万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ドイツは悪役シナリオから抜け出せるのか?

2023年01月23日 10時23分07秒 | 国際政治
 第一次世界大戦並びに第二次世界大戦という二つの世界大戦は、ドイツによって引き起こされたとする説が定説化しています。教科書を表面的に読む限り、第一次世界大戦は当事のドイツ帝国によるベルギーに対する中立侵犯が決定的な意味を持ちましたし、後者については、言わずもがな、戦争の主因は独裁者にして狂人ともされるアドルフ・ヒトラーに帰されています。何れもドイツがトリガーなのですが、今般のウクライナ紛争についても、ドイツ責任論が既に準備されているようにも思えます。

 何故、ドイツが常に悪役とされるのか、という根本的な問題につきましては、フランクフルト・アム・マインに存在していたユダヤ人ゲットーが、今日の世界権力を揺籃した故地であったことに求めることができるのかもしれません。金融財閥として知られるロスチャイルド家も日露戦争時の日本国債引き受け者としても知られるシフ家も、皆、フランクフルトのゲットーからフランス、イギリス、アメリカなど世界に散らばってゆきました(マイクロソフト社の四色一体のマークも、同ゲットーの4つの門の色に由来しているのかもしれない・・・)。こうしたユダヤ人との歴史的な因縁がドイツを‘特別の国’としているのでしょうが、何れにしましても、現代史に限定すれば、ドイツには常に‘悪役’のイメージが付きまとっているのです(なお、ナポレオンが解体した神聖ローマ帝国の統治システムには立憲主義に基づく権力分立が見られ、ナチスドイツ下の集権的な独裁体制とは真逆である・・・)。

そして今日も、ドイツは、ウクライナ支援問題をめぐって窮地に立たされているようです。何故ならば、ウクライナのゼレンスキー大統領が、予測されるロシア軍による大規模攻撃への対処として、同国が製造している最新鋭の戦車「レオパルト2」の供与を求められているからです。これまでのところ、同要請に対して、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は難色を示し、主力戦車の対ウクライナ供与を渋っています。否、アメリカによる「レオパルト2」に匹敵する主力戦車「エイブラムズ」の提供というハードルの高い条件を付けることで、事実上、供与を断っているのです。

こうしたドイツの消極的姿勢に対しては、ロシアを一方的な侵略者と見なすウクライナ支援勢力からは、厳しい非難の声が寄せられています。‘圧倒的な軍事力をもってロシア軍を一掃しなければならない時期にあってドイツが最新鋭の戦車の供与を断る行為は、侵略を許すに等しく、結果として国際法秩序が崩壊すれば、その責任はドイツにある’と主張しているのです。軍事的に優位となったロシアの勝利が確定すれば、ウクライナ支援勢力からしますと、ドイツは、ウクライナ敗戦の責任を負わされかねないのです。

その一方で、仮に、ドイツが「レオパルト2」を提供あるいは輸出先のNATO諸国による供与を許可した場合、どのような事態が予測されるのでしょうか。当然に予測されるのは、ロシアがNATO諸国を直接的に攻撃するという事態です。ドイツが恐れているのは、まさにロシアによる自国をはじめとしたNATO諸国に対する攻撃リスクです。この結果、第三次世界大戦にまで発展するとなれば、ドイツは、地域紛争を世界大戦にまで拡大させた‘張本人’とされてしまうのです。後世の人々は、この時のドイツの判断ミスが第三次世界大戦へのターニングポイントであった見なすことでしょう(この時まで、人類が滅亡していないとすれば・・・)。

しかも、ロシアは、自国が敗戦する瀬戸際に追い込まれた場合には、戦術核であれ、戦略核であれ、核兵器を使用する方針を明らかにしています。敗戦に伴ってウクライナ側から要求される天文学的な額の賠償金支払いを考慮すれば、ロシアは、決して敗戦を受け入れないものと予測されます(以後、数百年に亘ってロシア国民も、重くのしかかる財政負担に耐えねばならない・・・)。言い換えますと、ドイツは、第三次世界大戦のみならず、核戦争、否、人類滅亡の責任まで問われかねないのです。

以上から、「レオパルト2」を供与してもしなくても、何れにしても‘ドイツ悪役シナリオ’が待っているようです。それでは、ドイツには、同シナリオから抜け出す道は残されているのでしょうか。仮にそれがあるとすれば、それは、‘進むも地獄、退くも地獄’とはならないように、外部状況を変えてしまうことにありましょう。その一つの方法としては、NATO、さらにはEUといった枠組みはさておいて、独立主権国家という国際社会の地位に立ち戻り、ロシアとウクライナとの停戦・和平交渉を取り持つという外交的な選択肢もあるように思えます。

この点、NATO加盟国であるトルコのエルドアン大統領は、かねてより両国間の仲介に積極的な姿勢を示しており、NATOのメンバーシップは、必ずしも交渉の仲介役の障害とはならないようです。歴史的にも関係の深いドイツとトルコの2国が連携すれば、好戦的な方向に向かいがちなNATO内部の流れを変えると共に、世界権力が既定路線とする‘ドイツ悪役シナリオ’から離脱することもできます。NATOやEUが足かせとなってドイツが身動きできない状況にあるならば、日本国政府を含め、他の諸国が仲介に乗り出すべきと言えましょう。ウクライナ紛争の拡大によって人類が滅びるリスクに思い至れば、国家の自立性の回復こそ、人類を世界大戦の危機から救う鍵となるのではないかと思うのです。

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