万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

武漢からの自国民退避措置が国内感染拡大を招かない対策を

2020年01月28日 13時02分21秒 | 国際政治

 武漢市で発生した新型コロナウイルスの拡大は止むところを知らず、中国国内では遂に感染者数が5000人に迫る勢いを見せています(もっとも、公式の数に過ぎませんが…)。日本国内でも4人目の発症者が確認されるとともに、感染者が報告された国の数も日に日に増加しています。こうした中、アメリカやフランスはいち早く武漢在住の自国民を退避させる方針を発表し、凡そ560人ほどの邦人が武漢に居住している日本国政府も、帰国希望者のためのチャーター便の派遣を準備しているそうです。

 報道によりますと、日本国政府は、空港での医師や看護師等による感染チェックを徹底するとともに、感染者、あるいは、その疑いがある帰国者以外に対しては二週間ほどの自宅待機を企業に要請するそうです。仮に帰国者に新型コロナウイルスに感染していた場合、自由な外出を認めますとスプレッダーにとなる可能性があるからなのでしょう。しかしながら、この報道で疑問に感じることは、同措置では感染拡大を防止するには不十分なのではないか、ということです。

 第一に、感染の有無を確認するには帰国者の血液採取と陽性陰性の判断を要しますが、現時点にあって、日本国政府は、確実に判定し得るウイルスの抗原検査を実施し得るのでしょうか。日本国内にあって既にコロナウイルス感染者が確認されていますので、日本国内の医療機関、あるいは、ウイルス研究所等では、既に同ウイルスを入手しているはずです(中国政府は、各国に同ウイルスに関する情報を提供しているのでしょうか…)。変異が生じやすいRNA型のウイルスとされてはいるものの、遺伝子の解析等も進んでいることでしょう。しかしながら、感染者第一号の発生から1週間足らずしか経過していませんので、凡そ560人分の新型コロナウイルス用の検査キットが用意されているとも思えません(因みにワクチンの開発製造には凡そ1年かかるとされている…)。このことは、感染の有無が曖昧なままに帰国邦人が帰宅することを意味します。

 第二の疑問は、新型コロナウイルスの感染力に対する評価が低い点です。この点については、WHOも自らの過小評価を認めていますが、潜伏期間とされる発熱や咳等の症状が出る以前の段階で人から人へと感染するそうです。飛沫感染や接触感染のみならず、空気感染もあり得ますので、自宅に閉じこもっていても感染を完全に防ぐことは困難です。何故ならば、チャーター機の乗員をはじめ、帰宅途中に接触したすべての人々に感染するリスクがありますし、自宅にあっても家族に感染した場合には、保菌者となった家族が外出した際にウイルスは拡散されるからです。通勤通学の際には公共の場にあって不特定多数の人々と接触しますし、会社員であれば職場に、そして、学校に通っているとすれば、教室にウイルスがばらまかれることとなりましょう。

 第三に、新型コロナウイルスは既に中国全土に広がっており、もはや武漢市のみの問題ではない点です。武漢市在留の邦人のみを帰国させたとしても、完全に在外邦人の安全と健康が守られるわけではありません。中国からの全ての訪日者に対して同様の対応を取らないことには、日本国内での感染を防ぐことはできないのです。

 以上の主要な問題点を踏まえますと、武漢市からの退避措置が日本国内に新型コロナウイルスを拡散させる引き金となるリスクが見えてきます。否、変異しやすい性質を有する同ウイルスは、中国人とは遺伝子や体質の異なる日本人への感染によりさらに毒性を増し、感染者は、無意識であれ国内においてスーパースプレッダーともなりかねないのです。こうしたリスクがある限り、政府は、中国との間の人の往来を全面的な止めると共に(全世界は、中国自体を封鎖すべきかもしれない…)、武漢からの退避者については、たとえ症状が確認されなくとも、チャーター便から直接に病院に搬送し、感染の有無が確認されるまでの間、一時的な隔離措置をとるべきかもしれません。閣議決定により新型コロナウイルスは指定感染症に指定されましたので強制入院も可能なはずです(施行日は2月上旬とされていますが、帰国者も同措置には納得するのでは…)。

何れにいたしましても、日本国政府は、武漢のみならず中国にあって帰国を希望する全邦人の退避の実現に全力を尽くすとともに、日本国内での感染拡大を何としても阻止すべきではないかと思うのです。

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