尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

恐怖のカショギ事件ーサウジアラビアの闇

2018年10月18日 22時39分02秒 |  〃  (国際問題)
 サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(1958~)が、10月2日にトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館に入ったまま行方不明になっている。そういう風に報道されてすでに長いわけだが、トルコでは早いうちからカショギ氏は総領事館で殺害されたという情報が流されていた。当日のうちに15人の「暗殺チーム」が自家用機でトルコに入国し、その日のうちに出国したとか。非常に珍しいことだが、外交特権のある総領事館をトルコ当局が捜索している。もうカショギ氏が死亡していることはどうやら疑いようがないようだ。
 (ジャマル・カショギ氏)
 なんで総領事館に「暗殺チーム」がいたのだろうか。実はカショギ氏が結婚手続きのために総領事館を訪ねたのは、2日が2度目だったという。最初は9月28日に訪れ、2日の再訪を指示されたという。その報道が確かとすれば、サウジ当局がカショギ氏に対する「対策」を取ることが可能だったことが判る。同時にトルコ当局もその情報を知っていて、総領事館に対する監視を行っていたと思われる。トルコ側に「音声情報」があるという情報はそう考えないと理解できない。

 ただし、トルコ側の事前の想定は、そのまま秘密裡にサウジアラビアに移送されてしまう事態じゃなかったか。まさかすぐに殺害されるとは思ってなくて、そのことがトルコ側の怒りを買っているように思う。ただし、サウジアラビアはカタールと断交していて、トルコはカタールを支持してきた。そのためカタールのアルジャジーラの報道は反サウジのバイアスがかかっている可能性を考えておかないといけない。それにしても、報道によればカショギ氏はすぐに暴行を受け、生きたまま切断されたとも言う。その後バラバラにされて持ち出されたわけである。

 この事件は僕の知っている中でもとても非常に恐ろしい事件だ。もちろん殺人はすべていけないわけで、どこかに誘拐して殺害するならいいわけでもない。でもよりによって、国際的な大都市であるイスタンブールの、外交特権の認められている公館で殺人事件を起こす。そんなことがあるのか。例えば北朝鮮のキム・ジョンウン委員長の異母兄であるキム・ジョンナム(金正男)氏がマレーシアのクアラルンプール空港で暗殺された。(2017年2月13日。)この事件は空港で起こり、指示したと思われる容疑者は出国してしまったために、背景事情が解明できていない。一方、カショギ事件は公館で起きた以上、サウジアラビア当局の関与は疑いようもない

 サウジアラビアに関しては、2017年6月23日に「サウジアラビアの皇太子交代問題」を書いた。その記事では「国内で絶対的支持がなく、力量のほどを示して見せる必要がある若い新皇太子が、外交・軍事を統括する。当然、強硬策を取る誘惑にかられると思う。そこに落とし穴があるかもしれない。」と書いた。その時はむしろイエメン内戦問題を想定していて、このような反体制派ジャーナリスト謀殺事件を公然と起こすとは思ってなかった。ムハンマド皇太子が進める改革は、石油依存経済からの脱却、女性の自動車運転開始など、国外ではある程度評価されてきた。一方でカタール断交問題、イエメン内戦も膠着状態が続き、強権化が目立っていた

 カショギ氏のことは事件前には知らなかったが、アメリカに留学した後、サウジ国内で様々な新聞で勤務した。サウジアラビアの宗教的特権層を批判して、事実上アメリカ亡命状態だったという。王族内にも知人がいて、かなりの知名度があったようだ。ワシントン・ポストが17日のオンライン版で、カショギ氏の「最後のコラム」を掲載した。そのコラムは「What the Arab world needs most is free expression」(アラブ世界に最も必要なのは表現の自由だ)と題されていて、カショギ氏の失踪直前に書かれたものという。サウジアラビアではこの主張に命が懸かるのだ。

 米国トランプ大統領は2017年1月に就任後、最初の外国訪問先にサウジアラビアを選んだ。そこで1100億ドル(約12兆円)もの武器輸出契約を結んだ。カショギ事件でも、どうもサウジ王室の関与を否定して、武器輸出を優先する気配を見せている。トランプが「人権より商売」を選ぶのは不思議ではないが、アラブ諸国であるサウジアラビアにこれほどの武器輸出をしてキリスト教右派勢力は反発しないのか。本来「アラブの盟主」を任ずるサウジアラビアにとって、その経済力、軍事力はイスラエルに向けられても不思議ではない。というか、そうあるはずである。

 だけど、アメリカが売った兵器がイスラエルに向かうとなれば、アメリカが売るはずもない。その兵器は、イスラエルが一番警戒するイランに対するものだと確約しているから、アメリカもサウジに武器を売る。そういうことであるはずだ。シリア内戦やカタール断交問題をきっかけに、トルコとロシアが接近し、シリアのアサド政権を支持するイランもトルコと接近し始めている。一方、アメリカとトルコの関係が難しくなっていて、アメリカ・イスラエル・サウジアラビアが事実上の同盟関係になっている。中東情勢は複雑で、この関係もいつまで続くかは判らないが。

 サウジアラビアとイランは、イエメン内戦で直接対峙している。サウジアラビアの事実上の最高責任者はムハンマド皇太子で、独裁国家であるサウジでは皇太子の指示なくしてカショギ事件は起こりえない。すぐ殺害せよという指示だったかどうかは不明だが、何らかの指示があって側近がイスタンブールに派遣されたのだろう。ムハンマド体制が大きく揺らぐのは間違いない。イエメン内戦という「戦時体制」が国を危うくしてゆくということだと思う。

 このような事件として、1973年に東京で起きた金大中氏拉致事件、1965年にパリで起きたモロッコの左翼政治家、ベン・バルカの失踪事件(モロッコの諜報機関に殺害されたとされる。ゴダールの映画「メイド・イン・USA」で描かれた)などが思い浮かぶ。最近はロシアで野党政治家やジャーナリストが殺害される事件が起こっている。最近はジャーナリストに対する殺害事件が多くなっている。国際的な世論、市民の活動が支えることこれからも必要だということだ。
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「米朝首脳会談」をどう見るか

2018年06月17日 22時48分10秒 |  〃  (国際問題)
 6月12日にシンガポールで、ドナルド・トランプとキム・ジョンウンの会談が行われた。事前に2回書いたから、会談そのものについても書いておきたいと思う。だけど、正直あまり細かく見ていなかった。今回は家族の突然の入院と重なってしまい、どうしてもそっちに気を取られた。そういう時は大ニュースも霞んでしまう。僕にとってはもっと重大な袴田事件の再審決定には時間を作って出かけたが、会談前日の悪いニュースに愕然とし過ぎてしまったこともある。

 僕の感想はまず首脳会談というのは「政治ショー」なんだなあということだ。これは悪く言ってるわけではない。カナダのシャルルボワで直前に行われていた「G7」サミットだって政治ショーだろう。実務家どうしの折衝では解決できないこともある。だからこその首脳会談だが、政治家だからどうしても政治的な駆け引きや思惑が関係する。会談後にあれこれ言われているが、とにかく会ったわけで、それが一番重大なんじゃないかと思う。まあ当初は「朝鮮戦争終結宣言」とか「米朝国交正常化」という観測もあったから、それを思えば「中身が薄かったな」とも思ってしまうけど。

 何で6月12日だったのだろうか。当初から「早すぎるな」という気がした。この日程だったから、トランプはサミットを中座して出かけることになった。もしかしたらそれが理由か。さすがにサミット出席そのものはキャンセルできないが、自分が批判されると判ってる会談には出たくないだろう。貿易問題などの議論に深入りする前に、「俺様はこれからサミットより大事な会談に出かけるぞ」と言って出てきてしまう。一方、直後に韓国の統一地方選挙が予定されていて、ムン・ジェイン大統領与党が圧勝した。(保守系野党は慶尚北道と大邱は死守したのみ。)選挙日程は事前に判っているので、事実上キム・ジョンウンがムン・ジェイン政権に「恩を売った」と言える。

 共同宣言を読んでみると、気になることがあるのは間違いない。最初の方で「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を提供することを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への、確固として揺るぎのない約束を再確認した。」その後に「新たな米朝関係の樹立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を推進することができると確認し、トランプ大統領と金委員長は以下のことを表明する。」
 
 その「以下の表明」は4項目にわたっている。細かな部分を省いて順に紹介すると、
①新たな米朝関係を樹立することを約束する。
②持続的で安定した平和体制を構築するために共に努力する。
③北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを約束する。
④身元特定済み遺骨の即時送還を含め、捕虜や行方不明兵の遺骨収集を約束する。

 「北朝鮮」と訳しているのは日本の新聞で、原文は「DPRK」である。「朝鮮民主主義人民共和国」の英語名の略語だが、本来は呼び方も重要なので原文通り訳すべきだろう。ところで以上を見てみると、DPRKが「約束」しているのは「非核化」ではなく、「非核化に向けて努力すること」である。それに①③④は「約束」しているが、②の「平和体制構築」は双方の「努力」に止まっている。とりあえず努力することはできるが、約束はまだできないのか。

 だから非核化に関する「CVID」がないじゃないかと指摘するする人がいる。なんだそれはと言うと、〝Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement”の略で、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」のことだ。そんな言葉も知らなかったけど、「検証可能」は必須だが「完全」と「不可逆的」は定義が難しい。原子爆弾を作るためにはウラン濃縮技術と原子炉が必要だけど、原子炉の最終的な解体には何十年もかかることは原発の廃炉と同じ。「完全」な非核化には何十年もかかるわけだが、それまで制裁を続けることはありえない。

 保守派の中には、ここぞとばかり「キム・ジョンウンにだまされてはいけない」と言って回るひともいる。大歓迎して「米国と北朝鮮の信頼感」という人もいるけど、僕が思うにトランプもキム・ジョンウンも信用できないとするのが普通の感覚ではないか。日本政府は「北朝鮮の態度はまだはっきりしない」から米国から購入予定のミサイル防衛システムは予定通り配備を進めるそうだけど、そうすると完全な非核化、ミサイル放棄が実現して困るのはアメリカ側ではないのか。日本に防衛装備を買わせるまで「北朝鮮情勢のあいまい化」を続けながら、アメリカ本国では平和の使徒のようにふるまって中間選挙に臨む。そういうことなのかなと思う。

 本気で交渉する気があるなら、もっとシンガポールにいるのが普通だろう。そそくさと帰ってしまったのは、「今回は顔合わせ」と決めていたからだと思う。そして会って見て、サミットであれこれうるさく指図する「大国」に比べて、礼遇してくれるキム・ジョンウンに親近感を持って帰った。そういうことだと思う。前に書いたように、似た者同士だから相性がいいのかもしれない。今後も様々なことが起こりそうだけど、今後は日朝交渉にも注目が集まる。安倍首相の自民党総裁選とも絡んで注目が必要だ。(安倍氏が退陣した場合、日本国内で強力な政権ができない可能性が高い。親安倍グループが反対キャンペーンをすれば、日朝交渉はつぶれる。だから、当然北側は安倍三選と絡めて日程を考えてくるだろう。)
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米朝会談「中止?」問題

2018年05月26日 22時56分23秒 |  〃  (国際問題)
 最近ずっと萩原延壽「遠い崖」を読みふけっている。2007年に朝日文庫に入った時に買ってあったけど、何しろ全14巻もある。いずれまとまったら書きたいと思うけど、テレビもパソコンも見ないでいたら25日の朝刊で「米朝会談中止」と大きく出ていた。まあビックリはしたけど、数日前から双方から延期や中止という声が聞こえていたから、トランプはそう来たかと思った。その後、再検討という話もあり、26日には再度の南北朝鮮首脳会談が緊急に開催されたと伝えられる。

 この事態をどう考えるかということだが、僕がまず思うのは「トランプ政権の異常性」である。それはまあ初めから判っているじゃないかと言われるだろうが、最近は「安倍のウソ、麻生の居直り」のように慣れてしまいつつある。もちろん、トランプ大統領は外国首脳との会談をキャンセルしてもいいだろう。でもアメリカが民主主義国家である以上、大統領は内外の記者に対して、キャンセルあるいはキャンセルのキャンセルの理由を(真実とは違うかもしれないが)語る必要がある。突然ツイッターで発信するなど、一体どこの独裁国家の話なんだろうか。

 ドナルド・トランプキム・ジョンウンを見ると、何となく体形が似ている。これは偶然じゃないだろう。周りに迷惑を掛けることをなんとも思わないで生きてきた、尊大虚栄心の強いおごり高ぶったタイプ。だから、お互いに相手の出方を読み間違うと破局にもなる。事前交渉であれこれ言って、朝鮮側の対応がトランプの「虎の尾を踏んでしまった」ということか。報道によれば、ペンス副大統領を非難したことがきっかけとも言うが、本当かどうか判らない。

 「非核化」のプロセスに関して隔たりが大きいとも言われるが、それは本来事前に想定できることである。そういうことは判っていて会談に臨むんだとばかり思っていたんだけど、そうじゃなかったのかもしれない。本当にトランプ政権には外交を理解している人がいないのかもしれない。そもそも米朝会談実施を発表した時に、アメリカの駐韓国大使はまだ決まってなかった。急遽オーストラリア大使予定者を駐韓大使に回すことにしたけど、それならオーストラリアはどうなるんだ。もう政権発足から一年以上経つというのに、重要国(韓国もオーストラリアもG20のメンバーである)の大使が決まってない。常識では考えられない。

 そういうトランプ政権だから、今度は一転やっぱりやるとなっても全然おかしくない。北朝鮮側も独裁だから、何がどうなっているのか判らない。トランプではなくペンスやボルトンを非難している限り、一定の配慮をしたつもりだったのかもしれない。朝鮮側から今会談を止めるというメリットはどこにもないと思う。会談がある前提で、あれこれ言っていたのだと思う。もうすでに拘束していたアメリカ国籍の3人も解放した。拘束していたこと自体がおかしいので解放は当然だけど、会談前に切札を切ったのに会談中止では、何が「ディール」(取引)だと内心怒っていることだろう。

 大きな方向としては、北朝鮮の非核化、経済開放、米朝和解は進んで行くのだと思う。今から、じゃあ核実験します、ミサイル実験しますは、アメリカはともかく中国が許さないだろう。世界的な危機はむしろ中東の方で、イラン核合意破棄、駐イスラエル大使館移転と常識に反する政策が続いた。イランとサウジアラビアの対立が抜き差しならない段階まで高まることもありうる。そんな危機を自らあおりまくっているアメリカが、朝鮮半島で戦争をするなど想定できない。(口では強いことを言ってるが。)非核化プロセスの検証方法と制裁解除のプログラムが鍵になるだろうが、いずれ会談はあるはずだ。今度の会談は「延期」の可能性が高いのかもしれないが。

 どうも「交際ゼロ日婚」はやはり難しいなという感じ。会場を予約し派手に招待状をばらまいたから、僕は成田離婚になるかもしれないけど一応挙式はすると思ってた。しかし、思えば合意2か月後に会談という日程が早すぎた。今度はやるなら決裂は許されない。ところで安倍首相の対応は「トランプ大統領の決断を支持する」だけ。菅官房長官も世界で一国だけだったとむしろ誇っている。また会談することになっても「トランプ大統領の決断を支持する」しか言えないんだろう。せっかくロシアにいたというのに、秋田犬の贈呈しかしないのか。プーチンと詰めて仲介して、帰りに中韓に緊急に寄るぐらいのことができないもんかと思うが、それは期待できないということなんだろう。
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マレーシア総選挙と東南アジア情勢

2018年05月11日 23時26分01秒 |  〃  (国際問題)
 朝鮮半島や中東の情勢はもっと書くべきなんだけど、前から東南アジアを書きたかった。ちょうどマレーシア総選挙で初の政権交代が起こったので、この機会に各国の様子をまとめておきたい。僕は昔から東南アジア地域に関心があって、鶴見良行さんの本などをよく読んでいた。海外旅行は少ないけど、最初に行ったのがタイ、マレーシア、シンガポールである。映画でもタイやインドネシア、ヴェトナムなどの映画をずいぶん見てきた。

 昔からすごく気になる地域が東ヨーロッパ東南アジア。諸勢力の狭間のような複雑な歴史、そこから来る重層的、複合的な文化が面白い。特に東南アジアは政治的、経済的に日本に大きな意味があって無関心ではいけない地域だが、現状を見ると心配がつきない。50年ぐらい昔は「アジアは近代化できるのか」と問われていた。「日本だけが例外だった」と言うのである。80年代になって、韓国、台湾、香港、シンガポールが工業化に成功し「アジアの4小龍」と言われた。さらに中国やインドも工業化が進んで、今じゃ「アジアでは工業化は成功しない」なんて誰も言わない。

 一方、社会の民主化はどうだろうか。ある時点までは、工業化の進展で中間層が増え、その影響で民主化も進むという説があった。実際、80年台後半に韓国台湾で民主化が進み、普通選挙でリーダーを選ぶ体制が実現した。曲折はあるが、韓国、台湾では民主体制が定着している。東南アジアでも、1986年のフィリピン「ピープル・パワー革命」、1998年のインドネシアのジャカルタ暴動とスハルト退陣による民主化が起こった。一時は社会の発展で民主化が進むかのように見えたが、21世紀になってむしろ情勢は逆戻りしている。

 タイでは昔から選挙が行われていたが、タクシン元首相派と反対派の対立が激化して、2014年に軍によるクーデタが起こった。その後、憲法が制定され民政に復帰すると言われながら、その時期が延ばされ続けている。また、ミャンマーでは長い軍事独裁がついに終わり、2015年11月に選挙が行われアウン・サン・スーチー率いる国民民主連盟が圧勝した。事実上のスーチー政権ができ、それで万事解決かと思ったらそうはいかなかった。その後、民族対立が激しくなり、特にイスラム教徒のロヒンギャ族の虐殺問題が激化した。仏教徒に支えられるスーチー政権は問題解決にリーダーシップを発揮できないままである。

 そんな中で、5月9日に行われたマレーシアの総選挙で、独立以来初めての政権交代が起こった。野党連合の「希望連盟」を率いる元首相のマハティールが、92歳の高齢ながら首相に就任すると見られている。与党「国民戦線」のナジブ・ラザクは2代首相のアブドラ・ラザクの子で、2009年以来首相を務めていた。マハティールは1981年から2003年まで、22年間も首相を務めていた。高齢の首相と言えば、インドでは80代の首相が今までにいたが、90代というのは世界でも初めてではないか。さて、このマレーシアの選挙結果は民主主義の勝利と言えるんだろうか。
 (選挙勝利を喜ぶマハティール)
 現在の政府に対して、反対派が共同して選挙で結集した。そのことにより政権交代が実現した。そう言えば、それはその通りだと思う。だけど必ずしも「民主主義の勝利」と喜べるかどうかは留保が必要だ。その理由はいくつか挙げられるが、まずはマハティールがリーダーだということ。これはそこまで与党の分裂が深刻だったと言えるが、日本で言えば小泉純一郎が自民を離党して野党共闘の首相候補になったといった感じか。かつての「実績」と「人気」を覚えている人がいるだろうが、それが「真の政権交代」と言えるか。

 マレーシアは典型的な多民族国家で、1969年にはマレー系と中国系の大規模な民族衝突が起きた。それ以来「マレー人優先政策」(ブミプトラ)が取られてきた。そのためマレー系有権者はマレー系与党の「国民戦線」に投票してきた。野党は中国系やインド系が中心となっていたので、反体制知識人が存在する大都市以外で野党が勝つことは難しかった。しかし、近年国民戦線の腐敗、縁故主義が批判を浴び与党を離れるマレー人も多くなっていた。今回は事前に野党優勢が伝えられていたが、いよいよ現実に政権交代が起きた。しかし、政権運営がうまく行かない場合、民族対立が激化しかねない。

 政策的には与野党ともに、バラマキという言葉では済まない、利益誘導的な公約を掲げた。いったん導入された消費税を廃止するなど本当にできるのだろうか。今回の選挙をきっかけに、今まで以上に果てしない利益誘導政治が始まりかねない。確かにナジブ・ラザク政権の腐敗体質が断罪された面はある。しかし、伝統的に国民戦線が強いボルネオ島北部のサバ、サラワクなどとの地域分断も起こりかねない。難しい政権運営になるのは間違いない。

 人権無視が甚だしいフィリピンドゥテルテ大統領、最近独裁化の著しいカンボジアフンセン首相などの問題を書く余裕がなくなった。そこでは中国とどう関わっていくかという今後のアジアの大問題がある。また地域内の最大国家で、G20に唯一参加しているインドネシアで、宗教対立が激しくなりつつあるのもとても気になる。書いてると終わらないのでもう止めるが、この地域との関係はとても大事なのでニュースには注目していきたいと思う。
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朝鮮半島情勢をどう考えるか

2018年05月10日 22時51分05秒 |  〃  (国際問題)
 2017年4月27日に、朝鮮半島の南北首脳会談が行われて、板門店(パンムンジョム)宣言が発表された。まだ2週間も経っていないけど、世界が大きく変わてしまった感がする。それ以前に米朝首脳会談の開催が公表されていて、元々の合意では今月中にある。9日に北朝鮮で拘束されていた3人の米国人が解放され、米国帰国時にはトランプ大統領自らが出迎えた。一方、今まで正式には国内で報道していなかった北側もトランプ大統領との会談を報じたという。遠からず米朝首脳会談が行われ、そこで何らかの合意がなされる可能性が高いと考えるべきだろう。(その後、トランプ大統領のツイッターが「6月12日、シンガポールで米朝会談」と伝えた。)
 (南北首脳会談時の両首脳夫妻)
 その合意はもちろん「完全な核廃棄」を約束するものになる。そのやり方や時期、検証法は不明だが、それらが全部事前に判っているなら、トランプとキム・ジョンウンが会う必要もない。両首脳が「取引(ディール)」の見せ場を作る意味でも、最後の駆け引き的な部分が残ると考えられる。だけど、イラン核合意を攻撃するトランプがそれなりの成果の見込みなしに会談するはずがない。「首領様」が「失敗」することもありえないから、両者がそれなりに成果を宣伝できる見通しが出来てきていると考えられる。お互いに「平和の旗手」なんかではなく、「ロクデナシ」どうしだと相互認識していると思うから、会談もまとまるのではないか。

 日本の安倍政権は未だに「制裁実施」のみ強調して回っている。むろん、国連加盟国は安保理決議を順守する義務があるわけだから、現時点では「お説御もっとも」とでも言うしかない。「北朝鮮危機」を権力の源泉にしてきた安倍政権は、事態の進展に付いていけてないし、未来に向かった知恵が感じられない。まあ日本の問題はともかくとして、どうして安保理決議が通ったのだろうか。イスラエルに関する決議はアメリカが、シリアのアサド政権に関する決議はロシアが、それぞれ反対するから、どんなに道理があることでも安保理で決まらない。

 一方、北朝鮮の核開発や長距離弾道ミサイル開発には、中国もロシアも安保理で反対しなかった。だから制裁が可決された。その時点では、キム・ジョンウンとしてもそれで良かったという判断だったのだろう。何故なら、核やミサイル開発を進めてこそアメリカが振り向くはずだという戦略だったんだろうから。アメリカ側から見れば、制裁を強化すればどこかで折れてくるということになる。「チキン・レース」を展開していたわけだが、その結果国連内で誰も北朝鮮を擁護できなくなった。今後はそれじゃ困るということが、度重なるキム・ジョンウンの中国訪問なんだと思う。

 1953年7月27日に結ばれた朝鮮戦争休戦協定は、もともと国連軍北朝鮮、中国の間で結ばれている。国連軍は事実上アメリカ軍が主導で、米陸軍のハリソン中将が署名した。なんで国連軍結成にソ連が拒否権を行使しなかったかというと、当時アメリカが主導していた国連運営に抗議して、ソ連は国連を欠席する戦術を取っていたからである。北側の攻撃開始はソ連のスターリンが承認していた。なぜ直ちに国連に復帰しなかったのかはよく判らない。中国は義勇軍という形で大量の人民解放軍を派遣したから、朝鮮戦争を終わらせるためには中国の関わりが必須になる。中国は平和条約の当事者である。

 国連軍は形の上では今も残っている。日本にも後方司令部があって横田基地に置かれている。(構成国は米英仏オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、タイ、トルコと韓国。)今韓国にいる米軍は、休戦協定締結後の1953年11月に結ばれた米韓相互防衛条約に基づくものとされる。だから朝鮮戦争の平和条約が結ばれても、国連軍の使命は終わるけど、米軍が韓国から引きあげなくてはならないわけではない。しかし、北が完全に核とミサイルを放棄し、それを中国が擁護し保護することになったなら、米軍撤退問題も起きてくるかもしれない。

 最近の事態を見て「朝鮮統一」が近いかのように語る人もいる。しかし、それは違うだろう。分断の固定化がいましばらくは強まる。何だかんだ言っても、中国は東北部が「カラー革命」の震源にならないように、「北朝鮮」の存在が必要なんだと思う。まかり間違って朝鮮労働党政権が崩壊してしまって、米軍のプレゼンスが鴨緑江岸にも及んでしまうことだけは中国は避けたい。そこでキム・ジョンウン政権が「恭順」の意を示して来れば、全面的に抱え込んでいく。韓国が「米国の核の傘」のもとにある限り、核を放棄した北朝鮮は「中国の核の傘」に置く。

 これが当面の方向性なんだろうと思う。しかし、そのような「平和」でいいのかが今後問われてくる。日本にとって朝鮮戦争は「対岸の火事」ではなかった。憲法9条がありながら、警察予備隊を作って事実上の再軍備に乗り出したのは、朝鮮戦争後のマッカーサー指令による。朝鮮戦争が完全に終結するときには、日本の「戦後」も見直してみる必要が出てくる。その前に日朝の国交正常化交渉が必要になる。とにかく戦争以来半世紀以上ずっと「休戦」でしかなかった南北朝鮮で、今が一番平和条約締結に近づいている。この機を逃してはいけないと思う。
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米国のイラン核合意離脱問題

2018年05月09日 21時27分08秒 |  〃  (国際問題)
 書きたい問題がいろいろあって時事問題をしばらく書いてない。この間、朝鮮半島の南北首脳会談が行われ、東アジア情勢に大きな変化が生じた。昨日、キム・ジョンウン国務委員長が訪中して、大連で習近平主席と会談したと発表された。今日(9日)はムン・ジェイン大統領と李克強首相が来日し、日中韓三国首脳会談が開かれた。この問題はとても重大なんだけど、それを書く前に「イラン核合意」を米国トランプ大統領が破棄した問題を書着ておきたい。

 と同時に米国のポンペイオ新国務長官が現在、ピョンヤンを訪問している。来るべき米朝首脳会談の調整を行っているが、帰国時に北側に拘束されている米国籍の3人が解放されるかどうかが重大なシグナルになると思われる。朝鮮半島情勢と中東情勢は緊密に関連している。米国はちょっと前まで北朝鮮を先制攻撃するんじゃないかという観測まであったけれど、中間選挙を秋に控えたトランプ大統領は支持者受けする中東問題を重視した。5月には、イスラエルにある米国大使館をエルサレムに移し、イラン核合意を破棄した。完全にイスラエル寄りをアピールしている。
 (イラン核合意破棄を発表するトランプ)
 前から「イラン核合意は最悪の取引」と言ってきたから、その意味では今回の発表は意外ではない。もともとはオバマ政権の「功績」はみなひっくり返したいという衝動だったのかもしれない。しかし、大統領としての初の外国訪問にサウジアラビアを選んだトランプである。従来の中東政策に大きな変更を加えつつある。確かに最近、シリアやカタール、イエメンなどでイランの存在感が増している。最近行われたレバノンの選挙でも、シーア派民兵組織のヒズボラが勢力を予想以上に伸ばした。イラン対サウジアラビアの代理戦争が中東各地に広がりつつある。
 
 イエメンの反政府系のフーシ派はイランの援助を受けているとされる。フーシ派と思われるサウジアラビアへのミサイル攻撃もたびたび起こっている。だからイランのミサイル開発に制限を掛けない合意はおかしいという主張も理解できないわけではない。しかし、核開発を中止し国際的な査察を受け入れるという基本は守られている(とされる)。この合意自体は意味があって、だからこそ米国以外の英仏独中露とイランはこの合意を今後も維持するとしている。それは事前に予想できるので、「アメリカの孤立」だけをもたらしているし、中東屈指の経済規模を持つイラン市場からアメリカが除外されるだけではないか。

 この間イスラエルのネタニヤフ政権はトランプ大統領に合意破棄を強く働きかけていた。しかし、この合意を「不完全でイランの核開発を完全に防げないもの」と仮に考えたとしても、イスラエル自身が核保有国とされ、国際的な査察を受け入れないままでいるのでは説得力がない。中東にイスラエルだけが核兵器を保有しているというのは、なんで許されるのか。そっちこそが地域の波乱要因なんじゃないか。しかし、アメリカが国連安保理で拒否権を発動するから、イスラエルは何でもできてしまう。ネタニヤフ首相は汚職問題で捜査を受けていて、政権基盤が弱くなっている。トランプ大統領に頼って、イラン敵視を強めていた。

 イランは国内情勢が複雑だ。2017年には大規模な反政府運動が起きた。保守穏健派のロウハニ大統領に対しては、保守強硬派からも改革派からも批判がある。政権のバランスは非常にもろいもので、外からの一方的な対応は保守強硬派を勢いづけ、イスラム体制の人権問題を深刻化させるだけだ。トランプはそういう事には関心がないというか、どうなってもいいというのがホンネだろう。これは非常に危険なことだと思う。中東のどこかでイラン・サウジの本格戦争が起きかねない。そうなった時には原油価格の上昇により、世界経済は破滅的な影響を受ける。
 (イランのロウハニ大統領)
 イスラム教のマジョリティであるスンニ派(スンナ派)とマイノリティであるシーア派は、確かに違うわけだがちょっと前まではお互いに攻撃しあうほどの敵対関係にはなかった。世界各地にあるモスクで一緒に祈りをささげることも普通だった。でも21世紀になって、特にイラク戦争を契機にして宗派対立が激しくなった。そうなるとシーア派が国教であるのはイランだけだから、イスラム世界で宗派対立が起きるとイランがシーア派(あるいはシーア派に近いマイノリティ)の支援に駆け付けることになる。そこでイランの存在感が増しているのは事実だ。その問題はどう解決できるのか、イスラム世界はまだ解を見つけていない。
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五輪と政治-ピョンチャン五輪をめぐって④

2018年02月28日 23時17分27秒 |  〃  (国際問題)
 ピョンチャン五輪から五輪のあり方を考えてみる。競技時間が「アスリート・ファーストではない」という声も大きかった。でも多分東京でも同じだろう。欧米の都合に合わせた時間設定じゃ困ると言っても、ここまで肥大化した五輪を開催するには欧米放送局の放映権料を無視できない。それに選手自身だって、冬季競技の盛んな欧米でナマで見て欲しいだろう。実質プロ選手ばかりだから、人気が出ないと困る。日本のスピードスケート陣は、遅い競技開始に合わせたトレーニングを積んで出場した。そういう対処をして好成績を挙げたわけである。

 「スポーツと政治」という問題も大きく取り上げられた。特に「北朝鮮参加」問題だけど、日本のマスコミの捉え方には違和感があった。僕は事前に何も書かなかったけど、まあ多分書くまでもないだろうと思っていた。予想通り、「北朝鮮」は「美女応援団」を送って来たし、安倍首相も開会式に参加した。合理的に考えればそうなると予測できる。キム・ジョンウンが五輪参加をにおわせる発言をしたのは、1月1日。ギリギリのタイミングだが、早くから打ち出してもつぶれたのかと思う。

 米国ペンス副大統領と北朝鮮代表団のキム・ヨジョン氏(ジョンウンの妹)に会談の予定があったことが事後に判った。その会談をめぐる虚々実々が多分昨年来続いていたんだろうと思う。結局実現しなかったわけだが、それでも「五輪をきっかけに米朝対話の可能性があった」わけである。これは「五輪の政治利用」には違いないが、「平和の祭典」としての「よき政治利用」なんじゃないか。そういうことが起こり得るのが五輪の意味だと思う。

 日本では、国連を中心に制裁を強化している時期になぜ? 北朝鮮に利用されるだけでは? などという人がいた。でも12月にサッカーの東アジアカップが日本で開かれたばかりじゃないか。そこには北朝鮮も参加して、女子は優勝した。(ちなみに男子優勝は韓国。日本はどちらも準優勝。この東アジアカップは4か国が出るが、台湾、香港、グアムなども予選に出ている。)日本政府だって、国際的なスポーツ大会は制裁の例外だと認めて、選手団の入国を認めている。

 オリンピックは「東アジア」どころではない大々的な世界大会だから、韓国政府が「北朝鮮の参加」を望むのは当然だ。緊張が高まる情勢だからこそ、オリンピックに出場する意義がある。急な展開で多少無理はあった。そうなんだけど、一緒に競技に参加した意味は大きいと思う。今まで何度か国際大会で南北合同チームが作られたが、確かにその後の情勢緩和にはつながらなかった。でも「参加することに意義がある」はずの五輪で、参加すること、参加を求めることは当然だ。

 もちろん、政治家はそれを利用しようとする。いろんな方向で。日本では「ピョンチャン五輪ではなく、ピョンヤン五輪になった」などと実に下品なことを言う人もあった。どうせやれば判ることだから、特に事前には書かなかったけど、五輪が始まればそれぞれの国が自国選手の活躍に熱中した。開催国韓国のいろんな情報も多く報じられ、まさに「民間外交」になった。戦争が起こりかねない地域で、両方の選手がともに参加した五輪が実現できた。良かったじゃないか。

 韓国の女子アイスホッケーに北朝鮮選手が交じって参加した。確かにその分韓国選手が出られなくなる。政治家が「韓国にメダル可能性がない」と言って批判されたりもした。でも冷静に考えて、また結果から見ても、韓国チームが最下位なのは間違いなかった。何も合同チームになったから負けたわけじゃない。そういうチームを南北合同にするのは、間違いなのだろうか。現場は大変だったろうが、一緒に練習し、一緒に試合し、「涙の別れ」が報じられた。「北韓」に具体的な顔と名前が思い浮かぶ知り合いがいるということ。それはすごく大切なことじゃないか。

 「政治が五輪を利用するな」なんて言うから、てっきり安倍政権を批判してるのかと思うと、今回はどうも韓国のムン・ジェイン政権批判の言葉だった。でも安倍政権の方が東京五輪利用度が高いのではないか。だけどまあ、僕はそういうもんだと思う。スポーツに限らず、注目の高いイベント、人気が高い有名人には利用しようという人が集まってくる。おかしい、嫌だと言っても、そうなる。そのこと自体を取り上げて、さも正論を述べているかのように「政治が五輪を利用してはならない」などといくら言っても何も変わらない。

 「政治」と関係がないことは世の中に存在しない。自分がいくら政治に関心がなくても、政治の方ですべての人に関わってくる。スポーツや芸術には、それ自体の価値があるけれど、だからと言って政治と完全に無関係にはなれない。スポーツ界や芸能界で知名度が高くなると、日本では「政治的発言」を控えたりする。本来はおかしなことだ。「政局」や「政治家」にはあまり関わらないで欲しいけど、人間として「平和」を大切にするというメッセージを発するのはオリンピアンの義務だと思う。今回のピョンチャン五輪では、五輪を一つのきっかけにして米朝対話の機運が出てきた。これをジャマする言動の方が「五輪の政治利用」ではないだろうか。

 ついでに。有名スポーツ人を一番たくさん選挙に擁立したのは自民党だ。現役では橋下聖子参院議員、馳浩衆議院議員(レスリング、84年ロス五輪出場)、堀井学衆議院議員(スケート)、石井浩郎参議院議員(野球)、朝日健太郎参議院議員(ビーチバレー)。過去には小野清子(体操、64年東京大会団体銅)、荻原健司(スキーノルディック複合)、釜本邦茂(サッカー)、堀内恒夫(野球)、大仁田厚(プロレス)、神取忍(プロレス)などなど、そうそうたる名前がそろっている。(全員参議院議員)そう言えば麻生太郎副総理もクレー射撃で76年モントリオール五輪に出ている。

 自民党以外で当選した知名度があるスポーツ選手は、谷亮子(柔道)、アントニオ猪木(プロレス)、江本孟紀(野球)ぐらいだろう。それと新進党が衆院選に立てた旭道山(力士)もいた。これを見ると、圧倒的に「自民党がスポーツを利用している」としか思えないんだけど…。
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トランプ政権の危険な核戦略

2018年02月15日 23時01分23秒 |  〃  (国際問題)
 2月2日に米国トランプ政権の「核態勢の見直し」(NPR=Nuclear Posture Review)が発表された。相手国からの核攻撃の抑止や反撃に止まらず、通常兵器による反撃にも核兵器を使用することを排除しないという驚くべき内容である。また爆発力を抑えた「小型核弾頭」などの開発を行うなど、「核兵器依存体制」というしかない。これじゃ冷戦時代の軍拡競争に逆戻りじゃないかと思うと、実際にトランプ政権は「世界は大国間の競争時代に戻った」と認識している。

 これほど間違った危険な政策が出てくるとは。いや、「間違った危険な政策」を最初に取ったのは、北朝鮮のキム・ジョンウン政権やロシアのプーチン政権の方だと言うがいるかもしれない。そうかもしれないが、世界「最強」の米軍が「戦略的忍耐」を行っている限り、言葉ではいくら脅し文句を並べても実際に核兵器を使用することはできない。「最初に核兵器を使用した」という歴史的汚名を残す指導者になりたい人はどんな独裁者にもいないだろう。

 核兵器を使用するハードルは非常に下がったと言えるだろう。アメリカが力の政策を取る限り、米国との緊張関係にある国はいつ核兵器で攻撃されないとも限らない。いや、自国の方からアメリカを攻撃しない限り、米国の核攻撃もないはずだから、米国の新政策は抑止力を増すことになるという考えもあるだろう。しかし、そういう風にはならない。自国が米国との緊張関係にある国は、トランプ大統領が「フェイクニュース」を信奉していることをよく知っている。いつでも「相手が先に攻撃した」とウソをついて、自国に小型核兵器を使用してくるか判らないと恐怖感を持つに違いない。

 米国政権に「信頼感」があれば、このような政策は必要ない。自分たちがガマンしても「ならず者国家」は自制しない、だからこっちもガマンするだけバカを見る、よって今後はこっちも自制しないという論理である。そう思われた側の国から見れば、アメリカは信頼できない、いつ何らかの理由をつけて核攻撃してくるか知れたものじゃないと思うに決まってる。「不信の連鎖」になるから、力の政策はかえって危険なのである。

 しかし、ここで僕が一番言いたいことはそういうことではない。核兵器は「根源的な悪」だということである。核兵器や化学兵器、生物兵器などの「大量破壊兵器」は、その本質から「反人道的な兵器」である。そして、中でも核兵器はその大量破壊性が際立ってる。あまりに強力なので、必ず「非戦闘員の殺傷」を目的とする残虐な戦争犯罪を引き起こすということである。「小型核兵器」なら戦時国際法をクリアーできるというもんじゃないだろう。国際法違反にならないレベルの「小型核兵器」なんてものがあるんなら、通常兵器で十分ではないのか。

 核兵器は国際法に違反する残虐な兵器である。そのことを日本国民なら全員判っているはずだ。だから、核兵器は使ってはならない。そのことを世界に訴えるのが日本の役割ではないのか。そういう根本的な原則の問題を置き去りにしていいのだろうか。ところが河野太郎外相はトランプ政権の新政策を「高く評価する」と宣言した。いくらアメリカに追随するしかない安倍政権としても、これは嘆かわしいというしかない。こういう時の言葉遣いにはいくつかのランクがあり、「支持する」「理解する」という言い方もある。しかし、「高く評価する」は最高ランクの支持表現である。

 原発や核燃料サイクルにあれほど厳しい対応をしてきた河野太郎氏が、こんな対応をするのか。安倍政権が2021年までは続くと見て、その後は石破、岸田には遅すぎ感が出てくる。そこでニューリーダーに名乗りを上げたい河野氏の思惑と、河野を持ち上げて他の有力者をけん制したい安倍首相の思惑と。そういうことが絡むんだろうが、河野太郎も単なる「総理の飼い犬」になってしまったのか。繰り返すが「核兵器は絶対悪」であるから、トランプ政権の政策は間違ってると声を挙げて行かないといけない。
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ジンバブエの「名誉革命」-ムガベ辞任をどう見るか

2017年11月22日 23時06分19秒 |  〃  (国際問題)
 世界最高齢の独裁者として知られていたジンバブエロバート・ムガベ大統領(1924.2.21~)がついに辞任を表明した。93歳だった。白人支配に対し独立運動を起こし、1980年に首相(当時は議院内閣制)、1987年からは大統領として独立後の37年間ずっと政治の実権を握っていた。ハイパーインフレで知られ、国内経済はとっくに破綻状態にあった。世界でも名高い圧政の独裁者だったが、まあ遠くない将来に自然的に終わりが来るだろうから放っておかれた感じだった。
 (ロバート・ムガベ)
 今回は国軍がクーデターを起こし、大統領と夫人を軟禁した。与党はムガベを党首から解任し辞任を迫っていた。ムガベはこの間大学の卒業式に出席するなど、一定の自由を得ていたけれど、事実上は軍に見放され辞任を避けられない状況だった。ジンバブエに大きな影響力を持つ南の大国、南アフリカも辞任に向け調停を進めていた。軍が弾圧に乗り出すことはないと確信した民衆は、反ムガベデモを行い、軍には感謝の意思を示した。この間、流血の事態は全く伝えられていない。一滴の血も流すことなく独裁者を辞任させたのだから、「ジンバブエの名誉革命」と言えるかもしれない。

 こうなった直接のきっかけは、11月6日にムナンガグワ第1副大統領を解任したこと。ムナンガクワも75歳だというが、長年のナンバー2として後継の最有力候補とされていた。しかし、近年41歳年下のグレース夫人が勢力を伸ばしてきた。もとは大統領府のタイピスト、秘書だったが、前妻の死亡後に結婚した。国会財政が破たんしているのにぜいたく好きで有名で、コンゴのダイヤモンド鉱山を私有したり、マレーシアに別荘を持っている。2009年には、カメラマンに対してダイヤの指輪をした手で暴行する事件を香港で起こした。世界的にひんしゅくの夫婦だったのである。

 欧米の主要国はムガベ大統領夫妻を入国禁止にしている国が多い。野党に対する弾圧、大統領選挙をめぐる不正疑惑などが問題視されてきた。安保理に制裁決議が出されたが、ロシアと中国の拒否権で実施されなかった。そんなムガベ夫妻を厚遇していたのが、なんと安倍政権。第2次安倍政権発足後、ムガベ大統領は3回来日し、特に2013年と2016年には夫妻で来日している。写真を検索すると、以下のようなものがすぐに見つかる。
 
 ジンバブエは、昔は「南ローデシア」と呼ばれていた。イギリスの植民地指導者、セシル・ローズにちなんだ名前から、独立後に改名した。昔の大王国の遺跡から「ジンバブエ」(石の家)と名付けられた。イギリスの植民地だったが、1965年に植民地政府のスミス首相が白人中心の国家「ローデシア共和国」の独立宣言を強行した。独立運動の経過は複雑なので今は省略するが、ムガベは中国の毛沢東思想の影響を受けていたとされる。選挙に勝って首相になったが、当初は穏健な経済運営を行い、識字率や乳幼児死亡率を改善して世界的に評価されていた。

 しかし、21世紀になってから白人農場主の土地を強制収容して黒人農民に配布する政策を進め、白人が大量に出国した。農業生産力は激減し、そこから経済悪化が進行した。通貨のジンバブエ・ドルは暴落に次ぐ暴落を記録し、2008年に1億ジンバブエ・ドル札が発行された後も、50億、500億、1000億ジンバブエ・ドル札と続き、ついに100兆ドル札まで発行される。インフレ率はほとんど計算不能で、物価が毎日2倍になるような状態だった。ほとんどジョークのような世界だが、結局どうなったか。

 2015年についにジンバブエ・ドルそのものが廃止になった。米ドルや南アフリカ・ランドをそのまま使うのである。それで独立国と言えるのかというありさまなのである。ちなみに、日本円も使えることになっている。法定通貨は、米ドル、南アフリカランド、ユーロ、英国ポンド、ボツワナ・プラ、人民元、インドルピー、豪ドル、日本円の9種類が指定されている。いや、ありえないでしょう。これは。

 そんな国家がどうして存立できていたか。国民の相当数が南アフリカやボツワナに出稼ぎに行く。そして、欧米諸国が経済制裁している間に進出してきた中国の援助。近年はさすがに中国もあまり援助してなかったという話もあるが、安保理で拒否権を使ってくれる中国(とロシア)は貴重である。中国も2015年の孔子平和賞をムガベに贈っている。これは劉暁波のノーベル平和賞に対抗して中国が作った賞で、今まで台湾の連戦、プーチン、カストロなんかに贈っていて、今年はカンボジアのフン・セン首相に決まったという。もらっても、どうも平和っていう名誉な感じがしない賞ではある。

 今回も解任されたムナンガグワは中国へ行ったという話もあるし、事前に軍首脳が中国を訪れていた。アメリカも事前に承知していたというし、南アフリカも知っていただろう。ある意味、米中でムガベ排除クーデタを仕組んだということなのかもしれない。そうなると、これは「北朝鮮問題」にも応用可能なのかという、非常に重大な問題につながるのだろうか。僕はそのことがすごく気にかかる。その意味でもアフリカ南部で起こった今回の事件は注目せざるを得ない。
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北朝鮮ミサイル問題、簡単に-北朝鮮問題⑧

2017年08月29日 21時00分32秒 |  〃  (国際問題)
 他のことを書きたいので、北朝鮮問題ミサイル発射問題を簡単に。29日の午前6時直前ごろに中距離弾道ミサイルが発射されたらしい。北海道南端をかすめて襟裳岬の東方1180キロの海上に落ちたという。あっという間に(6時5分から7分頃)に日本上空を通過していったのに、日本では「Jアラート」なるミサイル警戒警報を出して大騒ぎした。まあ予想されたことだが、無意味な空騒ぎだ。

 僕はこのブログで以下のように書いている。
・北朝鮮のミサイル実験はいずれ行われるだろう。作ったものは実験して確かめないと使えない。(中略)ミサイルだって、作った以上、実際に撃って確かめないと判らない技術的問題があるだろう。作ったら、発射実験はしてみたいに決まってる。
 だが、それがグアム島周辺海域かどうかは僕は疑問。標的地点を明かして、米軍に迎撃されたりすれば、米国技術の大宣伝になっちゃう。他に撃てば、元の標的が判らないんだから、作戦成功と言える。ということで、ミサイルや核兵器の実験はいつでもあり得るが、それで戦争にはなりにくい。(8.20)
・もし発射されたなら、それは「何ごともなく日本上空を通り過ぎて行く」可能性が圧倒的に高いはずである。(8.15)

 「ミサイル発射実験」はいつでも行われる可能性があるが、それはグアム島周辺ではない地点に向けて発射され、日本上空を通り過ぎて行くだろう。ということだから、書いた通りなんだけど、それは誇るほどのことでもなく、誰でも判ることだろう。僕だって判ってるんだから、もちろん米政府や米軍も、日本政府だってそうなると思っていたはずである。

 今さら驚いたリ怒ったりしているのは、そういうふりをしているんだろう。それは職責上やむを得ないかと思うけど、「かつてない暴挙」などと言うのはおかしい。日本領土をかすめるミサイル発射は今までもあり、今回が5度目だという。列島を横断した時もあるのに、今回は領土の真上は非常に少ない。「ある程度、日本へ配慮したコース」だったという方が正しいのではないかと思う。

 もちろん国連安保理決議違反のミサイル開発は認められないが、それはそれとして、北朝鮮がミサイルを開発しようと思ったら、発射の実験をもっと行わないといけない。それは位置的に日本の領土領海をかすめないでは、なかなか難しい。他のコースだと途中に島があるから、今回のような北太平洋方向に発射するという実験は今後も起こり得ると思っておく必要がある。

 それにしても、実は「日本上空」と書いたけど、多分「大気圏外」である。だから、「日本の領空」とはいいがたい。領空の定義は定まっていないけど、まあ大気圏内というのが多いと思う。宇宙にはアメリカやほかの各国の偵察衛星が飛んでいるが、日本を撮影しても「領空違反」ということはないだろう。実際、どうしようもないんだし。

 まあ、僕の考えでは、当面金正恩政権が核兵器やミサイルの開発を断念するのはありえない。だから、今後も発射実験や核実験は行われる。しかし、それは日本を標的にしたものではないし、日本に誤って墜落するということもない。だから、ミサイル防衛システムのPAC3などを配備したり、訓練を行ったりする必要もない。冷静に対処していかないと、アメリカの「北朝鮮危機ビジネス」に多額の税金をつぎ込むだけになってしまう。
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「核の傘」と核禁条約-北朝鮮問題⑦

2017年08月24日 21時21分09秒 |  〃  (国際問題)
 もう「北朝鮮問題」を少し離れてしまうけど、「核の傘」問題を考えてみたい。日本は日米安保条約で、日本防衛を米軍に頼っている(ことになっている)。日米安保の持つ意味は、時とともに変わってきたけど、米国は当初から核兵器を持っていて、日本は「戦力を保持しない」。その意味もどんどん変わってきたが、日本には核兵器がないことは今後も変わらないだろう。

 そこで、「中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発が進み、日本をめぐる安全保障環境が激変した」現在にあっては、米国の核兵器によって日本が守られているという「現状認識」が成立する。それをアメリカの「核の傘」と呼び、日本やヨーロッパ各国は「アメリカの核の傘のもとにある」と表現する。ところで、この現状認識は正しいのだろうかと僕は前から疑問だ。

 日本は「非核三原則」を持ち、核兵器を「もたず、つくらず、もちこませず」ということを原則としている。「もちこませず」というのは、米軍の核兵器であっても日本の領土領海内には持ち込ませないということである。それが本当のことかどうか、確認のしようがないが、今までに限りなく怪しいという情報はかなりあった。米軍はどこであれ、世界全体で核配備の状況は明らかにしないという方針なので、だからもちろん「日本国内にはないことになっている」けど、確認はしない。

 この状況を、「日本はアメリカの核の傘のもとにある」と言えるのだろうか?  「核の傘」というのは、核兵器があれば相手から核兵器で攻撃もされないだろう(核兵器で報復されるから)ということだ。でも、日本は非核三原則により日本国内には核兵器はない(ことになっている)じゃあ、日本は「核の傘」の下にないじゃないか。「核の傘」理論を信じているならば、日本は米軍の核兵器を日本国内に配備してもらわないとおかしくないか。「もちこませず」を非核三原則から抜けばいいわけだ。

 だが、現実問題として、日本に日米安保条約があるから核兵器で攻撃されないというのは正しい認識なのだろうか。 世界では第二次世界大戦終結以後にも、ずいぶんたくさんの戦争や武力衝突があった。核兵器を持っている国が関わることも多かったけど、核兵器は一回も使われていない。その代り、核兵器に劣らないぐらい破壊力の強い爆弾がいくつも開発されて使われた。

 核兵器はそのあまりにも凄まじい破壊エネルギーと後の時代にも及ぶ放射線の影響のために、実戦では使われない兵器になってしまった。だけど「象徴的な意味はある」と考えるかどうかは人さまざまかもしれないが。北朝鮮がミサイルに核兵器を搭載できる能力を開発したとしても、北朝鮮だって使えないだろう。北は何をするか判らない国だから、日本に対して核兵器の先制攻撃を行うに違いないと思い込んでいる人もいるかもしれないが、もう少しリアルな議論をしないといけない。

 前にも書いたけど、北朝鮮のミサイルが怖いと日米の合同演習を繰り返せば、ミサイルの前にオスプレイが墜落するかもしれない。確率的にはそっちの方がずいぶん高いだろう。北朝鮮が核兵器を実戦で使えるほどに開発するのはかなり大変だと思うし、仮にできても米軍を超えることなどはありえない。だから、その大切な核兵器を先制攻撃なんかで使ってしまうことはない。何しろ北側には米軍のミサイル防衛システムはないんだから、米軍の発射するミサイルを防ぐことはできない。米軍も核兵器なんか使う必要はなく、通常のミサイル攻撃で北朝鮮指導部を壊滅できる。

 だから、日本も「核の傘」神話を脱却する必要がある。北朝鮮は米中ロの核兵器保有国に囲まれている。中ロは米軍の核に対抗して自国の核兵器で北を守る意思はないだろうから、北は孤立して攻撃される恐怖を脱するために、核開発を進めたくなるだろう。だけど、このままではお互いにとってダメである。得るものがない。それは実際には機能していない「核の傘」神話に頼っているからだ

 むしろ率先して、日本が核兵器禁止条約に加盟するべきではないか。アジアでは東南アジア諸国は加盟している。日本が加盟しなければ、韓国や北朝鮮が加盟することはできない。むしろ、朝鮮半島が統一されても、統一韓国が「北の核」を引き継ぎかねない。日本が加盟する意味は非常に大きく、さまざまな意味があると思う。アメリカを「忖度」するのではなく、現実のリアルな認識として、今後数十年を見据えて考えていけば、国益的にも核禁条約への加盟は重要な意味を持つだろう。
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北朝鮮の人権問題-北朝鮮情勢⑥

2017年08月21日 22時58分03秒 |  〃  (国際問題)
 「北朝鮮問題」で残されたテーマをいくつか。今まで「北朝鮮の大量破壊兵器開発」を中心に書いてきた。それは大切な問題だが、それ以上に重大とも言えるのが、北朝鮮国内の人権状況である。それは何となく「怖い国」として知られていても、くわしいことはほとんど知らない人が多いだろう。

 国際人権組織「アムネスティ・インターナショナル」では全世界各国の人権状況をレポートしている。日本支部のサイトにも全世界の状況が掲載されている。そこの「朝鮮民主主義人民共和国」を見てみるとおおよそのことが判る。そこでは小項目として、「移動の自由」「海外派遣労働者の権利」「恣意的な逮捕と拘禁」「表現の自由」「強制失踪」などが挙げられている。

 一番最後の「強制失踪」は日本などの拉致問題を指す。海外派遣労働者の問題などは、僕を含めてほとんど意識していないのではないか。しかし、なんといっても深刻なのは、12万人近くの人々が政治犯収容所に拘禁されていたということだろう。人権問題が存在しない天国のような国は世界のどこにもないけど、北朝鮮の人権状況は世界最悪レベルだ。政府が崩壊したり、テロリスト勢力が力を持っているために人権状況が悪化している国は他にもいろいろある。だが、北朝鮮では「政府がそれなりに有効に支配している」ことが問題なのである。

 人権問題では、今までの歴史を見ると、大きな変動が起こるためには二つの前提がある。一つは「それが問題だと多くの人の共通認識がある」。もう一つは「人権が侵された被害者が外へ向かって声を挙げる」。例えば、「セクハラ」という問題は、ある時期までは「そういうものだ」と何となく思われていたが、「セクシャル・ハラスメント」という概念が出来ると、そうか、あの嫌な思いは「セクハラ」だったんだと自己認識できる。最近では「部活動での体罰」などもそう。そういうもんなんだと多くの人が何となく思っている場合には、それは問題として意識されない。

 どんな問題も、最初に声を挙げておかしいと訴える人がいる。冤罪問題なども、無実の罪に問われた人が、「私は無実です」と訴えるところから救援運動が始まる。無実なんだったら、やってないというに決まってると思うかもしれない。でも今までの冤罪問題を見ると、無罪主張をしない人もいるのである。近年では「富山冤罪事件」などが代表。無実の人が有罪となり、服役して出所した後に、真犯人が現れ自白した。真犯人は有罪となり、冤罪の人は再審で無罪となった。

 だけど、なんで裁判の段階で無罪の主張をしなかったのだろう。それは様々の原因が指摘されているが、警察も検察も真実の追及を怠り、脅迫的な取り調べを行い、もう誰も信じられなくなったということが大きいと思う。僕が70年代頃に世界の問題に関心を持った時に、韓国やソ連の政治犯の問題は大きく取り上げられていた。そのとき、中国や北朝鮮の政治犯は知らなかった。では、それらの国にはいないのかというと、実際は声を挙げられる状況にはなかったのだと今になれば判る。

 中国は「改革開放」を経て外国との往来も相当に自由になり、今も情報統制は厳しいが、それでも自由を求めて闘っている人々の存在を知ることができた。でも、北朝鮮の場合はそのような「自由を求めて闘う人」(フリーダム・ファイター)の存在は知らない。今まで一人もいない。厳しい弾圧が自由な市民活動をまったく許さない段階にあると思われる。それでも少しづつ外国状況などは伝わるもので、中国の延辺朝鮮族自治州などを通して、ある程度韓国の情報も伝わっているかもしれない。

 でも、「自国には問題がある」「正義を求めて声を挙げることで改善できる」という発想が許されない社会では、まず「世の中はそんなもの」と思う。問題設定そのものがないので、ではどうするという発想も出てこない。そういう「無実だけど、諦めてしまって無罪主張ができない」段階に、現在の北朝鮮社会はあると思われる。じゃあ、どうすればいいのか、僕にははっきり言って判らない。

 政府に圧力をかければ解決できるという幻想は持てない。「止まない雨はない」と僕は信じているが、まだまだこの苦難は続くだろう。外部から戦争を仕掛けて政権を打倒すればいいと思う人もいるだろうが、それはさらなる悲劇をもたらすだけだ。日本人拉致被害者がどれだけ存在しているか、僕には全くわからないけど、そのような人々を含めて政治犯収容所は解放される前に「処置」されかねない。ぞれでも、と僕は思う。朝鮮労働党の様々な犯罪行為(拉致問題や金正男暗殺事件などを含め)は、やがて統一されたのちに「国際法廷」で裁かれるべきだと。カンボジアやボスニアのような国際法廷が必要だと思う。
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戦争にはならないはずだが-北朝鮮問題⑤

2017年08月20日 23時03分41秒 |  〃  (国際問題)
 家族がケガをして家事が忙しい。映画なんかに行ける時間もないから、その間に国際情勢を書いちゃおうかと思ったけど、時間と気持ちに余裕がない。まとまったことを調べて書くゆとりがないから、残された問題をさっさと書いてしまいたい。要するに、多くの人の最大関心事は「戦争になるのか」ということだろう。冷静に分析すれば「戦争になる可能性は限りなく低い」ということである。

 かつて、1981年6月7日に、イスラエルがイラクの原子炉を爆撃したことがある。当時のイラク・フセイン政権が原子力発電所を建設することに対し、イスラエルはアラブ諸国の核開発につながる国家的危機とみなし「自衛権」の発動として空爆を実施した。イスラエルはイラクと国境を接していないから、ヨルダンとサウジアラビアの領空を侵犯していった。この事態に対し、国連安保理はイスラエルを非難する決議を採択した。イラク戦争でフセイン政権が崩壊した今となっては「昔話」かもしれないが。

 北朝鮮とすれば、この事態が一番避けたい事態である。そのような空爆が国際法違反かどうかは別にして、サッサと核やミサイルの開発基地を米軍がたたいてしまえば、北朝鮮問題は終わるとも言える。でもそうならないように相手も考えている。地下に作ったり、中朝国境の奥深いようなところなどに作ってるという話だ。この間のミサイル発射も国内のあちこちでやっている。もうすでに90年代の危機において、そのような「限定的空爆は不可能」とされている。

 米軍が時々あちこちを空爆、あるいはミサイル攻撃するニュースが聞かれるが、アフガニスタンとかスーダンとかシリアなどは、米軍に対する反撃能力がない。だが、北朝鮮には反撃能力がある。何も長距離ミサイルは必要なく、韓国にある米軍基地、あるいは韓国軍を攻撃することは今すぐできる。そのような攻撃能力を米軍側がすべて先制攻撃することは不可能である。

 米軍だって戦争したいわけではないだろう。世界のどこでも戦争してないんなら、「軍の存在価値」のために戦争を望む軍人がいないとも言えないが、中東の米軍はいまもなお戦争に関わっている。「二正面作戦」なんか愚の骨頂だ。軍人だから、命令されれば戦うと答えるだろうが、戦略的には本格的攻撃作戦は不可だろう。

 中国も習近平体制二期目の党大会を秋に控え、米朝軍事衝突がいま起きては困るだろう。北朝鮮がどんなに困り者であっても、習近平時代に朝鮮半島全域が米国の勢力圏に入ることは絶対に阻止したい。もし起こったら「外交的失点」とみなされかねない。習近平政権はもしかしたら3期目が絶対ないとはいえないかもしれないが、とりあえず2期目の最後の年、次の次の党大会が開かれる2022年までは戦争を望まない。その年は2022年北京冬季五輪の年でもある。

 韓国は北崩壊を引き受ける余裕がないし、もちろん北朝鮮指導部も本格戦争になったら今度は米軍に負けて体制変換が起きると判っているだろう。米国は北朝鮮のミサイル危機をきっかけに、韓国や日本に対ミサイル防空システムを売りつけている。常識で考えれば、米国もいま「北朝鮮問題」が消滅してしまえば大損になるから、早期の北朝鮮崩壊は望んでいないはずだ。

 という風に関連国がすべて戦争が起きないことで利益を得るんだから、常識では戦争にならない。でも…はあり得る。今までの歴史を振り返れば、第一次世界大戦、日中戦争、ヴェトナム戦争、イラク戦争…。こんなはずじゃなかったのに」の連続で、いつの間にか大戦争になっていた。関係者がみな「なんでこうなるの?」と思うような展開になってしまった。

 そういうことは今回も起こり得る。それは朝鮮半島だけではない。インド・パキスタン、イエメン、ロシアとウクライナなどでもあり得るだろう。ヴェトナム戦争では、後に謀略と判った「トンキン湾事件」という「米軍が攻撃された」と報道された事件が大軍派遣のきっかけとなった。本当の偶発事件か、もしくはどこかの国の陰謀か、とにかくなんらかの「米軍に対する攻撃」が起これば、トランプ大統領は、あるいはほかのどの大統領であれ、直ちに反撃を命じるだろう。

 そういう偶発事件が起こらないようにすることが大切だ。もし起こっても、周辺国の努力で「単なる偶発事件」レベルに留めるようにする。そういうことが大切だ。今までも38度線周辺では、何度かそのような「偶発事件」は起きたことがある。だから、今度起きても大事態にはしないようにできるはずだ。

 だけど、北朝鮮のミサイル実験はいずれ行われるだろう。作ったものは実験して確かめないと使えない。新薬だって、自動運転車だって、実験だけでOKにはならない。治験や公道での実験を経ないと、使い物になるかどうかが判らない。ミサイルだって、作った以上、実際に撃って確かめないと判らない技術的問題があるだろう。作ったら、発射実験はしてみたいに決まってる

 だが、それがグアム島周辺海域かどうかは僕は疑問。標的地点を明かして、米軍に迎撃されたりすれば、米国技術の大宣伝になっちゃう。他に撃てば、元の標的が判らないんだから、作戦成功と言える。ということで、ミサイルや核兵器の実験はいつでもあり得るが、それで戦争にはなりにくい。じゃあ、現状維持かというと、そういうことになる。つまらない結論だけど、このような状況がしばらく続くのだと思っている。
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中国は北朝鮮を抑えられるのか-北朝鮮情勢④

2017年08月18日 23時45分26秒 |  〃  (国際問題)
 アメリカのトランプ大統領は、当初は北朝鮮問題への対処を中国に期待するようなことを言っていた。選挙戦中は中国を不公正な貿易をしていると非難していたのに、当選したら「北朝鮮問題で頑張っているいいヤツ」みたいないい方に変わった。(ところで、あの有名な「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」帽も中国製だというから笑える。)そこで「100日」の期限を設けたが、それはも過ぎてトランプも苛立っているらしい。でも100日で解決するわけがないじゃないか

 それでも安保理決議による「経済制裁」を中国はかつてより厳しく実施し始めているという。それで本当に北朝鮮を抑制することができるのだろうか。それは難しいというのが僕の判断である。もちろん中国が厳格に経済制裁を実施することになれば、経済的に北朝鮮は大きな影響を受けることだろう。しかし、それが核兵器や長距離弾道ミサイルの開発をやめさせる効果を持つかどうか。

 もともと朝鮮労働党は、戦前来の社会主義運動の「統一戦線」のようにして成立した。北朝鮮の建国は1948年9月9日である。大韓民国はそれに先立って、1948年8月15日に建国を宣言した。一概には言えないけど、この日付で判るように、「分断」には北以上に南の責任も大きい。それに、この段階では「北朝鮮労働党」と言っていたのである。その後、1949年6月30日に「南朝鮮労働党」と合併して現在の「朝鮮労働党」が成立した。現在の北朝鮮で一党独裁体制を敷く政党である。

 1950年6月25日に北朝鮮は韓国に侵攻して「朝鮮戦争」を起こす。それは「祖国解放戦争」であり、南朝鮮人民は歓呼して人民軍を迎え、南の「かいらい政権」を倒すはずだった。でも実際はそうならなかった。一時は韓国軍をプサン周辺に追い詰めるが、マッカーサーが「国連軍」を率いて仁川上陸作戦を成功させると、北朝鮮軍は一挙に敗走する。北朝鮮軍が鴨緑江沿いにまで追い詰められたとき、建国間もない中華人民共和国が「人民義勇軍」を投入した。そこで持ち直した北朝鮮軍と国連軍は38度線をはさんでこう着状態になり、1953年に休戦協定が結ばれた。

 この朝鮮戦争については、ソ連崩壊後に研究が進み、金日成の提案を毛沢東とスターリンが承認して始まったことが証明された。当時の「社会主義陣営」ではソ連のスターリンが権威的に支配していたが、中国革命後に東アジアの革命に関しては中国共産党の権威を認めていた。(地上軍を派遣した中国だけでなく、ソ連の空軍も参加していたことが判っている。)こういう経過を見れば、北朝鮮という国が今もあるのは、「中朝の血の絆」によると言われるのも理由があることになる。

 このような経過を表面的に見れば、北朝鮮は「反日」「反米」の国だということになる。日本の帝国主義支配を金日成が打ち破り、アメリカの介入も金日成が退けた。(それに類する誇大妄想的プロパガンダを国内向けには行っている。)北朝鮮の金日成主席が唱えた「主体(チュチェ)思想」は帝国主義的支配を受けた世界の多くの民族に訴える部分がある。(「主体思想」とは「人間が全ての事の主人であり、全てを決める」という、「マルクス・レーニン主義を我が国の現実に創造的に適用した」ものである。おいおい、マジかよという感じだが。金日成はだから人類史上の偉人になる。)

 しかし、現実に「主体思想」の持っていた意味はちょっと違うと思う。それは朝鮮労働党内部で、金日成派(満州派)の支配を確立し、個人崇拝を完成させるためのレトリックである。朝鮮労働党の歴史は、他の共産圏の支配政党と同じく、暗く陰惨な弾圧と粛清の歴史である。まず、南朝鮮労働党派が「アメリカのスパイ」として粛清され、さらに「ソ連派」「中国派」「国内パルチザン派(甲山派)と次々に粛清されていった。そこら辺をあまり詳しく書く必要もないと思う。ソ連や中国の党内抗争以上に知られていないだろうが、北朝鮮こそ最も陰惨な党内抗争が行われてきたのである。

 それは金日成後継をめぐり、金正日が勝利していく過程でもあっただろう。今はもう「三代目襲名」の時代だから、金正日後継なんか当然すぎる感じだが、70年代後半までは「社会主義国家で権力が世襲されるなんておかしなことが起こるわけがない」と多くの人が思っていた。まさかまさかの連続で、し烈な抗争を経て金正日が後継者となった。その時に「外国党」の影響を受ける勢力は淘汰されていった。「主体思想」の真の意味は、「ソ連や中国は後継問題でガタガタ言うな」だろう。

 表面的には中国やロシアとの友好関係を言うかもしれないが、戦時中の日本のような国家である北朝鮮指導部に「聞く耳」があるとは思えない。昔は中国の「残置諜者」(スリーパー)がいたと思うが、時代が変わってどこまで影響力があるだろうか。ただ「脱北者」が延辺朝鮮族自治州にたくさん流れ込んでいる。中国が北朝鮮の内部事情を相当詳細に承知しているのは確かだろう。だが、朝鮮党中央にはっきりした影響力を持っているかは疑問だ。

 中国は北朝鮮の早期の崩壊を望んでいないアメリカのトランプ政権との完全な関係悪化も望んでいない。経済制裁をテコにもう少し影響力を発揮しようとしている。でも、それは「聞き流す」という対応をされるのではないか。公然とした対立関係になることは双方が望んでいないと思うが、もうお互いに信頼関係は無くなっているだろう。そういう関係で何ができるか。あまり期待はできないという風に僕は思う。よく「北朝鮮は崩壊する」という人がいるが、そんなことを言う人が出てきてからもずっと続いている。追い詰められ孤立しても、まだまだ「大量破壊兵器の開発に賭ける」のではないか。
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北朝鮮の「成功体験」と「失敗体験」-北朝鮮問題③

2017年08月17日 21時17分20秒 |  〃  (国際問題)
 北朝鮮指導部、というか「部」と呼べるものがあるのかどうか、「首領様」がいるだけかもしれないけど、一体何を考えてアメリカに対する挑発的言動を繰り広げているのだろうか。世界の多くの人々は、軍事力では間違いなく世界最強である米軍をいたずらに挑発する「北」が理解できない。

 そのあたりの問題は、僕は以下のように考えている。北朝鮮としては、「敵」に対し宥和的に出た時に獲得できたものよりも、「敵」に対し挑発的に行動した時に獲得できたものの方が大きい。そういう風に世界を認識しているんじゃないか。もちろんその際の「世界を見る目」は、朝鮮労働党の独裁、もっと言えば「金王朝」の永続という観点から考えたものである。

 中国指導部は北朝鮮に経済の「改革開放」を求めてきたとされる。経済状態の改善という観点、あるいは「民生向上」という意味では、むろんいずれの時点下でもっと「開放」が避けられないだろう。中国は自国の「成功体験」から「改革開放」を勧めてくる。でも「分断国家」である北朝鮮としては、南の韓国と同じような経済体制を取り、同じように世界との自由な往来を認めてしまえば、そもそも「北朝鮮の存在意味」がなくなってしまうではないか。

 もちろんそれで良くて、北が経済改革を進めて行って、やがてそれが緩やかな連携から「統一」へと進んで行ければ一番いい。世界の大部分の人はそれでいいと思うけど、北朝鮮指導部だけはそれを認められないだろう。韓国主導の「統一」を認めないならば、改革開放にも限度があるのは当然だと思っているだろう。何とか生き延びるためには、むしろ「鎖国」「軍事大国化」の方が効果的と思っているだろう。それが歴史的に確認されていると認識しているんじゃないか。

 初代の金日成主席の時代には、フィクションではあれ「建国の父」としての正当性を有していた(と思われていた)。(金日成の抗日戦争は、現実にパルチザン活動はあったけれど、それが「祖国を解放した」わけではない。現実は「満州国」からソ連に逃れ、ソ連軍とともに北朝鮮に乗り込んでいったわけで、祖国解放神話のほとんどは後の時代に作られたフィクションである。)

 だが、金正日(キム・ジョンイル)、金正恩(キム・ジョンウン)の時代には、「革命の血」を受け継ぐというだけではダメで、やはり「実績」がいるんだと思う。そして、金正日時代には、金大中を受け入れて初の南北首脳会談が開かれた。限定的ではあれ、開城工業団地や金剛山への韓国からの観光事業などが行われたのだから、北朝鮮も韓国からの資金が欲しいことは欲しかったんだろう。でもそれらの事業は限定的に過ぎ、北朝鮮に大きなインパクトを与えなかった。

 2002年には日本の小泉首相を受け入れ、過去の拉致問題を「盲動主義」があったと認め、被害者の日本訪問を認めた。大量破壊兵器の開発を中止する「日朝ピョンヤン宣言」も出された。それに対して日本は経済援助を与えることになったはずだが、実際にはそうならなかった。拉致事件被害者の死亡報告が異常に多いことに日本中が衝撃を受け、北朝鮮への非難が沸騰した。それは理解できるけれど、北側からすれば、「譲歩したのに制裁された」非常に苦い教訓になってるんじゃないか。

 一方、1994年にIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れをめぐって「朝鮮半島危機」が起こり、クリントン政権による空爆が計画された時点では、最終的に「米朝枠組み合意」が結ばれた。北側はNPT条約に留まり、プルトニウムが生産できる黒鉛炉などは軽水炉に置き換え、その間は重油を提供する。使用済み核燃料は廃棄するというもので、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が作られた。だがその後も北朝鮮の核開発は止まず、結局KEDOは2005年末に清算された。

 これは国際社会から見ると「失敗体験」以外の何物でもない。「瀬戸際外交」の結果、口先で核兵器開発断念を約束し、NPT(核不拡散条約)にも留まることになった。だけど、現実には「重油」だけタダ取りされたようなものである。でもそれを逆に見れば、「瀬戸際外交」こそが自分では失うものなく得るものだけがあったという「成功体験」をもたらした

 この過去20年ほどの経過を見てみれば、自分の側から譲歩して行っても、かえって非難され、さらなる譲歩を求められるだけである。一方、北側の大量破壊兵器開発が本気であることを示せば示すほど、一番の「敵」であるアメリカも本気で対応せざるを得ない。アメリカ国民は外国への関心などたいして持ってないし、ヨーロッパや中東情勢の方が遥かに重大な関心があるだろう。でもこの間の「挑発」の繰り返しによって、米国民の関心も急速に高まっているらしい。

 やはり今の挑発路線こそが効果的だ、成果を挙げているとキム・ジョンウン政権は見ているだろう。そして、その挑発路線によって、例えば日本の自衛隊はアメリカの地上配備型イージスシステム「イージスアショア」ってのを導入する方針だという。このような「対北朝鮮ミサイルビジネス」はぼう大な利権を産む。今さらミサイル開発をやめられては困る人々がたくさんいるということである。こうやって、事実上の相互依存関係が出来ていき、それぞれ挑発を繰り返すことにより、世界的な注目を浴びる。北朝鮮も米国トランプ大統領も、今回の事態で「得点」を得ている。
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