万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

尖閣諸島問題もICJで解決を

2024年02月06日 09時50分03秒 | 日本政治
 昨今、国際紛争が起きる度に、ICJ(国際司法裁判所)が姿を現わすようになりました。ウクライナ紛争にあっては、紛争当事国のウクライナが単独でロシアを提訴し、イスラエル・ハマス戦争に至っては、紛争の非当事国であった南アフリカも単独でICJに対してイスラエルによるジェノサイドを止めるように訴えています。これまでのところ、ICJが発した暫定措置命令に対してロシア並びにイスラエルが誠実に従う様子は窺えないのですが、これらの政府の一連の行動により、国際社会におけるICJの存在感が高まると同時に、同機関に寄せられる期待も高まったと言えましょう。


 今般のICJへの訴えにより凡そ確立した手続き上の慣行は、(1)単独提訴、並びに、(2)非紛争当事国の訴訟資格です。このことは、各国政府にとって、ICJを含む国際司法機関による解決という選択肢が、利用可能な現実的手段となってきたことを意味しています。もちろん、上述したように、二つの紛争にあって被告側となるロシアもイスラエルも、ICJの暫定措置命令に服しておらず、ICJが強制執行力を備えていない以上、命令内容の実現は危ぶまれています。しかしながら、ICJが訴えを受理したという事実が重要です。そして、むしろ、同手法は、止めるのが難しい既に起きてしまった紛争よりも、近い将来において起きそうな紛争の未然防止に活かされる可能性があります。


 例えば、日本国は、目下、中国が尖閣諸島の領有権を主張するという事態に直面しています。尖閣諸島こそ、日本国にとりましては、中国との間で戦争となる可能性が高い争いと言えましょう。ところが、1970年代に始まる中国の領有権主張に対して、日本国政府の公式の見解は、尖閣諸島には‘領土問題’は一切ない、とするものです。歴史的にも法的にも明確なる日本領なので、問題そのものが存在しないという立場なのです。この公式見解は、日本国による尖閣諸島領有に対する揺るぎない姿勢を示してはいるのですが、国際社会において十分な防御力があるわけではありません。確かに、尖閣諸島は、無主地を確認した上で1895年の閣議決定において日本国領となり、第二次世界大戦後のサンフランシスコ講和条約にあっても帰属先に変化はありませんでした(沖縄等の信託統治は領域の範囲とは無関係・・・)。


 国際法に照らしても日本国領なのですが、中国は、尖閣諸島の法的地位を無視し、同諸島を国内法によって一方的に自国領と定め、自国の主権を行使しようとしています。先日も、中国の海警局艦船が、尖閣諸島周辺の日本領空を飛行する自衛隊機に対して‘退去’を無線で警告してきたとする報道がありました。尖閣諸島を‘中国領’と見なしての警告なのですが、相手国が一方的に自国領を主張する場合、‘領土問題はない’の一点張りで、自ら司法解決の道をも封印してしまう姿勢には疑問があります。


 確かに、日本国側が、中国の言い分に根拠があることを認めますと、外交交渉による合意解決となりかねず、中国の軍事的圧力を背景に、全てとは言わないまでも、EEZを含めて尖閣諸島の領有権の一部を中国に譲らざるを得ない状況に追い込まれるかも知れません。あるいは、双方譲らず、話し合いは永遠に平行線を辿ることも予測されます。何れにしましても、中国の主張にあって歴史的・法的根拠を認める場合には、日本国は、‘戦わずして敗北する結果’を覚悟しなければならなくなりましょう。しかしながら、相手国の正当な根拠を認めるのではなく、領有権の主張が存在することは認めることには、尖閣諸島の法的地位に何らの差し障りはないはずです。むしろ、相手国の主張に根拠がないことを内外に明確にするためにこそ、裁判に訴えた方がよいのです(領有権確認訴訟)。


 このように考えますと、戦争回避のための手段の一つとして、日本国政府は、ICJを活用すべきなのではないでしょうか。この手法は、中国の習近平国家主席が武力併合を試みようとしている台湾問題についても用いることができましょう。台湾の国家としての法的地位の確定をICJに求めるのです。国際司法制度の整備が不十分であり、判決の強制執行力を持たない現状を鑑みますと、同時並行的に核や指向性エネルギー兵器等の物理的な抑止力を備える必要もあるのですが、国際社会にあって法の支配の確立を目指す以上、日本国政府が進むべき道は自ずと定まってくるのではないかと思うのです。


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