岡山旅行2日目は妻の知り合いが宿まで親切にナビしてくれた。その宿が面白かったのだが、その話は後に回して3日目を。晴れる予報だったが、雨は上がったものの曇天。この日も知人が宿まで来てくれて、「鬼ノ城」(きのじょう)を案内してくれた。ここも「日本100名城」なんだけど、城好きの人じゃないとまだ知らないだろう。岡山では有名な場所で、是非見て欲しいところらしい。もちろん僕の要望でもあるんだけど。やはり地元では子どもの校外学習でよく行くところらしい。
多くの人は名を知らないだろう「鬼ノ城」は、そもそも調査発掘が進んだのも30年ぐらい前からである。多くの人は「お城」と言えば、戦国時代から江戸時代を思い出すと思う。姫路城、松本城、彦根城などの現存天守がある国宝の城、あるいは再建でも大坂城、名古屋城、熊本城、会津若松城(鶴ヶ城)など、地域のシンボルで観光や修学旅行などでよく行く場所。しかし、「日本100名城」は城の概念を大きく拡大させた。吉野ヶ里やアイヌのチャシも選ばれているし、鬼ノ城は唯一の「古代山城」なのである。(後で気付いたけど、福岡県の大野城も「古代山城」として100名城に選ばれていた。行く予定がなかったので意識してなかった。)
文献には出て来ず、誰がいつ作ったのかは判らない。一応7世紀後半にヤマト政権が築造したと言われている。つまり白村江の戦い(663年)敗戦後に唐・新羅との緊張が高まり、対馬から畿内まで防塁が築かれたが、鬼ノ城もその一つで瀬戸内海を眺望監視するための城とされている。だから今でも晴れていれば、瀬戸内海の島々まで望めるという。しかし当日はちょっと涼しい風が吹く日で、最初は全く霧の中で眺望ゼロだった。上の写真はちょっとピンボケに見えるけど実は霧なのである。最初に載せた写真は再建された「西門」で、不思議な絵模様が飾られている。遺物はもちろん文献もないんだから、想像で「大陸風」にしたらしい。
鬼ノ城があるのは岡山県総社市で、古代の巨大古墳が集中している「吉備路」一帯の北にある鬼城山(397m)に築かれた。完全に低山ハイクで、狭い山道を車で行くと歩いている人も多い。大分行ったと思う頃、鬼ノ城ビジターセンターが現れる。そこに100名城スタンプが置いてあって、歴史を学べる展示がある。もちろん現存施設は何もなく、最近になって土壁や西門が当時の工法で(ということはコンクリなどを使わずという意味なんだろう)、再建されたのである。ビジターセンターから15分ぐらい歩くと見えてくる。そこからグルッと回ると2時間ぐらい。さらに上の方にも巨石の遺物などがあるらしい。
まあ3日目で疲れてきたし、眺望も良くないので、西門を中心に少し回って帰って来た。戦国時代の山城のような「戦闘」が現実に起こった場所と違って、石垣も何もないほとんど山歩きそのものの「城」である。城のイメージを大きく変える独特の場所だと思う。「完成された古代山城」だと考えられていて、発掘で当時の須恵器、土師器などが多く出土している。やはり古代吉備の力を背景にした山城とも言えるだろう。今は「歴史と自然の野外博物館」として整備されているが、岡山の「桃太郎」伝説なども、こういう場所から作られたと思う。中世には山岳宗教の修行地として利用されたという。ほとんど霧の中だったのが残念。
「吉備路」をちょっと見たいと備中国分寺へ。この辺りは巨大古墳が多く、特に造山(つくりやま)古墳は日本第4位の大きさを誇る。つまり大和の大王級の勢力があったとも考えられるが、宮内庁管理ではないので中へ入れる。実は高校生の時にそこを歩いたのだが、暑かったことしか覚えてない。そんな吉備路を象徴する景観が備中国分寺の五重塔。春はレンゲが咲き誇り、その向こうに塔が見えて素晴らしいらしい。国分寺は聖武天皇の命で全国に作られたが、ほとんどが廃寺となった。ここも同様だが江戸時代中期(18世紀初頭)に再建された。五重塔も19世紀半ば建立で重要文化財。近くに「吉備路もてなしの里」があり、そこで昼食。
最後に国宝である吉備津神社へ。全国唯一という比翼入母屋造の本殿(最初の写真)はやはりすごい迫力だ。時間の関係もあってあまり細かく見なかったが、ここの「鳴釜神事」は有名だといい、そのお釜を見たけれど写真禁止。3千円払うとお祓いをしてもらえる。『雨月物語』に出てくると言われて、そう言えば「吉備津の釜」という話があったなと思いだした。
2日目の宿は吉備路のど真ん中にある「国民宿舎サンロード吉備路」を取った。加温・循環だけど、一応「吉備路温泉」である。温泉力は強くないけど、大浴場があると疲れが取れる。ここは一種の「道の駅」みたいになってて、農産物直売所やカフェなどを併設している。食事も美味しかったが、それより何より窓から古墳がいっぱい見える立地が最高。レンタサイクルもあるので、周辺をサイクリングすることも出来る。規模的には歩いて回ることも可能で、総社駅から送迎もある。部屋も広くて気持ち良かった。いつかまた泊まって周囲を巡り歩いてみたいと思った宿である。歴史散歩としては最高の場所の一つだと思う。
ところで部屋にいると、何か鳴き声がすると思ったらタンチョウだったのである。先の写真の3階一番端っこの部屋に泊まっていたので、カーテンを開けたらタンチョウが見えた。実は「きびじつるのさと」という施設が併設されていたのである。もっとも今外で見られるのは2羽だけで、他に8羽いる鶴は「鳥インフルエンザ予防のため」ゲージで飼育されていた。後楽園にタンチョウがいて驚いたが、泊まった宿からタンチョウ鶴が見える宿というのも凄いというかビックリだった。