万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国を利する米比対立ー麻薬取締問題は法整備で解決しては?

2016年09月06日 13時49分57秒 | 国際政治
米比首脳会談取りやめ=アジア戦略の不安要素に
 杭州G20の日程に合わせて予定されていた米比首脳会談は、ドゥテルテ大統領の過激な麻薬取締政策をめぐる両国の対立から取り止めとなりました。両国は同盟関係にあり、かつ、南シナ海問題で結束する必要がありますので、米比対立が中国を利することは必至です。

 米比対立の発端となったのはフィリピンの麻薬取締政策であり、仮に、この問題が解決すれば、両国間に刺さっている棘は抜けます。ドゥテルテ大統領の麻薬取締は、麻薬密売人を、即、射殺するなど、超法規的な手法によって進められてきました。この政策により、2400人余りの密売人が既に殺害されており、人権問題として国連からも見直しを求められる事態を招いています。その一方で、ドゥテルテ氏を大統領の座に押し上げたのも氏の容赦なき麻薬取締であり、国民の多数が同政策を支持していることも確かなことです。国連もアメリカ政府も、フィリピンに対して同政策の放棄を求めているのでしょうが、この問題には、もう一つ、解決方法があります。

 それは、フィリピンの国会が、国際法に違反しない範囲で、警察に麻薬密売現行犯や構成員に対して殺害処分を認める方向で、刑法、刑事手続法、警察法等の関連法を改正する、あるいは、特別措置法を制定することです。つまり、麻薬密売行為を、殺害処分が認められているテロ等と同程度の重大犯罪と定め、合法的に現行の政策を継続できるように法整備を行うのです。実際に、麻薬密売とは、たとえ直接的な殺人ではなくとも、他者の脳を深く静かに破壊する隠れた殺人とも言える行為であり、麻薬中毒によって人生が終わってしまう人も少なくありません(隠れた”大量殺人”では…)。麻薬密売人や密売組織は、他者を害することで巨額の利益を得ているのですから、極めて重い罪を犯しているのです。メキシコでも麻薬戦争が戦われていますが、麻薬密売勢力の放置は国を傾ける要因ともなります。

 フィリピンでは、大統領に議会の会期初日に演説を行う権限があるそうですので(フィリピン憲法第7条23)、議会に対して麻薬取締に関する法整備を訴えてはどうでしょうか。法改正が実現すれば、ドゥテルテ大統領に対する国際的批判は止むことでしょうし、米比関係の悪化が安全保障を脅かす怖れも低減するのではないかと思うのです。

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2 コメント

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現地にいたら (Suica割)
2016-09-08 22:39:04
無関係な市民を流れ弾等で被害を及ぼさない事を条件に認めるというしか無いですね。
犯罪をおかしてない市民が殺されるのは防ぐべきです。
5歳の少女が死んだ事件が流れ弾ならば、やりきれない事件です。
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Suica割さま (kuranishi masako)
2016-09-09 07:54:32
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 Suica割さまのおっしゃる通り、法整備をする場合には、巻き添えによる犠牲者と冤罪を避ける工夫が必要ではないかと思います。麻薬密売が、命を以ってしても償うべき罪なのか、という問題につきましては、おそらく、そこまでしなければフィリピンの治安が保てないほど、酷い状況なのではないかと推察いたします。事実上の”死刑”には、抑止力の意味もあるのでしょう。真偽のほどは分かりませんが、メキシコと同様に、麻薬組織の背後には中国が潜んでいるとの説もあり、フィリピンの政策については、一方的な批判よりも、現状を踏まえた理解が必要なのではないかと思うのです。
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