万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

“中国封じ込め戦略”は周辺諸国の当然の帰結-“中国の夢”は帝国主義

2017年11月01日 13時07分03秒 | 国際政治
 報道に因りますと、トランプ米大統領のアジア歴訪を前にして、中国の崔天凱駐米大使は、ワシントンD.C.の中国大使館で開いた記者会見において、日米印豪の協力の下で進められている新たな「インド洋・太平洋戦略」に対して強く牽制したそうです。「中国の封じ込めを意図しているのであれば、どの国の利益にもならない」と…。

 しかしながら、中国が、先般の中国共産党第十九回全国代表大会において習国家主席をトップとする軍事独裁体制を凡そ固め、同主席が“中国の夢”の実現を国家的目標として唱える以上、周辺諸国による中国封じ込め戦略は、当然の帰結としか言いようがありません。古今東西を見渡せば、膨張主義を掲げる軍事大国の出現に対しては、脅威に晒される周辺諸国が同国を“共通の敵”と見なして結束し、全方位から抑え込みにかかる戦略をとるのが常です。その典型的事例はナポレオン戦争であり、フランス帝国に対して6次にわたる対仏大同盟が結成され、最後には、同盟諸国が諸国民戦争においてナポレオンが築いた汎ヨーロッパ帝国を瓦解に追い込みました。中国が、自らの覇権主義政策と周辺諸国のリアクションとしての封じ込め政策との因果関係を理解していないとしますと、習近平思想こそ、合理的思考を自ら“封じ込め”ているのかもしれません。

 崔大使は、中国封じ込めは“どの国にも利益にならない”と述べていますが、現実はその逆であり、中国という領土、あるいは、世界支配の野心を抱く国を封じ込めることは、“どの国の利益にもなる”のです。言葉のみではなく現実においても、中国は、仲裁判決を頭から無視して南シナ海の軍事拠点化を急ぐと共に、最新鋭兵器の開発を武器にして、全世界を視野に入れた軍事戦略を構想しているのですから。

 中国、否、習近平国家主席は帝国主義の野心を隠さなくなり、今や、“封じ込め戦略”の要となるアメリカに対して米中間の新たな大国関係を再度持ち出し、同盟国の切り捨てを要求しています。アジア歴訪で予定されているトランプ大統領の訪中に際しては、中国側は、同大統領を国賓として手厚くもてなし、“世界1位と2位の経済大国の米中が協力関係を強化させる「歴史的な機会」になる”と述べているそうです。婉曲な表現ながらも、アメリカに対して、太平洋の東海域を含むアジア地域からの撤退と引き換えに、米中二大国による世界支配体制へと誘っているとも解されます。

人類史は、“封じ込め戦略”の成功例を示すと共に、失敗例をも残しています。“封じ込め戦略”の主たる失敗要因は、覇権国による同盟諸国側の包囲網の分断と弱体化にあります。そして、分断に成功すると、世界支配を最終目的とする覇権主義国は、一時的な妥協として口約束を与えたとしても、最終局面に至ればいとも簡単に反故にするのです。上述した中国によるアメリカの“取り込み”もこの同盟分断策の一環と推測されますが、中国優位体制が確立した途端、アメリカとの二大国共同支配構想も消えることでしょう。このような歴史の教訓に学ぶならば、共産主義国家中国という強圧的な全体主義国家による世界支配を阻止するためには、今こそ、同盟諸国は結束を強め(対中大同盟か)、“中国封じ込め戦略”を強化すべきではないかと思うのです。

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