今般の参議院選挙では、当初より規制強化を訴えてきた参政党のみならず、他の政党も移民対策について語るようになりました。この議論に際しては、少なくとも移民を二つの類型に分けて考えるべきではないかと思うのです。
アメリカのトランプ大統領は、法に反して不正に入国した移民に対する厳格な対応を訴えて大統領選挙に勝利しました。同政権の発足以降にあっては、有無を言わせない国外追放など、不法移民に対して厳しい措置を実施しています。こうしたアメリカの状況からしますと、移民対策とは不法移民を対象としているものと思い込みがちです。今般の移民対策をめぐる議論でも、不法移民の取り締まり強化を訴える政党も少なくありません。しかしながら、日本国の場合には、もう一つのタイプの移民、即ち、合法的に入国した外国人の問題への対処の方がより重要なように思えます。
日本国は、アメリカのようにメキシコやカナダ等と地続きではありません。海に四方を囲まれていますので、徒歩で国境を越えて潜入することはできず、不法移民の流入数は自ずと限られています。このため、不法移民とされる人々は、在留資格の期限が切れたにも拘わらず日本国内に留まっている外国人、あるいは、契約に違反して職場から逃げてしまった外国人技能実習生等が大半を占めているものと推測されます。この場合、入国に際しての記録が残っていますので、不法移民の取締は、アメリカよりも遥かに容易なはずです。また、特段に法改正等を行なわなくとも、現時点でも実行できる対策です。
その一方で、今日、日本国内において問題となっているのは、合法的に入国して在留資格を得た外国人です。この問題こそ、まさに政治問題です。何故ならば、恐ろしい勢いで外国人が増加を続けている理由は、グローバリズムを追求した日本国政府、否、自公政権の政策にあるからです。安倍政権下の2016年に始まる外国人技能実習制度も、‘移民ビジネス’の営業許可の側面があり、その背後には、前貸し事業者や国際派遣事業者等のロビイングが見え隠れしております。同制度を介して来日した外国人実習生が批判の矢面に立たされるのはアンフェアであり、真の利得者に注目すれば、批判すべきは、‘移民ビジネス’を解禁した政治家、並びにそれを要望し、同ビジネスに群がる事業者であるのかも知れません。
また、合法移民による問題の発生要因は、外国人技能実習制度のみではありません。外国人技能実習生制度と並んで重大な影響を与えたのが、外国人に対する在留資格要件の大幅な緩和です。自公政権もマスメディアの多くも、長期に亘る日本国の停滞の原因の一つは、日本国内での起業の低迷にあると訴えてきました。これを理由に、政府は、外国人による起業を支援すべく、国家戦略特区を設けてまで在留資格の緩和にも積極的に取り組んだのです。現在設けられている外国人起業ビザを見ますと、外国人の起業が如何に簡単であるのか分かります。
例えば、経営管理ビザは、500万円以上の出資、または2人以上の常勤職員の雇用を要件に取得することができます。スタートアップビザでは、これらの出資金や常勤職員の雇用も不要であり、独立した事業所の確保も要件とはされていません。これらの要件は、今や経済大国となった中国の中間層であれば十分に満たせるレベルであり、日本国への中国人移住者が急激に増加した主要な要因は、在留資格の要件緩和に求めることができましょう。
現状では、外国人実習生は東南アジア諸国から、起業ビザによる移住者は中国からという、経済レベルに沿った一種の棲み分けのようなものが成立しているようにも見ますが、容易に資金調達ができるのであれば(グローバル金融のビジネス・チャンスにも・・・)、今後は、全世界の諸国から入国して起業ビザを取得する外国人が増えることでしょう。かくして年率で5%もの増加率で在留外国人人口が増え続けるのですから、日本国民の危機感が募るのにも理由や根拠がないわけではないのです。現実問題として、安全保障のみならず、経済や社会において様々な深刻な問題をもたらしているからです。外国人による日本国の公的健康保険制度の悪用問題もその一つと言えましょう。そしてこの側面は、緩和の方向で進められてきた国籍取得の要件にも言えることです。
こうした問題は、政治レベルにおいて立法措置や法改正を行なわないことには解決しません。国民のコンセンサスを得ようとも、また、国会にあって慎重且つ十分に審議することもなく、なし崩し的に移民受入政策が実施されてきた今日に至るまでの状況こそ、民主主義国家にあってはあるまじき異常事態であったとも言えましょう。移民問題は国民自身が当事者となる問題なのですから、国政選挙において争点となるのは当然のことなのではないかと思うのです。