尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

林家つる子「子別れ」新ヴァージョンに感動ー上野鈴本演芸場7月上席夜の部

2024年07月05日 23時11分49秒 | 落語(講談・浪曲)
 上野の鈴本演芸場三遊亭わん丈(昼)、林家つる子(夜)がトリを取っている。二人ともこの前真打披露興行をやったばかりの最新の真打。真打に昇進しないとトリ(主任興行)は出来ない。それにしても記憶にないほど早い主任である。そこで夜の部の林家つる子を聴いてきた。いや、1月に初めて聴いて以来、早くも4度目だ。もはや「追っかけ」に近いかも。

 寄席の記事を書くときは、大体出て来た順番に書くようにしてきた。「色物」を含めて、トリに向かって盛り上がって行くのが寄席だからだ。しかし、今回は(時間の問題もあるけれど)、最初にトリの林家つる子を書きたい。今までの落語の中で、ともすれば軽視されてきた女性の視点を取り入れた「改作」をたくさん演じてきた。昇進披露で僕が聴いた「芝浜」も女性改作ヴァージョンだった。今日やったのは、ネタ下ろしの新改作「子別れ」新ヴァージョンである。

 「子別れ」は大工の熊五郎が妻子を追い出し身請けした遊女と一緒になるが、結局すぐに別れてしまう。そして3年、別れた子どもと再会し、子どもがあれこれ復縁に心を尽くす。その子どもの様子と父親の言動が面白く、最後にはホロリとさせる名作である。しかし、一端追い出された妻の心は余り描かれない。そこを中心にした逆ヴァージョンを作って、それは昨日演じたという。

 今日やったのは、さらにもう一つのヴァージョン。この噺にはもう一人女性が登場する。つまり「後妻」になった「遊女」である。ネットであらすじを検索すると、以下のように描かれている。お島が肝心の吉原の遊女である。

 「うるさいのがいなくなり、これ幸いにとお島を引っ張り込むが、「やはり野に置け蓮華草」で、朝寝が大好きで、昼間から大酒を飲んでばかりで家事などは一切できない女だった。熊五郎 「おい、起きろよ」 お島 「まだ眠いよ、もう少し寝かせておいておくれよ」 熊五郎 「冗談じゃねえや、おらあ、仕事に行くんだ、早くしなきゃ間に合わねえや」 お島 「仕事に行きたきゃ、早くお出でな」 熊五郎 「飯を食わずに行けねえじゃねえか。起きて、飯を炊いてくれよ」 お島 「いやだよ、おまんまなんぞ炊くのは。そんなもん炊くくらいならこんなとこへ来やしないやね。橋場の善さんのとこへ行っちまわあね」、毎日がこんな調子で、熊五郎が追い出そうと思い始めた頃、女の方から「はい、さよなら」と出て行ってしまった。」

 せっかく惚れた男が身請けしてくれたのに、結局大工の妻にはなりきれない「悪妻」の典型として描かれる。この「お島」はどんな人生を送ってきた女性だったのか。「吉原」を今の時点で、それも女性の立場で描くときに、どうすれば良いのか。この難問にチャレンジしたのが林家つる子の「改作子別れ」である。そして落涙必至の感動作が誕生した。

 生まれた時から品川の遊郭に捨てられ、特別な世界で育ってきた。炊事も裁縫も教えられて来なかった。お互い承知で結ばれたはずが、現実にはどうしてもうまく行かない。熊五郎は長屋のおかみは皆親切だから教えて貰えという。しかし、実は長屋連中は皆お島を遊女あがりと蔑視し、何も出来ないとそしり、子どもたちにも近づかないように言っていた。そんな子どもたちがある日訪ねてきて、「花魁(おいらん)ごっこ」をしたいから花魁道中の歩き方を教えてくれと言う。あの家には近づくなと言っただろと後で子どもたちは母親に叱られた。こうして、お島は自分は遊郭の中でしか生きていけないんだと追い詰められていく。 

 このように、差別と格差の中でしか生きて来れなかった「遊女」の悲しみを見事に描いたのである。こういうやり方があったのか。というか、今までこの噺を聴いたことはあるのに、こういう発想をしたことがなかった。身請けされても「シャバ」では「悪妻」にしかなれない哀しみ。それが「遊女」という存在なのだという見方は、現代を考える時にも役立つだろう。端役として出て来る登場人物を主役にするというのは、『ハムレット』に出て来る人物を描くトム・ストッパードローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』を思い出す。こういう発想で作れる作品はまだまだあると思う。
(隅田川馬石)(林家きく麿)
 他では隅田川馬石の「金明竹」(というんだと初めて知った)という上方弁でまくし立てて全く理解出来ない噺。馬石の歯切れの良さに引き込まれる。新作の林家きく麿は「おもち」という老人同士の訳の判らない会話がバカバカしくて笑えた。林家正蔵は「西行鼓が滝」。最近正蔵をよく聴いてるが、その中では一番面白かった。

 最後に寄席の話をちょっと。「落語ブーム」とか言われると、寄席もいっぱいかと思うかもしれないが、一部のホール落語は満員だろうが寄席は空いている。チケットはどうするのかというと、そもそも事前に前売り券はない。ホントに時々(お盆興行とか落語芸術協会の神田伯山主任興行とか)だけ、チケットぴあなどで前売り券を発売することもある。時間は夜席だと、5時開始ぐらいで今どき仕事をしていると行けない時間だ。しかし、トリだけでも良ければ7時頃までに行けば空いてると思う。今日もまあ4割ぐらいの入りだったと思う。それでもそこそこ入ってる方。だから応援という意味で行ってるわけである。今どき当日券、現金払いのみという世界。それが寄席である。まあ夜行くと外食になるから物入りだけど。
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上野鈴本で文枝を聴くー落語協会百年特別興行

2024年06月17日 20時23分22秒 | 落語(講談・浪曲)
 上野鈴本演芸場の6月中席昼の部に行ってきた。落語協会百年興行の企画で、トリを上方落語の桂文枝がやっている。ということは先週「文枝と小朝の二人会」に行ったときに書いた。まあ二度とないことだろうし、他のメンバーも凄いので行きたくなったのである。演劇や音楽会に行くとチラシの束を渡される。映画館に行くと映画のチラシが置いてある。同じように寄席や落語会に行くと落語のチラシを貰うから、ついまた行きたい気持ちが募るのである。

 小朝のブログを見ると、鈴本は連日立ち見の大賑わいだという。それを考えて、少し早く着くようにした。今日も大入り満員で冒頭から立ち見である。今回は(出演順に)柳家三三蝶花楼桃花柳家権太楼林家正蔵春風亭小朝林家彦いち(春風亭一之輔と交替出演)、林家木久扇(鈴々舎馬風と交替出演)と、普段ならトリで出て来る面々(または人気者や大御所)が続々と登場する。色物も立花家橘之助(俗曲)やロケット団(漫才)など大満足。そんな中で奇術のアサダ二世はいつものような脱力マジック。「今日はちゃんとやります」と宣言しながらテキトー主義に徹する様に大爆笑。他の芸人にいじられる存在として貴重。
(アサダ二世)
 落語では開口一番、鈴々舎美馬はこの前の二人会でも見た人。噺も「転失気」(てんしき)となじみだが、皆よく笑う。いつもの「通好み」的客筋と違って、長年の文枝ファンや話題にひかれた人も来てるんだろう。大入りでよく笑うから、やる方も力が入る。林家たけ平は兄弟子が止めちゃって、今は正蔵の惣領弟子。足立区出身で気に掛けているが、聴くのは久しぶり。今回は大きな声で「死ぬなら今」と珍しい噺。ケチで知られた吝兵衛(けちべえ)さんは地獄に行きたくなくて、金次第というから閻魔大王に賄賂を送って極楽行きに大逆転。客受け、ネタのつかみなどずいぶん上達してる。大受けしていた。
(林家たけ平)
 柳家三三の「」(たけのこ)は、この前林家つる子の昇進披露興行で聴いたばかり。この前の方が面白かった。柳家権太楼の「代書屋」も何度聴いたかという噺だが、何度聴いても大受けする。確かに面白いけど、今日がベストじゃないだろう。林家正蔵の「一眼国」(一つ目の国に迷い込む)もこの前のつる子昇進興行で聴いたばかり。そうなると、新作の林家彦いちに期待してしまう。学校で怪談を語る部活に熱血教員が顧問になって…という噺で、調べると「熱血怪談部」というらしい。本にもなってるようだ。これは抜群に面白くて、顧問の「怪談部は、レイに始まりレイに終わる」なんて爆笑だった。
 
 小朝は「千両みかん」という噺で、初めてだがそんなに面白くない。木久扇師匠は例によって、笑点に始まって談志の選挙ネタ。これは「明るい選挙」という題があるらしいが、今回は漫談風に語っていた。人気者だけに(文枝以外の)誰より受けていた。ロケット団は久しぶりなんだけど、世の中には「○○ハラ」がいっぱいある。セクハラに始まり、モラハラ、カスハラなどと紹介していって、「キヨハラ」(無理やり薬物を勧める)というのがパターンだったけど、それが「ミズハラ」に代わっていた。意味は「無理やりギャンブルに誘う」である。
(ロケット団)
 最後に文枝が登場。51年間「新婚さんいらっしゃい!」の司会をして、感じたこと。「愛は、続かない」なんて笑わせる。それがマクラだから、続いて老父が息子に電話して「離婚することにした」と語ると実感が出る。これは「別れ話は突然に…」という演目だという。すべて電話で語られる夫婦、親子の事情が身につまされる。父親の方から聞いてると、老妻もひどいと思う。しかし、息子が妹に電話し、娘から母親に電話が掛かってくる。そうすると風景が逆転し、実は父親がいい加減で勝手。愛犬ジョンも「お父さんが殺したようなもの」だという。こうして親が大変になってるが、息子はソウル、娘は帯広にいるから、なかなか会いに行けない。お互いに調整して息子、娘が離婚阻止に久しぶりに帰省するとなる。と母親が死んだはずのジョンに良かったねと声を掛ける。ここでまた世界が反転する。「お父さん、この手は二度と使えませんね」で終わる。これは非常によく出来た新作落語だ。老人や親子を考えるヒント満載の爆笑ネタ。実に充実した寄席の一日だった。
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『桂二葉チャレンジ!!2』、桂二葉の才能とエネルギーに感嘆

2024年06月14日 20時32分21秒 | 落語(講談・浪曲)
 6月13日夜に、『桂二葉チャレンジ!!2』(朝日ホール)に行った。11日に文枝、小朝の会に行ったばかり。我ながらよく頑張っているなあという感じだが、それは間違い。どっちが先だか忘れたけど、片方を取っているのを忘れてチケットを申し込んでしまったのだ。あれ、このあたりで落語に行くはずと調べて、あっ良かったダブル・ブッキングしてなかったと安心した。間一日あるとは言え、週半ばに夜二日出掛けるのは今じゃ大変だ。でも、これがものすごく面白い。すごい才能が現れたものだ。

 桂二葉(かつら・によう)は上方の若手女性落語家として、いま注目の的だ。CM(金鳥蚊取り線香)にも出ているから、関東でも見覚えがある人が多くなってきたと思う。僕も二葉が面白いという声を聞くようになって、是非一度行ってみたいと思っていた。前からやってるシリーズらしく、必ず一席ネタ下ろし(観客に向けた初演)をするという趣向だという。今回は「くしゃみ講釈」がネタ下ろし。ゲストが一人呼ばれて、「人間国宝」五街道雲助師匠が登場するという豪華な企画である。
(桂二葉)
 桂二葉をよく知らないから調べてみた。1986年8月生まれで、2011年に桂米二(米朝の弟子)に入門した。2021年に「NHK新人落語大賞」を女性として初めて受賞し、この頃から注目され始めたようだ。(ちなみに上方落語には前座、二つ目、真打の昇格制度がない。)東京の女性落語家を見てみると、林家つる子は1987年6月生まれで、2010年に林家正蔵に入門、2015年に二つ目に昇進した。そして2024年に抜てきで真打昇進となる。この間、21,22年に続けてNHK新人落語大賞の本選出場者に選ばれている。(だから、21年は二葉に負けた。)なお、蝶花楼桃花は1981年生まれ、2007年に小朝に入門して、2011年に二つ目、2022年に真打に昇進した。東京落語では修行期間が長いことがよく判る。その功罪は決められないけど。

 会場はマリオン11階の朝日ホールで、かなり大きいけど場内は満員。なんと五円玉が入った「大入り袋」が配られたのには驚いた。前座(まんじゅう怖い)に続いて、早速二葉が登場し、冒頭で「声が高い」と自ら言う。「上方落語界の白木みのる」を名乗っているという。この白木みのるが理解できる人が何人いるか不明だが、大受けしていた。亡くなったばかりの桂ざこば師匠をめぐるマクラも面白い。しかし、なんと言っても「くしゃみ講釈」が凄かった。前に聴いてる噺だが、いつだろうと自分のブログを探したら春風亭一之輔の昇進興行だった。これを昇進興行でやるのも凄いな。

 講釈師に恨みがあって、講釈場で唐辛子を炊いてくしゃみを連発させるという、筋で聞いたら納得できないような展開が続く噺だ。でもその不条理性が面白いのである。そして「くしゃみ」連発の肉体芸が見物。桂二葉のくしゃみは素晴らしかった。とにかく可笑しいのである。いやあ、こんなバカげた噺を一生懸命やる「落語」という古典芸能は奥が深いです。
(五街道雲助)
 続いて五街道雲助の「お菊の皿」。昔は暑くなると怪談をやったなどと始まって、番町皿屋敷の幽霊噺になる。しかし、これは怪談じゃなく、滑稽話である。最近雲助師匠は良く聴いているけど、悠然と語る姿が次第に「人間国宝」の風格を見せてきた。ま、今回は普通という感じだったけど。中入り休憩を挟んで、後半は再び二葉の「子は鎹(かすがい)」。これがまた滅法面白い。よくやられるネタで、何度も聴いてる人情噺だが、二葉が一番だったかも。二葉ははっきりした口跡と「語り」だけではない身体芸で、飽きさせない。筋を知っていても可笑しくて、心に沁みる。

 しばらくホール落語に行かなかったが、やはり夜行くのは大変なのである。(外食だとお金も掛かるが、それより塩分摂取量を抑えたいので。)だけど、ホールだと、演目に長時間を掛けられる。長講に相応しいネタを聴ける。やはり時々行きたいなと思った。それにしても、この桂二葉のエネルギーと言ったらどうだろう。こんなにフレッシュで元気な落語家は久しぶりに見た。まあ「芸協」の「成金」グループに近いかもしれない。あるいは四半世紀ぐらい前に春風亭昇太を知った時に近いかも知れない。まだ「円熟」には遠く、ひたすら面白いエネルギーにあふれた時代である。だが、とにかく見て聞いて楽しく可笑しい。大注目。
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『文枝と小朝の二人会』を聴くー文枝傘寿の老人噺

2024年06月11日 23時02分25秒 | 落語(講談・浪曲)
 上方落語の6代目桂文枝(1943~)は、昨年傘寿を迎えた。「傘寿」(さんじゅ)というのは、もちろん80歳のことだ。ええっ、もうそんなになるのか。この人は2012年に亡き師匠の文枝を襲名するまで、長い間(45年間)桂三枝として活躍していた。若い頃には東京のラジオで深夜放送をしていて、僕はそれを聞いていたのである。ということで、東京でも何回か記念公演があったけれど、去年は忙しかったので行けなかった。今回東京で春風亭小朝と二人会をやるというので、思わずチケットを買ってしまった。

 そうしたら、何だ上野の鈴本演芸場で10日間トリをとるというじゃないか。落語協会100年でいろんな企画がある中の一つである。それなら、夜じゃなくてそっちの方が良かったかな。今回は10日間鈴本でやったあと、連日夜にも公演をやるんだという。凄い80歳である。実は大昔(20~30年前)の三枝時代にも鈴本でトリを取ったことがあり、それを聴きに行った思い出がある。上方落語でも有名な師匠になると、東京でも結構聴ける機会はある。しかし、まあフラッと寄席に行ったら出てたということはないから、わざわざチケットを取る必要がある。だから文枝(三枝)も前に聞いたのはその一回切り。今回が二度目になる。
(桂文枝)
 高齢になると、「病人あるある」がマクラになる。今回も「病院はネタの宝庫」と言って始まったが、待合室はともかく診察室の会話は聞こえないだろうから、作った噺なんだろう。昔は威張っていた夫も高齢になると妻に引きずられて病院に連れて行かれる。まあ身につまされるテーマである。それに続いて88歳の米寿を迎えた男の噺になった。還暦の長男が一家を集めて今やホテルでパーティが開かれる。しかし、今や孫・ひ孫どころか子どもの名前もおぼろになっている。そしてパーティ直前にトイレに行くと行ったまま男性トイレにいない…。そこから爆笑、微苦笑の『誕生日』というネタ。文枝の老人落語道は注目。
(春風亭小朝)
 前座は鈴々舎美馬(れいれいしゃ・みーま)という二つ目昇進直後の女性落語家。「マッチングアプリ」という新作で笑わせる。次が文枝で休憩。後半は僕のごひいきの「のだゆき」さんの音楽パフォーマンス。初めての人も多いようで、受けていた。そして最後に春風亭小朝。ホントは文枝師匠がトリなんだけど、80歳を超えると夜8時以降仕事してはいけない決まりがあるなどとまず笑わせた。歌舞伎の話題などから入って、ネタは「中村仲蔵」。講談でもよくやられる江戸時代の歌舞伎役者中村仲蔵の人情噺。長い噺なので、ホール落語じゃないとなかなか聴けない。小朝はこういうサゲなのか。まあ安定した実力で安心して聴けるけど、席の関係で聞こえが悪かった。鈴本にも行こうかな。(中央会館=銀座ブロッサム)
*(鈴本演芸場で桂三枝がトリを取ったのは18年前だった。6.12追記)
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桃月庵白酒独演会で、白酒三席を聴く

2024年04月21日 21時59分06秒 | 落語(講談・浪曲)
 北千住のシアター1010桃月庵白酒独演会を聴きに行った。区民割引で久方ぶりに夫婦で落語。劇場は駅の隣(丸井)の11階だが、終わってからホームまで行くより、電車に乗って最寄り駅まで行く時間の方が短い。それぐらい近いのは楽。2時から4時の会で、前座一人(桃月庵ぼんぼり)の後、桃月庵白酒が中入りをはさんで連続三席。「独演会」ならではだが、独演会と言っても弟子の二つ目も入って、本人は二席ぐらいのことも多い。今一番脂が乗っている噺家の一人だから満足したけど、体力は大丈夫かな。

 前座は「元犬」で、白犬が人間になっちゃう噺。割合とよくやられている噺だ。面白いんだけど頑張ってねという感じ。続いて、色物(紙切りとか大神楽など)も入れず、白酒師匠が二席。マクラのとぼけ方や他の落語家の話題が面白いのは有名だ。今日も落語家は人を笑わせる商売だから、本人は笑ってない人も多い。鶴瓶師匠とか目が笑ってないでしょ、「笑点」の宮治さんなんかも。というのが大受けしていた。言われちゃうとそんな気がしてしまう。

 最初は「代書屋」。これは柳家権太楼がよくやる噺で、どうも権太楼節が頭に響いてしまう。三遊亭小遊三でも何度か聴いていて、多くの人がやってる。履歴書を書いてもらいに、無筆の男が代書屋を訪ねる設定だから、江戸時代の長屋じゃない。いつ頃かというと、日中戦争期に上方落語の4代目桂米團治が作った新作だという。米團治は本当に代書屋をやってたという。そこに自分の名前も生年月日も答えられないトンチンカンが「歴史書」を書いてくれとやってくる。抱腹絶倒だが、人によって細部の工夫が違う。鹿児島出身の白酒は、依頼人の名前を西郷隆盛にしていた。誰にも負けぬ可笑しさの爆笑ネタに満足。

 一度引っ込んだ後で、すぐ出て来て今度は「松曳き」という噺。これは知らなかったので、検索して調べた。 お殿様とお付きの田中三太夫のバカ噺である。このコンビの噺は幾つもあって、「妾馬」(めかうま)のような名作がある。この「松曳き」は殿様が松が伸びすぎて月が見えにくいので移植したいと思うが、三太夫は先代お手植えだからと一端止める。「餅は餅屋」ということで、出入りの植木屋に尋ねるが、植木屋はバカ丁寧に何でも「奉る」をくっつけてしゃべるから、何が何だか判らない。そこら辺が聴きどころ。その時三太夫に早馬が届き…。誤解や早とちりが積み重なる噺。白酒の演じ分けが楽しい。

 その後中入り(休憩)をはさんで、今度は「山崎屋」。これも初めて聴いたので調べた。40分近い長講で、吉原に入りびたる若旦那を番頭が諫める。が、実は若旦那も番頭のスキャンダルを握っていて…。ということで、二人でなじみの花魁(おいらん)を身請けして、いろいろと画策して大店の嫁に迎えてしまおうと作戦を立てる。当時は吉原が江戸では「北国」(ほっこく)と呼ばれていたという。その知識がないと最後の展開が判らない。だから最初に解説するんだけど、廓噺の中でも「明烏」「二階ぞめき」「幾代餅」なんかと違ってあまり演じられないと思う。サゲだけでなく、全体の展開が判りにくい点がある。だけど、そういう噺を聴けるのも「独演会」ならでは。持ち時間が短い寄席ではやりにくい。

 桃月庵白酒(1868~)は、1992年に五街道雲助に入門して、2005年に真打昇進。師匠が昨年「人間国宝」に認定され、一門も盛り上がっている。実は昨日、都内で雲助一門会が開かれていた。まあ二日続けて聴かなくてもと思って行かなかったが。真打昇進時期が近く、今はともに落語協会理事を務める柳家三三古今亭菊之丞らと並び、今後の落語協会を引っ張っていく存在になるだろう。多くの人にも聴いて欲しい落語家だ。(忘れないように落語界はすべて記録しておくので書いた次第。)
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林家つる子の「芝浜」に感銘ーつる子・わん丈の真打昇進披露興行

2024年03月28日 21時29分54秒 | 落語(講談・浪曲)
 27日夜、落語協会真打昇進披露興行に行ってきた。今回は「抜てき」だから、是非見たい。それも女性落語家初の抜てきである林家つる子、三遊亭円丈の弟子だった(没後は三遊亭天どん門下に移籍)三遊亭わん丈の二人。どっちもすでに聴いていて、実力は十分。これは見なくてはいけない。特に今年になって林家つる子を2回聴いて、すっかりファンになった。つる子、わん丈は交互にトリを取っているが、つる子の日に行ったのはそのためである。上野の鈴本演芸場夜の部は、開場4時半の30分前にはすでに行列が出来ていた。(前売りを買ってある。)地元群馬・高崎からも多くのファンが詰めかけているようだった。

 昇進披露興行というのは、会長などの幹部、昇進する落語家の師匠などがズラッと並んで口上を述べるから、顔ぶれが豪華になる。皆面白かったが、それは最後にして、やはりトリの林家つる子から。感極まって毎日泣いているそうで、自分じゃなくわん丈の昇進披露でも楽屋で涙いっぱいだと「暴露」されていた。この日も高座冒頭は涙声だが、中央大学時代に落研に誘引した先輩たちが来ていたという。元々高崎女子高では演劇部で、落語には縁がなかった。僕はつる子の落語は「一人芝居」だなと思って聴いている。完成された古典を味わう「話芸」というより、多数の人物を全身で演じきる「芝居」なのである。

 演目は有名な「芝浜」だった。これは「芝浜」そのものが有名な噺だという意味だけではない。林家つる子ヴァージョンの「芝浜」が評判なのである。NHKでドキュメンタリー番組にもなったというが、自分で納得出来なかった部分を「女性の視点」で描き直したのである。「芝浜」はかつて桂三木助(3代目)が描写力を練り上げたことで有名で、そのエピソードは安藤鶴夫三木助歳時記』に美しく描かれている。だけど「つる子ヴァージョン」はほとんど自然描写がない。代わりに魚の行商をする勝五郎が長屋に来て「おみつ」と知り合うという馴れそめから始まる。男の落語家が名も付けずに呼んでいた妻に名が与えられた。
(林家つる子の「芝浜」)
 落語だけでなく、歌舞伎など昔の芸能には、現代の眼で見ると「不適切」な描写が数多く存在する。特にジェンダー的には感覚的に伝わりにくい設定がいっぱいある。歌舞伎は変えられないが、落語は自分なりに改作出来るのが特徴だ。そして「妻の視点」を取り入れることで、これほど豊かな感情を揺さぶる作品になるのである。僕は従来の噺も良いと思うけれど、つる子版の方が現代では自然な感動を呼ぶと思う。おみつは「魚の目」のような美しい目を持つ男に惚れたのである。

 昔マルセ太郎が「スクリーンのない映画館」という芸をやっていた。映画を舞台で語り下ろすのだが、『泥の河』を聴いた時、映画も原作も素晴らしいけれど、こういう感動もあるんだと思った経験がある。僕は林家つる子の「芝浜」を聴いて、実はマルセ太郎を思い出したのである。たった一人で語っているのに、傑作映画を見たような映像がくっきりと脳裏に浮かび上がるのである。女性落語家というだけでなく、現代の表現活動に大きな刺激を与える感動の傑作を聴いた。

 真打披露興行というのは、初めからお祝いで来ている客ばかりだ。口上後に三三七拍子で締めるのに協力するつもりでやって来る。だから最初からノリがよく、客席は笑いがあふれていた。色物の大神楽「鏡味仙志郞・仙成」や動物ものまねの江戸屋猫八、紙切りの林家二楽、そしてトリ直前(膝)の立花家橘之助もわん丈が太鼓で出て来て、志ん朝や小さんの出囃子をやって大受けしていた。元会長の鈴々舎馬風は最近は椅子に座ってやるのだが、「美空ひばりメドレー」を延々と歌い出したのには驚いた。口上でも存在感を発揮し、締めの音頭を取っていた。

 大受けしていたのが柳家三三たけのこ」で、この季節にはよく聴く噺だが非常に上手いなあと思った。口上でも司会を務めて、今まさに乗っている落語家である。「たけのこ」は武家時代に隣家の竹林から延びて筍が生えてきて、それを食べるため両家が掛け合うのが超絶的におかしいのである。ところで以前の抜てき昇進は、2012年の春風亭一之輔、そして古今亭文菊古今亭志ん陽以来だというが、この3人は今回交替で一人ずつ出ている。見た日は古今亭志ん陽で、ネタは初めての「猫と金魚」。これは「のらくろ」で知られた戦前の漫画家田河水抱が作った噺なんだとWikipediaに出てた。話が通じない番頭がメチャクチャおかしい。
(柳家三三)
 他の人はネタだけにするが、古今亭菊之丞たいこ腹」の幇間(たいこもち)もおかしい。柳亭市馬会長は「藪医者」、林家正蔵副会長(つる子師匠)は「一眼国」、わん丈師匠の三遊亭天どん釜泥」、新真打の三遊亭わん丈は「毛せん芝居」。披露興行はトリが目玉で、この日だけは師匠が目立ってはいけない。軽いネタで笑わせて、トリに向けて盛り上げる役である。そして、この豪華な顔ぶれは短いながらもきちっと笑わせてプロの手腕を味わった一日だった。 
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落語協会百年興行ー上野鈴本演芸場3月上席(昼の部)

2024年03月01日 21時50分24秒 | 落語(講談・浪曲)
 一般社団法人落語協会が百年を迎えたということで、3月1日から記念興行が始まった。会場の上野・鈴本演芸場にはマスコミもいっぱい集まり、超満員の観客が開場前から並んでいた。ということは全くなく、昼の部開場(12時半)のころは半分も埋まらず、トリの時間になっても3分の2も入ってない感じだった。ま、平日の昼間に行ける人なんて、一部高齢者に限られているんだろう。しかし、最近見た新宿末廣亭は夜や日曜だったから、ほぼいっぱいの観客が入っていて今日は寂しい感じを受けた。

 ところで落語協会は2月25日設立をうたっていて、実はこの前末廣亭で見た時はその当日に当たっていた。何人もの演者がマクラでそのことに触れていたが、僕はそれを書かなかった。関東大震災で寄席も大きな被害を受け、東京の落語界がまとまろうという機運が高まったのは間違いない。Wikipediaによれば、今までの様々な会が解散して1923年10月に「落語協会」を称したとある。その後、何度も分裂していて、正直何年が協会発足なのか僕にはよく判らない。法人化されたのはずっと遅く1977年のことだという。今の寄席には「落語協会」か「落語芸術協会」に所属していないと原則的には出られない。

 つまり落語協会を脱退した「三遊亭圓生一門」(現・五代目圓楽一門会)や「立川談志一門」(現・落語立川流)は寄席定席には出演出来ないが、近年は芸術協会の寄席に特別出演していることが多い。(また余一会には時々出ている。)特別に認められれば会員以外が出ることもあるが、普通はない。そういう「独占」的な特別な位置を占めているし、落語界の「名人」と呼ばれた人は落語協会所属だった人が多い。まあ、それはともかく、この機会にしか見られない特別興行が続くので見逃せない。

 今回は「百年目」という長い噺を二人の演者が前後に分けて演じるという趣向である。「百年目リレー」と称する試みは、面白いのかというと僕には判断出来なかった。やはり一つの噺は一人で演じきった方が良いのでは? それぞれ持ち味が違うので、どうも違和感もある。今日は前半が林家正蔵、後半が柳亭市馬。正蔵は副会長で百年記念企画実行委員長、市馬は会長で口上を述べていた。師弟で前後をやる時はまた別かも知れないが、何も二人に分ける意味があるかなと思った。しかし、それを言うなら「二度と無い試み」には間違いない。「百年目」という噺そのものは、多くの政治家や教師などに是非聞いて欲しい名作である。
(柳亭市馬会長)
 今日の色物は、日曜に見たばかりの「アサダ二世」(奇術)や「にゃん子・金魚」(漫才)なので、ちょっと飽きたかな。金魚ちゃんと言っても後期高齢者だそうだが、ゴリラの真似を始めるとバナナを差し入れする客が出て来るのも、今や定番になった。でも受けているから、良いのかな。紙切りの林家二楽は「百年目」というお題を見事に噺の中身に即して再現していた。
(にゃん子・金魚)
 人間国宝の五街道雲助は、狸が恩返しでサイコロに化ける「たぬさい(狸賽)」を軽く語った。トリが長いから、他の人は軽い噺が多い。今日だけ出ている古今亭菊之丞は、親子で断酒を誓うがという「親子酒」。酔った様子が絶品。新作派の林家彦いちは久しぶりだったが、高校生の息子がエッチな雑誌を持っているのを見つけたおしゃべりな母が…という「みんな知っている。」というネタで、面白かったけど無理があるかも。元会長鈴々舎馬風は椅子に座りながらの漫談。でも毎回同じ内容だから飽きてしまったかな。他に古今亭志ん陽柳家小平太など。上野は自分の家から近くて良いけど、一週間のうちに寄席2回、芝居1回は疲れた。今回の興行はチケットぴあで前売りしているが、完売でも前売り以上の当日券を販売する。
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柳亭こみちの「改作古典」他-新宿末廣亭2月下席(昼の部)

2024年02月25日 22時02分35秒 | 落語(講談・浪曲)
 寒い雨の日曜日に新宿まで落語を聴きに。新宿末廣亭2月下席(昼の部)は、女性落語家の柳亭こみちがトリである。1月31日の「落協レディーズ」では、昼に出ていたので聴いてなかった。その日に割り引きチラシを配ってたので、行こうかなと思っていた。他にも柳家権太楼桃月庵白酒古今亭文菊など、僕の好きな落語家も勢揃い。この前聞いた川柳つくし、真打昇進間近の林家つる子(三遊亭わん丈と日替わり)など実に魅力的な顔ぶれが揃っていた。

 よく寄席の記事を書くが大体は出番通りに書くことが多い。そうすると、トリの噺家にたどり着くまで長くなり、書く方も読む方も印象が薄くなる。そこで今回は柳亭こみちから書きたい。この人は何回か聞いてるが、最近非常に面白くて注目している。もしかして女性落語家で一番面白いんじゃないだろうか。協会が違う芸協所属の、それも漫才師の宮田昇(「宮田陽・昇」として出ている)と結婚していて、10歳と8歳の男児の母でもある。古典落語を「改作」して、主人公を女性に置き換えて語る「改作古典」をたくさん作っていることで知られている。
(柳亭こみち)
 今日は「リクエスト」で演目を決めると言って3つの中から拍手を求めたが、どれも同じぐらい。困っていたけれど、結局「寝床~おかみさん編」をやった。「寝床」は、大家の旦那が義太夫好きで長屋の店子を集めて義太夫を語る会を開くという。美味しいものも出るというのに、凄まじいまでの下手さが知れ渡って皆が行き渋るという噺。その旦那を大店のおかみさんに変えて、設定は同じ。店子にとって大家は親も同然というけど、やはり他人である。一方、おかみさんとなると夫婦であるから店の旦那の悩みはさらに大きい。こういう「下手の横好き」の話は世界にもあるが、なかなか壮絶でとてもおかしかった。
(柳亭燕路)
 こみちの師匠は柳亭燕路(りゅうてい・えんじ)で、今回は入ってないはずが林家正蔵の代演で聞くことが出来た。多分初めてなのだが、なかなか上手くておかしかった。「やかんなめ」という噺で、初めて聴くが変な落語もあったもんだ。昔はよく女性の病気に「」(しゃく)というのがあった。いろんな痛みの総称で、腹痛や生理痛を指していたことも多いだろう。「癪にさわる」の語源である。ある奥方が道ばたで癪が起きる。実は「薬罐」(やかん)をなめると治るという特徴があるというんだけど、道中に薬罐など持参していない。そこに頭がハゲている武士が通りかかり、薬罐にソックリじゃないかと思いつき…。そんなバカな!

 川柳つくしは婚活をめぐる新作。婚活にあたって自分の魅力が低いことを知っている女性が、相手の男性にも何でも「低い」ことを求めたが…。林家つる子は今日は古典で、こっちも「やかん」の噺。知ったかぶりの隠居の「先生」が訪ねてきた八五郎を「愚者」「愚者」と呼ぶ。判らないから誉められているのかと思うが、実はそうじゃない。それではクジラの語源を知ってるかと聞くのだが、先生はヘリクツで答える。続いて「やかん」は何故やかんというのかと質問する。先生はなんと川中島の戦いを朗々と語り出し、ついに…。この講談調になるところが熱演で、やはりこの人は魅力である。
(林家つる子)
 柳家権太楼はトンデモ床屋に入ってしまった男の「悲劇」をおかしく語る「無精床」。古今亭文菊は、風に強い日に本妻と妾の間をウロウロする「権助提灯」。ヤキモチと女の意地がエスカレートして、旦那は居所を失うという噺だが、文菊はいつものようにうまい。橘家文蔵は「時そば」で、誰でも知ってる噺だがそばを食べるところの所作なんか実に魅力的。古今亭志ん輔の「夕立勘五郎」というド下手な浪曲師赤沢熊造を語る噺も面白かった。桃月庵白酒はこの間の余一会で聴いたばかりの「ざるや」をさらっと演じた。この人は「軽み」が見事で、いつも楽しみ。

 今日は子連れで来てた人も何組かあって、漫才や曲芸が受けてた。小学生じゃ落語はなかなか厳しいだろうから、色物は貴重だなと思う。まだプログラムに亡くなった林家正楽が掲載されていて、寂しい限り。今週はもう一回、落語協会100周年で寄席に行くから、最近映画や散歩より落語に気持ちが向いてるかも。
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落語協会100年、雑誌『東京人』3月号「どっぷり落語!」は永久保存版

2024年02月14日 22時15分40秒 | 落語(講談・浪曲)
 今年は落語協会が創立100年になるんだという。3月1日の上野鈴本演芸場を皮切りに特別興行が予定されている。その詳細は「落語協会100年事業」で見ることが出来る。最初は大ネタの「百年目」を前半、後半に分けて二人の噺家が演じるという企画で、すでにチケットぴあでは売り切れている日もある。僕も「人間国宝」五街道雲助と弟子の桃月庵白酒の師弟リレーを狙っていたら、発売直後に売り切れていた。(代わりに初っ端の柳亭市馬林家正蔵の会長、副会長コンビの日を買った。)

 ところで、その落語協会100年を記念して雑誌『東京人』の3月号は「どっぷり落語!」と題した特集で、永久保存版と言いたい充実ぶり。とにかく面白い対談、座談会がいっぱいのうえ、資料的にも落語協会の全真打を流派ごとにまとめたり、「サンキュータツオが選ぶ夢の名人ラインナップ」など貴重なものが多い。落語が好きな人、寄席に行ってる人はもちろんのこと、落語をほとんど知らない人でも入門編として楽しめると思う。税込1051円もするので、僕も最初はためらったんだけど、本当に面白かった。

 まず一番最初が昨秋に「人間国宝」(重要無形文化財保持者)に認定された五街道雲助師匠のインタビュー。「了見だけはアウトローで。」とその意気や良し。そもそも人間国宝は芸能と工芸で認定されるが、芸能関係は歌舞伎や能楽、邦楽関係者に偏っている。落語で認定されたのは上方の桂米朝に、東京の柳家小さん柳家小三治、そして今回の五街道雲助とたった4人しかいない。「昭和の大名人」と今も語り継がれる桂文楽古今亭志ん生などは全く無視されていたのである。今回も柳家小三治死去を受けた認定だと思うが、何も落語界から一人じゃなくて良いはず。(それに舞踊やミュージカルなども認定して良いと思う))
(五街道雲助)
 その次が柳亭市馬(落語協会会長)と春風亭昇太(落語芸術協会会長)という二度と読めない「会長対談」である。「切磋琢磨の良きライバル」とうたっている。歴代の落語協会会長を見ると、年齢も高い大御所がズラリと並んでいる。文楽(8代目)、志ん生(5代目)、三遊亭圓生(6代目)、柳家小さん(5代目)と名人が並び、その後も三遊亭圓歌(3代目)、鈴々舎馬風(5代目)、柳屋小三治(10代目)と続く。市馬は2014年に52歳という歴代最年少で会長に就任した。芸協の昇太会長も2019年に60歳での就任で、前任の桂歌丸より大きく若返った。僕は二人の落語の大ファンだったから、早すぎる会長就任が残念だった。一番充実する時期を会務で取られてしまうのかと寂しかったのである。二人とも「プレイングマネージャー」(野球で「選手兼任監督」のこと)だから正直大変と言っている。全くその通りと同情するが、危機の時代に寄席を守るには若い会長を必要としたと思った。

 一番面白いのは、「楽屋裏の師匠たち。」である。表紙にもなっている林家正蔵柳家喬太郎林家彦いち三人の座談会で、「圓生、小さん、談志、志ん朝、小三治…」と副題があるように、昔の師匠を中心に裏話を語り合う。昔の師匠は本当に怖かった。そして「寄席」という場所の懐の深さも印象的だった。面白エピソード満載だが、これらの噺家が入門したのは圓生一門、談志一門の脱退を見た時代である。正蔵は立川志の輔を「うちの見習い」と紹介されていた。また、すべての対談で古今亭志ん朝が2001年に63歳で亡くなった不在の重さが語られる。存命ならば85歳、間違いなく会長、人間国宝になっていた。

 長くなってるが、まだまだある。「これからの百年、落語はどうなるの?!」という大テーマを語り合うのは、柳家三三古今亭菊之丞春風亭一之輔。「笑点」に出てる一之輔しか知らないなんて人は、是非とも他の人を今のうちから聞いておいてください。そして「マジに挑戦し続けますよ!」と題して蝶花楼桃花林家つる子の対談。これこそ読まずにいられぬ女性落語家から見た落語界である。こんな充実した対談、座談会が幾つもあるんだから、絶対に買って損はない。
(桃花とつる子)
 その間に落語協会百年を支えた噺家たち、落語ファンで知られる南沢奈央東出昌大の寄稿、「色物」と呼ばれる大神楽、物まね、奇術、粋曲、曲技、紙切りなども紹介される。紙切りは急逝した林家正楽師が紹介されていて感慨深い。お囃子や寄席文字など、もう書き切れないほどの情報が一杯詰まっている。初めて寄席に行ったら最初は戸惑うこともあると思うけど、やっぱり寄席を次の時代にも残していきたいなと僕も思う。落語協会ばかりじゃなく、いろいろ見たいんだけど、今年は落語協会のイベントが集中している。見る方も大変だ。
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「落協レディース只今参上!」夜の部、落語はこんなに面白い

2024年02月01日 21時58分40秒 | 落語(講談・浪曲)
 1月31日夜に、新宿末廣亭の「余一会」に行った。寄席の定席は10日で番組が替わるから、大の月だと31日が余る。その日に実施するスペシャル企画が「余一会」で、ここ数年(正確には7年)1月31日は落語協会所属の女性芸人が「落協レディース」と題して女性だけの公演をしてきた。今まで日が合わなくて行ったことがなかったけど、一度行きたいなと思っていた。

 11月に短期だけど入院して、しばらく寄席や芝居は控えていた。映画に比べて拘束時間が長いから、体力的に心配なのである。まあ時間も経って、(まだ血圧も高いんだけど)そろそろ大丈夫かなと思う。ホントは昼の部の方が安心だけど、聞いてる落語家が多いので頑張って夜に行くことにした。一度も聞いてない川柳つくしは、川柳川柳の唯一の弟子だった人である。また林家つる子は3月下旬に(三遊亭わん丈とともに)抜てきで真打に昇進することが決まってる。一度も聞いてないけど、一体どんな人? 

 今回は皆が伸び伸びやっていて、ものすごく面白かった。中でも新作落語が多かったのが印象的だった。一人当たりの持ち時間も長くて存分に出来る。特に林家つる子の女子高生の噺がムチャクチャおかしくて大笑い。「ベタな展開の噺」をやりたいと作ったらしい。寝坊した女子高生がトーストを口にくわえてバス停に急ぐと、思わず誰かにぶつかってしまう。それが「不良」ですごまれるが、そこを助けてくれた「とある男子」。やっと学校へ行くと、今日から転校生が来ると言われ、それが先ほど助けてくれた男子で隣の席になる…という冒頭からアレヨアレヨの展開に呆れながら、ベタな展開に大笑い。
(林家つる子)
 今日は新宿に来る前に、池袋演芸場の余一会に出て来たという。それが「抜かれた俺たち」だと笑わせる。家で調べたら、昼はつる子、夜はわん丈がトリを務めて、その前に抜てき真打に抜かれた面々が一席行うという趣向。そっちも見てみたかった。さっきの噺は延々とありそうな展開が続くが、ところどころで予想を上回る展開が…。特に交通事故にあって病院で目覚めた後の「あなたは誰ですか?」には笑った。蝶花楼桃花に続いて林家つる子が真打に昇進して間違いなく女性落語家ブームが来るぞ。注目。
(川柳つくし)
 新作をやった人を先に書くと、トリで出て来た川柳つくし。これがまた川柳川柳の弟子になっただけのことはある変な噺でビックリ。末廣亭に来てみたら、席亭がいないじゃないか。何でも末廣亭が買収されたとか。それも何とイーロン・マスクが買ったという設定で、イーロン・マスクが落語をしちゃう。「寿限無」では「解雇、解雇、解雇のシューリンガン」と笑わせる。一体どんなオチになるんだと思うと、これがSF系になったので驚いた。一番最後に三味線の立花家あまねと一緒に「つくね」と名乗り、歌を披露した。つくしはウナギの歌なんか披露して笑った。クリスマスや正月と違って、「土用の丑の日」は歌がないから作ったとか。
 
 いつもは立花家橘之助と組んでやってる弟子のあまねも、今日は一人でやってた。最後はギターまで披露して「ルージュの伝言」を歌った。どんどん寄席になじんでる。ラストのラストで全員が登壇して、あまねの弾く「おてもやん」に合わせて一人ずつ歌ったのが珍しかった。あまねがやってると、まだ初々しいから場が和むんだよね。
(立花家あまね)
 二つ目の林家きよ彦は北海道で社会福祉士で働いた後で、28歳になって林家彦いちに入門したという変わり種。名前が男性風だが、女性の噺家。田嶋陽子だと言ってたけど、確かに似てるな。新作中心らしく、今回も未だに「平成」を使ってるというへき地の孤島に政府の視察が来ることになり、いよいよ「令和」にするしかない。ということで村人が集まって、「令和」の勉強会を開催する。消費税を10%にするんだとか、「大変です。令和には新選組がいることがわかりました」とか、未だに女子高生がルーズソックス履いてた島が大揺れするという超バカバカしい噺。面白かったので注目だ。
(林家きよ彦)
 最初に二つ目の中でも若い金原亭杏寿古今亭雛菊が出て来た。杏寿は2023年2月に二つ目になったばかり。沖縄出身でタレント活動をした後で、金原亭世之介に入門した。夜の部は「縁起がいい噺」特集で、「ざるや」という「上げる」という言葉を使うと縁起が良いと祝儀をくれるという噺。雛菊は古今亭菊之丞の弟子で、2022年に二つ目昇進。吉原をひやかして歩くことが大好きな若旦那。心配した番頭が自宅の二階に吉原を再現する「ひやかし」。二人とも「先物買い」のファンが付いてるようです。
(金原亭杏寿)(古今亭雛菊)
 今女性の前座がいないということで、前座がやる座布団返しなどを大御所がやってたのもおかしかった。全員細かく書いても長くなるので、後は簡単に。林家あんこは落語家林家時蔵の娘で、女性初の二世落語家。林家しん平に弟子入りしたという人である。噺は尾頭付きを買ってきてと妻に言われて、鮑を買ってきてしまう男。それをもって大家を訪ねるがという「鮑のし」。他にも蝶花楼桃花はへまな空き巣の噺。大御所三遊亭歌る多が締めて、あまね、つくしで終わる。まあ二人は写真を抜くことにします。
(林家あんこ) 
 久しぶりということもあったか、とても楽しかった。終わったら全員が出て来て能登半島地震の義援金を募る。そのアナウンスでも「芸人さん本人と服装には触らないようにおねがいします」とある。これだけで受けてたから、笑う気満々の観客なのである。何でもよく受けていた。でも残念なのは、こんなに面白くて若い女性が頑張っているにの、客席は高齢男性がほとんど。まあ平日夜では働いている人には辛いけど、やはり情報が届いてないこともあるんじゃないか。3月下旬から始まる林家つる子の真打昇進披露公演には是非多くの若い人も足を運んでください。
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志ん生没後50年追善興行で、五街道雲助を聴く

2023年09月15日 21時41分11秒 | 落語(講談・浪曲)
 新宿末廣亭9月中席は昼夜通じて「古今亭志ん生没後五十年追善興行」をやっている(20日まで)。合わせて志ん生長男の10代目金原亭馬生没後40年、次男古今亭志ん朝23回忌2代目古今亭円菊13回忌を追善すると同時に、一門の五街道雲助人間国宝認定記念まで加わった。これは行ってみたいなと思って、14日に久しぶりに末廣亭に行った。夏に行きたい寄席はいっぱいあったのだが、喪に服していたわけでもないけど、忙しいからしばらく控えていた。
 
 朝日新聞の記事によると、この「大法事年」に気付いたのは、古今亭菊之丞で、11代目金原亭馬生と相談して企画したという。その菊之丞が二つ目2人に続き、早くも3人目に出て来る。幇間(ほうかん=太鼓持ち)が主人公の「法事の茶」という噺。不思議な茶を手に入れた幇間が客の前で茶をよく焙じると、アラ不思議、念じた人物が出て来る。歌舞伎役者の中村歌右衛門に続いて古今亭志ん生が出てくる。要するに物真似だが、さらに先代林家正蔵や立川談志などが出て来る。一端そでに引っ込んで、それらしき雰囲気で出直してくる。客席は大受けだった。よく焙じないとダメなお茶である。
(古今亭菊之丞)
 前座は別にして、一番最初が金原亭杏寿、続いて桃月庵黒酒と二つ目。次が菊之丞で、それから金原亭駒三(「替わり目」=酔っ払いと車引きの噺)、桂やまとに代わって古今亭菊千代(「たぬき」)、漫才の笑組をはさんで、古今亭志ん雀2代目金原亭馬の助(「九年母」)と、古今亭一門には色物が少ない。中入り前の3代目古今亭円菊の頃には疲れていてウトウト。泥棒の噺だったと思うけど。この一門は本格派で古典が多いんだなと判った。

 「お中入り」を経て、その後は座談会である。ここだけ最後に写真撮影が可となった。毎日ゲストが出て来るらしいが、この日はゲストなし。下の写真で左から、古今亭菊春(司会)、五街道雲助、金原亭馬の助、古今亭円菊の4人。志ん生は何しろ没後半世紀経ってるので、知ってる人が少ない。五街道雲助は1968年に金原亭馬生に入門したから大師匠の晩年を少しは知ってるはずだが、あまり語らなかった。金原亭馬の助は1965年に初代馬の助入門なので、一番古い。志ん生晩年には上野鈴本で幕引きをした話などおかしかった。志ん朝は打ち上げ途中で、皆が麻雀していると二階へ上がって稽古していたという。16日夜には池波志乃(先代馬生の娘)、中尾彬夫妻も出るという。
(座談会の様子、左から二人目が五街道雲助)
 全員書いても仕方ないが、古今亭菊春(「お花半七」「宮戸川」前半=親から締め出しをくった男女)、古今亭菊太楼(「まんじゅうこわい」)、合間に奇術の松旭斎美登・美智、漫談のぺぺ桜井が出て、いよいよトリの五街道雲助である。今日は若手も多かったが、トリとなると、いやさすがに「人間国宝」(重要無形文化財保持者)、「レベチ」だなと思った。演目は「抜け雀」という貧乏絵師が貧乏宿屋に泊まって、宿代代わりに雀の絵を描くと、その雀が朝に絵から抜け出て餌を取り、また絵に戻るという不思議…。口跡がはっきりしてて、聴いていて耳に快い。何度も聴いてる雲助だが、改めて名人だなと思った。
(五街道雲助)
 僕の若い頃から、何度か落語や漫才のブームがあった。その中で落語の「昭和の大名人」と言えば、桂文楽(8代目)、古今亭志ん生(5代目)が挙げられる。文楽は1971年、志ん生は1973年に亡くなったから、もちろん僕はナマで聴いたことはない。でも、そういう名人が亡くなって大ニュースになったのは覚えている。その後、志ん生長男の10代目金原亭馬生(1928~1982)、次男の3代目古今亭志ん朝(1938~2001)が思わず早く亡くなって、古今亭一門が地盤沈下したのは否定出来ない。特に志ん朝は存命ならば志ん生を襲名した上で、人間国宝に加えて東京落語界初の文化勲章も夢じゃなかっただろう。
(古今亭志ん生)(古今亭志ん朝)
 僕もよく知らないので、主にウィキペディアで調べてみる。古今亭一門では弟子が「古今亭」を名乗っていない人も多い。代表が長男の金原亭馬生だが、その弟子に五街道雲助(6代目)、むかし家今松(7代目)、吉原朝馬(4代目)などがいて、落語に詳しくないと一門とは判らない。その雲助の弟子が、桃月庵白酒(3代目)、隅田川馬石(4代目)、蜃気楼龍玉(しんきろう・りゅうぎょく、3代目)で、今後の東京落語界を担う人材が育っている。亭号が違うから師弟関係が判りにくいが。
(志ん生と馬生)
 もう一人、馬生、志ん朝らの弟弟子にあたる2代目古今亭圓菊(1928~2012)の系譜で、本人が長生きしたこともあって弟子も多い。その中には、息子の3代目古今亭圓菊や女性真打第1号の古今亭菊千代などがいる。その下に古今亭菊之丞がいて、一番下の弟子が古今亭文菊。この二人は古今亭一門の中心になっていくだろう。志ん生といえば、貧乏と大酒が伝説になっている。そのDNAを受け継ぐのか、馬生、志ん朝だけでなく、病気で早く死んだ人が多い。そのため、どうも東京の落語家と言えば、柳家とか林家、あるいは三遊亭春風亭といった名前がすぐ浮かぶ人が多いのではないか。志ん生を受け継ぐ一門もいるぞという追善興行である。
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三遊亭天どんオール新作大進撃ー上野鈴本5月中席夜を聴く

2023年05月17日 22時58分17秒 | 落語(講談・浪曲)
 上野鈴本演芸場で「三遊亭天どんオール新作大進撃」というのを聴いてきた。三遊亭天どんは円丈門下で、古典もやるけど新作をいっぱい作ってきた。10年前に真打に昇進して、時々は聴いてきたけど久しぶり。師匠の円丈没後はなかなか聴く機会がなかった。夜の部だけど、上野なら近いからいいやと思って行くことにした。しかし、場内はかなり空いてた。3分の1は埋まってなかった。
(三遊亭天どん)
 他の日に比べても少ないと言ってたが、天どん師匠推測するにその最大の理由は「天寿々」が定休日だったことらしい。天寿々は鈴本近くの天ぷら屋で、普段2200円の「天どん弁当」をこの期間は1800円で演芸場まで届けるという。天寿々店主は高校時代の同級生で、時々利用したこともある。美味しいですよ。まあ、僕は他にも聴きたい人がいるので今日にしたけど。

 「新作大進撃」ということで、演目が下記ラインナップのように発表されているけど、新作だからどの話が面白いのかは判らない。今日は「おわびの品」という噺で、つけ麺店の客と店主のやり取りがおかしい。後から注文した人の料理が先に出て来て、ちょっと首をかしげたら、店主が今何か不満を持ったでしょ、それをネットに書き込むんでしょ、クレーマーの方ですかなどと絡んでくる。あっちは大盛だったのでと店主は弁明して、では「おわび」にあなたも大盛にするという。いや、ここの大盛は若い学生でもないと食べきれない量だからと遠慮すると、今度は大盛を頼んでいた女性客が自分は若い学生に見えないだろう、私は傷つけられたと言い出す。店主は何かというと、あ、やっぱり書くんだと絡んでくるのがおかしい。このネタは面白かった。
(新作ラインナップ)
 そのちょっと前に三遊亭わん丈。来春に(林家つる子とともに)一之輔以来の抜てき真打になることが発表されたので、一度聴いておきたかった。今日は古典の「お見立て」という噺で、吉原の太夫が嫌いな客を断りたくて若い衆に何とかしろという。ついには死んだことにするところまで行くが、田舎者のお大尽は墓参りに行くと言い出して…。よくやる噺で、何回か別の人で聴いてるがエネルギッシュに疾走するスピードは確かに面白い。今後楽しみな若手に違いない。
(三遊亭わん丈)
 名前を知ってるけど初めて聴いたのが古今亭駒治。鉄道ファンで知られ、鉄道が出て来る新作をいっぱい作ってる。今日は山手線の車両が地方の鉄道で再利用されることになり、「最新鋭車両」と宣伝する。鉄道ファンの子どもが学校でチラシを見せると、最近東京から来た転校生がこれは山手線車両だよと言って、言い合いになる。この転校生は鶯谷に住んでたのを、どうせ知らないと思って東京の高級住宅地と言っている。芸能人に会ったことあるかと聞かれて、林家三平と答えるなどのクスグリを入れながら、軽快に進行して飽きさせない。 

 久しぶりに聴いた古今亭文菊は「猫の皿」という噺で、何度も聴いてるけどおかしい。この人が聴きたくて今日にした。最近めきめき上手くなってると思う柳亭こみちは「姫君羊羹」という講談から落語にした噺。まあ、それは今検索して知ったんだけど、大した噺じゃないのにすごく面白かった。羊羹をどう分けるかで姉妹が相争うので、父は姉が切って妹が選ぶという解決案を決めたが、それでもいさかいが続いて…。声の演じ分けも面白く、題材も興味深い。注目だと思う。
(いなせ家半七)
 ところで、2月と4月に聴いたばかりのいなせ家半七の訃報が伝えられた。2月に浅草で初めて聴いたのだが、それが春風亭柳朝の追善興行だった。半七は柳朝の弟子だったが、真打になる前に亡くなったので、小朝門下に移っていた。4月の鈴本が最後になったが、それは聴きに行っていた。何を聴いたかと思って、自分のブログを検索してみたら「ウトウトした」と書いてあって残念。ただその時から声が少し小さかった気がする。何だかいい感じの落語家だっただけに残念だ。僕より若いのである。
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上野鈴本演芸場4月中席ー小朝、小満ん、文蔵を聴く

2023年04月18日 22時31分15秒 | 落語(講談・浪曲)
 三軒茶屋や下北沢は遠いからお芝居を見なくなり、代わりに30分で行ける浅草上野の寄席に行きたいと思うようになってきた。最近落語協会ばかり行ってるから、国立演芸場で落語芸術協会の小遊三を聴こうかとも思った。だけど、久しぶりに上野の鈴本演芸場に行くことにした。トリは春風亭小朝だが、小朝のブログに時々早く行って仲入り前の「柳家小満ん」を聴いてると書いてあって、何だか聴きたくなってきたのである。コロナ後に鈴本へ行くのは初めて。12時半開始で、16時には終わってしまう。

 浅草演芸ホールでは前座が11時40分頃から始まり、トリが終わるのは16時40分頃になる。鈴本はずいぶん短くしたのである。楽とは言える(椅子も浅草より大分楽)。でも一人の持ち時間が少なくなって、色物などすごく短い。漫才のロケット団や音楽ののだゆきなど、お気に入りでいつも満足してる人が今日は短くて満足出来なかった。最近大活躍の蝶花楼桃花も「味噌豆」をさっさと話して終わってしまった。何事も善し悪しだなあと思う。

 寄席ではどうしてもところどころで寝てしまうが、今日は割と好みのいなせ家半七でウトウトしたのは不覚だった。お目当ての柳家小満んは、最初は昭和の大名人桂文楽に入門したが亡くなったため、柳家小さん門下に移籍して1975年に真打昇進。1942年生まれだから、もう81歳という大ベテランである。小朝によれば「百人に一人がわかればいいという師匠ならではのクスグリと、千人に一人が感じとってくれたらいいというワードセンス」だそうである。今日は「夢の酒」という演目で、若旦那と大旦那が同じ夢の中に入る不思議な噺。淡々と演じながらも、不思議な味わいがあった。
(柳家小満ん)
 最近よく聴くことが多い柳家さん喬だが、今日は「そば清」という不思議な噺。蕎麦の大食いで賭けをする男の不思議な結末をさらっと演じて終わってしまう。春風亭一之輔は休演で、代演は橘家文蔵だった。この人はなかなかいかつい体格をしているが、滑稽な泥棒を演じる「置泥」。泥棒に入った家に逆にお金を置いてきてしまう。今日一番聴き応えがあったかも。
(橘家文蔵)
 定席にはトリの落語家の弟子たちがいっぱい出て来る。師匠の柳朝死後に移籍した人(春風亭勢朝、いなせ家半七)を除き、小朝の一番弟子は橘家圓太郎という人で、小朝より6歳下の60歳である。Wikipediaには、東京マラソンを完走してそのまま鈴本演芸場に直行したことがあると出ていた。演目は「桃太郎」で、子どもを寝つけようと父親が桃太郎を話すと、理屈っぽい子どもが反論する。これも面白く聞けた。二番弟子の五明楼玉の輔は、ライオンの皮を被って見世物になる「動物園」。これは何度も聴いてると面白さが減る噺だなあ。
(橘家圓太郎)
 トリの春風亭小朝は「忠臣蔵」で、誰でも知ってる噺をうんちくを交えながら語る。と、吉良上野介が案外悪者じゃなく思えてくるという趣向。吉良は麻生太郎だとかくすぐりを入れながら語っていく。まあ、面白いけど、知ってるわけだしなあ。寄席へ行ったら一応記録と備忘のために書いておく次第。そろそろ寄席よりホール落語へ行くべきだなあ。先月の「桃組」が面白すぎたので、今日はそこまでの満足がなかった。でも、まあ出来るだけ月に一回は落語へ行きたい。
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「桃組公演」と権太楼ー浅草演芸ホール3月上席を通しで聞く

2023年03月07日 22時22分17秒 | 落語(講談・浪曲)
 浅草演芸ホール3月上席を通しで聞いてきた。昼夜の「入れ替えなし」という昔の名画座みたいな仕組みだから、その気になれば延々といられるのである。もっとも「入れ替えなし」と言われても、普通は疲れるからしない。今回は夜に「桃組公演」と名付けて、東京の定席寄席で初めて「女性のみ出演」というチャレンジをしている。今まで一回(余一会)だけとか寄席以外ではあったけど、10日間全部というのは初である。ということで、夜を見たかったんだけど、実は昼席のメンバーが豪華すぎて、どうせなら全部見ようかと思ったのである。そして、何とかそれほど疲れずずっと聞いてられたから、自分でも驚いた。
(桃組公演)
 全部見ると、11時40分頃から20時40分頃までになる。さすがに長すぎてイヤなんだけど、13時前後に春風亭一之輔桃月庵白酒が出るので、これは頑張るしかないなあと思った。二つ目昇進の柳家小もん古今亭菊正にはさまれ、柳家わさび。少し後に一之輔が出て、子どもが父親に小遣いをせびる「真田小僧」。母が男を家に迎えるのを、ところどころで切りながら、お小遣いを貰わないと先は話さないという。何度も聞いてるけど、一之輔に合ってる噺。白酒は「粗忽長屋」。行き倒れを見た八五郎がこれは隣の熊だと言って、今朝会ったから確かだ、今から本人を連れてくるという。これは名作でいろんな人がやってるが、白酒はとぼけていて上手いのである。もうここまでで満足。
(桃月庵白酒)
 こうやって全部書いてると長くなるから、後は簡単に。漫才のロケット団は相変わらず快調。その後に早くも柳家さん喬師匠で、夢の内容を言えと迫られる「天狗裁き」。新作の柳家小ゑんは仏像巡り女子の噺でおかしい。林家木久蔵は「勘定板」。春風亭正朝は小僧に浮気夫の後を付けさせる「悋気の独楽」。鈴々舎馬風の昔語りをはさんで、仲入り後に柳家燕弥が泥棒噺の「出来心」。柳家三三が「長屋の花見」で春も近い。こんなに演目を覚えてるはずはなく、今回はいつもはしないメモを取っていた。ここらで疲れて名人五街道雲助はウトウトしてしまった。
(柳家権太楼)
 そして昼席トリの柳家権太楼。何回も聞いているお気に入りだが、久しぶり。去年紀伊國屋寄席で聞くつもりが、病気休演(さん喬が代演)だった。その後もコロナになったり、なかなか復帰できず去年暮れも病気で出られなかった。ようやく復帰しているが、体調はしっかり戻ってるらしき熱演だった。でも高齢(76歳)だから、熱演爆笑落語がいつまで聞けるか。逃さず聞いておきたい。今回は何度も聞いてる「代書屋」。履歴書を代書屋に書いてもらう噺だが、今回はトリなのでいつもより長く「賞罰」を書くまでやって場内大笑いだった。展開を知ってても笑える熱演の名作。

 少し休憩を取って、今度は夜席が始まる。夜は二つ目が二人出た後の5時に「お楽しみ 余興」とプログラムにある。これが何と漫才の「すず風にゃん子・金魚」のトリビュート漫才だったのでビックリ。落語協会の寄席によく出ている二人組の漫才コンビである。にゃん子がツッコミで、金魚はボケてゴリラの真似をするお約束である。年齢不詳、同じネタながら、ゴリラの物真似はいつも受けてる。今回は春風亭律歌が「にゃん子」、蝶花楼桃花が「金魚」そっくりの扮装で出て来て、そっくり漫才をやる。そう桃花がゴリラのマネをするのである。これはある意味、「女性芸人」の本質を自己批評するとも言える大胆な「余興」で、桃花は偉いなあと感心した。なかなか出来るもんじゃない。体力的にも大変だし、男社会の中で生きる覚悟を示して大受けしていた。
(にゃん子、金魚)
 蝶花楼桃花はトリにも出て来て、昔任侠映画の藤純子にハマった話がマクラ。今回桃の節句にちなんで「桃組」と名付けたが、トリを取る自分が「組長」に成りたかったという。そこから、多くの落語家が演じている三遊亭白鳥作「任侠流山動物園」の桃花ヴァージョン。ピンチに陥った流山動物園の動物たちの話で、僕は初めて聞いた。こんな変な噺があるんだと思ったけど、メス象に緋牡丹のアザがあって、桃花が緋牡丹博徒を歌い出す。元の映画「緋牡丹博徒」シリーズを知らないと乗れないかもしれないが、観客の大方は高齢だから知ってる人が多いだろう。実におかしかったし、桃花が顔だけで売れてるわけじゃないことが判る。

 落語界で女性が初めて真打に昇進したのは、1993年3月の三遊亭歌る多古今亭菊千代だった。それぞれ、三遊亭律歌古今亭駒子という弟子を真打に育てた。今回は師弟そろって出演しているが、菊千代は「ふぐ鍋」、歌る多は「喧嘩長屋」かな。安定してやはり上手。柳亭こみちは「」(たけのこ)という隣家の竹がこちらに生えてきた武家の噺。この人は何回か聞いてるけど、すごく上手いと思う。また弁財亭和泉は初めて聞いたけど、非常に面白かった。(演目は失念。)

 今回は落語以外の色物もすべて女性芸人。講談の神田茜宝井琴鶴、曲芸の翁屋小花、音楽パフォーマンスののだゆき、本家のにゃん子・金魚、浮世節の立花家橘之助。橘之助は最近弟子のあまねを連れて舞台に上がっていて、客にも大受けになっている。二つ目の落語家は書かないが、真打は他にもいて交替出演している。通常の興行にも女性落語家は出ているわけだが、男性の大物にはさまれると印象が薄くなる。今回のような公演には、今の段階では価値があるように思った。それを実現出来たのは、トリを桃花が務めるというのが、マスコミ的にも話題になるからだ。平日夜にもかかわらず、9割方埋まっていたから興行的にも大成功だろう。まあ、かなり疲れたけど、大満足の一日だったなあ。
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五代目春風亭柳朝三十三回忌追善興行

2023年02月17日 23時22分51秒 | 落語(講談・浪曲)
 浅草演芸ホールで行われている「五代目春風亭柳朝三十三回忌追善興行」も20日まで。1月下席の4代目桂三木助追善興行は、まだ落語に行ける心境じゃなくて見送った。今回は連日立ち見という評判だし、もうそろそろいいかなと思って、行くことにした。寒いから、つくばエクスプレスで演芸ホールの真下まで行くことにした。地上に出たら、ズラッと行列が…。アレと思ったら、東洋館のものだった。そこは昔のフランス座で、今は漫才専門館。今日はナイツやU字工事も出る。大行列のわけである。

 ところで「五代目春風亭柳朝」(1929~1991)って誰だっけ。60年代に「若手四天王」と言われた一人だということは知っている。他の三人は古今亭志ん朝立川談志5代目三遊亭円楽なんだから、それに並ぶ人気者だったのである。テレビにも出ていたというから、当時よく落語番組を見てた僕が知らないはずがない。でも、覚えていない。若い頃は寄席や落語会には行かなかった。だから、1980年に弟子の春風亭小朝が「36人抜き」で真打に昇進したニュースは覚えているのに、師匠の名を忘れていた。
(五代目春風亭柳朝)
 五代目柳朝の師匠は、8代目林家正蔵(後の林家彦六)である。(この人の戦中日記を読んだ感想は「『八代目正蔵戦中日記』を読むー戦時下の寄席と東京」に書いた。)7代目林家正蔵は、先代林家三平の父だった。一代限りということで蝶花楼馬楽が借りて、1950年に8代目正蔵を継いだ。現在の9代目正蔵は、林家三平の息子だから名跡は戻ったわけである。という経緯があって、8代目正蔵は一番弟子に「林家」ではなく、春風亭という亭号を付けさせた。その頃の「春風亭」には落語芸術協会(前名=日本芸術協会)を立ち上げて44年間会長を務めた春風亭柳橋がいたので、正蔵は柳橋に断りを入れたという。

 柳朝の一番弟子は春風亭一朝だが、真打に昇進したのは1982年12月だった。二番弟子の春風亭小朝の昇進が80年5月だから、兄弟子を抜いてしまったのである。ところで、今回は出ていないが、一朝の二番弟子が最近「笑点」メンバーになった春風亭一之輔で、2011年に21人抜きで真打に昇進した。一之輔が売れたせいもあって、一朝も最近よく寄席で聞く機会が多い。しかし、一之輔は兄弟子を抜いたわけではない。一朝の一番弟子が、2007年に真打に昇進した6代目春風亭柳朝で、孫弟子が大師匠の名を継いだことになる。連日トリを取っていて、今日は堅すぎる若旦那を稲荷参りと称して吉原に連れて行く「明烏」を熱演していた。
(6代目春風亭柳朝)
 今回はプロデューサーとしての春風亭小朝の力が見事に発揮された公演だと思う。特に話題になったのが、三遊亭好楽が40年ぶりに落語協会定席に出たこと。好楽はもともと8代目正蔵の弟子で、林家久蔵の名で81年9月に真打に昇進した。しかし、82年に師匠が亡くなり、83年になって落語協会を脱退して5代目三遊亭円楽一門に移籍して三遊亭好楽を名乗ったのである。つまり、好楽はもともとは5代目柳朝と兄弟弟子なのである。そこで特例として、今回の追善興行に参加を認められた。それが小朝の力である。林家木久扇も8代目正蔵の弟子として、何回か出演している。今日は息子の林家木久蔵だったけど。
(春風亭小朝)
 今日は5代目柳朝の兄弟弟子は三遊亭好楽三代目八光亭春輔。5代目柳朝の弟子からは、春風亭一朝春風亭小朝春風亭正朝春風亭勢朝いなせ家半七と勢揃い。孫弟子としては、一朝の弟子の6代目春風亭柳朝春風亭三朝春風亭一左、小朝の弟子が(師匠没後に移籍した勢朝、半七を除き)、蝶花楼桃花。(五明楼玉の輔もプログラムにあるが欠席だった。)初めて聞いた人も多くて、こういう機会は貴重だ。これに9代目林家正蔵が加わって、実に豪華な布陣に満足。

 今回は噺の中身にほとんど触れず、人名ばかり並べてる。僕がここまで詳しいわけがなく、ウィキペディア等で調べながら書いてるわけだが、それが楽しい。そうだったのかと思うことが多い。「春風亭」は落語協会と落語芸術協会の双方にいるけれど、そんな経緯があったのか。6代目春風亭柳橋の弟子に春風亭柳昇がいて、その弟子が春風亭昇太。落語協会には春風亭一之輔が出て、今や春風亭は注目のまとだ。まあ、僕としては昇太も一之輔も早く「笑点」から卒業して欲しいと思ってるけど。
(カバーby林家たい平=今戸焼のうさぎ)
 色物も面白かったが、浮世節の2代目立花家橘之助の舞台に、21歳の弟子の立花家あまねが同席して、三味線だけでなく舞踊も披露したので驚き。漫才の「にゃん子・金魚」で、金魚ちゃんにホントにバナナを差し入れした客がいたのも驚き。3月末に江戸家猫八を襲名する江戸家小猫も相変わらず上手かった。久しぶりでお尻が痛いけど、やはり面白かったなあ。
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