半透明記録

もやもや日記

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Musical Baton

2005年06月29日 | もやもや日記
今度はMusical Batonなるものがイーゲルさまよりまわってきました。困ったぞ。私は音楽がなくても生きていける種類の人間なので、何かメロディが流れていればそれなりにいいなあと思ったりしますが、特に自分から探しにいくほどではないのです。が、しかしせっかくの機会ですから、無いなりにまとめてみることにします。


《コンピュータに入っている音楽ファイルの容量》
227曲、254MBということでよいのでしょうか。以前はもう少し入っていましたが、ハードディスクを交換した際に入れ直すのが面倒だったので、今は必要最低限しか入っていません。


《今聞いている曲》
特になし。つまり、新しい曲は聴いていません。入っている曲をひたすら繰り返し聴くのみです。私は愛情は長く持続する性格なので、同じ曲を気が狂うほど聴いても大丈夫なんですね。あー、でも割と新しい人(多分)では、OK Go という人たちがいいです。気が狂うほど繰り返し聴いてます。変りどころでは、The Bugglesの"The Age Of Plastic"のなかの"Video Killed The Radio Star(ラジオスターの悲劇)"でしょうか。古臭さを拭えない他の曲に比べてこの曲だけは今聴いても新しい気がします。どう考えてもおかしいって! 何か人智を超えた力が働いているのではないかと、いつも疑っています。



《最後に買ったCD》
・・・なんだろう。記憶にございません。Sarah Brightman の "HAREM" かな。それにしたって結構昔のことです。基本的には音楽はK氏が買ってきたCDを横流ししてもらっているので、最近はほとんど買いません。ひどいですねー。

《よく聴く、または特別な思い入れのある5曲》
1ーweezer "pinkerton" のなかの "across the sea"と全ての曲



2ーweezer "weezer" のなかの "Undone-the Sweater song"と全ての曲


weezerは大昔にK氏に教えてもらったものですが、私の好みをそのまま形にしたような感じです。ライブにも行きました。最初はやはりK氏に借りていましたが、その後ちゃんと自分用にも買いました。最近の曲にはどう言う訳かなじめませんが、初期の2枚は史上最高傑作でしょう。はずれなしの奇跡の20曲。なんとも言えない独特のメロディは病み付きになります。

3ーOZMA "SPENDING TIME ON THE BORDERLINE" のなかの "UTSUKUSHII SHIBUYA(美しい渋谷)"


weezerに似ているということで知った若くて爽やかな5人組。これまたライブにも行きました。weezerとは別にこの人たちの良さを十分に持ったグループでした。とってもフレンドリーな彼等はライブ終了後にスタッフの困り顔をよそに出口のところまで出てきてくれて握手もしてくれましたが、彼等はあまりにその場になじんでいたので、私は勿論のこと皆ファンのくせに最初は本人だと気が付かない様子でした。そのくらい素朴で楽しい若者たちです。残念ながら学業のために現在は活動していないそうです。若いっていいなあ、という気持ちになれるありがたいグループでした。この「美しい渋谷」という曲は英語版と日本語版が両方収録されています。たどたどしい日本語が素敵。誰が邦訳したのか知りませんが、日本語の歌詞もとても美しいのが凄い!

4ーNATALIE IMBRUGLIA "LEFT OF THE MIDDLE" のなかの "TORN"


これは結構ヒットしたので聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうか。これまたはずれ曲なしの1枚です。そしてナタリーさんがまた美人なんだ、これが! これは珍しく自分で買いました。偶然にもK氏も同じのを買っていました。我々は基本的に趣味が合うんですね。だからK氏が買ってきたCDを聴くのは効率がいいのです。K氏は私の音楽の窓なので、彼がいなければ私は永遠に音楽を聴かないかもしれないですね。ありがたいなあ。(いつも借り倒しているからと言っておだてているというわけではないですよ)

5ーホフディラン "ホフディラン" のなかの "欲望"


椎名林檎の"幸福論"と選び難かったですが、悩んだ末にこちらに。2番の「君と繋がって繋がっていつも この世界を乗り越えて」という詞とメロディに何故か涙が迸り出ます。彼等は声も音もすごく変っていていいですね。

《バトンを渡す5人》
3人でさえ選べなかったのに、5人だなんて到底無理な話です。というわけで、再びここでストップ。うーむ、なんてやつだ。

Reading Baton

2005年06月28日 | 読書ー雑記
Reading Baton なるものがイーゲルさまよりまわってきたので、良い機会なので自分の読書傾向について改めて見直してみました。


《お気に入りのテキストサイト(ブログ)》
私の超過疎ブログにコメントをしてくださる方のところはいつも巡回させていただいております。自分ではあまり探しにいったりしない怠け者なので、来て下さる方がコメントを下さってはじめてそちらに伺うということが多いです。みなさま、いつもありがとうございます!

《今読んでいる本》
1ースタニスワフ・レム『宇宙飛行士ピルクス物語』
  これは図書館で借りてはや6週間目に突入。今週末には返さねばなりません。どうしてだか遅々として進まず。短篇集だから1つ読んでは休み、もう1つ読んでは休みを繰り返しているからなんだなー、多分。第1話を読み終えるまで「ピクルス」だと思っていました。はずかし~!

2ーA&B・ストルガツキイ『滅びの都』
  2回目です。最初に読んだときはどうも良く分からなかったところが多かったので、読み返しています。色々見落としていた点が沢山あることが判明しました。面白い!

3ーその他色々
  常に読みかけの本が複数冊そのままになっています。下手をすると何年間も放置です。気分が乗らないと読めない性格で・・・。

《好きな作家》
好きな作家は沢山いますが、そのうちでも「好き」という感情を超えて「崇拝」まで高まっている人を挙げるならばーー私が知った古い方から順番に内田百間、ガルシア=マルケス、安部公房、ラーゲルクヴィスト、ストルガツキイ。というところでしょうか。漫画家なら荒木飛呂彦。

《よく読む、または思い入れのある本》
1ー『バラバ』・『巫女』ラーゲルクヴィスト
  小説でこんなに読み返した本はありません。なんでこんなに面白いんだ!

2ー『収容所惑星』ストルガツキー
  ストルガツキイは全般に私の考えもしなかった世界を提示してくれますが、そのなかでも飽き性の私が分量があるわりに最後まで目が離せずにぶっとおしで読むことが出来た奇跡の1冊。内容もすげー! 図書館で借りて読んだので、今なんとしても手に入れたい1冊です。

3ー『巨匠とマルガリータ』ブルガーコフ
  最強に面白い。もう好きにして下さいと言いたくなります。今読みたいのは『犬の心臓』です。ロシアの人の感性は凄いですねー。

4ー『箱男』安部公房
  何か私にとって避けて通れない問題を扱われている気がします。この先もずっと考え続けることになるだろう深刻な1冊です。この人の日本語が好きだ!

そのほかにも沢山ありすぎて挙げきれませんので、とりあえずこのへんでやめておきます。

《次にバトンを渡すヒト3名》
交際範囲が狭過ぎて、3名も選べません; 止めてしまって申し訳ないです。とりあえず感想としては、私ってやっぱ偏ってるかも・・・と再確認できました。

鳥カーテンを作ってみた

2005年06月27日 | 手作り日記
青い鳥が飛ぶ棚用のカーテンを作りました。
ただの白い綿に、布用の絵の具を使って鳥を描きました。そして布の上部にはカーテン用ワイヤーを通して棚に掛けられるようにしてあります。青い鳥が自由に飛んでいるのを眺めることで梅雨の鬱陶しさが少しは和らぐといいのですが。
風を切る音が聞こえそうなこの鳥の形が好きなので、全ての鳥を飛ばせているのですが、1羽くらい休んでいるのがいてもよかったかもしれません。鳥だっていつも飛んでいるわけではないですからね。

秘境

2005年06月26日 | もやもや日記
NHKの「世界遺産100」というミニ番組でベネズエラ、ブラジルにまたがる広大なギアナ高地の一角に広がるカナイマ国立公園というところを紹介していた。ここには世界最大のエンジェルフォールと呼ばれる滝があり、その落差はなんと979mにもなるらしく、流れ落ちる水は地上に辿り着く前に霧状に飛び散っていた。山頂の生態系は独特で、跳ねることも泳ぐこともできない原始のカエル(真っ黒で可愛い)や、色鮮やかな見たこともない植物が生きている。
この映像はとても刺激的だった。私にはまるで天国と同じくらいに非日常の世界だった。なんという美しさだろう。私はほんの一部を誰かが撮ってきた映像を通して覗いてみただけに過ぎないけれど、山の高いところに住む真っ黒なカエルがきっと今も岩場を這って歩いているんだと思うと、気持ちが解放されていくのを感じる。重要なのは、誰が見ていようといまいと、厳然としてその美しい場所が存在するということだ。ただ存在するだけの美しさ。別の目から見れば、我々の社会も美しく見えるだろうか。何もかもただ存在するというだけで美しいと思えたらいいのに。
私はカエルになりたい。

『蛍火の杜へ』

2005年06月23日 | 読書日記ー漫画
緑川ゆき (花とゆめCOMICS 白泉社)


《収録作品》

花唄流るる/蛍火の杜へ/くるくる落ち葉/ひび、深く


《この一文》

”彼にはじめて出逢ったのは
 私が六つの時でした

 あつい夏の日
 妖怪達の住むといわれる
 山神の森で

 私は迷子になったのです

 出口を求めて走りまわり
 疲れて動けなくなって

 寂しさと恐ろしさから
 とうとう泣き出してしまった私の前に

 彼は姿を現したのでした   ーー「蛍火の杜へ」より”



表題の「蛍火の杜へ」は、短篇漫画の最高傑作ではないかと、個人的には思っています。いまのところこれを超える短篇作品には出会えません(比較できるほどあまり漫画を読んでいないのですが;)。少し線が細いような絵が苦手という人も多いらしいのですが、私としてはこの人の作風にぴったりしていて違和感は感じません。淡々として美しい語りがまた素敵です。はまる人ははまるのではないでしょうか。読んだことがある人にあったことがないので、分からないですけれど。
「蛍火の杜へ」のあらすじは、こんな感じです。
山神の森へ迷いこんだ少女、蛍は、そこでギンという青年と出会います。妖怪達とともに森に住む彼は人間に触れられると消滅してしまうというはかない存在なのでした。そんな二人は夏がくる度に森で会ううちに、互いに惹かれ合っていくのですがーー。
滂沱です。はじめて読んだ時は、それはもう大変でした。間違っても外では読めません。それから数年経った現在、ようやく涙が流れないくらいには耐えられるようになりましたが、いつ読んでも胸が詰まるのでした。本当はもっと別のところを引用したい気もしましたが、また泣きそうになるので今回は冒頭の一文を取りました。私はこの出だしも結構好きなんですねー。最初から最後まで、とっても良く出来ている、静かな夏のお話です。
ちなみに他の収録作品は、春の話と秋の話と冬の話になっていて、一年を通して楽しめる季節感あふれる1冊であるかと思います。個人的には、あとは秋の「くるくる落ち葉」が楽しいです。

『アポロンの地獄』を観た

2005年06月22日 | 映像
製作: 1967年 伊
監督: ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演: フランコ・チッティ/シルヴァナ・マンガーノ/アリダ・ヴァリ


《あらすじ》

一人の女が、男の児を生んだ。あどけないその赤ん坊の顔をみて、父親は暗い予感にとらわれた。「この子は、私の愛する女の愛を奪うだろう。そして、私を殺し、私の持てるすべてを奪うであろう」。コリントスに育ったエディポは「父を殺し母と通じる」というアポロンの神託を恐れ放浪の旅に出る。その途中でそれとは知らずテーベの王である父を殺し、その后である母を妻とする。その後真実を知った彼は絶望のあまり自らの目を突いて放浪の旅に出る。




凄い映画を観てしまいました。
原作は、ギリシャの詩人ソポクレスの戯曲で有名なオイディプス王の伝説です。
物語は現代のある夫婦のもとに男の子が生まれるところから始まり、古代のギリシャへと移ります。いやはや本当に悲劇でありました。捨て子のエディポはコリントス王のもとで実子として育てられますが「父親を殺し、母親と通じることになるだろう」という神託を受けショックのあまり放浪の旅に出ます。実はテーベの王の息子であった彼は自分ではそのことを知らないので、偶然のうちにテーベの王を殺し、その后を妻とすることになるのでした。テーベの王もかつて「実子に殺される」という神託を得て、生まれたばかりの息子を遠くまで捨てに行って殺すように羊飼いに命じていたのでしたが、それを哀れんだ羊飼いは殺さないで放っておいたところを、コリントスの老人に拾われ、子のいないコリントス王のもとへ差し出されたのでした。神託というのは本当に恐ろしいものです。
と、話の筋を分かっていても、とっても怖かったです。それはこの映画の持つ狂気のような迫力のせいでしょう。まず、映像が凄い! 砂の町で青空を背景にやせこけた男性の黒衣が風に翻っていたり、目のところに穴を開けたバケツのような形をした兜を被った兵士を突き殺して兜を脱がせると、まだうら若い少年だったとか、エディポが途中で倒すことになるスフィンクスというのが腰ほどまである巨大な面を被ったただの男のようなあまりの普通っぽさ(それがかえって無茶苦茶怖い!)とか、エディポの母であり妻となるテーベの后イオカステの眉のない真っ白な顔とか。そして、すべての悲劇の後、舞台が現代に戻り、エディポにそっくり盲目の男が登場する展開などにも参りました。
昔の映画は全く侮れないですね。こうなると同じ監督(この人自体も変っているらしいので興味がありますが)の他の作品も観たくなります。とりあえず『王女メディア』と『奇跡の丘』は是非とも観たいところです。

『川端康成へ』

2005年06月19日 | 読書日記ー日本
太宰治 (青空文庫


《内容》

芥川賞を取り損ねた太宰治による川端康成への反論。


《この一文》

”小鳥を飼い、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。刺す。そうも思った。大悪党だと思った。そのうちに、ふとあなたの私に対するネルリのような、ひねこびた熱い強烈な愛情をずっと奥底に感じた。ちがう。ちがうと首をふったが、その、冷く装うてはいるが、ドストエフスキイふうのはげしく錯乱したあなたの愛情が私のからだをかっかっとほてらせた。そうして、それはあなたにはなんにも気づかぬことだ。 ”



「刺す。そうも思った。」って、なんてストレートな表現でしょう。しかもこの文章のうまさにびっくりです。太宰治ってやはりただ者ではありません。
本日6月19日は「桜桃忌」だそうです。いまだに人を惹き付ける太宰治という人のカリスマに感心します。私はまだあまり沢山は読んではいませんが、作品からはネガティブさの背後にある実直さというようなものを感じます。正直に生きたいのに、それを阻む様々の事柄に対する憤りと悲しみというような。あくまで個人的な感想ですが。そういうところに惹き付けられるのでしょうか。
もし彼が望んだように芥川賞を得ていたら、その後の人生は変っていたのだろうか。そんなことを思う日曜の夕暮れでした。

『地獄變』

2005年06月18日 | 読書日記ー日本
芥川龍之介 (青空文庫

《あらすじ》

良秀は異常なまでの子煩悩であるとともに、絵に対する執着が人並みでなく、様々な奇行が噂される人物だったが、並ぶもののない絵師として高名でもあった。その良秀に、堀川の大殿様は〈地獄変〉の屏風を描くように命じるがーー。


《この一文》

” 見るとそれは私の足もとにあの猿の良秀が、人間のやうに兩手をついて、黄金の鈴を鳴しながら、何度となく丁寧に頭を下げてゐるのでございました。   ”



うっかり真夜中に真っ暗な中で読んでしまいました。怖い! 怖過ぎます! 眠れなくなるかと思いました。良秀も不気味ですが、大殿様がさりげなく怖い。いつもながら、真相をはっきりとは言わないで、読み手に想像させる方向へ導くやり方がうまいです。そのほうが一層怖いんですねー。色合いも不気味に鮮やかです。良秀の赤い唇、娘の雪のような肌に艶やかな黒髪、燃え盛る炎。それから蛇に髑髏に鎖に猫に似た鳥(ミミズク)と、気味の悪いものがこれでもかと出てきて盛り上がります。はー、怖かった・・・。
しかし物語はただ恐ろしいだけではありません。猿の良秀には泣かされます。一番かわいそうなのは、娘と彼女が可愛がっていた猿の良秀(娘の父親の良秀をからかってその名をつけられた)でありましょう。良秀だって、嫌なやつではありますが、見方によっては単に絵に対して熱心なだけとも言えます。その熱心さが親子の情愛より勝ってしまうというのが、この物語の問題のひとつなのですけれども。最愛のものの犠牲を代償に傑作を得るが、結局は喪失した悲しみに堪えかね命を失うことになる良秀は、結構気の毒に思えます。やはり一番恐ろしいのは大殿様ではないですか。意地悪過ぎます。貴族に翻弄される人々の悲劇。
それにしても、この物語の凄まじいスピード感に感動です。

夢の話

2005年06月17日 | もやもや日記
私は夢の中でまで現実に縛られているので、愉快な夢を見たことはあまりありません。いつもがっかりしています。その私が、先日数年ぶりに美しい夢を見ました。それはお寺にお参りに行くと、塀に囲まれた境内の真ん中で枝を長くのばす一本の大きな松の木に、とんびのように茶色い大きな鳥が、翼を扇形にひろげて止まろうとしているところでした。その翼は内側が夜のように暗い藍色で緑色に光る模様が星をつくっていました。少し離れたところから見上げていた私は、その羽根がとてもふわふわして柔らかく、しかも白檀のような良い香りがするのがわかりました。
と、美しかったのはここまでで、この後の私はお参りする前に用を足そうと思ったのに、すのこの上で待つ私のもとには便所用の履物は次々と返ってくるが、しかし永遠に順番は回って来ない。という極めて詰まらない展開のまま覚めてしまいました。

私は素敵な夢を見たことを話してくれる人や、夢のように素敵な話をしてくれる人に憧れます。鰯の切り身(冷凍)がマッハ3で飛んでいくとか、火星人(蛸に似ていると思っていたが、実は烏賊のようだった)は月の途中のインターチェンジで温泉饅頭を売っているとか、そんな素敵な夢を私も見たい。仕事中、窓の向こうに降ってくる落下傘部隊を数えたとか、アップル社の式典で齧った七色の林檎はバナナのような味がしたとか、美しい月を眺めて、しかし月は今も次第に遠ざかっているのだーーとか、そんな素敵なことを私も言ってみたい。

いつか収集した素敵な物語をその頂では月の表面にだって触れられる山のように高く積み上げるのが、起きている私の夢なのでした。

『ちくま日本文学全集 尾崎翠』

2005年06月16日 | 読書日記ー日本
(筑摩書房)


《収録作品》

こおろぎ嬢/地下室アントンの一夜/歩行/第七官界彷徨/山村氏の鼻/詩人の靴/新嫉妬価値/途上にて/アップルパイの午後/花束/初恋/無風帯から/杖と帽子の偏執者/匂い/捧ぐる言葉/神々に捧ぐる詩


《この一文》


”「みろ、僕の部屋は蘚(こけ)の花粉でむせっぽいほどだ。これは蘚が健康な恋愛をしているしるしで、分裂心理なんか持っていないしるしなんだ」
 「二助は蘚の分裂心理を培養してみてくれないだろうか。熱いこやしとつめたいこやしをちゃんぼんにやったら、僕の治療の参考になる蘚ができないだろうか」
 「なんということを考えつくんだ。僕がそんな異常心理をもった蘚を地上に発生させるとは、もってのほかだ。ひとたび発生さしてみろ、その子孫は、彼等の変態心理のため永久に苦しむんだぞ。僕は一助氏一人の恋愛のために植物の悲劇の創始者になることを好まない。まるでおそろしいことだ。僕は睡ることにする」    ーーーー「第七官界彷徨」より ”



私は日本文学というのを全く侮っていたと、いま深く反省しています。尾崎翠を知らずにこれまでやりすごしてきたというのは、一体どういうつもりだったんでしょう。こんなに面白い人がいたとは、予想もしていませんでした。
特に引用したこの「第七官界彷徨」は最高です。小野一助(分裂心理病院に勤める)、小野二助(農学生で肥料と植物の恋愛を研究中)、小野町子(主人公で、一助と二助の妹。人間の第七官に響く詩を書くのが夢)、佐田三五郎(町子達の従兄弟。音楽学校入学を目指す受験生になって2年目)の秋から冬にかけての短い間の共同生活の物語です。登場人物の言動やら何やら、とにかく何もかもが面白く、電車の中では読めない種類の小説と言えるでしょう。特に、二助の論文は、最高に抒情詩的で感動します。なんて浪漫的なんでしょう、うくく。
このお話のテーマは「失恋」ということでありまして、皆がそれぞれに失恋する様が描かれています。そのせいか、ユーモラスな中にも悲しいような寂しいような雰囲気も漂わせているのでした。この雰囲気はこの人特有のものなのだろうと、他の作家を知らぬくせに根拠も無く思ったのですが、笑いも悲しみも爆発的なものでは決してなく、常に静かでひっそりとしています。妙な間があるというか。私の拙い表現が当たっているかどうかはわかりませんが、まるで秋の空気のような印象です。透明で淡々と、どこまでも静かに。単に秋の物語だったせいなのかもしれませんが、他の作品も同様の静けさに満ちています。個人的な感触で近いと思うのは、岩館真理子さんの漫画でしょうか。いずれにせよ、私の好みです、とても。

ようやく読書の成長期にはいり、無意味な読まず嫌いを克服しようとしている最近の私に、幸先の良い1冊となりました。