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『たんぽぽ娘』

2014年07月21日 | 読書日記ーSF

ロバート・F・ヤング 伊藤典夫編(河出書房新社)



《収録作品》
 *特別急行がおくれた日
 *河を下る旅
 *エミリーと不滅の詩人たち
 *神風
 *たんぽぽ娘
 *荒寥の地より
 *主従問題
 *第一次火星ミッション
 *失われし時のかたみ
 *最後の地球人、愛を求めて彷徨す
 *11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス
 *スターファインダー
 *ジャンヌの弓


《この一文》
“ 妙だな、こんなにも平静に死を受け入れられるとは--ふとそんなことに気づいた。ことによるとそれは、自分がついに一度もほんとうに生きたことがなかったからなのかもしれない。”
  「失われし時のかたみ」より




今年の2月に読んだ本の感想を7月に書く…。正直言って、どんなお話だったか覚えていないものもいくつかあります。あらすじを覚えている面白かったという記憶が残る作品についても、どこがどのように面白かったのか、最初の印象はすでにことごとく消え失せてしまっています。こういう状態で感想を書く意味があるのか? ふむ、あまり意味はないでしょうね。でも、せっかくだから書いておきます。2月に読んで以来、「感想を書かなくては」という思いはずっと消えはしなかったのですから。

ロバート・F・ヤングの作品は、これ以前にもいくつかのアンソロジーで読んだことがありました。それが面白かったので、この人の代表作で、有名な『たんぽぽ娘』も読んでみようと思ったのです。この本に収録された作品の雰囲気は様々で、ある場所で出会った男女のシリアスなドラマ「河を下る旅」、「たんぽぽ娘」のようにロマンチックなものもあれば、郷愁のようなものがわきおこる「第一次火星ミッション」、「スターファインダー」のように実験的というのか理解が難しいものもあります。一貫している印象としては、描写がとても鮮やかで、特に色彩が非常に美しいということでしょうか。「たんぽぽ娘」に登場する少女の着ているワンピースの色や素材感「海の泡と綿菓子と雪を混ぜて織りなしたような布」という表現は実に印象的です。

「主従問題」も洒落ていてユーモラスで気に入りましたが、やはり「たんぽぽ娘」は有名作だけあってとりわけ面白かったです。私はこの人の「時があたらしかったころ」(創元SF文庫『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』所収)という作品を先に別のアンソロジーで読んでいたのですが、どうやらこの人のロマンチックSF作品にはひとつの傾向がありますね。素敵な女の子との時空を超えたロマンス。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、主人公と女の子が出会って恋が成就するまでのいきさつの意外性とスピード感が、この人の作品の魅力なのでしょうか。まあ、なんていうか、夢もしくは妄想みたいな展開です。こんな素敵な展開があったらいいなあ! という展開です。そんな都合のいい話があるかよ! って、いいんです、それだからいいんです! あー、私もこんな女の子と恋愛がしたいわ!!

上に引用したのは「失われし時のかたみ」からの一文。「たんぽぽ娘」などに見られるほんわかした雰囲気は影を潜め、ある種の人々の人生に対する態度を皮肉を込めて描いているように感じられました。「河を下る旅」も、結末はまったく違いますが、人生をもっとほんとうに生きるべきだというメッセージを含んでいたのではないかと記憶しています(おぼろげ)。こういうシリアスな作品もなかなかいいですね。

でも、やっぱりロマンチックな作品が読みたい私は、次は「時があたらしかったころ」の長編版が創元SF文庫から出ているそうなので、そっちを読んでみたいと思います!(で、無事に読むことが出来たら、次はそのままの勢いですぐに感想を書いてしまいたい…)








『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』

2014年02月10日 | 読書日記ーSF

ジャック・フィニィ、ロバート・F・ヤング他 中村融 編
(創元SF文庫)



《内容》
時という、越えることのできない絶対的な壁。これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが現れて一世紀以上が過ぎた。時間SFはことのほかロマンスと相性がよく傑作秀作が数多く生まれている。本集にはこのジャンルの定番作家といえるフィニィ、ヤングらの心温まる恋の物語から作品の仕掛けに技巧を凝らした傑作まで名手たちの9編を収録。本邦初訳作3編を含む。

《収録作品》
 「チャリティのことづて」 ウィリアム・M・リー
 「むかしをいまに」 デーモン・ナイト
 「台詞(せりふ)指導」 ジャック・フィニィ
 「かえりみれば」 ウィルマー・H・シラス
 「時のいたみ」 バート・K・ファイラー
 「時があたらしかったころ」 ロバート・F・ヤング
 「時の娘」 チャールズ・L・ハーネス
 「出会いのとき巡りきて」 C・L・ムーア
 「インキーに詫びる」 R・M・グリーン・ジュニア

《この一文》
“たぶんショックだったのだろう、恐怖だったのだろう。彼女は自分自身のために泣いていたのだ。なぜなら、愛は待ってくれないと、いきなり思い知らされたのだから。愛はあとまわしにはできない。先のばしにすれば、死んでしまう。 ”
  ジャック・フィニィ「台詞指導」より



『時を生きる種族 ファンタスティックSF傑作選』に続き、こちらの『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』も読んでみました。とても面白かったです。ただ、あくまで個人的な好みの問題ですが、私は『ファンタスティックSF』のほうが好きですね。『ロマンティック』のほうは面白かったのですが、私が期待していたほどにロマンティックではなかったというかなんというか。わりと恐ろしい感触のお話もありましたしね。たとえば「時の娘」とか…「時の娘」とか…。広瀬正の『マイナス・ゼロ』を読み返したくなるような「時の娘」ですが、登場人物の性格がなんとも恐ろしかったのです。それが印象的ではありました。

いかにもロマンティック! 素敵!! と感じたのは、ロバート・F・ヤングの「時があたらしかったころ」。これは素敵なお話でした。結末には思わず「グハアァ!」と声が出ましたよ。全体的に軽快で明るい印象です。ラストの展開のはやさが最高でしたね。唸らされました。これはマジで面白かった。

次にドスッときたのは、上にも一文を引用したジャック・フィニィの「台詞指導」。これは映画製作者たちのお話ということもあって、短いながらも描写が実に映像的でドラマチックな物語なのですが、思わず立ちすくんでしまいそうになるほどに苦い教訓を与えてくれました。
「愛はあとまわしにはできない」。こんなにはっきり言われるとグサッときますわ。「時間」と「愛情」の問題が鋭く描かれていましたね。忘れがたい作品になりそうです。

他の作品もそれぞれに面白かったですが、「インキーに詫びる」だけは時間が足りなくて最後まで読めませんでした。そのうち読みたいと思います。


さて、フィニィとヤングが面白かったので、ちょっと他の作品も読んでみます。やはり有名で人気がある作家の作品というのは、ちゃんと人気が出る理由があるものなのですね。そういうことを納得させられた1冊です。楽しかった!









『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』

2014年01月21日 | 読書日記ーSF

ロバート・F・ヤング、フリッツ・ライバー他
中村融編(創元SF文庫)



《内容》
時間エージェントは、9世紀の宮殿から『千一夜物語』の語り手シェヘラザードを連れ帰ろうとした矢先、見知らぬ世界へ飛ばされた。さらに彼女に恋をされ――ヤング「真鍮の都」に始まり、時と場所を問わず過去を撮影できるカメラを発明し、何本もの“真実の”歴史映画を製作した男たちの物語――シャーレッドの傑作「努力」まで、本邦初訳2編を含む全7編。


《収録作品》
 「真鍮の都」 ロバート・F・ヤング
 「時を生きる種族」 マイケル・ムアコック
 「恐竜狩り」 L・スプレイグ・ディ・キャンプ
 「マグワンプ4」 ロバート・シルヴァーバーグ
 「地獄堕ちの朝」 フリッツ・ライバー
 「緑のベルベットの外套を買った日」 ミルドレッド・クリンガーマン
 「努力」 T・L・シャーレッド


《この一文》
“つまり、そういうことはじっさいに起こったし、ふたたび起きても不思議はない。いまだって起きているかもしれない。そういうことが起きたのは、ねじ曲げられた真実が、国家間の、党派間の、人種間の感情にあまりにも長く刷りこまれてきたからだ、という主張だ。多くの者がおれたちと同じ意見を持ちはじめたときはうれしかった。つまり、過去を忘れることは大切だが、視野を広くとり、偏見のない目で過去を理解し、評価することのほうがもっと大切だ、という意見だ。おれたちのいおうとしていたのは、まさにそれだったんだ。 ”
     「努力」 T・L・シャーレッド より




あまりにも面白かったので、絶えずつきまとう息子の猛攻を交わしつつ、彼の昼寝の合間に、あるいは私自身の昼食を台所で立ち食い早食いするその間に、じりじりと細切れにしかし飛ぶような勢いで読み進めました。いやー、やっぱりアンソロジーっていいですね! SF傑作選というタイトルの通り、どれもこれもものすごく面白い作品ばかりでした。はあ~、痺れたわ! あー、楽しかった! ありがとう! ありがとう! なんだか興奮を抑えきれない!


というわけで、全部で7つの物語。いずれも読み応えたっぷり、ファンタジックなものもあればロマンティックなものあり、シリアスなものもあればユーモラスなものありとそれぞれが独自の世界観と魅力を備えた、素晴らしい傑作選です。「真鍮の都」ではいきなり幻想的なお話に夢中にさせられ、ムアコックの「時を生きる種族」はなんのこっちゃと思っていたらガツンとくるような展開に、「恐竜狩り」ではその鮮やかかつ巧みな語り口にハラハラし、シルヴァーバーグの「マグワンプ4」はなんだかおとぼけだなあと笑っていたら思わず硬直するような結末を迎え、フリッツ・ライバーの「地獄堕ちの朝」は安定の面白さと格好良さ。「緑のベルベットの外套を買った日」のロマンティック加減は「少女漫画か!?」というほどで、そんなうまい話があるかよと言ってしまえばそれまでですが、ご都合主義でもいいじゃないか! 私はトキメキましたよ!

ここまででも十分に面白かったですが、最後の「努力」が特に強烈です。なるほどこれは傑作ですね。どことなく、コスタ=ガブラス監督の映画『Z』を思い出させるような、切れのある、情熱に満ちた、胸を打つ作品でした。100頁ほどの小説ですが、もう少し長かったのではないかと思わせるような感触があります。
過去のあらゆる時と場所を撮影できるカメラを発明した男マイケルとそのパートナーであるエドが、いかにして人類の「真実の」歴史映画を製作し、それを世に送り出すのか。そしてまた彼らはその機械を手に入れたという事実をどのように受け止め、自身の人生を決定していくのか。彼らが製作した映画とその機械の存在によって、世界はどうなってしまうのか。というお話。
面白かったなあ。もしも人類が、すべての人がそれぞれに、自分たちの生きるこの世界の「真実の過去」を見られるようになるとしたら、それは私たちにどういう衝撃となって押し寄せるのでしょうか。あるいは、「真実の過去」を見られる手段が存在するとして、果たしてそのような手段を共有することが人類には能力として可能なのでしょうか。誰かの思惑が世界を動かしているかもしれない、そしてそれはいつも隠されているのかもしれない。多くの名もなき人々は生きるも死ぬもただただ翻弄されるばかり。過去のすべてが明らかになるとしたら、私たちはついに何者にも支配されない世界に生きられるようになるでしょうか。
力作。傑作。




長編を読むだけの集中力を維持するのは難しいので、しばらくは短編集を読んでいこうと思います。アンソロジーは素敵だ!






『南極点のピアピア動画』

2013年09月30日 | 読書日記ーSF


野尻抱介(早川書房)



《あらすじ》
日本の次期月探査計画に関わっていた大学院生・蓮見省一の夢は、彗星が月面に衝突した瞬間に潰え恋人の奈美まで彼のもとを去った。省一はただ、奈美への愛をボーカロイドの小隅レイに歌わせ、ピアピア動画にアップロードするしかなかった。しかし、月からの放射物が地球に双極ジェットを形成することが判明、ピアピア技術部による“宇宙男プロジェクト”が開始されるーーネットと宇宙開発の未来を描く4篇収録の連作集。


《この一文》
“ ピアピア動画で作品を発表するユーザーのほとんどは、金銭収入のためにそうしているのではない。人と出会い、自らの作品やスキルを見てもらい、承認されたいから来ているのである。彼らは誰かに見てもらうことが嬉しく、生きがいになっている。
  それは人類全体にも言えよう。地球が狭くなったいま、地球外文明の視線こそ、人類が真に欲するものではないか。誰かに見られてこそ、人は自己を振り返り、高めようとするのである。 ”
  ーー「星間文明とピアピア動画」より




はじめの2話はわりと苦行でしたが、あとの2話は面白かったばかりでなく、最終話の結末には思わずジワリと来てしまいました。いやー、SFっていいですね!

というわけで、『南極点のピアピア動画』を読みました。発行されてからずっと読みたいと思っていたのですが、ようやく読めました。タイトルと表紙からもお分かりのように、現在も【ニコニコ動画】やそこで盛んに行なわれている【VOCALOID】関連の活動をベースにして、架空の【ピアピア動画】とそこに関わる人々が宇宙時代の始まりをどう歩んでいくのかが描かれていました。ロマンに溢れていましたよ。実に清々しい。

先にも書きましたが、正直言って、私にははじめの2話「南極点のピアピア動画」「コンビニエンスなピアピア動画」を読むのは、やや苦行でした。いえ、どちらもお話としては面白かったのですが、何と言いますか、登場人物の言動にちょっと20世紀臭がするというかなんというか…。今時(というか多分現在より少し未来設定だろうに)の大学院生のカップルが「省一と奈美」とか、その友達が「郁夫」とか、短大を出たばかりの女の子が「美穂」とか、全体的にネーミングが20世紀末。なんなら80年代という感じ。それで、女の子キャラがあまり可愛くない…ピクリとも萌えない。奈美みたいな恋人って困るだろー。ていうか、省一もどこかいけすかないぞ! ある意味お似合いのカップルだぞ! 

と、こんなくだらないことが気になって気になって、物語に没入するためには第3話までかかってしまったろくでもない私です。第3話の「歌う潜水艦とピアピア動画」からは、人間の女の子の登場頻度が激減するせいか、ものすごく面白くなりました。小隅レイたんカワユス。まじ天使。

第4話の「星間文明とピアピア動画」は、書き下ろしの一編です。前3話の内容を踏まえて、いよいよ地球人類が地球外の文明圏と交流を始めます。このお話はとても面白く、人類の行為全般、そしてまた地球人類とその文明の向かう先に対する作者の肯定的な考え方が読み取れて、非常に清々しい読後感がありました。さらに繰り返しますが、小隅レイたん、まじ天使!って感じです。野尻さんはこういうキャラクターを描くといいんですかね。人間の女の子より、ボーカロイド・小隅レイの姿形を借りた地球外文明の知的存在「あーやきゅあ」の描写はすっごく可愛かったです。あと、第1話で登場した省一の友達、郁夫が再登場して活躍していたのが、私としては嬉しかった! 郁夫はまじいい奴だから幸せになってほしい!


作中には、ネット用語、とくに【ニコニコ動画】内で多用されるような言葉が数多く出てきますが、いくつかは既に風化しかかっているのを、ちゃんとお話の中でも死語として扱っています。いつか近い将来、今のニコ動にどっぷり浸かっているような人々が、社会的に影響力を持つような立場になったとき、どういうことが出来るだろう、起こるだろう? なんでもないきっかけから、ものすごい未来がひらけるかもしれない。面白いからやってみただけのことが、我々をずっと遠くへ連れて行ってくれるかもしれない。そんな夢と希望が溢れる連作集でした。

「ピアピア動画」という語感からしてちょっと…なんて思っていましたが、最後には気にならなくなっていたや(^o^;) きちんとした意味のあっての「ピアピア」でしたしね。
たまにはこんな爽やかなSFもいいものです!






『わたしはロボット』

2012年08月09日 | 読書日記ーSF

アイザック・アシモフ 伊藤哲訳(創元SF文庫)


《あらすじ》
西暦2003年、しゃべる可動ロボットを世に送った人類は、その50年後にはポジトロン大脳をもつ読心ロボットを誕生させた。人間自身より強く、信頼がおけ、しかも人間に絶対服従するロボットたち。だが彼らが人類にもたらす未来の姿とは? 巨匠アシモフ自身が考案した、高名な《ロボット三原則》にのっとって綴られる、機知あふれる連作短編集。SF史上に輝く、傑作中の傑作。


《この一文》
“「スティーヴン、わたしたちは人間性の窮極の善がどのような運命を人間に課するか、どうしてわたしたちに分かるはずがありましょうか?」”







あまりにも有名な小説。しかし私はこれまでの挑戦ではいつも最初のエピソードで脱落していたので、本書が連作短編集であったということも今回初めて知りました。そして、最後まで読んでみると、どうしてあんなにつまずいていたのか理解し難いほどに読みやすく、面白いお話でした。

9つの物語が連なって語られています。人類がロボットが生み出した初期の時代から始まり、ロボットの進化とともに人間社会の変化していく様子が描かれていきます。これは面白い。

まず、【ロボット三原則】とは。


 【ロボット工学の三原則】

1.ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを黙視していてはならない。

2.ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一原則に反する命令はその限りではない。

3.ロボットは自らの存在を護らなくてはならない。ただしそれは第一、第二原則に違反しない場合に限る。





この【ロボット三原則】に基づいて設計されているロボットの行動が時として人間には不可解に思える場面があり、人間はそれぞれのシチュエーションの中でどのようにそれを理解していくことになるかというドラマが面白い。パウエルとドノヴァンのコンビがいつもいつもトラブルに巻き込まれてしまうのが気の毒で笑えました。
ロボットたちは常に【三原則】に縛られて行動するわけですが、人間の思うように動いてくれないとき、どうしてそうなるのかを推理していくところや、問題が解明されてスッキリするところなんかは、推理小説でトリックが明かされたような爽快感がありますね。

また、人間によって作り出されながら人間よりも優秀な存在としてあるロボットへの、人間自身の複雑な感情が描かれるところも興味深い。愛情があり、不信感があり、軽蔑があり、嫉妬、羨望があり。もしも人間が実際にこんなロボットを手に入れたら、どんな風に振舞うことになるんでしょうね。やっぱり便利で偉大な発明品として利用しながら、一方で自分たちを凌駕する能力を持ったものに自尊心が傷つけられたりするんでしょうか。




私は「逃避!」「証拠」「避けられた抗争」の、9つのうちの最後の3編が特に面白かったです。
ロボットとともにある社会。そんな社会がいつか到来するのかなあ。





『デイワールド』

2012年07月18日 | 読書日記ーSF

フィリップ・ホセ・ファーマー 大西憲訳(早川書房)



《あらすじ》
限界まで達した人口過密に、窮極の解決策がもたらされた。だれもが一週間に1日しか生きられず、残りの6日は“固定器”のなかで過ごすことが義務づけられたのだ。かくして、曜日ごとに、まったくちがう世界が展開されることになった。だが、厳しい監視の目をかいくぐって、曜日の壁をすり抜ける〈曜日破り〉があとを絶たない。火曜世界の警官ジェフ・ケアードは、その捜査を命じられたが、皮肉なことにケアード自身が〈曜日破り〉の一員だったのだ!
大胆なアイディアと、天馬空を行くイマジネーションで定評のある鬼才ファーマーが、緻密な構成で織りあげた傑作SFサスペンス。


《この一文》
“人の心の中にどんなに邪悪なものが潜んでいるか、誰にわかるだろうか? “影”だけが知っているのではない。神もまた知っているのだ。実は神が“真の影”なのだ。”




面白かった!

「わが内なる廃墟の断章」(『時間SFコレクション タイム・トラベラー』所収)で初めてその名を知ったフィリップ・ホセ・ファーマーの長編を読んでみました。「わが内なる…」がものすごく面白かったので、たちまちこの人を好きになってしまったのですが、この『デイワールド』も非常に読み応えのある作品でした。この人の作品に今のところ共通して感じられるテンポの良さとスピード感、映画のように鮮やかなイメージの連なり、そしてテーマの薄暗さは実に私好みであります。

『デイワールド』については、結末がちょっと「えっ、あれ!? ここで終わり!?」と思わなくもありませんでしたが、あとがきを読むとどうやらシリーズものとして続編があるらしい。『デイワールド』が出た当時には、“Dayworld Rebel ”(1987年)の出版が予定されており、その後さらに“Dayworld Breakup ”(1990年)と続いたようです。そうか、そうか、続きが楽しみですね。で、その日本語訳は……??? 文庫カバーに書かれた「ファーマーの既刊リスト」には載ってないみたいだけど?

驚いたことに、早川は『デイワールド』を第1作を翻訳しただけで終わらせてしまったらしく、その後の2作については日本語版は出ていないようでありました。なんてこった! やっちまったぜ……!!(泣) ひどーい! ひどいよー! 文庫の帯には「鬼才の最新傑作」とか「翻訳権独占/早川書房」とか書いてるくせに、やる気あんのか、こら!

ついでに現在はこの『デイワールド』自体も絶版状態。まあ、出版から25年も経ってからようやくその存在に気がついた私にも問題はありますが、控えめに言ってもこのファーマー氏の作品はかなり面白いと思うのに、どうして定番化しないのかしら。売れると思うんだけどなー。いやまあ、私だって何十年も知らずに、したがって1冊も買わずに過ごしてきちゃったわけですけどね。でも、売ってなければ知るのも難しくない?? いつ頃まで売られていたのだろうか。あー、1日だけでもいいから1990年当時に戻りたい。そのころなら手に入るだろう欲しい文庫が山ほどあるよ。とりあえず、今後ものすごいファーマーブームが来ることを期待! それまでは地道に古本を集めるわ…



さて、『デイワールド』です。

世界は極度の人口過密により、7つの世界、各曜日ごとに分けられている。ジェフ・ケアードは火曜日世界の住人であるが、「曜日破り」を取り締まるべき警官という立場にありながら、彼自身が「曜日破り」であり7つの世界を生きている。彼は「イマー」という組織に所属し、その秘密組織はある反政府的な目的を持っている。というスリリングな設定です。

面白いのは、曜日ごとの世界で暮らすためにケアードはそれぞれまるで違う人格を形成していることです。そして各人格はお互いを意識し合うことがあまりないくらいに精神的にキッパリと隔てられている。彼が移動する各曜日世界にもそれぞれの習俗や流行があり、隣り合う曜日どうしでもまるで違った世界が展開されるのでした。人々は1週間のうちただ1日だけ活動が許され、その他の6日間は「固定器」と呼ばれるカプセルに格納されることになっています。ケアードが曜日を破って次の曜日世界へ移行するのは別の世界を旅するようで楽しいです。その移行のやり方が、意外と地道な方法であるところも面白かったですね。もっとハイテクなものを想像していましたが、なんというか地道な努力にもとづいていました。


全体的に読みやすく、とても盛り上がる内容です。追う者が追われるようになり、曜日から曜日へと飛び移りながら、事態はどんどん悪化していくのです。そこへ、人格とは、人間の心理とは何かという問題も絡んでくる。いくつもの要素を複雑に、しかし上手に組み上げて描かれた面白い作品でした。

「わが内なる廃墟の断章」でもそうでしたが、個人をその人自身と決めているのは何だろう? ということを考えさせられますね。「わが内なる…」では人類はある日突然数日分ずつ記憶を失うことになり、次第に精神だけ退行してしまうという危機的状況を描いた作品でした。それまで築いてきた人間関係が、記憶が失われるごとに崩壊してゆく有様からは、人間というのは他人との関係性と記憶によって成り立っているのだと思わざるを得ませんでしたね。この『デイワールド』もまた、人間という存在についてのテーマを扱っていたようです。一人の人間の中に複数の人格をこしらえたら、そのうちのオリジナルというのは、どこまでオリジナルでありうるのか。面白い。面白いですね。


『デイワールド』の続きが読めそうにないことにはガックリきていますが、幸い他にもまだ読むべきファーマー作品がたくさんあるので、次は名作であるという『恋人たち』でも読んでみましょうかね。【リバーワールドシリーズ】や【階層宇宙シリーズ】も面白そう。なんでもいいから、とにかく、ファーマーさんがなにかの拍子に突如注目されるようなことが起こりますように!






『時間SFコレクション タイム・トラベラー』

2012年03月25日 | 読書日記ーSF

P・J・ファーマー他 伊藤典夫・朝倉久志編
(新潮社)


《内容》
流されるだけが時間じゃない! 強者(つわもの)SF作家たちが腕によりをかけた時間料理の数々……。朝、目をさますと四日先の新聞が配達されてきた――ファーマーの異色作「わが内なる廃墟の断章」の他、ラジカセ片手に若きアマデウスが活躍する話題のサイバーパンク「ミラーグラスのモーツァルト」、失われたバビロンの都が未来に甦るワトスン「バビロンの記憶」など、きわめつきの時間SF全13編。

《収録作品》
しばし天の祝福より遠ざかり…ソムトウ・スチャリトクル
時間層の中の針…ロバート・シルヴァーバーグ
遥かなる賭け…チャールズ・シェフィールド
ミラーグラスのモーツァルト…B・スターリング&L・シャイナー
ここがウィネトカならきみはジュディ…F・M・バズビイ
若くならない男…フリッツ・ライバー
カッサンドラ…C・J・チェリイ
時間の罠…チャールズ・L・ハーネス
アイ・シー・ユー…デーモン・ナイト
逆行する時間…デイヴィッド・レイク
太古の殻にくるまれて…R・A・ラファティ
わが内なる廃墟の断章…フィリップ・ホセ・ファーマー
バビロンの記憶…イアン・ワトスン

《この一文》
“ 神さま、もうぼくは充分に苦しんではいませんか? 肉体を授かりながら、ぼくはあなたの書物のなかにしかいない。おろかな獣、記憶をなくした肉塊になるまいと、なぜ日々闘わなければいけないのですか? なぜ放棄してはいけないのですか? ボタンを押し、ごみ箱にぶちまけ、磁力線とパルプ繊維の混沌のなかに、悲しみを解き放てばすむことなのに。
 “一日の苦労は一日にて足れり”
 これが本当はどういう意味なのか、主よ、ぼくは知りませんでした。 ”
――「わが内なる廃墟の断章」フィリップ・ホセ・ファーマー より






kajiさんからお借りしたSFアンソロジーです。昭和62年、新潮社発行。「SFコレクション・シリーズ」として他に「スペースマン」「スターシップ」の2冊のアンソロジーが同時に出ていたようです。現在は入手困難。昭和62年あたりには、こんな素晴らしいSFアンソロジーが、なんと新潮社から出ていただなんて、私はちっとも知らなかったなあ。まだ中学生になるかならないかの頃だから仕方ないか。大人になってから翻訳SF小説を読むようになると、その盛り上りは私が子供だった頃にあったのではないかと思うことしきりで、もう少し早く生まれたかったような気がしますね。読みたいと思う小説があっても絶版になっていることが多い。このシリーズも絶版なんだぜ……しくしく。
しかし、幸いなことに、この『タイム・トラベラー』そのものは入手困難ですが、最近になって早川書房から、ここに収録されたいくつかの短編をおさめたアンソロジーが出ています。ちょっと欲しいと思ったけれど、私が気に入った短編は入っていないっぽいな…これは悩むわ。


さて、全部で13の物語。いずれも時間にまつわるお話ですが、それぞれのアイディアは秀逸で、読み応えはたっぷりでした。最後まで読むのにはとても時間がかかってしまいましたが、どのお話もすごく面白かった。

私がとくに気に入ったのは、「遥かなる賭け(チャールズ・シェフィールド)」ドラマチックでスケールもでかくてロマンチックでもあって最高、「時間の罠(チャールズ・L・ハーネス)」閣下とか謎の弁護士とか不死身オーラを出す少佐とか閉息感に満ちた世界観がたまらなかった、「わが内なる廃墟の断章(フィリップ・ホセ・ファーマー)」なにも分からないままに記憶を失いながら危機的状況に放り込まれてゆく人類の行く末を描いた作品で猛烈に面白かった! というところですかね。

SFにうとい私には、あまり見知った名前は見当たらなかったのですが、それでもフリッツ・ライバーやR・A・ラファティは少し読んだことがありましたかね。フリッツ・ライバーはSFというよりも何となく幻想寄り、古典文学的な雰囲気を感じるので割と好きかもしれません。ラファティの「太古の殻にくるまれて」もかなり幻想的な一編でした。すごく個性的。大胆。なにがどうしてそうなるのかサッパリ分かりませんが、ただひたすら受け入れるしかない様子なのがいいです。

ともかく、フィリップ・ホセ・ファーマーはよかったな。この人のことは初めて知ったけれど、もうちょっと他の作品も読んでみたい感じです。軽く調べてみたら、やだ…絶版ばかりだわ……(^o^;)でもまだ入手可みたいで安心した!


うーん。面白かったです! タイムトラベル物というのはほんとうに盛り上がりますね♪ ただ、忘れっぽさが日々加速し続け、読んでいくそばから次々と物語の内容を忘れていってしまう私は何度も繰り返して読み返したいので、どうかもういちど新潮社から同じ本が出て欲しい。。。たのむっ!!!








『流れよわが涙、と警官は言った』

2012年02月28日 | 読書日記ーSF

フィリップ・K・ディック 友枝康子訳(早川書房)




《あらすじ》
三千万の視聴者から愛されるマルチタレントのタヴァナーは、ある朝見知らぬ安ホテルで目覚めた。やがて恐るべき事実が判明した。身分証明書もなくなり、世界の誰も自分のことを覚えてはいない。そればかりか、国家のデータバンクからも彼に関する記録が消失していたのだ! “存在しない男”となったタヴァナーは、警察から追われながら悪夢の突破口を必死に探し求める……現実の裏に潜む不条理を描く鬼才最大の問題作!


《この一文》
“ ルースはうなずいた。「無意識の意識ね。わたしの言うことがつかめたかしら。わたしが死ぬときはそれを感じられないはずよ、それが死ぬってことですものね、そんなものをすっかり失ってしまうことだもの。だから、たとえばね、私はもう死ぬのは怖くないの。あのマリファナのひどい“旅(トリップ)”を経験して以来よ。でも悲しむというのは、死んでいると同時に生きていることなのよ。だからわたしたちの味わうことのできるもっとも完璧で圧倒的な体験なの。でもときどきね、わたしたちはそんなことに耐えきれるようには作られていないのにと、悪態をつくことがあるわ。あんまりだって――そんな波やうねりを受ければ人間の体なんてガタガタになってしまうもの。それでもわたしは悲しみを味わいたいのよ。涙を流したいの」 ”




なんとも寂しい物語でした。孤独で、皮肉な、でも少しだけあたたかい結末。SFサスペンスを期待してたのに、途方もなく寂しくなりました。


さて、私はフィリップ・K・ディック作品をまともに読むのは、たぶんこれが初めてです。この『流れよわが涙、と警官は言った』は、kajiさんが貸してくださいました。タイトルが印象的ですね。

あらすじにもあるように、お話は人気スターのタヴァナーが、3千万人のファンを持つ、誰もが知る有名人のタヴァナーが、突然誰からも忘れられてしまうところから始まります。なにが起こってそんなことになったのか、事実が次第に明らかになっていきますが、正直に告白すると、その理論は私にはよく分からなかった…!! 分からなかったけれど、面白かったです。タヴァナーがあらゆる身分証明書を喪失したために警察から追われつつも謎に迫っていくという筋書きの方もハラハラして面白かったけれど、この物語にはテーマがあったと思う。そして、そのテーマが面白かったから、タヴァナーがどういう理屈でそんなことになったのか私には結局分からなかったけれど、おおむね興味深く読めました。たぶんそれでよかった。


あとがきで大森望さんも書いてらっしゃいましたが、この物語は、泣くこと、涙を流すことについての物語でした。タイトルの通りですよね。主人公はタヴァナーの他にもうひとりいて、それはタヴァナーを追いかける警察本部長のバックマン。泣かないタヴァナーと泣いてしまうバックマンの物語でありました。



なぜ涙が流れるのか。それは悲しみのため。悲しみは私たちをくたくたにさせるけれども、そのために涙が流れるとき、心は生きようとする強い意志を獲得するのかもしれません。悲しみながら、泣きながら、死ぬまで生きる。そうだな、これは私が読むべき物語だったな。ようやくちょっと分かったかもしれない。


フィリップ・K・ディック作品はこれまでにいくつも映像化されていて、私も観たことはありますが、小説を読むのは初めてでした。思っていたのとは違った感触でしたが、それはこの『流れよわが涙、…』が特殊な作品なのか、それともこの人はいつもこんな感じなのかに興味がわいたので、ちょっとほかのも読んでみたいぞ!







『狐と踊れ』

2012年01月31日 | 読書日記ーSF

神林長平(ハヤカワ文庫)



《内容》
5Uという薬を飲みつづけないと胃を失ってしまうという奇現象に翻弄される人びとは……。オリジナリティあふれる作風で第5回ハヤカワ・SFコンテストに佳作入選した表題作をはじめ、宇宙海賊課の刑事である猫型宇宙人アプロと相棒のラテルが活躍する〈敵は海賊〉シリーズの記念すべき第一作「敵は海賊」、ビートルズマニアの少女の不思議な体験を描いた「ビートルズが好き」など、神林作品の魅力を伝える初期作品集。


《この一文》
“ 「(略)つまり人間の体が人間自身のものだと信じて疑わなかった。いまの人間にしても同じだ。胃は自分のものだと思っている。これは悲劇だ。自分のものを失うのは不幸だからだ。しかしもともと別の生物だと認めればなんの不合理もない。そしてそう気づいた者にとっては幸せなことに、ここから逃げだすのをだれも阻止しない。門は出てゆく者に寛容だ」
 ――「狐と踊れ」より ”




神林長平作品を初めて読みました。「敵は海賊」シリーズは前から一度読んでみたいと思っていたのですが、その最初のお話がこの本に収録されています。短篇集であるということを知らずに読んでしまった私は、これが短篇集であることに驚き、「敵は海賊」の連作短篇ではなかったことに更に驚き、そしてそのほかの短篇の雰囲気が作品ごとに随分と違っているということにも驚きました。意外な作品集でしたね。

1冊読んでみた上での率直な感想としては、この人の文体はいささか読みにくく、私はなかなか物語の中へ入ってゆくことが出来ませんでした。会話が多いのはいいのだけれども、3人が同時に話しだすと、どれが誰の台詞なのかがいまいち判別できません。そのためかどうか分かりませんが、いくつかのお話ではどのようにオチがついたのかさえ分かりませんでした。まあしかし、それは私の読解力の問題ですね。

各話個別に簡単にまとめてみましょう。


*「ビートルズが好き」
ビートルズ好きがこうじて高価な音響セットまで揃えるほどの葉子。付き合っている男性はいるけれども、どうも本気にもなれない。デートにでかけようとしたある日、テープを止めてアンプも切ったのに、曲が鳴り止まない。いつまでもいつまでもビートルズの曲が聞こえてくる。

というお話。ラストはちょっと幻想的でロマンチックでしたかね。葉子の付き合っている彼がいい奴過ぎて泣けます。


*「返して!」
親になるためには「親資格」を取得することが義務づけられている社会で、親資格もなく、しかも実弟との関係で身籠ってしまった女性の物語。

最初から最後まで暗かった。けれども、親になるために社会が資格を要求するというのは、興味深いテーマですね。


*「狐と踊れ」
5Uという薬を飲みつづけないと、胃が体から逃げだしてしまう。5Uは社会によって厳密に管理され、人々は胃の状態によって住む場所さえ階層分けされており、主人公の雄也は最上階のA階の住人である。雄也の上司である北見部長とその美しい娘・美沙、そして雄也の妻・麗子との会食の席で、美沙は薬を無くしたことに気がつきそのまま彼女の胃は逃げだしてしまう…

というお話。奇妙な話でした。とても面白かったのですが、残念なことに私にはオチがどうなったのか正確に読み取れませんでした; なんとなく集中力が持ちませんでしたね。誰がしゃべっているのかいまいち分からなくて。
オチはいまいち分からなかったものの、ちょうどこのところ「自分とはどこまでが自分か」「肉体と自我との関係性は」というようなことを考えていた私には、とても面白いテーマが扱われていました。人間の本体は一体どこにあるんでしょうかね?
いずれきちんと読み直したい作品です。


*「ダイアショック」

あれ? これはうっかり読み飛ばしてしまっていたや……。そのうちまた読みます……



*「敵は海賊」
冷酷、残忍、人でなし、と一般市民からはある意味では海賊よりも忌み嫌われている「宇宙海賊課」の刑事たち。そんな海賊課の刑事であるラテルは、ある日上司のチーフ・バスターから呼び出され、特別休暇を与えられた上に、火星連邦へ行って女の子とデートしてこいと言われる。ラテルは相棒の猫型宇宙人アプロと連れ立って火星へ赴くのだが…

というお話。これまた台詞が立て続くと誰がしゃべっているのか分からなくなりましたが、猫型宇宙人アプロが可愛いので、私は気に入りました。でも猫型宇宙人って二足歩行する大猫なイメージでしたけれど、アプロは本当に猫そのもののような姿をしているらしい。それで、しゃべる。可愛いですね!!(荒っぽい海賊課の刑事だけど!)
このお話がこの本の中ではもっともSFらしいというか、娯楽的というか、気楽に楽しめるような内容でした。
「敵と海賊」第一作の本作は、宇宙的、未来的な描写のなかに様々なトリックを仕掛けて、ちょっとしたSFミステリのような雰囲気です。シリーズは長く続いているようですので、そのうち続きを読んでみたいところですね。


*「忙殺」
フリールポライターの一文字はとにかく忙しい。いつも追われるように書いているが、なんだか今追いかけているネタではとくにその忙しさが増しているように感じ…

というようなお話。もうちょっとうまいまとめ方があったかな、すみません。
最初は精神病院と新興宗教の教祖を巡る謎を追いかけるというミステリかサスペンス風のお話なのかと思って読み進めていたのですが、最後の方で急激にSF化したので驚きました。これは面白かった。
人間は仕事を機械化することでそれだけ暇になるはずなのに、一向にそんな気配がないばかりか、却ってますます忙しくなっているような気がするのは何故だろう? と私も以前から疑問に思っていたのですが、その問題に焦点を当てたなかなか興味深い作品でした。




神林長平の初期作品集だそうです。あまりに荒削りで急展開な文体が、はじめは私にはあまり合わない作風かしらとも思いましたが、まくしたてられるような文章の中には時々ハッとするような鋭いものが混ざっていて、なにかしら心に突き刺さるようなところがありますね。最後の2作品はとても面白く読めたので今後も少しずつ読んでみたいところです。







『竜座の暗黒星』-現代ソビエトSF短篇集2

2010年02月24日 | 読書日記ーSF

ストルガツキー兄弟/西本昭治・編訳(早川書房)


《内容》
金属を食って自己を再生産する自動機械カニの話『カニが島を行く』(ドニエプロフ)、地球から1800億キロもはなれた竜座の暗黒星探検の物語(グレーヴィチ)、地球以外の宇宙の惑星にかならず理性的存在があると信じている男の話『さすらいの旅をつづける者たちについて』(ストルガツキー兄弟)など6篇を収録。

《収録作品》
*カニが島を行く…A・ドニエプロフ
*竜座の暗黒星…G・グレーヴィチ
*ベルン教授のめざめ…V・サフチェンコ
*さすらいの旅をつづける者たちについて…A&B・ストルガツキー
*宇宙で…I・ワルシャフスキー
*ホメーロスの秘密…A・ポレシチューク
*雪つぶて…E・パルノフ/M・エムツェフ
*湾の主…S・ガンソフスキー

《この一文》
“『人生は年齢によってではなく仕事によって測られる』――このことばをぼくがじいさんからはじめて聞いたのは、十七年前である。
  ――「竜座の暗黒星」(グレーヴィチ)より  ”

“ ムッシュー、ほかの人はどうだか知らないけれど、とにかくわたしは、なにごとにも驚かない人間はきらいです。わたしはそんな人間を見ると、まったく苦痛をおぼえますな。なにごとにも無関心であることによってこいつはおれを侮辱しようとしている、という気がしましてな。だって世の中には、ふしぎなことがやまほどあるじゃありませんか、ね、そうじゃありませんか? とどのつまり、わたしとあなたが生きているということさえ、ふしぎなことです。心臓がうつということ、肺臓が呼吸すること、脳髄が思考することも。ね、そうじゃありませんか?
  ――「湾の主」(ガンソフスキー)より  ”




有名な「カニが島を行く」のために買ったようなものの本書ですが、それ以外の短篇もとても面白かったです。特に面白かったのが、「湾の主」。これは、この短篇集のなかで唯一未来世界を舞台にしていませんでした。過去を回想する形式をとり、《湾の主》という未知の生物と遭遇するという、古き良きSF小説という感じでした。なんだかんだでこれが一番気に入ってしまうあたり、私はやはり懐古趣味であると言わざるを得ませんね。

さて、一応作品ごとに一言ずつ書いておきたいと思います。

*「カニが島を行く」
機械のカニが、赤道直下の無人島にある実験のために持込まれる。そのカニは金属を食って自己を再生産するという性能があるのだが、島のところどころに置かれた金属の山を食いつくし、増えに増えたカニたちがとった行動とは――というお話。
オチは見え見えですが、ちょっとした描写が間抜けで、猛烈に面白かったです。

*「竜座の暗黒星」
年老いた英雄的宇宙船長と若い建設技術者である「ぼく」は、竜座の暗黒星を目指して航行することになる。長い年月に及ぶ航行の末に、ようやく目的地へ辿り着くのだが――というお話。
結末がいささか唐突なものの、じんわりと胸を打つ短篇でした。ただ行くだけで14年、その間は狭い空間に閉じ篭り切りの、そんな道のりだとしても自ら望んで乗り出す人間がいるだろうか。いるだろう。人間ならきっとやるだろう。それが人間の美しいところだと、つくづく思います。

*「ベルン教授のめざめ」
人類はふたつの世界大戦を経験したが、科学はさらなる凶暴性をもって進化しようとしていることを憂えるベルン教授は、数万年後には人類は滅亡しているに違いないと断言し、そのことを確かめるためにあることを計画する――というお話。
タイムトラベルものです。どうせ人類は滅びる、それみたことか、というとてもネガティブなお話なので、私は気に入りました。そして意外な結末がまた私の気に入りました。面白い。

*「さすらいの旅をつづける者たちについて」
セプトボドというタコのような生物を観察・研究しているスタニスラフ・イワノヴィチは、ある日ゴルボフスキーという天文考古学者と出会う。彼は地球以外の惑星に、人間とは発達段階のちがった理性的存在の痕跡を探しているというのだが――というお話。
ストルガツキーの作品は、時々よく分からないことがあるのですが、この短篇もいまのところ私にはよく分かりません。でも好き。面白かったです。もっとよく読めば、もうちょっと分かったかもしれません。人間という存在のちっぽけさとか、それに対する悲しみとか諦めとか開き直りというようなところはチラチラと見えた気はします。
それにしても、ゴルボフスキーってどこかで聞いたような…? ひょっとしてアレかな、えーと、ほら……コムコン2とか。あのシリーズに出てくる人でしたっけ? あとで調べよう。

*「宇宙で」
宇宙へ探索任務に出かけた宇宙船。その旅においては、さまざまなトラブルに見舞われる。というお話。
ちょっと変わった作品でした。違った時点での話が、細かい章で断片的に語られます。

*「ホメーロスの秘密」
未来世界からホメロスの時代にタイムトラベルするお話。
これは結構面白かったです。地味ながらに面白い。工学部の生徒に古代の韻文を教えるべく派遣されてきた教授が、そのうちの熱心な学生が作ったタイムマシンに乗って、ホメーロスとは何者であったかを確かめるために古代へさかのぼります。実際に当時を見たり体験したりできればなぁ、と思っている研究者はいそうですが、でもこんな機械があったら、大変でしょうね。それでもいつかはそんな時代がくるのでしょうか。

*「雪つぶて」
私は論文発表の会場で頭に血が上り、しばらくは隠しておくつもりだったはずのタイムマシンを覆うカバーを外し、聴衆の面前で過去にさかのぼる――というお話。
これまたタイムトラベルものです。タイムトラベルって、まあ、とにかく面白いですよね。このお話も、主人公が過去の自分と邂逅し、こいつ結構いい奴じゃん、とか思ったりするあたりが最高に面白かったです。終わり方はなんだか青春小説的な爽やかさもあり、清々しい短篇でした。、

*「湾の主」
空港の待ち合わせで出会った人物は、かつてニューギニアで遭遇したという不思議な生物について語り出す。映画撮影技師である彼が見たというそれは実に奇妙な生物で――というお話。
普通に面白かったです。こういう古典的なSFという感じのする短篇は、安心して読めますね。SFというよりも怪奇小説という感じもしますが、いちおう最後のほうはちょっとSFっぽかった。ベリャーエフの「髑髏蛾」に近い感触です。どこがどうと、はっきりとは言えませんが、私は非常に気に入りました。この雰囲気がすごく良い。面白い!
ついでに、上に引用した「とにかくわたしは、なにごとにも驚かない人間はきらいです。」という部分は、ドストエフスキーの「ボボーク」という短篇にも似たような文がありました。いやほんと、世界は驚異に満ちているというのに、それに驚かないで過ごすなんて、まったくもったいない話ですよね。



というわけで、『竜座の暗黒星』は読了。同じ現代ソビエトSF短篇集というシリーズの『宇宙翔けるもの』と『アトランティス創造』も手もとにあるので、ついでに読んでしまおうかと思います。