クリント・イーストウッドが監督、製作、主演した映画「運び屋」(The Mule)が公開中。1930年生まれのクリント・イーストウッドは公開時に88歳なのに、監督だけならまだしも自ら主演しているんだからすごい。そんな高齢者に相応しい役柄があるかと思えば、90歳で麻薬の運び屋をした男の実話だというから、現実はもっとすごい。原題の「Mule」の意味を調べると、「頑固者」「強情っ張り」という意味が出てくるが、もう一つ「麻薬を密輸するために, 外国からの運び屋として雇われるしろうと旅行者」という意味が書いてあった。そっちなんだろうが、前者の意味もかかっているだろう。
園芸農家のアール・ストーンは妻子を顧みず、デイリリー栽培に夢中になる。品評会でも表彰される。(「一日しか咲かないユリ」と紹介される「デイリリー」だが、調べてみるとわすれな草、カンゾウ、ニッコウキスゲなんかを指すらしい。)2002年当時はけっこう繁盛している感じだが、IT化の波に乗り遅れ次第に追い詰められる。15年後の2017年になると、農園は破産して差し押さえ。別れた妻の元を訪ねると、孫娘の婚約式最中。娘は口も聞いてくれず、追い返される。その参列者の中に、麻薬カルテルと関係があるヒスパニックがいた。そして今まで一度も交通違反をしていない、安全運転だという自慢を聞いて、一度「ものを運ぶ仕事」をしてみないかと声を掛けた。
朝鮮戦争の退役軍人であるアールは、おおよそ仕事の中身に気づきながらも金に惹かれて何度も仕事をするようになる。一方、麻薬取締局(DEA)のコリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)は大物運び屋が現れたことを内部情報でつかんで追い詰める。しかし、まさかこんな高齢者とは思わず、なかなか見つけられない。「ニアミス」シーンは実に味わい深い。アールは最初のうちこそ緊張もあるが、次第に「怖いもの知らず」になっていき、見張りがあるのにタイヤ交換の手伝いをしたりする。(しかも黒人ドライバーに「ニグロ」なんて発言してひんしゅくを買う。)映画のかなりのシーンは、エルパソからシカゴまでの運送シーン。しかし「ロード・ムーヴィー」にはならない。単純に行き帰りの仕事に過ぎない。でも車の中でラジオに合わせてクリント・イーストウッドが何度も歌うのが楽しい。
(イーストウッドとダイアン・ウィースト)
失われた家族との関係が心に残る。金が出来て、家族を援助することも出来るし、火事で閉まってしまった退役軍人会のクラブも再建できる。怪しまれずに大量の「ブツ」を運んで、メキシコの麻薬王に招待されるまでになる。その後、急に対応が厳しくなり時間厳守が求められるが、その後の運送中に「妻が倒れた」という電話を孫娘から受ける。この妻役はダイアン・ウィーストで見事な存在感。ウッディ・アレン監督の「ハンナとその姉妹」「ブロードウェイと銃弾」で2回アカデミー賞助演女優賞を受賞している名優である。さあ、アールはどうするか。まあ最後まで捕まらない運び屋は、実話として報道されないわけだから、なんかのきっかけで露見するんだろうとは最初から判っている。
クリント・イーストウッドが「監督、主演」した映画は、2008年の「グラン・トリノ」以来。その後、今回の「運び屋」まで7作も作っている。もう思い浮かばないので調べてみると、「インビクタス」「ヒア・アフター」「J・エドガー」「ジャージー・ボーイズ」「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」「15時17分、パリ行き」で、異常なほどのイーストウッドびいきの日本では、以上の作品が全部ベストテンに入っている。「グラン・トリノ」「ジャージー・ボーイズ」「ハドソン川の奇跡」に至ってはベストワンである。(他に「許されざる者」「スペース・カウボーイ」「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」「父親たちの星条旗」もベストワン。つまり、クリント・イーストウッドは8作品もベストワンになっている。
驚きのイーストウッド好みだが、この中で圧倒的な感じを与えるのは「許されざる者」や「ミリオンダラー・ベイビー」ぐらいではないか。特に最近の作品は「巧みに物語を進行する」タイプの映画が日本人批評家好みなのではないかと思う。テーマ的に物語を深掘りするとか、美学的に凝りに凝るという感じの映画ではない。この映画もよく出来ているけど、主人公の内面に深入りせず、淡彩で描いている。そこに「哀愁」がある。アールの人生とは何だったのかと感じさせる。映像的にも画面に二人以上の人物を配し、上手にカットをつないでいる。特に作家のこだわりがある作りではなく、どんな物語でもスムーズに語り下ろしていく。見ていて安心できるが、アールの人生を振り返って悔いが多いだろうなあと思う。80歳で運び屋になったレオ・シャープという人物の実話だという話。
園芸農家のアール・ストーンは妻子を顧みず、デイリリー栽培に夢中になる。品評会でも表彰される。(「一日しか咲かないユリ」と紹介される「デイリリー」だが、調べてみるとわすれな草、カンゾウ、ニッコウキスゲなんかを指すらしい。)2002年当時はけっこう繁盛している感じだが、IT化の波に乗り遅れ次第に追い詰められる。15年後の2017年になると、農園は破産して差し押さえ。別れた妻の元を訪ねると、孫娘の婚約式最中。娘は口も聞いてくれず、追い返される。その参列者の中に、麻薬カルテルと関係があるヒスパニックがいた。そして今まで一度も交通違反をしていない、安全運転だという自慢を聞いて、一度「ものを運ぶ仕事」をしてみないかと声を掛けた。
朝鮮戦争の退役軍人であるアールは、おおよそ仕事の中身に気づきながらも金に惹かれて何度も仕事をするようになる。一方、麻薬取締局(DEA)のコリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)は大物運び屋が現れたことを内部情報でつかんで追い詰める。しかし、まさかこんな高齢者とは思わず、なかなか見つけられない。「ニアミス」シーンは実に味わい深い。アールは最初のうちこそ緊張もあるが、次第に「怖いもの知らず」になっていき、見張りがあるのにタイヤ交換の手伝いをしたりする。(しかも黒人ドライバーに「ニグロ」なんて発言してひんしゅくを買う。)映画のかなりのシーンは、エルパソからシカゴまでの運送シーン。しかし「ロード・ムーヴィー」にはならない。単純に行き帰りの仕事に過ぎない。でも車の中でラジオに合わせてクリント・イーストウッドが何度も歌うのが楽しい。
(イーストウッドとダイアン・ウィースト)
失われた家族との関係が心に残る。金が出来て、家族を援助することも出来るし、火事で閉まってしまった退役軍人会のクラブも再建できる。怪しまれずに大量の「ブツ」を運んで、メキシコの麻薬王に招待されるまでになる。その後、急に対応が厳しくなり時間厳守が求められるが、その後の運送中に「妻が倒れた」という電話を孫娘から受ける。この妻役はダイアン・ウィーストで見事な存在感。ウッディ・アレン監督の「ハンナとその姉妹」「ブロードウェイと銃弾」で2回アカデミー賞助演女優賞を受賞している名優である。さあ、アールはどうするか。まあ最後まで捕まらない運び屋は、実話として報道されないわけだから、なんかのきっかけで露見するんだろうとは最初から判っている。
クリント・イーストウッドが「監督、主演」した映画は、2008年の「グラン・トリノ」以来。その後、今回の「運び屋」まで7作も作っている。もう思い浮かばないので調べてみると、「インビクタス」「ヒア・アフター」「J・エドガー」「ジャージー・ボーイズ」「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」「15時17分、パリ行き」で、異常なほどのイーストウッドびいきの日本では、以上の作品が全部ベストテンに入っている。「グラン・トリノ」「ジャージー・ボーイズ」「ハドソン川の奇跡」に至ってはベストワンである。(他に「許されざる者」「スペース・カウボーイ」「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」「父親たちの星条旗」もベストワン。つまり、クリント・イーストウッドは8作品もベストワンになっている。
驚きのイーストウッド好みだが、この中で圧倒的な感じを与えるのは「許されざる者」や「ミリオンダラー・ベイビー」ぐらいではないか。特に最近の作品は「巧みに物語を進行する」タイプの映画が日本人批評家好みなのではないかと思う。テーマ的に物語を深掘りするとか、美学的に凝りに凝るという感じの映画ではない。この映画もよく出来ているけど、主人公の内面に深入りせず、淡彩で描いている。そこに「哀愁」がある。アールの人生とは何だったのかと感じさせる。映像的にも画面に二人以上の人物を配し、上手にカットをつないでいる。特に作家のこだわりがある作りではなく、どんな物語でもスムーズに語り下ろしていく。見ていて安心できるが、アールの人生を振り返って悔いが多いだろうなあと思う。80歳で運び屋になったレオ・シャープという人物の実話だという話。