アルカージイ・ストルガツキイ ボリス・ストルガツキイ 佐藤祥子訳(群像社)
《あらすじ》
万人の幸福を目指すために作られた実験都市で続発する奇怪な事件。
20世紀を象徴する社会が行き着く先は新たな地獄遍歴の始まりなのか。
ストルガツキイ兄弟最後の長編。
《この一文》
” 五年ほど前までは、あれこれ自分の行為が誰にとって必要なのかをはっきり知っていた。だが、今では--分からない。フノイペクを銃殺しなければならないことは分かっている。だが、何故そうしなければならないのかが分からない。つまりその方がはるかに仕事がしやすくなることは分かる。だがなぜ仕事がしやすくなる必要があるのか? だってそれはおれ一人に必要なことだろう。自分のためだ。おれはもう何年、自分のために生きてきただろう・・・。おそらく、それでいいんだ。おれにかわっておれのために生きる者はいないんだから、自分のことは自分で心配するしかない。だが淋しいんだ、たまらなく憂鬱なんだ・・・。しかも選択の余地はない、とアンドレイは思うのだった。おれに分かったのはこのことだ。人間は何もできない。たった一つできるのは、自分のために生きること。彼はこの考えがどうしようもなく明白かつ確定的であることに歯ぎしりした。 ”
最近知ったロシアの作家、ストルガツキイ兄弟の作品です。
この作品は少し表現が現代的過ぎて私には合わないかな、という第一印象でしたが、読み進むうちに、大変面白い物語であることが分かりました。
その社会的なテーマやところどころにあらわれる幻想性はとても興味深く、巡り合えた幸せにただ感激するばかりです。
他に『月曜日は土曜日に始まる』『そろそろ登れカタツムリ』等、タイトルからして面白そうな作品が沢山翻訳されています。
出版元の群像社はロシア文学専門だそうなので、これからもがんばってほしいものです。