尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

今こそロシア文学を!ーウクライナ戦争余波①

2022年04月18日 23時10分14秒 | 〃 (外国文学)
 ウクライナ戦争のスピンオフを幾つか。日本だけでもないようだが、ロシア料理店に嫌がらせするとか、「ロシア」と名の付くものを攻撃する風潮がある。東京の恵比寿駅ではロシア語の案内表示に「不快」などという声があって、消したり戻したりする騒動があった。なんで恵比寿駅にあるのかというと、JR駅としてはロシア大使館に近く、東京五輪を控えてロシア語の案内を付けたという話。結局「復活」したらしいが、いつも使う駅ではないから現状は知らない。ロシア語は「キリル文字」で表記されるが、ウクライナもキリル文字である。ウクライナからの避難民にも役立つと思うけど。

 もう一ヶ月近く前になるが、北海道の札幌大学で開催予定だったロシア文学展が延期されたというニュースがあった。いやあ、さすが「敵性語」などと呼んで英語を禁止した過去の「伝統」を受け継いでいる。僕はこのニュースを聞いて、いつの時代もバカはいるもんだと思った。何故ならば、「ロシア的なるもの」を今こそ知らなければならないからだ。知的好奇心があれば、今こそロシア文学を読んでみようと思わなければならない。
(ロシア文学展の延期というニュース)
 日本で普通に生きていれば、アメリカ文化(映画やポピュラー音楽など)や中国文化(主に古典の「三国志」や「論語」など)には比較的接している。日本の地理的位置は変わらないんだから、日本をはさむ巨大な隣人であるアメリカと中国は、関心を持っていなければいけない。政治的動向なども重要で、アメリカ大統領選や中国共産党大会などのニュースは日本でも大きく報道される。しかし、その裏にある歴史、文化などを知る努力をしなければいけない。

 朝鮮半島や東南アジアも重要だが、最近は韓国のドラマだけでなく、東南アジア諸国のドラマも知られてきたらしい。台湾も含めて、日本の食文化に与える影響も大きい。そういうところから親近感を持っている人も多いだろう。ところで、目を北に転じると、北海道の向こうにはロシアがある。いや、そこは本来はロシアではない。ウラジオストクなどの「沿海州」は清国から奪い取ったものだった。千島やサハリン(樺太)も本来のロシア領ではない。しかし、ともかく現状ではすぐそばにロシア人がいるのは間違いない。しかし、自分も含めて「ロシアのことはあまり知らない」という人が多いのではないだろうか。

 僕が一番勉強したのは、ソ連時代末期のゴルバチョフ時代。「ペレストロイカ」(改革)が進んで、自由化が進んだ一方、連邦内で民族紛争が噴出した。一体その原因はどこにあるのかと疑問に思って、随分関連書を読んだ。授業に役立つとかではなく、自分の好奇心の問題である。その頃にロシア文学もかなり読んだ。古典的な小説がすごく面白いのである。プーシキンとか、レールモントフ「現代の英雄」とか、こんなに面白かったのかと思った。やはり政治の本ばかりではなく、その国の文化に接しなければ理解が難しい。しかし、現代ロシアの映画や音楽などはあまり紹介されず、どうも遠い感じが抜けない。

 だけど、古典を読めば良いのではないかと思う。かつて反体制作家のソルジェニーツィンが、ソ連の帝国秩序は解体すべきだと述べたことがあった。その時はそんなことが実現する可能性はないと思っていた。しかし、そんな反体制作家でも、ソ連を「ロシア、ウクライナ、ベラルーシ」の「スラブ連合」にして、ムスリム国家やコーカサスは放棄しちゃえという意見だった。つまり、ウクライナと別国家になるという発想は反体制側にも存在しなかったのかもしれない。

 そうなると、ますます18世紀から19世紀の帝政ロシアで成立した「大国ロシア人」意識を考えないといけない。「プーチンのロシアはソ連だ」などという人も多いが、どう見てもむしろ「帝政ロシア」だろう。レフ・トルストイにはコーカサス戦争を描く作品がかなりあるが、それを読むとやはりロシア人意識、あるいは反イスラム教という感じが抜けないように思った記憶がある。トルストイドストエフスキーは世界文学の頂点だから、単にロシアを知るという関心で読むべき本ではない。だけど、間違いなくロシアという風土から生まれたものには違いない。長すぎて読まずに来た作品が多いから、今こそ読んでみる時期が来たかと思う。
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