万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ6500億円支援の大問題

2023年12月21日 12時26分16秒 | 日本政治
 日本国の鈴木俊一財務相が、オンラインでのG7財務相・中央銀行総裁会議を終えた後に、日本国には6500億円のウクライナ支援を行なう用意がる旨を公表した途端、日本国内では、同方針に対する批判の嵐が吹き荒れることとなりました。岸田政権は、常々海外への巨額の‘ばらまき’、あるいは、予算の政治家によるポケットマネー化が指摘されてきましたが、海外優先の政治姿勢は、一向に収まる様子はありません。その根本的な要因は、岸田政権を支えているのは日本国民ではなく、海外勢力であるからなのでしょう。

 実際に、鈴木財務省のウクラナ支援の表明に先立って、アメリカでは、ウクライナ支援に関する追加予算案が議会の承認を得られず、年内には同国への政府の支援金が枯渇するとするニュースが報じられています。この流れからしますと、G7財務相・中央銀行総裁会議において議題となったのは、アメリカに代わってどの国がウクライナ支援予算を拠出するのか、という問題であったのかも知れません。つまり、日本国は、アメリカの軍事費を肩代わりさせられているとする見方もできましょう。また、今月13日には、ドイツのショルツ首相が、連邦議会において2024年度のウクライナ支援の予算を当初計画の凡そ2倍となる1.2兆円に引き上げることを明らかにしています。もしかしますと、第二次世界大戦の敗戦国もしくは世界権力の半ば‘直轄地’と化した日独は、‘世界政府’によってATM化されているのかもしれません。

 かくして日本国による6500億円の支援は、日本国の民主主義も独立性も風前の灯火となっている現状を象徴しているのですが、この現実の糊塗に輪をかけて唖然とさせられるのは、同支援に対する擁護論です。‘戦後の復興事業に日本企業が参加できるチャンスとなるので、長期的な視点からすれば今般の支援は高くはない’とする日本利益論です。この主張も尤もらしく聞こえるのですが、倫理的な問題を含めて疑問に満ちています。

 第一に、戦争は、基本的には地上から消滅させるべき悪しき行為です。ところが、戦後の復興景気への期待は、この行為のエスカレーションを期待することを意味します。破壊の規模が大きければ大きいほど、復興事業の規模も拡大するからです。となりますと、6500億円の支援は、戦争という火に油を注ぐ行為であり、中国語の過激な表現では‘加油(戦争頑張れ)’となりましょう。つまり、日本国は、反倫理的行為である戦争を資金面で支えることとなるのです。真に日本国が平和国家であるならば、巨額の支援金を表明するのではなく、和平交渉の促進に努めるべきと言えましょう。

 第二に、対ウクライナ投資の費用対効果の面からしましても、日本側のメリットは怪しい限りです。今般の6500億円はおそらく同国の戦費として使われてしまうことでしょうから(人道支援部門であれば、より少額であるはず・・・)、戦後復興におけるインフラ再建に伴う日本企業の受注を期待するならば、戦争終結後に、さらなるウクライナ復興支援金の拠出を要します。既に日本国は1兆円以上の資金を拠出していますので、今後の復興支援金を合わせれば、日本の民間企業の利益を遥かに超えることでしょう。同額を直接に日本企業に配った方が、日本経済全体の活性化を促すはずです。それとも、ウクライナ国内の基本インフラの事業権を日本企業が取得し、半永久的にウクライナ国民から利益を吸い取ろうと言うことなのでしょうか(戦争を契機としたウクライナの植民地化には、ウクライナ国民も警戒すべきでは・・・)。

 第三に、外国からの借金は、ウクライナ政府のデフォルトリスクを高めてしまいます。今般の6500億円はおそらく無償供与、つまり、ウクライナ政府に返済義務のないタイプなのでしょうが、今後の復興支援については有償支援となりましょう。ウクライナは、戦前から財政危機を抱え、かつ、政府の清潔度の低いダーティーな国ですので、外国からの多額の借金は、ウクライナの財政状況を一層悪化させると共に、政府腐敗も助長させることでしょう(日本国の政治家にもキックバックがあるかもしれない・・・)。そして、デフォルトともなれば、同国に融資した国も民間金融機関も、そして、復興事業を受注した受注企業も多額の回収不能の債権を抱えることにもなりかねません(あるいは、同6500億円は、同時にグローバル金融の利益のために、過去の債務の返済に使われるかも知れない・・・)。

 そして、第四に指摘し得るのは、ロシア勝利のリスクを全く無視している点です。同擁護論は、ウクライナ勝利を前提としていますが、仮にロシアが勝利すれば、多額の支援も全くもって無に帰してしまいます。しかも、戦争で破壊された地域はロシアの併合地となりますので、ロシア政府がウクライナを支援した日本国の企業に対して自国の復興事業を開放するとは思えません。また、たとえウクライナが勝利したとしても、‘世界政府’が設定している日本国の役割はATMですので、利益率の高い事業は、世界権力の傘下にあるグローバル企業によって占められることでしょう。

 日本国内では、東日本大震災の爪痕も残されており、自然災害の復興さえままなりません。国民の多くが復興特別所得税を納めている中、外国の戦後復興に巨額の予算を振り向けようとする政府に対して批判の声が上がるのは、当然すぎるほどに当然なことです。以上の主要な四点の他にもまだまだ問題含みの支援なのですが、今日、日本国を含め各国に必要とされているのは、自立的決定権を意味する主権が侵害され、民主主義が形骸化されている現状を打破する道を見出すことではないかと思うのです。

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