太宰 治 (青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/ より)
《この一文》
” 「先生、見事な緋鯉でしょう?」
「見事だね。」すぐ次にうつる。
「先生、これ鮎。やっぱり姿がいいですね。」
「ああ、泳いでるね。」次にうつる。少しも見ていない。
「今度は鰻です。面白いですね。みんな砂の上に寝そべっていやがる。先生、どこを見ているんですか?」
「うん、鰻。生きているね。」とんちんかんな事ばかり言って、どんどん先へ歩いて行く。
突然、先生はけたたましい叫び声を上げた。
「やあ! 君、山椒魚だ! 山椒魚。たしかに山椒魚だ。生きているじゃないか、君、おそるべきものだねえ。」前世の因縁とでも言うべきか、先生は、その水族館の山椒魚をひとめ見たとたんに、のぼせてしまったのである。 ”
太宰治といえば、「走れメロス」や、最初の一文を読んだだけで読むのをよそうと思った「人間失格」のような少し薄暗いイメージを抱いていました。
それがあまりに一面的な評価であったことは、この作品を読んで明らかとなりました。
面白いです。
こんな愉快な話も書いていたなんて、全く知りませんでした。
不勉強にもほどがあるというものです。
山椒魚が出てくるのがまた魅力的でありました。
私も山椒魚や蛙やイモリは好きです。
透き通った卵とか、あの指の先の形とかがとても興味深いです。
それはさておき、この『黄村先生言行録』は青空文庫というページから無料で電子データをダウンロードできます。
本屋さんや図書館に行くまでもないのです。
著作権の切れた作家を中心に沢山の作品が置いてあるので、古典的名作はほとんどここで読むことができそうです。
なんて便利な世の中。