先日、訪米した日本国の岸田首相とアメリカのバイデン大統領との間で、日米首脳会談が開かれました。両国首脳会談は、水面下で進められてきた各種分野における日米協力のビジュアル化に過ぎず、周到な根回しや調整によって合意内容は事前に決まっていたようです。同会談の合意事項の一つが、中国やロシアが開発において先行しているとされる極超音速ミサイルを迎撃する宇宙空間システムの共同開発です。10年以内、即ち、2033年までの完成を目指しているのですが、同システムの出現によって、人類は重大な局面を迎えるのではないかと思うのです。
先ずもって指摘されるのは、同システムによる核兵器の無力化です。報道に依りますと、同共同開発プロジェクトが狙いを定めるターゲットは、音速よりも高速で飛来する極超音速ミサイルです。とは申しますものの、同ミサイルよりも高速で飛ぶ固体の兵器は存在しませんので、極超音速ミサイルを頂点とする全てのミサイルを迎撃し得るシステムとなることは言うまでもありません。何れの種類のミサイルであれ、また、如何なる場所や兵器から発射されたものであっても、多数の人工衛星をネットワーク上に接続させた「衛星コンステレーション」が瞬時に感知し、同衛星に搭載された指向性エネルギー兵器によって確実に破壊してしまうのです。このことは、全ての核保有国が、同兵器を保有する意味を完全に失うことを意味します。発射した核ミサイルは悉く破壊されてしまうのであれば、核兵器の使用は無駄な行為以外の何ものでもなくなるからです。かつてレーガン大統領がSDI構想を打ち上げた際に宣言したように、核兵器は無力化される日がようやく訪れるのです。
核ミサイルを100%の確立で打ち落とす技術の登場は、核拡散防止条約や核兵器禁止条約といった法的な‘縛り’よりも、遥かに効果的です。何故ならば、前者の核拡散防止条約では一部の諸国が核兵器を合法的に保有し続けることができますし、後者の核兵器禁止条約では、そもそも核保有国が加盟していないのですから、全くもって宣言的な効果しか期待できないからです。不平等、かつ、非現実的な条約を制定し、‘核なき世界’を追求する偽善的なポーズをもって‘自己満足’、すなわち、実質的には不条理な‘核ある世界’を固定化するよりも、先端的なテクノロジーをもって物理的に核攻撃を封じてしまう方が、余程、‘核なき世界’への近道と言えましょう。
以上に述べたように、宇宙空間に構築するミサイル迎撃システムには、核攻撃という手段を消滅させてしまいますので、核廃絶を目指す平和主義者の人々も賛意を示すことでしょう。念願が叶って、ようやく人類は、核の脅威から完全に解放されるからです。しかしながら、事はそう単純ではないように思えます。しばし冷静になって考えてみますと、宇宙空間を利用したミサイル迎撃システムの登場は、手放しには歓迎できそうありません。
何故ならば、力の抑止力の側面からしますと、核兵器の無力化は、核の抑止力をも消滅させます。指向性エネルギー兵器における抑止力の問題は、核兵器よりも深刻となるかもしれません。そして、同システム、あるいは、類似のシステムは、中国やロシア等の国家によっても開発され得ることです。しかも、このことは、防衛目的とは限らず、指向性エネルギー兵器が攻撃兵器やテロリズムの道具として使用される可能性を強く示唆します。つまり、指向性エネルギー兵器は、宇宙空間の利用によって核兵器に代る新たな人類の脅威となるリスクも認められるのです。加えて、民間企業も人工衛星の打ち上げる今日、同システムの保有者は、必ずしも‘国家’とは限りません。核の時代の終焉は、超越した大量破壊兵器、あるいは、人類攻撃兵器としての指向性エネルギーの時代の幕開けを告げるかもしれないのです(つづく)。