万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本の右翼団体消滅の謎

2012年12月26日 15時46分39秒 | 日本政治
 本日、産経新聞の正論に、元駐タイ大使の岡崎久彦氏が寄稿しておられ、戦後、日本の右翼団体が消滅した謎について、触れておられました。諸外国では、ナショナリストの政党が一定の勢力を保持しているにもかかわらず、日本国には、こうした政党が存在しないと。

 右翼団体消滅の理由は、実のところ、戦前からの流れを汲む日本の右翼は、ナショナリストではなかったことに求められるのではないかと思うのです。玄洋社や黒龍会などは、どちらかと言いますとアジア主義者であり、日本国を盟主的な立場にあるべきとしつつも、アジア諸国との友好と連携を構想していました。アジア諸国の植民地状態からの脱却を助け、独立国家から構成される新たなアジア秩序の構築こそ、目指すべき理想であったのです(大東亜共栄圏…)。今日でも、日本の極右団体の構成員の多くが、在日韓国・朝鮮人であることは、この側面からも説明することができます。もちろん、右翼のイメージダウンを図るための謀略との説もありますが、基本的には、アジア主義であったからこそ、”大東亜の理想”に共鳴するアジア諸国の人々をも包摂してきたとも言えるのです。しかしながら、戦後、この状況は一変します。戦前の右翼が掲げた理想は、アジア諸国の相次ぐ独立と世界大の国民国家体系の成立によって達成されたからです。つまり、戦後の国際社会の変化によって、右翼団体は、その存立基盤をも喪失したのです。今日では、無節操なアジア主義は、鳩山元首相が提唱した東アジア共同体が、国民から激しい反発を受けたように、日本の主権、領域、国民を脅かすものとして、危険視されるようにもなりました。

 それでは、日本国から、今日、”右翼”は、完全に消え去ったのでしょうか。アジア主義の系譜に属する”右翼”は陰を顰めるようになったものの、国民国家体系の成立と歩を合わせるように、今日では、日本国を枠組みとするナショナリストの”右翼”あるいは”保守主義者”が姿を見せるに至っています。そして、両者は、極右政党という形態を取らずとも、日本国の政治において歴然とした影響力を持っているのです(自民党支持者を中心に…)。これまで、両者は、潜在的に緊張関係を孕みつつも、”右翼”として一括りにされてきましたが、中国、韓国、北朝鮮…の反日活動と侵略的な行動に危機感を抱く戦後型の保守層の拡大こそ、注目すべき新たな日本国の政治現象なのではないかと思うのです。


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4 コメント

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Unknown (Suica割)
2012-12-26 20:30:30
アジア主義は、協力と連携なればこそ理解を得られますが(ASEANやEUみたいな形を目指していた)、鳩山の東アジア共同体は、中国への隷属と一方的一体化(中華世界の冊封体制)ですから、批判されるのです。
アジア主義もいずれ共存可能な価値観どうしの緩やかな関係という形で再生されると思います。
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Suica割さま (kuranishi masako)
2012-12-26 20:53:20
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 少なくとも、戦前のアジアの植民地状態を前提としたアジア主義は、今日では、既に意味がなくなってきていると思うのです。むしろ、近年では、アジア主義は中国の覇権確立のために利用されており、排外主義的であるとともに、日本国に対しても、自らの勢力範囲に組み込むために方便となっています。この点、現在の日本国は、中国主導のアジア主義に対して警戒を強めており、むしろ、膨張主義的なアジア主義に対する防波堤、あるいは、防衛本能としてのナショナリズム(民族自決の原則の尊重…)が起きてきているのではないかと思うのです。
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Unknown (ねむ太)
2012-12-27 03:15:24
こんばんは。戦前から、右翼も左翼も根本では同じである事は指摘されています。
明治以来、我が国の国是は人種差別の撤廃。
国際連盟で提案され多数の国々の賛同を得たのですが植民地支配で利益をあげていた英国とアジアを狙っていた米国により強引に否決されたのです。
先の大戦後、我が国が国是としていた人種差別撤廃が国連で批准されました。
アジアだけでなく世界中の国々が対等の立場で議論する事が出来るようになり、東西冷戦の終了とともにその流れは加速しグローバルスタンダートの掛け声のもとにもの・人・カネの流れを自由にしようとする動きに国家国民・民族としてのアイデンティが失われる事に危機感をいだき国家として独立を勝ち得た原点に回帰しようとしているのが現在の状況でしょう。
我が国だけは反日日本人・アナーキスト政権・商業第一主義のマスコミの妨害もあり出遅れてしまったのですが
この間、テレビに新右翼と呼ばれる一水会の木村三浩氏が出演していましたが主張することは「韓国と仲良くしましょう」「ロシアから天然ガスを買いましょう」「北方領土返還のためにロシアに投資をしよう」
主張していることは左翼と呼ばれる、お花畑と同じ・・・
戦前の右翼なるものも根っこは左翼が国家主義の仮面を被っただけと言うのが多々あります。
台頭してくるコミンテルン勢力に対抗する勢力、そのレベルです。
理想論より国家や国民を護る為に戦場で戦割れた方々それを支え続けた国民こそが常識がある人々だったのです。
戦後の左翼・右翼の本質は「甘え」これだけです。
戦争は悪だ・人殺しをやめろ、などと叫びながらハイジャックや連続企業爆破事件を起こし連合赤軍による内ゲバ殺人などテロ行為を人権・言論の自由のもとに擁護し続けた知識人とやら、何でもかんでも権力は悪だなどと言って自分達の言動を正当化しようとする。
幼い子供が自分の欲求が満たされないからと八つ当たりをする姿に酷似していますね。
ベ平連や学生運動を繰り返していたのは、ほんの一部・・メディアの演出により大規模な運動に見えただけです。
現象としては存在するものの、その周辺地域だけで大多数の国民はメディアを通じて現象を認識していたに過ぎません。
冷めた目で見ていた多数の若者は「しらけ世代」に区別されてました。
本当ならテロ行為に対して大人が厳しくしかり厳罰を与えるのが常識なのですが・・高度経済成長の中で仕事に忙殺され省みる余裕がなかったのでしょう。
スーダラ節や無責任一代男などのヒットソングが時代の空気を今に伝えていますね。
ついでに申しますと、70年代に起きたオイルショックではトイレットペーパー等が品薄になった事だけを取り上げていますが、現実は公共料金を始め値上げは、ほとんどの物品に及んでいます。
物価が上昇を続けるなかでも国民は消費をしレジャーを楽しみ貯蓄をしていたのですから、デフレ脱却でハイパーインフレになる、公共事業は何の効果もない等の寝言は通用しません。
オイルショックから立ち直りかけた時に金融緩和をし財政出動をしたことがバブルを発生させたのですから。
結局のところ右翼・左翼という区別は善悪二元論に基づく単純な区別であってオツムの足りない連中は、それでしか認識できないだけです。
正しく言うなら国民として歴史や伝統に立脚した国民のあり方を考えるのか、外国の真似をして流され喜ぶデラシネかどちらかです
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ねむ太さま (kuranishi masako)
2012-12-27 08:11:50
 コメントをいただきまして、ありがとうございまいした。
 大正中期から昭和初期に台頭してきた北一輝等の”国家改造主義”もまた、右翼に分類されておりますものの、いわゆる”国家社会主義”であり、その本質は、全体主義的な体質において、共産主義と共通していたようです。日本維新の会の橋下氏の思想は、この系譜の”右翼”ではないかと、疑っております(ベーシック・インカムの発想など・・・)。北朝鮮の主体思想もまた、共産主義よりも、国家社会主義の流れに位置するのではないでしょうか。コミンテルンと対抗しつつも、本質的には同根なようです。
 今日の国民国家体系は、民族自決と主権平等の原則に支えられており、この点、自国の主権、領域、国民のみならず、自国の歴史や伝統を大事にしてゆこうとする態度は、”保守”と呼ぶ方が相応しいのかもしれません。”左翼”に対する対抗思想としての”右翼”ですと、さまざまな思想が入り混じっていますので、誤解の元ともなりそうです。そして、今日の”保守”とは、反日勢力を除いて、限りなく国民一般の感情に近づきつつあるように思えるのです。
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