万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中高年デジタル人材向け企業インターン制度は人材サービス会社への利益誘導?

2023年09月25日 13時38分57秒 | 統治制度論
 今月9月21日の日本経済新聞の一面に、「中高年デジタル人材に 企業インターン新制度」という見出しが躍っておりました。‘2030年には最大80万人’のデジタル人材が不足することが予測されることから、厚労相が中高年の他業種のデジタル社員向けの制度を新設目指しているというものです。同システム新設への予算は、既に2024年度の概算要求に含まれていますので、国会や国民レベルでの十分な議論もなくスタートしてしまいそうです。しかしながら、この新制度、政治利権の絡む露骨な新自由主義的な利益誘導ではないかと疑うのです。

 同制度の流れの概略は、凡そ以下となるようです。
  1. 政府(厚労相)による人材サービスの選定(4社)並びに委託費の支払い
  2. 別業種に就業していた転職希望の中高年に対するデジタル化の職業訓練(40歳から50歳代:2年間で凡そ2400人)
  3. 人材サービス会社とインターンとの雇用契約並びに給与の支払い
  4. 人材サービス会社がインターン先企業を開拓し、派遣契約
  5. 人材サービスによるインターン先企業へのメンター経費の支給
  6. インターン期間終了後におけるインターン先企業による雇用、もしくは、人材サービス会社による就職支援(インターン期間最大6ヶ月:60社程度)

 同システムの一連の流れを見ますと、人材サービス会社を中核とする制度であることが分かります。否、同制度は、人材サービス会社の新たなビジネスチャンスとして設計されたとも推測されるのです。

 インターンとはいえ、人材サービス会社とは雇用契約が結ばれますので、一定額の給与は支払われます。しかしながら、他の人材派遣業、並びに、就活の一環としての学生インターンと同様に、その額は正社員のレベルには及ばないことでしょう。人材サービス会社への政府が支払う委託費は雇用費用の一部に充てるとされますので、失業給付金の額と同程度となるのではないでしょうか。このため、同制度の利用者は、インターン期間にあっては、低賃金に甘んぜざるを得なくなるかもしれません。

 その一方で、メンター経費については人材サービス会社持ちとはいえ、人材サービス会社とインターン先企業との派遣契約には、他の派遣契約と同様に、後者の前者に対する支払いも含まれているものと想定されます。仮に、インターン先企業からの支払いがなければ、同制度は、人材サービス会社は、即、赤字経営となります。あるいは、無償でインターンを派遣してもなお同社に利益が残るとすれば、それは、全ての国費、即ち国民負担と言うことになりましょう。

以上の諸点から、人材サービス会社は、雇用契約を結んだインターンから‘中間搾取’する一方で、政府からも委託金を受け取ることができる立場に自らを置くことができることとなります。このため、4社とされる人材サービス会社の選定に際しては、背後にあって政治家が暗躍することでしょう。人材サービス会社関連事業には、自民党の麻生太郎副総裁や竹中平蔵氏をはじめ、有力政治家や政策アドバイザーなどの名がしばしば挙がります。

 そして、転職や‘学び直し’の促進策としての側面からしますと、同制度は、「ジョブ型雇用」の流れとも一致しています。「ジョブ型雇用」とは、必要職種対応型の短期雇用を想定しているのですから。経営戦略上、あるいは、新たなテクノロジーの登場により不要とった人員を抱える企業にとりましても受け皿となりますのでメリットとなるのでしょうが、人材サービス事業者に利益を誘導する一方で、リスクやコストを国民に押しつける制度ともなりましょう。

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