今般の米価高騰の仕組みを見ておりますと、今日の日本国の米が抱えている様々な問題点も浮かび上がってきます。それは、農家に限られた問題ではありません。お米の消費者である国民もまた、現行の制度にあって不利益を被っているのです。
生産から小売りを経て消費に至るまでのプロセスにおいて、価格が上がる主たる原因となるのは、言わずもがな、生産と消費との間における卸や小売り等の取引過程にあります。取引の度に取引当事者の利益分が上乗せされますので、回数が多いほどに末端での販売価格は上昇するのです。また、取引者が設定した自己利益、すなわち、卸売段階等での価格によっても販売価格は上がります。このことは、中間取引の回数を減らしたり、中間者が設定する価格を下げれば、消費者は、より安い価格で産物や製品を購入することが出来ることを意味します。
最近では、農家による直接販売のスタイルが見られるようになりましたが、お米の流通過程の現状を見ますと、それはかなり複雑です。第一の特徴としてあげられるのは、集荷事業者(農家から直接お米を購入する事業者)と卸事業者(お米を小売り業者に販売する事業者)が分離している点です。他の産物や製品分野では、生産者が卸売業者に納品し、当卸売業者が小売りに再販売するケースが多いのですが(もっとも、幾つかの仲卸を経由する商品もある・・・)、お米の場合には、集荷段階と卸段階の二段階があり、その分だけ、価格上昇の原因となる‘中間者’が増えてしまうのです。
しかも、近年のお米取引の自由化は、お米の流通過程をさらに不透明にしてしまいました。食管制度の下で農協が一切を取り仕切ってきた影響もあり、集荷事業については農協一強状態でしたが、自由化後の今日では、他の事業者も参入しているようです。集荷事業に加え、卸売業も参入自由となりましたので、制度上は、お米は何度でも‘転売’可能な商品となってしまったのです。今般の米価高騰でも、農家の庭先には、これまで見たこともない業者の姿が報告されており(中国人、IT企業、廃品業者などなど・・・)、お米の取引は、公的な許可を要することなく誰でも参入可能、即ち、‘完全フリー状態’のようです。お米取引の自由化とは、お米の流通過程をむしろ迷路のように錯綜させてしまったとも言えましょう。
そして、極めつけとなるのが、大阪堂島商品取引所において昨夏に本格上場されたお米の米先物取引です。その危険性についてはこれまでも指摘してまいりましたが、先物取引市場の存在は、‘先物買い’による売約済み米の保管をも意味しますので、流通過程に与える影響は少なくないのです。なお、同先物市場では、証券会社を介して資金を投入した‘投機家’は、現物を動かすことなく、何度でも‘転売’ができます。
以上に述べてきましたように、今日の日本国のお米の流通過程は、価格上昇の機会に満ちています。強欲な人々を引き寄せるだけの、制度的な欠陥が随所に鏤められているのです。この点に注目しますと、先ずもって講じるべきは、お米の流通過程から転売者となる‘中間者’を取り除くことです。政府も経営者も経済学者も、その多くは生産段階における合理化には熱心ですが、流通過程における合理化に対しては関心が薄い面があります。しかしながら、流通の合理化こそ、購入価格の低下効果を発揮するように思えます。流通過程の無駄を省く方が、消費者の利益には適っているのです。
もちろん、生産者である農家が不審な事業者には売却しないことも重要なのですが、高値を提示されますと、売却に応じてしまうかも知れません。そこで、第一に考えられるのは、集荷業と卸売業の一体化です。両者が分離した状態では取引回数が増えてしまい、価格上昇の一因となると共に、魔が入り込む隙を与えてしまうからです。最大の集積業者である農協が卸売業を兼ねれば、自然に両者の一体化は進むのでしょうが、果たして、利権漬けともされる農協が現状の変更を認めるのかは未知数です。
第一の案では、それが農協であれ、中間者が残されることとなります。そこで、第二の案は、生産者と消費者を直接に繋げるというものです。今日でも、様々な農産物において‘契約農家’という形態が存在していますが、スーパーマーケットと言った小売り大手や常時一定のお米を消費する飲食店などが、農家と直接に交渉し、年間あるいは数年分の取引量と価格を予め決定しておくのです。この方法ですと、中間者はゼロとなり、農家は価格変動のリスクから逃れると共に、購入側も安定的な供給が約束されます。直接交渉で価格も決まりますので、農業の‘原価割れ’も防ぐことができましょう。
第一の案では、直接に購入できる側は、小売りや飲食店などの比較的規模の大きな事業者に限られてしまうかもしれません。そこで、第二の案、もしくは、消費者一般に直接販売の範囲を広げる補完的な案として、農家によるネット販売という手段を挙げることができます。今日でも、米価高騰を背景にお米の通販サイトも登場してきているようですが、無農薬有機栽培等の高級米のためか、消費者の側からは、他の小売店の店頭価格と変わらないとする不満の声もあるようです。そこで、一般の米作農家、あるいは、農村単位で参加する形での直売サイトを設置するという方法もありましょう(農家の共同出資によるサイト運営が望ましい・・・)。このシステムであれば、一般消費者もサイトに掲載されているリストから選択してお米を直接に農家から購入することができます。
何れにしましても、方向性としては直売方式が望ましく、このシステムを補助するものとして、購入者の近郊農家からの出荷については配送料を軽減する、あるいは、特別価格を設定するなど、地産地消的な手法を組み込むこともできましょう。また、半年ぐらいは家庭でお米を保管・備蓄できる専用ケースなどが開発されますと、取引規模も大きくなり、配送の手間なども軽減されます。
以上の案は試案に過ぎず、より善いシステムやより賢明な工夫があるはずです。新たなアイディアは、農家あるいは消費者の何れの側から提起されるのが、最も望ましい展開でもあります。自治精神を発揮することが重要であり、農家も消費者も、政府に頼るよりも(もっとも、上記のようなシステムでも経営が成り立たない米作農家に対して公的な直接補償制度を導入するべきかもしれない・・・)、新たなシステムを構築ことによって魔を封じると共に、安定した豊かな生活を目指すべきではないかと思うのです。