6月に見た新作映画の話。後の方になると忘れてしまいそうなので先に書くけど、「ホドロフスキーのDUNE」が非常に面白かった。「エル・トポ」などの「カルト・ムーヴィーの大家」、アレハンドロ・ホドロフスキーが、70年代初頭にSF映画「DUNE」に取り組んでいたという。オーソン・ウェルズやサルバドール・ダリなんかに出演交渉をしている。先ごろ亡くなったギーガーを美術に起用した初めての映画だという。結局、予算がふくらみすぎてホドロフスキーはクビになり、デヴィッド・リンチが監督したわけだけど、この記録映画を見ると、「エイリアン」も「ブレードランナー」もホドロフスキーのこの「幻の映画」なくしては出来なかったと判る。映画マニア向きだがダリのシーンなんか貴重。
見て欲しいのがスウェーデン映画「シンプル・シモン」。「アスペルガー症候群」とは今は言わないけど、自分はアスペルガーだとバッジをつけてるスウェーデンの男の子の話。兄が世話しているが、兄の恋人を怒らせてしまう。代わりに兄の恋人探しを勝手に始めるけど…。その世界とのずれぶりを暖かく見つめる映画で、かなり「自閉」度が高いケースだと思うけど、発達障害を正面から描く映画。
映画そのもので一番良かったのは、コーエン兄弟の「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」かなと思う。でもコーエン兄弟の中では一番というわけではない。昨年のカンヌ映画祭グランプリの、60年代初頭ニューヨークの売れないフォークソング歌手の話。歌も素晴らしく、当時の風俗も興味深い。シカゴまで何故か車で行くシーンの不可思議なロードムービーもいい。ラストにボブ・ディランらしき若者が登場する。どんな時代、どんなジャンルでも売れっ子が登場する前に、売れない無名の担い手がたくさんいた。でも、この映画の主人公、ルーウィンはやっぱり迷惑なヤツだなあとあまり同情できない…。
かなりヒットしてる「チョコレートドーナツ」は、70年代アメリカの実話がもとだというが、ゲイのカップルがダウン症の子どもを養育しようと頑張るが、当局に認められず裁判で闘う話。ゲイのカップルより、麻薬中毒の実母の方がマシという当時の通念が子どもを追いこんで行く。話は興味深いし、主人公の描き方も納得できるんだけど、暗いところで手持ちカメラで撮っているシーンが多く、画面が揺れているのが僕には気にかかってしまう。最近の映画に多いけど、ホントはクレーンで固定してじっくり芝居を見せて、時々効果的なアップを入れて欲しいという昔ながらの映画手法が懐かしくなる。
アメリカ映画では、今日他の映画を見るつもりで出かけたのに時間の都合で新文芸坐に行って「大統領の執事の涙」と「LIFE!」を見た。どっちも安定した面白さの映画。社会的テーマもあるけど安心して見られる展開になっている。「執事」の方は、「ジュリア」以来だと思うけど、ジェーン・フォンダとヴァネッサ・レッドグレーブの共演。(全然絡まないけど。)「LIFE!」は「虹を掴む男」のリメイクだけど、アイスランドのスケボー大滑降あたりからグッと面白くなる。こういう映画が求められているのかなあという感じがした。見て得した感じもする佳作。
音楽映画では、フィルムセンターのEU映画祭で「オーバー・ザ・ブルースカイ」を見た。先に公開されているベルギー映画で今年のアカデミー外国語映画賞ノミネート。ベルギーでブルーグラスをやってる男と妻の物語。物悲しい展開になっていくが、じっくり見せる佳作。僕がよく判らなかったのが、2012カンヌ映画祭監督賞のメキシコのレイガダス「闇のあとの光」。マジックリアリズムの映画版だけど、メキシコの現実もよくわからず、映像の一つ一つは美しいのだが、全体の意味がよく判らない。「全体の意味」など求めるなと言われそうだけど。日本映画では新作は一本だけ。石井裕也の「ぼくたちの家族」で、これは案外な拾い物だった。「舟を編む」がフロックではない証拠の演出力。母親の病気をきっかけに、ある家族の危機が露わになる。かつて引きこもりだった過去のある長男の妻夫木聡始め、家族はどう対処するか。じっくり見せて日本社会の今を考えさせるんだけど、こういう「ちょっと重い」映画はだんだん忘れてくるところもある。
ドキュメントの「SAYAMA」だけ独立して書いたけど、映画としても面白いけど冤罪事件の広報という意味もある。だから、6月に見た新作映画はまとめて言えばどうもいま一つだった感じなんだけど、最後に「美しい絵の崩壊」を取り上げておきたい。これは「女子の友人」がそのまま大人となり、社会的にも成功し夫と子どももいる、そういう二人。今も美しい。まあ女優の名を挙げれば、ナオミ・ワッツとロビン・ライトという人になるが、夫とも死別、離別し、成長した二人の男の子と暮らす。そのうち、子どもを交換して、それぞれが恋人関係となってしまう。原作はノーベル賞作家のドリス・レッシングの「グランドマザーズ」。集英社文庫から出ている。これを持ってたので、この機会に読んでみた。原作はフランスが舞台だけど、映画はオーストラリアに移している。海岸の風景が美しく、見ていて快い。でも映画と原作はかなり違う。原作の方がすごい。「女性力」というか、二人の女が最後まで支配する世界の話である。でも映画では、ある種の悲劇のように描く。この違いに、スター映画の宿命なのかもしれない。原作は短編で、他に3つの中短編が入っていて、それがなかなか面白い。
見て欲しいのがスウェーデン映画「シンプル・シモン」。「アスペルガー症候群」とは今は言わないけど、自分はアスペルガーだとバッジをつけてるスウェーデンの男の子の話。兄が世話しているが、兄の恋人を怒らせてしまう。代わりに兄の恋人探しを勝手に始めるけど…。その世界とのずれぶりを暖かく見つめる映画で、かなり「自閉」度が高いケースだと思うけど、発達障害を正面から描く映画。
映画そのもので一番良かったのは、コーエン兄弟の「インサイド・ルーウィン・デイヴィス」かなと思う。でもコーエン兄弟の中では一番というわけではない。昨年のカンヌ映画祭グランプリの、60年代初頭ニューヨークの売れないフォークソング歌手の話。歌も素晴らしく、当時の風俗も興味深い。シカゴまで何故か車で行くシーンの不可思議なロードムービーもいい。ラストにボブ・ディランらしき若者が登場する。どんな時代、どんなジャンルでも売れっ子が登場する前に、売れない無名の担い手がたくさんいた。でも、この映画の主人公、ルーウィンはやっぱり迷惑なヤツだなあとあまり同情できない…。
かなりヒットしてる「チョコレートドーナツ」は、70年代アメリカの実話がもとだというが、ゲイのカップルがダウン症の子どもを養育しようと頑張るが、当局に認められず裁判で闘う話。ゲイのカップルより、麻薬中毒の実母の方がマシという当時の通念が子どもを追いこんで行く。話は興味深いし、主人公の描き方も納得できるんだけど、暗いところで手持ちカメラで撮っているシーンが多く、画面が揺れているのが僕には気にかかってしまう。最近の映画に多いけど、ホントはクレーンで固定してじっくり芝居を見せて、時々効果的なアップを入れて欲しいという昔ながらの映画手法が懐かしくなる。
アメリカ映画では、今日他の映画を見るつもりで出かけたのに時間の都合で新文芸坐に行って「大統領の執事の涙」と「LIFE!」を見た。どっちも安定した面白さの映画。社会的テーマもあるけど安心して見られる展開になっている。「執事」の方は、「ジュリア」以来だと思うけど、ジェーン・フォンダとヴァネッサ・レッドグレーブの共演。(全然絡まないけど。)「LIFE!」は「虹を掴む男」のリメイクだけど、アイスランドのスケボー大滑降あたりからグッと面白くなる。こういう映画が求められているのかなあという感じがした。見て得した感じもする佳作。
音楽映画では、フィルムセンターのEU映画祭で「オーバー・ザ・ブルースカイ」を見た。先に公開されているベルギー映画で今年のアカデミー外国語映画賞ノミネート。ベルギーでブルーグラスをやってる男と妻の物語。物悲しい展開になっていくが、じっくり見せる佳作。僕がよく判らなかったのが、2012カンヌ映画祭監督賞のメキシコのレイガダス「闇のあとの光」。マジックリアリズムの映画版だけど、メキシコの現実もよくわからず、映像の一つ一つは美しいのだが、全体の意味がよく判らない。「全体の意味」など求めるなと言われそうだけど。日本映画では新作は一本だけ。石井裕也の「ぼくたちの家族」で、これは案外な拾い物だった。「舟を編む」がフロックではない証拠の演出力。母親の病気をきっかけに、ある家族の危機が露わになる。かつて引きこもりだった過去のある長男の妻夫木聡始め、家族はどう対処するか。じっくり見せて日本社会の今を考えさせるんだけど、こういう「ちょっと重い」映画はだんだん忘れてくるところもある。
ドキュメントの「SAYAMA」だけ独立して書いたけど、映画としても面白いけど冤罪事件の広報という意味もある。だから、6月に見た新作映画はまとめて言えばどうもいま一つだった感じなんだけど、最後に「美しい絵の崩壊」を取り上げておきたい。これは「女子の友人」がそのまま大人となり、社会的にも成功し夫と子どももいる、そういう二人。今も美しい。まあ女優の名を挙げれば、ナオミ・ワッツとロビン・ライトという人になるが、夫とも死別、離別し、成長した二人の男の子と暮らす。そのうち、子どもを交換して、それぞれが恋人関係となってしまう。原作はノーベル賞作家のドリス・レッシングの「グランドマザーズ」。集英社文庫から出ている。これを持ってたので、この機会に読んでみた。原作はフランスが舞台だけど、映画はオーストラリアに移している。海岸の風景が美しく、見ていて快い。でも映画と原作はかなり違う。原作の方がすごい。「女性力」というか、二人の女が最後まで支配する世界の話である。でも映画では、ある種の悲劇のように描く。この違いに、スター映画の宿命なのかもしれない。原作は短編で、他に3つの中短編が入っていて、それがなかなか面白い。