちゃんの親父さんが死んでその会社と借金をなぜか引き継ぐことになってしまった川江(男)と、彼の元へ借金の取り立てに来るローンズ菊池の社員・浅田(男)との恋が物語の主軸になっているはずですが、なんかあんまり恋愛はどうでもいいというか、借金を返すために繰り広げられるドタバタ喜劇の方が面白過ぎて、正直BLはほんのおまけといった感じでしょうか。いやもちろん恋愛部分も面白いんですけれど、今市子先生のBLはどれもそんなふうで恋愛はどちらかというと二の次で、別の筋でもお話が愉快に進むことが多いような気がしますね。けれどもそこが私はとっても好きです。

また、この『楽園まで~』もそうですが、今市子先生の作品は登場人物のキャラクター設定がしっかりしていて、どのキャラもとても魅力的です。特にBL作品ではしばしば世界に男性しか存在していないかのような世界観が多いのに、今市子作品においてはむしろ登場する女性キャラが強烈で物語に欠かせない存在として登場するところがいいのです。私はそういう作品が好きです。『楽園まで~』では、川江の元妻・小百合ちゃんがものすごく愉快で楽しい人物でした。見切り品の2玉50円のキャベツから目が離せなくなるところとか面白過ぎて苦しい、笑いが止まらない…!

川江と小百合ちゃんがどのように借金を返していくのかも面白いのですが、この作品では「登山」についても扱われています。川江は元々は山登り用品の店の店長で、月に2度は山に登る山男という設定。元義理の父から受け継いだ旅行会社でも登山がらみのツアーを企画して、もちろん実現したツアーの先でもドタバタが巻き起こるのでした。この登山の部分では、実際に今市子先生の登山体験が元になったエピソードや、役に立つ登山知識などが盛り込まれていて勉強になりますね。


全3巻ですが、とても読み応えがあって万人に勧めたい作品です。でも、BL要素は薄いとは言えたしかにBL作品にも違いないので、「なんかおすすめがあったら貸して」とちょうどいまK氏から言われている私ですが、ちょっとためらっているところです^^; この程度の描写でも受け付けない人は受け付けませんからね。いちおう断りを入れてから勧めるか。






『さよならキャラバン』

2015年02月27日 | 読書日記ー漫画


草間さかえ(小学館フラワーコミックスアルファ)



《あらすじ》
ある日、いつもの学校の中に、見慣れない制服を着た生徒が何人もいることに気づいた羽田翔(はねだしょう)。どうやら近くにきているサーカスの団員が、一月だけ転入しているらしい。ある理由からサーカスにはまったく興味のない羽田だったが、ひとりの少女と出会って―――
超絶技巧派作家が描く魅惑の作品集!

《収録作品》
夜のおつかい/夜のロジック/本日はお日柄もよく/MONEY MONEY MONEY/
金魚の旅/さよならキャラバン/アトランティスより/比良坂町よもやま怪談/
猫被り徒然


《この一文》
“眼鏡のツルは温かくて
 それはまるで
 体の一部を手渡されたような ”
   「本日はお日柄もよく」より  



草間さかえさんが好きなんです。普段は主にBL作品を中心に描いてらっしゃいますが、その草間さんの一般向け(というべきか?)作品集です。ちょうどうちの近くにもサーカスが来ているという繋がりで、久しぶりに掘り出して読み返してみました。やっぱ面白いなあ。


私としては、草間さんの漫画は絵も話もものすごく巧いと思うのですが、ややクセがあるかもしれません。ひょっとしたら好みは分かれるかも。私はすごく好きなほうです。面白い。面白いです。漫画はこうでなくてはなりません。私は特に草間さんの描く眼鏡の男性像が好きでたまらず、すっと通った鼻筋に眼鏡が乗っかっているコマを、じーーーーーーっと、ひたすらじーーーーーーーっと眺めたりするのです。それから男性の足もとなどにも釘付けになってしまいます。革靴を履いた足の描き方が素晴らしくて、もう目が離せない。まじまじと、まじまじと見てしまう。…ええ、ええ、どうせ変態ですよ私は。ほっといてくれ!


絵柄を楽しめるだけでなく、お話も良いのです。質感が伝わってくるような表現がうまいですね。この作品集の中では特に「本日はお日柄もよく」でビリビリと伝わってきました。春の感じ。春のようにのどかなところから、台風のような大風が起こる感じ。上に引用した「眼鏡のツルの温かさ」のところなんて、この生々しさときたらものすごい。何と言っても、草間さんの作品の魅力はこういうところです。
また、物語の導入もその後の展開も素晴らしい。正直に告白すると私はこの作品が一番好きで、こればかり何度も何度も読み返しています。私はこういう話が好きなのです。良平さんが私の好みすぎてキーッてなります。

表題作の「さよならキャラバン」もとても素敵なお話です。やはりサーカスには独特のロマンがありますね。華やかであり、同時に少し物悲しいような。サーカスの団員で、公演のためにあちこちを転々とするアヤコと、羽田翔という飛べそうな名前の同級生のお話。私はこういう話も大好きです。うーん、素敵だなあ!!!

中には少し分かりづらいお話もありましたが、総じて読み応えのある作品集でした。ちなみに草間さんのBL作品についても私は目下収集中であります。だいぶ集まってきましたが、まだまだ。あれもこれも面白いので早く全部集めたいですし、草間さんには今後もBLに限らず幅広く活躍してもらいたいですね。






市川春子『宝石の国(1)』

2013年09月09日 | 読書日記ー漫画


市川春子(講談社アフタヌーンKC)



《あらすじ》
遠い未来、僕らは「宝石」になった―――。
粉々になっても再生する不死のカラダを持つ宝石28人と、彼らを装飾品にしようと襲いかかる月人(つきじん)との果なき戦い。
強くてもろくて美しい、宝石たちの新感覚アクション・バトル・ファンタジー。



このあいだkajiさんとお茶した時に借りました。その前日に私も梅田の書店まで買いにいったのですが、ちょうど在庫切れで買えなかったんですよね。今は最寄りの本屋で自分用にも買いましたが、売れているということなんでしょうかね? 売れているということなんだろうな。だって面白いものね。第1巻発売記念で、アニメPVが製作・公開されていますが、なかなかよく出来ていました。ああ、全編アニメ化しねーかなー。


さて、市川春子さんの新刊、『宝石の国』です。『虫と歌』『25時のバカンス』に続く3冊目。これまでの2冊は短編集でしたが、この『宝石の国』はアフタヌーンで連載中の長編とのこと。前2冊はいずれもとても、とても面白かったので、今作品にも期待が高まります。


で、早速読んでみた。気づいたら、忙しい合間を縫って5、6回は読み返していました。息子の唸り声にも気づかず読みふける、そろそろ秋。でも読むだけで精一杯で、感想を書くのには1週間以上かかってしまった。なにやら要求があるようすの息子から何度も妨害工作を受けるので遅々として進まず。くそー。


それにしても、面白いよ~~! 面白かったよ~~~!!

kajiさんから事前に聞いていましたが、設定としては「25時のバカンス」の世界がずっと進んだような感じですね。


 “月がまだひとつだった頃 繁栄した生物のうち
 逃げ遅れ 海に沈んだ者が
 海底に棲まう微小な生物に食われ無機物に生まれ変わり
 長い時をかけ規則的に配列し結晶となり
 再び浜辺に打ち上げられた
 それが我々である ”

ということらしい。ふむふむ。なるほど。何という美しい設定だろうか。身悶えするほど美しい世界ですね。SFファンタジーなところもたまりません。最近の漫画界に詳しい訳ではありませんが、こういう世界観は珍しいですよね。うーん、うーん。素敵だなぁ。


主人公は、脆く壊れやすく、なにをやらせてもダメなフォスフォフィライト。間抜けで可愛い人物です。
彼ばかりでなく、全体的に登場人物は可愛い。宝石たちの一人称がすべて「僕」であるというところにも悶絶ものです。ダイヤモンドなんかは今のところもっとも女の子っぽいのですが、やはり「僕」なので、それはそれは可愛らしいのです。あーもーだめだーーー!

しかし、愛らしい宝石たちよりもさらに愛らしいのが、途中で登場する謎のナメクジ。市川作品では、こういうヌルヌル系の生き物が異常に可愛いんですよね。


ほかにも書きたいことはある気がしますが、正直まだ読み足りないというところ。読み応えがありますね。さすが長編! とりあえず、もっと何度も深いところまで読んでみたい。そしてはやく2巻が出てほしい。





『それでも町は廻っている』(第10巻)

2012年08月20日 | 読書日記ー漫画

石黒正数(少年画報社)



《内容》
今巻は、しっかりと探偵ぽかったり、告白されたり、正義のために戦ったりしています。紺センパイも体育祭で大活躍!





『それ町』の10巻目。「それ町が最終回を迎えたらしい」という噂をどっかで見たような気がして残念に思っていたのですが、10巻を読んでみたところでは別に全然終わりそうにありませんでした。なんだ、ガセかよ、よかった~(^o^) 今回もほのぼの面白かったです。あとがきが特に面白かったな。

オンラインゲーム内での戦争の話と、謎の鉄の円盤の話が面白かったですね。あー、あと「体育祭」も良かった。

石黒さんの漫画はいくつか読んでみましたが、短編集よりも『それ町』の方が私は好きかもしれません。やっぱりキャラクターに愛着を感じるからだろうか。分からないけど、とにかくまだまだ続いてほしいわい。




…それにしても、今回の裏表紙は「なんでレバー(肝臓)の絵?」とか思ってたんですけど、どうやらあれは「クリームパン」だったっぽい…!!?






『謎の彼女X』(第1巻)

2012年06月23日 | 読書日記ー漫画

植芝理一(講談社アフタヌーンKC)



《あらすじ》
“よだれ”でつながる僕達の“絆”!! “正体不明”の恋愛漫画。
ある日、高校2年生の椿明(つばきあきら)のクラスに転校生がやってくる。彼女の名は卜部美琴。椿は、この風変わりな卜部と奇妙な絆で結ばれることになる。


《この一文》
“その晩 僕は 夢を 見た 
 どこなのか知らない
 ーー奇妙な街で
 ーー僕と卜部がーー

 二人で踊っている夢 ”





ぐはぁぁ~~~っ!!
たまらん!!!!


というわけで、『謎の彼女X』の第1巻です。ただいまテレビアニメシリーズが放送されていますが(あとちょっとで最終回…(´;ω;`))、その原作を読んでみました。作者は植芝理一さん。月刊アフタヌーンにて連載の漫画です。

この作品についてはアニメ化以前から聞いていた評判通り、なるほど面白い。私はアニメの方から入ったので大筋は既に知っていましたが、原作には原作なりのインパクトと魅力とが当然あって、面白かったです。17歳の椿くんと卜部さんの恋愛模様を描いているのですが、ここにはえも言われぬ「謎の」魅力が満載です。


まず、椿くんと卜部さんの恋愛が始まるきっかけが凄い。謎めいた転校生の卜部さんは学校の休み時間にはいつも机に突っ伏して寝ているような女の子です。ある放課後にもそうやって眠りこけていた卜部さんをみかねて隣の席の椿くんが起こしてやります。顔を上げた卜部さんは盛大に「よだれ」を垂らしていて、卜部さんが帰った後、椿くんは何故かその机の上にこぼれていたよだれを舐めて、「あまい…」。という、驚くべき始まり!

そして、椿くんはその夜、不思議な夢を見る。どこか知らない町で、椿くんと卜部さんが二人で踊っている夢を。

この後、椿くんが高熱で寝込むのは「卜部さんのよだれの禁断症状」であり、それは「恋の病」であり、結局二人は交際を始めることになって、卜部さんは指先につけた自分のよだれを椿くんに舐めさせるのを日課とするようになるのでした。


と、わりと変態的な恋の始まりですが、これが妙に爽やかなのです。二人は「よだれ」を介してさらに互いの理解を深めていく、という私などはこの謎めいた展開だけで完全にノックアウトされてしまうわけですが、やはり「よだれ」が二人を繋ぐキーワードであることから、好みは分かれるかもしれませんね。アニメ版のほうも、第1回では忠実に原作を再現してありましたが、椿くんが机の上にこぼれた卜部さんのよだれを舐めちゃうシーンで脱落者が続出していたようですし。しかし、ここを乗り切れば、あとは悶絶するほどに清々しい二人の純愛ドラマが待っているのでした。これはとても癖になる物語なのです。


ストーリーは純粋なラブロマンスであると思うのですが、この特殊性はどこからくるのかと言えば、やはり設定の奇妙さでしょうね。卜部さんという女の子のキャラクターが絶妙に謎めいています。不思議すぎる。「よだれがものすごく甘い」というのは椿くんの恋による効果であるとしても、必殺技を持っている女子高生っていうのは、ちょっと普通のラブストーリーではないでしょう。卜部さんの特技は「ハサミ」。前髪で顔が隠れていてどんな表情をしているのか不明、無口、そして実はいつもバンツにハサミを仕込んでいて、時折シュバッと構えては様々なものを細切れにしてしまうのです。なんという「謎」さ。

対する椿くんの方は、(よだれなどに対するフェチズムを含めても)いたって普通の男子高校生。生まれてはじめて女の子と付き合うことになってどうしたらいいか分からない、素直で可愛い性格。このバランスが良いのかもしれないですね。

それから、この作品の舞台がいったいいつ頃の年代に設定されているのか分かりませんが、かなり懐かしい感じがするところも良いです。携帯もなく、カメラもデジタルではなさそう。1990年代の香りがそこはかとなく漂います。ちなみにこの作品の初回は2004年発表、連載開始は2006年です。


まあ、とにかく面白い作品です。他人と繋がりを持つとはどういうことなのか、特別な相手と繋がりを持つとはどういうことなのかについて考えさせられる、しかも奇妙に面白く爽やかに練り上げられた優れた物語です。まだ第1巻しか手もとにありませんが、ここはぜひ続きも揃えたいところですね。

アニメ版については、最終回を迎えたらあらためて記事を書いてみたいと思っています(できれば終わらないでほしいけれども…)。








『石黒正数短編集 探偵綺譚』

2012年06月20日 | 読書日記ー漫画

石黒正数(徳間書店)



《内容》
〈嵐山歩鳥&紺双葉〉おなじみ先輩後輩コンビが友人失踪のミステリーに挑む! ファン待望の表題作を始めとして…石黒正数の多彩な魅力を満喫できる全11作品+α収録の傑作短篇集!!





『それ町』の石黒さんの短編集です。いろいろな出版社の雑誌に掲載された短編をまとめたもののようですね。

普通に面白かったです。表題作の「探偵綺譚」に登場する歩鳥と紺先輩のコンビは『それ町』とはやや設定が違うようですが、この二人が出て来るとやっぱりなんだか安心して読めますね。面白かった。
石黒さんの漫画はときどき恐ろしく冷たくてブラックになるので、私はどこに地雷が仕掛けられているやら分からないぞとビクビクして読みましたが、この短編集では全体的に笑えるものが多かったです。いくらかしんみりするものもありましたけれど。
表題作のほかには、体に爆弾を埋め込まれて生活する少年をめぐる「スイッチ」、ハードボイルドとは?に迫る「気の抜けたビールで…」が面白かったかな。




『それ町』の最新刊もそろそろ出るようなので、そちらも楽しみです(^_^)







『栞と紙魚子』(文庫版第1巻)

2012年06月11日 | 読書日記ー漫画

諸星大二郎(ソノラマコミック文庫)



《内容》
奇々怪々な人々が棲息し、摩訶不思議な事件が頻発する胃の頭町を舞台に、女子高生コンビの栞と紙魚子が大活躍する、諸星大二郎の異色シリーズの待望の文庫版第1巻。
「生首事件」「自殺館」「桜の花の満開の下」「ためらい坂」「殺人者の蔵書印」「ボリスの獲物」「それぞれの悪夢」「クトルーちゃん」「ヨグの逆襲」「ゲッコウカゲムシ」「本を読む幽霊」「青い馬」「おじいちゃんと遊ぼう」「雪の日の同窓会」の14編を収録。



《この一文》
“悪魔のタンクローリーめ!
 地獄へ追い返してやる! ”
   ――「ためらい坂」より





うーん。面白い。
『栞と紙魚子』の第1巻を読みました。私はこのシリーズを文庫版の第2巻から読んだので、いまいち「胃の頭(いのあたま)町」や「段先生一家」、「鴻鳥さん」などのことがよく分からなかったんですよね。それでシリーズのはじめから読めば少しはよく分かるようになるかと思っていたのです。


結果としては、えーと、まあ、何て言うか、やっぱりよく分かりませんでした。でも、「鴻鳥」さんのことはちょっと分かったかな。少なくとも彼女が「人肉パーティーよ!」と第2巻で叫んでいた理由は分かりました。

それから「段先生一家」についても少し理解が深まりました。今頃気がついたのですが、段先生の名前は「段 一知(だん いっち)」。第2巻でも出ていたのに、その時には気づきませんでしたが、ラヴクラフト絡みなんですね。先生の娘の名前が「クトルーちゃん」だから、先生自身もなにか関係があるんだろうとは思ってましたが、ラヴクラフトの『ダニッチの怪』から来ているんだなー。なるほど。“Dunwich”とは、ラヴクラフト作品中に出て来る架空の村の名前。私はまだ読んだことがないけれど、やっぱそろそろ読む頃合いだなあ。段先生の奥さんも、性格が可愛らしいからうっかりしてたけど、どうやら邪神みたいですしね(まあ、あのただならぬ姿から、ただ者ではないことは容易に推測できましたけど)。


さて、第1巻に収められた14のお話はどれも奇妙かつ怪奇、不気味な雰囲気に満ちていますが、やはりどこかほのぼのとさせられます。斧をふりかざして襲ってくる仮面の男や、血を滴らせた袋を手に持って裸足で歩き回る幼女(クトルーちゃん)、女の長い髪と血糊がべっとりと貼り付いたラブロマンス本、などなど恐ろしいものが次々と登場するわりには、読み終えたあとに不思議と爽快感に似た感情が沸き上がってくるのが凄い。こんなに血と破壊に満ちて猟奇的なのに、諸星先生はいつもユーモアを忘れません。人肉料理に執着する幽霊がカップ麺の汁を浴びて「まずいっ! 死ぬ!」と言って消えるところには、諸星先生の天才が燦然と輝いていました。コマの外には諸星先生ご自身による「もう死んでるよ」というツッコミが入っていて、これを見た私は生涯『栞と紙魚子』を愛し続けると誓いました。

どの作品もとても面白いですが、今回特に面白かったのは、「ためらい坂」ですかね。ケーキ屋の親父さんの逞しさに心を打たれました。しかし、紙魚子はなんで『ケーキ爆弾』なんていう本を持ち歩いていたんですかね? しかもそれってレシピ本なの?? オチのつけ方も最高でしたね。これは面白かった。


さあ、これで私は『栞と紙魚子』の文庫版を第1巻から第3巻まで所有することになりました。こないだ本屋へ行った時、第4巻があったのを買っておけばよかったです。次に行った時には買ってきますよ!

私のようにホラーが苦手な人でも読める、ほのぼの怪奇シリーズと言えましょう。世の中は不思議に満ちていて、少しくらい常識はずれのことが起こっても、人生を楽しく過ごすことはできるんじゃないかという気になってきます。栞と紙魚子のように、恐ろしい目にあっても、「やれやれ、とんでもない目に合ったわ!」なんて軽く流していきたいものですね(^_^)







『ジョジョリオン』(第2巻まで)

2012年06月09日 | 読書日記ー漫画

荒木飛呂彦(集英社)



《あらすじ》
S市杜王町(もりおうちょう)。震災後、突如、町の中にあらわれた「壁の目」と呼ばれる隆起物付近で、大学生の広瀬康穂(やすほ)は謎の青年を発見した。彼の身元を突き止めることにした康穂であったが、不可解な現象が2人の周りで起こり始め……!

《この一文》
“ これは「呪い」を解く物語―― ”



荒木先生の新しいJOJOシリーズ、『ジョジョリオン』。『jojolion』と書くらしい。これが面白いらしいという話を聞いたので、私も読んでみました。いや、面白いのはいつも分かっているし、いずれにしろ読もうと思ってはいたんですけどね。実はまだ前作の『スティール・ボール・ラン』を途中までしか読んでいないんですよ。大統領、あのあとどうなっちゃったのかしら…? こんどまとめて読む。



さて、『ジョジョリオン』です。舞台は第4部と同じ「杜王町」ですが、そして登場人物もどこかその時の彼らを思い出させる名前(あるいはその時のまま全く同じ名前)を持っていますが、別の人々の別の物語ということだそうです。私は第4部の雰囲気が好きなんですよねー。なので、この『ジョジョリオン』にも期待しています。

最新の第2巻まで読んでみた感じでは、すごく面白いです! まず、主人公の謎の青年がとても魅力的です。すべてを忘れた状態で発見された彼は、康穂とともに「杜王町」で不可解なトラブルに巻き込まれながらも、調査を進めていきます。自分が誰であるのか分からない青年の物語だなんて、これは燃えるわ!

特に「第1話」の最後のコマが最高でした。奇妙な人物に、奇妙な状況。荒木先生は相変わらず素晴らしいなあ! というのが、とりあえず今の感想です。続きが楽しみです!








『トゥルーデおばさん』

2012年06月02日 | 読書日記ー漫画


諸星大二郎(ソノラマコミックス)



《内容》
「グリム童話」を諸星流にアレンジしたブラック・メルヘン作品集。待望の文庫化!
「トゥルーデおばさん」
「赤ずきん」
「ブレーメンの楽隊」
「いばら姫」
「Gの日記」
「ラプンツェル」
「夏の庭と冬の庭」
「鉄のハインリヒ または蛙の王様」の8編を収録。

《この一文》
“ここ…夢?
 それともあたし
 もう目を覚ましてるの? ”
  ――「ラプンツェル」より




諸星大二郎によるグリム童話のアレンジ。……怖い! 何が怖いって、絵が!! なにこれ、なんなの、この得体の知れないモノは? いや実に諸星大二郎的な世界ですね。実際、「何だかよく分からない何か」を描かせたら、この人の右に出る人はいないのではないかと思います。不気味で恐ろしくとらえどころのないモノどもが、この作品にもたくさん描かれていますが、それでもやはりどこか愛嬌があるのが諸星風味というところでしょうか。

さて、全部で8つの物語。どれも馴染みのある物語ですが(「トゥルーデおばさん」だけは分からなかったですけど)、いずれも諸星大二郎によって新しくなっていました。先の読めなさ加減が凄いですね。「Gの日記」では、主人公の女の子が誰なのか、最後まで分からなかったですよ。私は特に「Gの日記」と「ラプンツェル」が気に入りました。

「Gの日記」は、8つの中では一番ドラマチックだったかもしれません。謎めいた屋敷に暮らす少女。どうしてここにいるのだか、どうしても思い出せない。広い家の中には、少女がいつも食事の世話をしている地下室の子供(これが非常に恐ろしく描かれている…)、眠っているときは目を開けて起きているときは目を閉じるおばあさん、いつも背を向けてひたすら曲芸の練習をつづける男の子。少しずつ謎が明らかになって結末へ向かっていくところは圧巻です。少女の最後の言葉も強烈でした。これは名作。

「ラプンツェル」は、塔の中に閉じ込められた髪の長いお姫さまのお話ですよね。これも、演出次第ではこんなに恐ろしげな物語になるのかと驚きました。こ、怖いっすよ! 謎のずた袋のようなものが、天井からいくつもぶら下がっているとか、人形の首とか、あれもこれも不気味で恐ろしい。けれども、全体的にみればこの「ラプンツェル」はかなり爽快な物語でしたね。明るく美しい結末には心が洗われるようでした。これは素晴らしい。

それから、「夏の庭と冬の庭」も良かったです。これは「美女と野獣」を元にしていますが、いろいろ突っ込みどころが多くて楽しかったです。美女がおもむろに携帯でメールをチェックするとかね、あとあの苦々しい結末…! ディズニー版の『美女と野獣』が大好きな私としては、ひどい、あんなの見たくなかった! まあでも面白かったな。


この『トゥルーデおばさん』は、諸星好きのkajiさんからお借りしました。それぞれのお話の扉絵が素晴しくて、まじまじと眺めたくなるようです。物語はどれも不気味ではありますが恐ろしすぎることはないので、手もとに一冊あると安心かもしれません。私も持っておこうかと思います。何度も読み返したくなる作品集でした!