昨今、日本国内では物価の上昇が続いており、今年は深刻な米価暴騰にも見舞われました。国民のエンゲル係数も上昇する一方であり、国民の多くが家計のやりくりに苦心しています。物価高を背景として今般の参議院議員選挙でも、各政党が物価高対策を競っています。与党の自民党並びに公明党は、生活支援として国民に一定額の給付金を支給する案を公約に掲げる一方で、野党の多くは、消費税率の軽減や廃止等の税制改革をもって対処しようとしています。しかしながら、これらの方法は弥縫策に過ぎず、根本的な問題は置き去りにされているように思えます。
物価高の主因としてあげられてきたのは外国為替市場における円安相場であり、近年の物価上昇は輸入インフレとして説明されています。円安は外因性ですので、為替相場への政府介入が難しい現状では政府の対策は限られています。こうした要因に対しては、中央銀行の金融政策による内外金利差の解消の方が効果的かも知れません。また、人件費の上昇も、物価上昇の原因の一つとされています。もっとも、この場合、物価高が賃上げ要求の根拠となりますので、賃上げと物価上昇との間の無限ループに陥ってしまいます。政府も連合も、賃上げの価格への転嫁を奨励していますが、賃上げ分が価格に上乗せされないためには、むしろ労働分配率と株主資本配当率の比率を見直して前者に厚くしたり、より格差を縮小させる方向での給与体系の改革を行なう必要がありましょう。
各党の公約のように物価高対策に財政的な手法を用いますと、朝三暮四の諺のように、結局、納税者である国民負担には変わりがない、という結果となりがちですので(増税のみならず、消費減税分の便乗値上げのリスク・・・)、上述したように他の政策手段を用いた方が、政策効果の持続性が期待できるとも考えられます。それにも拘わらず、何れの政党も非財政的な手法に言及しないのは、それがグローバリストの不評を買うからなのでしょう。
さて、もう一つ、物価高の原因として疑われるのは、外国人事業者の増加です。目下、日本国政府は、ビザ取得の緩和政策を継続的に実施しており、外国人による起業ビザの取得も簡単になりました。それでは、どのような分野にあって外国人は起業を行なっているのでしょうか。日本国政府の説明を聞きますと、ITやAIといった先端技術分野でのスタートアップ企業が大半を占めているとイメージされがちです。しかしながら、実のところ、その実態は、日本国民には殆ど知られていません。先日、アメリカからの指摘でフェンタニルの密輸事件に関与した中国系企業が日本国内で起業していた事実が判明しましたが、‘中国系企業’、あるいは、‘新興外資系企業’の実態は詳らかではないのです。
仮に、外国人が最も手軽に起業できるとすれば、不動産を含むあらゆる商品の流通市場への‘参入’であるのかも知れません。自ら製造することも、店舗も準備して販売する必要もなく、中間的な商品の売買だけで利益が生じるからです。今般の米価高騰に際しても、農村にあって中国人バイヤーの姿が目撃されており、卸売業や仲買業などは手軽なビジネスであるだけに、外国人を引き寄せるのでしょう(ビザ取得を目的とした起業もあり得る・・・)。マスメディアでは、短期滞在ビザ等によって入国した中国人の転売行為が違法行為として問題視されていますが、合法的に設立された企業にあっても同様の行為が行なわれていても不思議はありません。
また、一からの起業のみならず、既存の日本企業や不動産の買取により、適正価格から著しく離れて価格が上昇することも大いにあり得ます。最近も、マンションのオーナーが中国人に変わった途端、二倍の家賃が請求されたというニュースが報じられたばかりです。今日では価格の自由化もあって、比較的自由に値段や料金を設定できますので、釣り上げようと思えば際限なく釣り上げることができるのです。
グローバリストの人々は、市場を開放すれば海外からの参入事業者が増加して競争が生じ、結果として価格の低下やサービスの向上をもたらすと主張してきましたが(もっとも、この場合でも消費者利益には叶っても国内同業者は競争に敗れて淘汰される・・・)、日本国内における近年の状況は、逆の結果を示しているように思えます。‘流通過程’への参入は一種の盲点であり、供給量が限られている場合には、競りやオークションのように競争の効果は価格の一方的な上昇ともなりましょう。今般の参議院議員選挙では、物価高と外国人問題は別個の争点として切り離されていますが、両者の関連性についても議論されて然るべきではないかと思うのです。