尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

超面白映画「ナイトメア・アリー」、猥雑なダークの魅力

2022年04月09日 23時10分13秒 |  〃  (新作外国映画)
 ギレルモ・デル・トロ監督の「ナイトメア・アリー」(Nightmare Alley)がとても面白かった。アカデミー作品賞にノミネートされた映画だが、本国の興行実績は振るわなかったという。日本でも3月25日公開で3週目にはもう上映時間が少なくなっている。題名もよく判らず、大人気俳優も出ていなくて、アカデミー賞でも一部門も受賞しなかった。画面も内容も暗い映画だし、やむを得ないか。でも、この映画はものすごく面白かったし、こういうタイプが好きな人には絶対満足出来る出来映えだ。

 題名は「悪夢小路」と映画内で訳されている。“alley”は「路地」という意味だが、この映画ではもっと深い意味がある。ウィリアム・リンゼイ・グレシャムという作家が1946年に出した同名のペーパーバック小説の2度目の映画化。最初は「悪魔の往く町」(1947年、エドマンド・グールディング監督)で、シネマヴェーラ渋谷のアメリカ映画特集で時々上映されている。僕も見たかもしれないが、見てないかもしれない。大昔のフィルム・ノーワールはいっぱい見たので、自分でも覚えてないのである。

 30年代末のアメリカの地方。スタンブラッドリー・クーパー)は家に火を付けて逃げていく。丘の上の一軒家が燃えあがるが、そこには死体が残されていた。逃げていく間に服は汚れ、体も悪臭を放つようになるが、「カーニバル」に誘われるように入り込む。「カーニバル」と言われているが、テント掛けのサーカスのようなもので、日本語で言えば「見世物小屋」である。怪しげな読心術や「獣人」(ギーク)などを金を取って見せている。ギークとは獣か人か疑わしい汚れきった「動物」で、生きたニワトリにかぶりついて血を飲むところが見物になる。しかし、もちろん実体は「監禁された人間」で、裏街のさびれた「悪夢小路」からホームレスを拉致してきたのである。最初に出て来た「獣人」という言葉がラストで皮肉な形でまた出て来る。
(モリー=ルーニー・マーラ)
 スタンは何とか最底辺の仕事を与えられるようになり、自分の才能を自覚していく。見世物を工夫し、「電気人間」をやっていたモリールーニー・マーラ)と仲良くなる。ある日警察の手入れがあって、巧みにあしらったスタンは皆に感謝されたが、自分はモリーと共に出ていくと宣言する。そして2年、大都市のホテルで行われる読心術ショーは大人気である。しかし、ある日謎の女性がショーに突っかかってくる。アシスタントを務めているモリーが判らないように合図を送っているのだと客の前で指摘したのである。これは図星だったが、スタンは認めない。では私のハンドバッグには何が入っているか当ててと問い返す。

 ショーの後でスタンは女性を訪ねると、彼女は心理学専攻のリリス・リッター博士(ケイト・ブランシェット)と名乗る。多くの悩める患者のカウンセリングをしていたが、スタンは彼女を悪党と見抜き、コンビを組もうという。博士がつかんだ個人情報を流してくれれば、スタンが死者の霊を呼び出すショーに使えるというアイディアである。一人息子が軍隊で死んだ高裁判事が最初のターゲットである。そして、次は町を支配する大金持ちが依頼してくる。「成功」を夢見るスタンに、モリーはもう付いていけない。しかし、最後だからといって、ある仕事を何とか頼むのだが…。
(スタンとリッター博士)
 映画は「詐欺師」の才能に気付いた男の栄光と悲惨を華麗に描く。一体どうやって撮ったのかという見事な映像を、流れるように編集している。2時間30分もあって、ちょっと長すぎると思ったが、退屈する箇所は全くなくて一気に見てしまう。サイコ・サスペンスと欺し合いを堪能させてくれる。見世物小屋の場面ではウィレム・デフォー、トニ・コレットなど多くの名優が出ている。どこかで見たなというような助演陣もいっぱい。だけど、アカデミー賞では俳優部門では誰もノミネートされなかった。ノミネートされたのは撮影、美術、衣装デザイン部門で、確かに技術部門の出来映えに感心する。
(スタンとリッター博士)
 監督のギレルモ・デル・トロ(1964~)は、もともとメキシコ出身で同じ境遇のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥアルフォンソ・キュアロンとともに映画会社を作っている。2017年の「シェイプ・オブ・ウォーター」がアカデミー作品賞、ヴェネツィア映画祭金獅子賞を得た。その後、製作作品はあったものの、監督作品は初めてである。

 期待が高まりすぎて、この程度では満足出来ないということかもしれない。大きな志があるというよりも、巧みに演出されたジャンル映画ではある。全く明るい場面がない、内容も人間性の暗い部分のみ扱ったダーク映画。それが困ると言う人にはオススメできないが、これだけ面白い映画も少ない。俳優では何と言っても、ケイト・ブランシェットの凄みに魅せられる。
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